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【インタビュー】『カオスチャイルド』開発者が語る“エグさの秘密”…「アニメ版は皆さんを立ち直れなくさせるヤツを作りたい」

2014年12月にXbox Oneで発売された、アドベンチャーゲーム『CHAOS;CHILD』のPS3/PS4/PS Vita版が6月25日に発売されます。本作は科学アドベンチャーシリーズ第4弾で、シリーズ第1作『CHAOS;HEAD NOAH』の6年後を描いた作品です。

ソニー PS4
 
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◆アドベンチャーゲームというメディア




――若林さんはアニメ畑の方だと伺っています。その辺のお話もお聞きしてよろしいでしょうか。これまではゲーム制作はされていなかったのでしょうか。

若林:アニメ業界に入って、初めてやった仕事はゲームのアニメーションだったんです。初代プレイステーションの『やるドラ』という作品に携わったのが最初かな。アニメを作りつつ、ちょっと離れたところからゲーム全体も見つつ……というような感じでやっていました。

――松原さんは若林さんと一緒にお仕事をされていかがでしたか。



松原:映像制作から入られている方ですので一緒に仕事をしてみてすごく勉強になりました。ゲーム業界……特にアドベンチャーゲームって、絵はありますけど基本的に静止画ですので、アニメや映画のような映像面にはあまり踏み込めていない人たちが多かったんです。

『CHAOS;CHILD』は若林さんからの要望もあって、最初から「ちゃんとカメラで撮っているような」演出をやりたいと。絵作りがそこからスタートしているので、今作も基本静止画中心ではあるのですが、それでも今までとは全然違っていて。若林さんの要求に応えるのは大変なのですが、やった甲斐はあったと思っています。アドベンチャーゲームの演出方法として一段進化したかなとは思っています。

――アドベンチャーゲームの新しい手法が今回見つかった、という感じでしょうか。

若林:そうなっていればいいと思います。

松原:まだ探り探りな面もありますので、発展途上ではあるのですが。次作とかその次にも、どんどん活かしていければいいなと。

――他に今回取り組んだ新しい試みなどあれば教えていただきたいのですが。

松原:ユーザーインターフェースを含めて、なるべくゲームがシームレスに連なっていくように設計しました。わかりやすい所でいうとメニュー画面に行くのにも、画面を切り替えずにカメラが引くような動きをしたりとか。そうすることで、ユーザーの立ち位置とゲームの世界観に壁を隔てずに地続きにできるかなと考えていて。そういった細かい要素の積み重ねが、没入感を増すのではないかなと。

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――没入感にもこだわっていると。

若林:作品世界にのめり込み続けてもらうため「素に戻っちゃうような要素は外す」という仕掛けをしていくということですね。

――では、ボタンを押さないと話が進まないけれど、押したらエグい展開が待っている、でも押したい……みたいなテンポ感はどのように設計されたのでしょうか。

若林:アニメに近い方法でやっています。アニメにはボタンでの入力はないので、誰でも一定の速度で時間が流れていきます。視聴者の意思が介在しないわけですよね。ですので、アニメでは「自分がこの状況を生み出してしまっているのだ」と思わせることはできないのですが、「物語を自分でコントロール」できるのがゲームなので、そのタイミングをいかに自然に見せるか。人間の生理的な部分に訴えて、感覚として自然に見えるもの、入ってきやすいものを作ろうと。そうした土壌はアニメ制作で培われた技術だと思ってます。「ここで人はカットを切り替えたくなる」というような。



――本作はまず一本道のノーマルルートをプレイして、以降の周回から各ルートに分岐して……という構造がこれまたエグいんですが、ルート分けについてもお聞きしてよろしいですか。

松原:本作の分岐構造としてまずノーマルルートがあって個別ルートがありますが、まず、そのノーマルルートを踏まえないと個別ルートが成り立たないストーリーになっています。そして、さらにノーマルルートのエピソードや個別ルートのエピソードを拓留が全部背負っうえでないと、トゥルーに行く感情や情熱を持ち合わす事ができないのではないかという話をライター陣と話あって、このような構造になっています。

――その部分はゲーム特有の要素ですよね。主人公とユーザーの経験がシンクロするというか。特に今回は、エンディングを知った上でもう一度最初から見せられるのが苦行でした…あ、いい意味で。

松原:その部分は面倒といえば面倒なんですが、その分クライマックスのカタルシスは存分に感じられる作りになっているのではないかと思います。

若林:ひと昔前のアドベンチャーゲームは、ボタンを押すことが作業的で、ある意味苦行じみたものもあったりしましたが、それとは違う心の中の部分での苦行といいますか(笑)。

松原:ドラマとしての苦行ですよね。感情的にこれ以上見ていられない、救いがほしい、と。そう感じていただけるよう作りこんでいます。



――この苦行の部分って実際にプレイしないと終わらないですよね。きっとプレイ動画とかじゃダメなんだと思います。

若林:ありがとうございます。まったくそのとおりだと思います。

――力士シールもそうなんですが、猟奇殺人の殺し方の手口や、科学部分の難しい話というのはどういう風に作られているのですか。

若林:ストーリーの根幹の部分は志倉が作るのですが、僕も最初は現実とのリンクといったギミックが掴めていなくて、よく調べたり詳しい人に聞いたりしていました。僕が最初に参加したのは2年くらい前ですが、力士シールのネタはちょっと遅いというか、コンテンツとしては古いんじゃないか?とも思ったんですよ。別の作品で似たようなのが使われたりもしていたので、なぜここで力士シールなんだろうとは思ったりしていて。


