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業界向けカンファレンスはどうあるべきか? CEDEC 2014でメディアパートナーと事務局が意見交換会

コンピュータエンターテイメントデベロッパーズカンファレンス(CEDEC)運営委員会は1月28日、CEDECメディアパートナー意見交換会を開催しました。

ゲームビジネス 開発
委員長の植原一充氏
  • 委員長の植原一充氏
  • 副委員長の中村樹之氏
  • 副委員長の福田淳史氏
  • 会場の様子
コンピュータエンターテイメントデベロッパーズカンファレンス(CEDEC)運営委員会は1月28日、CEDECメディアパートナー意見交換会を開催しました。会場では今年度より新たに委員長となった植原一充氏(バンダイナムコスタジオ)と、副委員長の中村樹之氏(セガ)、福田淳史氏(コナミデジタルエンタテインメント)が自己紹介すると共に、CEDEC2014のテーマ「GO for it!」を発表。また2008年よりCEDECの運営に参加しているフェローの松原健二氏(東京大学)や、出席したメディア各社も含めて、CEDECの現状や方向性などについて幅広い意見交換が行われました。

なお、こうした産業界(企業または業界団体)と専門媒体(メディア)が公式に意見交換をする機会は、それほど多くありません。大前提として「価値を創出する」産業側と、「価値を伝える」メディア側では立ち場が異なるため、意見がかみ合わないことが多いからです。それにもかかわらず、今回こうした機会が設けられたのは、なによりもCEDEC側の現状認識や、危機感を広く共有したいという意識が背景にあったからだといえます。その結果、これまでにない自由闊達な議論が行われることとなりました。

いまや東京ゲームショウ(TGS)と並んで、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が主催する二大イベントとなったCEDEC。TGSが一般ユーザーと流通関係者を主な対象としているのに対して、CEDECはゲーム開発者を主な対象としている点が特徴です。植原氏は開口一番、その特徴として「規模」と「多様性」をあげました。

CEDECは1999年にスタートして以来、年々規模が拡大し、今や世界第二位のゲーム開発者向けカンファレンス(第一位はGDCの約2万人)にまで成長しています。特にパシフィコ横浜に移転後の伸びが著しく、2009年は3000人強だった参加者が、2013年には5000人強と1.6倍にも拡大しました。もっとも、パシフィコ横浜で3日間という縛りがある以上、大幅な参加者増は難しいのも事実。9月2日から4日まで開催予定としている2014年度でも、セッション数を約200、参加者5000人を目標に掲げています。

多様性という点においても、プログラマー、アーティスト、ゲームデザイナーといったゲーム業界関係者だけでなく、学術研究者や学生など、さまざまな立ち場の参加者が一堂に会して議論を行う場となりました。こと日本のエンタメ業界において、ここまで規模が大きく、多様性のあるカンファレンスは、他に見当たらないというのが正直なところでしょう。

なお、植原氏によると今年のテーマ「GO for it!」には、「目標に向かって進む(努力する)」「頑張ってやってみる」といった意味も含まれているとのことです。PS4やXbox ONEといった次世代ゲーム機が国内でも発売されるだけに、ゲーム開発者やCEDECにとっても、新たな挑戦の年にしたいと抱負が述べられました。

続いて植原氏はCEDECの歴史を振り返りながら、現状について整理しました。大きな転換点となったのが2008年で、それまでCEDECは良くも悪くも少数精鋭で運営されていました。それが同年、改めて運営委員会が発足し、より組織だって運営されることになります。委員会は年々拡充し、当初10名程度だったものが、現在では50名程度にまで増員されることに。2010年にはそれまで招待セッション中心だったプログラムが、公募制を中心とすることに切り替わり、内容の充実に貢献しました。2013年にはメディアパートナー制度が発足し、それまで以上に密接に媒体と意思疎通が図られるようになっています。

またセッション傾向については、長くコンシューマのパッケージゲーム中心だったものが、PCオンラインや(モバイル)ソーシャルゲーム、FP2などと多様化してきたこと。ハイエンドなCG技術やプログラミング技術といった「作り込み」の議論から、プロジェクトマネジメントやアジャイルプログラミングなど「作り方」の議論が増えてきたこと。そしてARや3Dプリンタ、ロボット、プロジェクションマッピングといった、これまでゲーム業界では見られなかった周辺技術のセッションが増加してきたと語りました。

■GDCとCEDECで次第に明らかになってきた方向性の違い

「CEDECはCESAという業界団体が主催する『勉強会』だが、常に業界外に視野を広げていかなければ、ゲーム業界全体が行き詰まりを見せてしまうのではないか・・・」植原氏はこのような強い危機感があるといいます。名称を2011年に「CESAデベロッパーズカンファレンス」から「コンピュータエンターテイメントデベロッパーズカンファレンス」と変更したのも、ゲームだけではなく、広くコンピュータエンターテイメント全体にフォーカスしたカンファレンスであることを示すため。今後も情報処理学会やJaSST(ソフトウェアテストシンポジウム)など、周辺技術を貪欲に取り込んでいく予定です。

