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【CEDEC 2012】「クラウドゲーミング」って美味しいの?ユビタスがメリットと課題を整理

ソニーがガイカイ買収を発表した一方で、オンライブが事業清算を行うなど、まさに荒れ模様のクラウドゲーミング界隈。次世代の配信技術として注目される一方で、「使い物になるのか?」と懐疑的な人も多いのではないでしょうか。

ゲームビジネス その他
ユビタス・春日伸弥氏
  • ユビタス・春日伸弥氏
  • クラウドゲーミングは超高速シン・クライアント技術
  • 端末を選ばずにゲームを提供できる
  • 3GでもコマンドRPGやテーブルゲームならOK
  • PCゲームとの親和性が抜群
  • クラウドゲームのメリットは大きい
  • 課題は3点に整理できる
  • 技術的努力で遅延を回避
ソニーがガイカイ買収を発表した一方で、オンライブが事業清算を行うなど、まさに荒れ模様のクラウドゲーミング界隈。次世代の配信技術として注目される一方で、「使い物になるのか?」と懐疑的な人も多いのではないでしょうか。

こうした中で、同じくクラウドゲーミング事業を手がけるユビタスは、CEDECのスポンサードセッションで「クラウドゲーミングを始めよう~技術・配信事例から設定ツールまで~」と題した講演を行い、クラウドゲーミングの未来を力強くアピールしました。

ユビタスは2007年5月に創業した台湾系企業で、台湾・日本・韓国・中国を拠点に、クラウドコンピューティング・ソリューションを開発提供。通信キャリア、デジタル機器メーカー、コンテンツプロバイダーなどが顧客で、日本ではNHN Japanと提携してNTTドコモのLTEタブレットに標準バンドルしています。他に中国・韓国などでも展開する一方で、アメリカでも大手キャリアと提携交渉を進めています。

同社ビジネス・デベロップメント・ディレクターの春日伸弥氏は「クラウドゲーミングについて、実際どうなの? という方が大半でしょう」と切り出しました。そして今回は入門編として▽技術の概要▽メリットと課題▽サービス事例▽クラウド配信の始め方--について紹介。会場は立ち見が出るほどで、関心の高さが伺えました。

■あらゆる端末でゲームが楽しめるようになる?
まずクラウドゲーミングの概要について、春日氏は「動画再生可能な端末にゲームを配信できる、超高速シン・クライアント技術(ユーザーが使うクライアント端末に必要最小限の処理をさせ、ほとんどの処理をサーバ側に集中させたシステムアーキテクチャ)だと整理しました。クラウドサーバから端末に実行中のゲーム映像・音声データをストリーミング配信する一方で、端末側からキー入力などの情報をアップストリーミングし、ユーザーにゲーム体験を提供するというわけです。

これにより、▽スマートフォン&タブレット(OS問わず)▽スマートテレビ&セットトップボックス(CATVなども可)▽PC(ブラウザプラグインも可)など、動画をデコードできる端末なら、何でもゲームを配信できるといいます。ユーザーは、わざわざ最新ゲーム機やPCを購入しなくても、常に最新のゲームが好きな端末でプレイできます。

配信できるゲームも、Windows上で実行できるものなら何でも可能。ネットワーク回線も、帯域より遅延が少ない方が重要で、固定ブロードバンドやLTE(Long Term Evolution、3G回線の高速版)なら、目押しが必要なゲーム(格闘ゲーム、音楽ゲームなど)以外は、大体OKだと紹介されました。3Gモバイル回線でも、アクションゲームは厳しいが、RPGなどメニュー操作が中心となるゲームなら、問題ないとのことです。

クラウドゲームのメリットは、▽クロスデバイス対応で、移植コストやリードタイムが節約できる▽コピーが手元に残らないため、海賊版対策になる&家族や知人に隠れて購入できる▽サーバ上でゲームを実行しているため、プレイ画面を共有できる--という3点を紹介。特にプレイ画面の共有については(ユビタスではまだサポートしていないものの)、クラウドゲームならではの新しい魅力であると説明されました。

また、昨年11月にアドビ社はモバイル版Flash Playerの開発打ち切りを発表しました。しかしクラウドゲーミングなら、Flahで作成したコンテンツもストリーミングで配信することで、引き続きモバイル向けなどで活かせます。