松原:もともと流行ったのが2005年ぐらいなので、確かに古いといえば古いのですが、探せばあるところには残っているんですよ。ロケハンの時などに渋谷でも探してみたのですが残念ながら1枚も見つけられませんでしたが、秋葉原や銀座では何枚か見つけられました。もしユーザーの方が力士シールが気になったとしてネットで調べてみると、実際に出てくる。多少過去のものでも本当にあったものなんだということが分かると、そこでもリアリティが一段増すかなと考えています。

若林:今ってちょうど残存率がいい感じで、「注意して探せば見つかる」くらいの感じなんですよね。

松原:しかもいい具合に朽ち果てているのが多い(笑)。



――今リアリティという単語が出てきましたが、某動画サイトのようなシーンも意識されているということですか。

松原:自分もそうなんですが、今ってネットと生活が切り離せないって人が多いと思うんです。最初の事件の動画サイト風の演出を始めとして、他にもさまざまなSNSやメッセンジャーなど、今のユーザーさん達が普通に使っているツールやサイトはなるべくリアルになるように演出しています。普段見慣れた画面が作品内に出てくることによってより身近にリアリティをもって受け入れてもらえると。

――また科学ADVシリーズといえば、パッと見は凄くカジュアルなんですけど、いつも中身は濃いじゃないですか。その品といいますか、エロではない違うものに拘るポイントなどもお伺いできればと。今回もパンツみたいなお色気要素は全然ないですよね。

松原:今作では最初から「パンツを見せない」というルールで行こうと決めていました。お色気要素がぜんぜん無いわけではなくて、絵で見せるような直接的な描写は極力さけて、ユーザーの妄想力を存分に発揮してもらうようなシチュエーションに拘っています。カメラからは見切れているけどその先は明らかに見えているという風に作った方が妄想力を発揮しますよね。そこも「妄想」をテーマにしている本作のこだわりです。



――「妄想科学ADV」の「妄想」にはいろいろな意味があるんですね(笑)。あと、今回は他のシリーズ作品よりスケールが小さめですよね。過去作では300人委員会が暗躍して……とか色々あった気がします。それに対して、今回は最小のスケールで最大を描いているように感じました。

若林:科学ADVって舞台となる場所からあまり出ないシリーズですし、渋谷を描くとこうなるかなと。現実としての空間よりも、ネット上での広がりとか、情報が拡散していく様とか、人間の脳内での情報や感覚の変容とかそういうことの方をテーマにしていて、それが今の現実に即していると考えました。熱心なファンの方は聖地巡礼をしたりもしますけれど、現在はまずネットで情報を得る方のほうがメインだと思いますし。そういう意味では、現実での広がり方より、ネットでの広がり方の方がテーマとしてはリアリティがあるのかなと。

――キャラクターデザインも科学ADVシリーズの魅力の一つですが、毎回それぞれの作品にこのうえなくマッチしている印象を受けます。その辺も意識されているんですか。

松原:そうですね、ささきさんの描く女の子はホントにかわいくて、そのかわいいキャラクター達が巻き込まれる残酷な事件とのギャップが作品として面白いかなと。これが例えば劇画調だったりすると作品の雰囲気が全然違ってきますよね。僕らが作る作品は毎回なんらかのギャップをデザインに込めています。そこが作品の内容とある意味マッチしているのではないかなと思います。

――実際にそのキャラクターを使って演出をされてみていかがでしたか。

他のエグいシーンを見る

若林:確かに……かわいい絵柄でエグいことをするのは楽しかったです(笑)。エグさもかわいらしさもより強調されましたからね。それが「気が狂っている」と言われる由縁でもあるのでしょうが……(笑)。

松原:まぁやっていて楽しかったですよね(笑)。

――少し話はそれますが、アドベンチャーゲームを手がけられている方から「最近の若者は字を読まない」と話を聞いたりするのですが、その辺はどう感じられていますか。

若林:むしろ、よく読んでくれますよね。

松原:ホント、このボリュームですからね(笑)。

――全部やったら50時間くらいですかね。

若林:ストレートにいけばそのくらいだと思います。デバッグしながらだともっとかかるのですが(笑)。

――少し前、志倉さんが「アドベンチャーゲームにゲーム性は必要ない」という感じのことをおしゃっていましたが、みなさんは実際にどのようにお考えですか。



松原:アドベンチャーゲームはよく紙芝居でゲームじゃないと揶揄されますが、それは当然その通りだと思います。他のアクションゲームとかと比べると、ユーザーが介入する余地が確実に少ないですし、画面に動きも少ない。ただ、圧倒的なテキスト量やグラフィック、音声での演出によって映画よりも深く、小説より動的に物語を綴れると考えています。そういった面からアドベンチャーゲームは深く物語を語るメディアとして優れていると考えています。

そこにゲーム性というものを介在させるなら、分岐やその他の手法によって「物語をコントロールしている気分になれる」部分だけでいいのかなと思っています。

次ページ「例の箱やドラマCDに迫る」

《栗本 浩大》
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