この傾向を端的に示しているのが基調講演です。2008年まではゲーム開発者が中心でしたが、2009年からゲーム開発者・学術関係者・ゲーム以外のクリエイターというように、業界外の講演者が増加しました。これも「ゲームクリエイターは日常業務に忙殺されがちなので、より広い刺激を与えたい」という想いからです。もちろん「まずはゲーム開発に役立つ知見を」という参加者のニーズがあるのも事実で、そうしたセッションが忘れられているわけではありません。しかし、全体として「広げよう、広げなければ」という意識が働いているのは事実でしょう。

この傾向は世界第一位のゲームカンファレンスと比較すると、より明確になるかもしれません。GDCでは2012年より基調講演がなくなった一方で、セッションがゲームに特化する傾向もみられます。GDC2013では新たに「ナラティブサミット」「QAサミット」などが加わり、より深い議論が行われるようになったことなどは、その一例でしょう。過去にはGDC2006でTV映画「宇宙空母ギャラクティカ」で制作総指揮などを務めたRonald D. Moore氏や、GDC2008でフューチャリストのRay Kurzweil氏など、ゲーム業界以外の知見やビジョンが共有されましたが、ここ近年はすっかり影を潜めています。

CEDECがコンピュータエンターテイメントを広く捉えようとするのに対し、GDCがゲームを深く掘り下げようとする・・・。この傾向の違いは、そのまま日本と欧米のゲーム市場の違いを反映しているのではないか、といった議論も聞かれました。欧米ではPS4・Xbox ONEが記録的なスタートダッシュを果たす一方で、インディゲームの波が巻き起こるなど、市場の二極化が進んでいます。もっともAAAゲームもインディゲームも、ともに「ゲーム」であることに変わりはありません。そういえばシリアスゲームやゲーミフィケーションなどのサミットも、気がつけばGDC2013ではなくなりました。

一方で国内では家庭用のパッケージゲーム市場をモバイル・ソーシャルゲーム市場が凌駕するなど、エンタテインメントの軸が急速に変化しています。モバイル・ソーシャルゲームですら栄枯盛衰が続いています。そこでは潜在的な市場ニーズの掘り起こしが常に求められている・・・そんな風にまとめられるのかもしれません。植原氏は「CEDECの知名度はゲーム業界以外では、まだ非常に低いが、できるだけ多くの業界にリーチしていきたい。そのためにも、メディアの皆様にはご協力をお願いしたい」と訴えました。またセガの中村氏は「ゲームのターゲットがどんどん変化している中で、おもしろいものを全方位に取り込みつつ、拡大させていきたい」とコメント。松原氏はCEDECの地方開催なども中長期的な取り組みとして考えたいと語りました。

■CEDECとメディア、立ち場の異なる両者ができること

これに対してメディア側からは、まず取材記事の執筆をスムーズにするための要望が出されました。またCEDECは過去の知見を共有する場だが、Kurzweil氏の講演のように、未来に向けたビジョンを提示するセッションも必要ではないか、といった提案も行われました。参加者属性のうちゲームデザイナーが6.5%に留まっていることから、企画系セッションの充実を求める声もありました。このほかCEDECが全方位で拡大したいという方向性は理解するが、一方で「ゲームの開発技術を議論する場」という中軸はぶらさないで欲しいといった意見や、CEDECに行けばその年の技術トレンドがわかるといったように、見せ方の工夫が必要ではないかという意見もありました。

なにより、媒体には各自の編集方針があり、膨大なCEDECのセッションをすべて取材して記事にできるリソースもありません。そのため、各自がそれぞれの立ち場でCEDECを切り取り、記事化していくことになります。つまり媒体ごとにCEDECに求める要望は異なるというわけです。一方でCEDEC側にそれらすべてを満たすリソースが存在しないのも事実。そのため時として、議論を通して立ち場の違いが浮き彫りになるシーンもありました。しかし、CEDEC側にもメディア側にも、立ち場を越えてゲーム業界を発展させていこうという共通の想いが確認できたことは、意見交換会の成果の一つだったと言えるでしょう。

ほんの一昔前まで、ゲーム業界で知見を共有できる場といえばCEDECしかありませんでした。しかし、今ではさまざまなコミュニティが存在し、IT業界も含めれば、毎日のように勉強会やハッカソンなどが開催されています。こうしたコミュニティ活動の拡大と共に、CEDECもまた成長を続けてきました(裾野が拡大すると共に、頂きも高みを増してきたというわけです)。組織固めを行い、会場を固定化し、これからCEDECはどのように成熟していくのか。おりしも2月1日からセッション公募が開始されましたが、CEDEC2014でどのような議論が展開されるか、今から期待してやみません。
《小野憲史》
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