もっとも「本当に遊べるの?」「ビジネスになるの?」と、懐疑的な見方が大半であることも事実。春日氏はこうした懸念点を、大きく▽スピード▽コスト▽互換性--に整理しました。すなわち「画質と応答速度」「接続数と消費電力」「端末の互換性」です。

■Game Developer Kitのβ版を10月に開始
はじめに「画質と応答速度」について、クラウドゲームの動画品質はコーデック・ビットレート・フレームレート・解像度の4要素に左右されると解説し、ユビタスではこれらを動的に調整する「ダイナミック・ビットレート機能」をサポートしていると紹介しました。またネットワーク上で避けられない、突発的な遅延については、自動的にフレームを省略する「フレームドロップ機能」で、快適なゲームプレイを提供できるといいます。

次に「接続数と消費電力」について、クラウドゲーミングのインフラコストは約6割が消費電力に由来すると解説されました。これに対してユビタスでは、OSのオーバーヘッド(余計な負荷)を減らしてサーバ単位での同時接続数を上げたり、ハードウェアをGPU搭載用にチューニングすることで、コスト削減を図っているといいます。

また通常のクラウドゲーミングサーバでは、一度GPUでレンダリングされた画像データをキャプチャし、これをエンコードして、ストリーミングで配信する例が一般的です。しかし、ユビタスではこの「キャプチャ&エンコード」工程を省略し、GPU内のデータを直接配信する「GPU内フッキング」を実現。この技術と低消費電力GPUサーバを組み合わせることで、全体的なインフラコストが抑えられるとしました。

最後に端末互換性について、ユビタスではセットトップボックス(CPUクロック周波数100-300MHz、空き容量2MB以下)でも動画再生が可能であること(すなわち、それ以上の性能を持つ端末ならすべて対応すること)。またスマートフォン&タブレットにように、物理ボタンのないタッチスクリーン向けに、プログラムに仮想ボタン機能を組み込むSDKを配布することで、簡単に対応させられると紹介しました。端末毎にバラバラな表示系についても、画面解像度にあわせて動画解像度を変更させられるといいます。

これらの技術をベースにユビタスのクライアントは粛々と拡大中。特に中国では最大手固定通信キャリアのチャイナ・テレコム向けに、スマートテレビ&セットトップボックスを対象としたゲーム配信が、本年10月から開始されると紹介されました。テレビ画面を対象としたゲーム販売サービスはこれが初めてで、ゲーム発売後もコンテンツの流通管理をコントロールできることが、行政としても魅力的に映ったのではないかと言います。また中国ではオンラインゲームなどを配信する際に(家庭用ゲームは現在も販売禁止)、約8ヶ月のコンテンツ審査期間を要しますが、これも60日程度に短縮されるとのことです。

最後に春日氏はビジネスの進め方について紹介しました。仮にパブリッシャー・ディベロッパー・キャリアなどが自社でクラウド配信を行いたい場合は、ユビタスの配信技術をライセンスすることもできるし、すでに展開中のキャリアやユビタスのサービス上にタイトルをライセンス配信することも可能です。ただし、格闘ゲームや音楽ゲームなどのように、配信に適しにくいタイトルもあるため、注意が必要とのこと。その上で専用SDK(Game Developer Kit)でタイトルのバイナリを変換してもらえば、すぐに配信できると説明しました。

実際の変換作業も、サーバ上でゲームの実行ファイルを指定し、仮想ボタンなどを設定するだけで、小一時間程度で終了するとのこと。ブラウザ上で配信確認ができるGDKポータルや、仮想ボタン編集ツールのダイナミックUIエディタも整備されています。本年9月より企業向けにGame Developer Kit β版の利用アカウントを発行するので、ぜひ皆さんの環境で試してみて欲しいとアピールしていました。

なお質疑応答では、MMORPGなどのクラウド配信や、ボイスチャットなども実装可能と説明されました。またユーザーのキーログデータを収集し、調整に活用するといったデベロッパー向けのサービスについても、要望があれば実装していきたいと語っていました。
《小野憲史》
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