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戦略による必然と偶然の融合がSNSユーザー層の共感を誘発した『El Shaddai-エルシャダイ-』・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第15回

ゲームビジネス 市場

El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON
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昨年のゲームショウでは様々な作品に巡り合いましたが、その中で筆者が最も注目したのが『El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON(エルシャダイ アセンション オブ ザ メタトロン)』(以下、『エルシャダイ』)でした。一見、海外産ゲームにも見えながらキッチリとしたアクションゲームになっていたのが気になってしょうがなかったのです。結局土本編集長とともに突撃アポを敢行。その時の模様を執筆したのが本連載第10回目でした。その時、作り手が日本人で更にディレクターである竹安佐和記氏をはじめ、多くのスタッフが同じく神話系ゲームの名作『大神』などに携わっていたと聞いて更に驚いたのを記憶しています。

ですが、これはほんのはじまりだったのです。以降、ニコニコ動画のMAD動画が次々とアップされ、一時はランキングの各ジャンル上位にランクインする程に!イラストなどを共有するSNS、Pixivでもこれに呼応するかのように、多くの作品が出品され、なんと11月3日には発売前の作品でありながら、『エルシャダイ』オンリーイベントが開催されるまでになったのです。最終的にはルシフェルの台詞である「そんな装備で大丈夫か?」がネット流行語大賞2010の金賞にまで選ばれましたね。

そこで、4月28日に発売を控える『エルシャダイ』のビジネス展開に注目し、マーケティングディレクターの上西華子氏とプロデューサーの木村雅人氏からお話を伺いました!

木村氏と上西氏


■リアル天使がゲームの行方を見守っているような感覚

―――中村彰憲: 完全新作でありながらここまでの盛り上がり!率直にどう感じましたか?

上西華子氏(以下、上西)、正直、日々「このプロジェクトには本当に天使がいるのかな」と感じることは多いですね。よく神風が吹くんです。(笑)。ディレクターの竹安(竹安佐和記氏)がすごくロジカルな人なので、ちゃんと意識的に色んな仕掛けをしているんですが、それらがここまで上手くはまっていくことが必然だけとは思えないんです。

その最初のきっかけになった東京ゲームショウ2010(以下、TGS)への出展についても、10年の6月に私がプロジェクトに参加するまでは、関係者全員、親会社も含めて、TGSにゼロから出展をしたことのある人が居なかったんです。私が入社した時は、既にTGSの出展申し込み締め切りの一週間前でしたから、それが私の最初の仕事になったんです。入社してすぐにE3に行き本社に予算申請をしたり、突貫で企画書を出して説得したり色々とムチャをしましたね。春に発売される予定なのに、その前のTGSに出さないっていうオプションはないじゃないですか。

―――では、そのタイミングで上西様がチームに参加したのも運命のめぐり合わせのような…

上西:もちろん、広報宣伝ができるマーケティングのヘッドが必要だということでプロジェクトに参加することになったわけですけど、一番力を発揮できるタイミングでグイっと引き寄せられたような感覚はありますね。

木村雅人プロデューサー(以下、木村):親会社や本社の偉い人達を追いかけまわしてTGSの重要性を延々説明して説得したんです。

上西:当時、本社としては理解できない所にお金を使うということに消極的でした。

木村:E3に出展さえすれば、TGSで改めて出展する必要はないのでは、という考え方だったんですね。

―――E3ではしっかりと出展していましたよね。

上西:もともと弊社はイギリスの会社ですし欧米に目を向けていますからね。話題になったルシフェルバージョンのPVもE3ではじめて公開したものなんです。。でも海外では当時、あまり大きなリアクションは有りませんでした。

木村:北米のゲームショーなのに、日本語のPVが大音量で流れていたというところで注目はしてくれたんですが、映像出展のみだったのでそれ以上の盛り上がりは無かったんです。

上西:E3のタイミングでゲーム雑誌への初出ということもあって、日本のユーザーの皆さんの間では少し話題になったんです。だからその流れを活かしてTGSに出展して一気に盛り上がりをつくっていきたいと考えていましたね。

出展までかなり期間が短かったんですが、私が前職の関係でCESAにパイプがあったという偶然も重なり、これまでの繋がりで信頼していただけたのでギリギリの対応が可能だったんです。

木村:本当に、ギリギリ滑り込みでした。



■「サクチュアリ」を作り上げるために独立ブースを堅持

―――ブースは40コマという感じには見えない程、大きく感じられました。

木村:弊社のブースのテーマは「エルシャダイの世界を具現化する」でしたから独立出展はどうしても外すことが出来ませんでした。来て下さるユーザーの皆さんに「世界観」をきっちりと伝えたかったんです。ですから、予算が限られていた事も有り、ユーザーの皆さんに感じてもらえる「世界」をそこに作ろうということになったんです。

上西:「サンクチュアリ(聖域)」です。欧米の担当者とも相談して、ブース全体をそのコンセプトで創ろうということになったんです。

木村:独立コマでないと統一感や一体感が出せずサンクチュアリのような雰囲気は出ませんからね。なので、ほとんど1作品だけの出展ではありながら40コマは押さえたんです。その時に作った図面がここにあります。
CAP

上西:今だから言えますが、予算もあまりかけられなかったので世界観を現す上でも様々な工夫をしました。ムービングプロジェクターを使い、様々な映像を投影したりしてエルシャダイのテーマの一つ「変わり続ける世界」を表現しました。余分なコストを抑えながら、幻想的な『エルシャダイ』の世界にいるような雰囲気を感じられるようにブースを構成していったんです。また、たくさんの方にシッカリと遊んでいただける様になるべく多くの試遊台を設置しました。

TGSは急遽出展が決定


中村:あとEdwinとのコラボもびっくりしたんですが…

上西:竹安ディレクターが、もともとデニムが大好きで、『エルシャダイ』の世界をユーザーに身近に感じてもらいたいということもあって、「いちばんいい装備とはジーンズである」としたんです。ジーンズはルシフェルが見聞してきた、長い人類の歴史の中で「最も優れた労働服である」という考え方です。Edwin様は特に積極的且つフレキシブルに異業種とのコラボをされてきた会社なんですが、ゲームはまだやったことがなかったとのことでした。

EDWINのコラボも好評発売中


―――設定的にはどのような意味があるのでしょう?

上西:ルシフェルがいろいろな歴史を見聞していく中で、2010年から12年位の時代を特に気に入っていて、その時期の服装に近いものをまとっているという設定です。だから現代の携帯電話やビニール傘を使ったりしているんです。イーノックが倒されて戻ってきたときも、地球上には無いような天界の素材の武具をまとわせながら、現代のジーンズを履かせるという発想が生まれたんです。

本来こういう異業種のコラボって本当に難しんです。ゲームの企画段階から進めないと今回のような深い取り組みは出来ませんから。今回はプロジェクトの初期から長く進められていたので、細部のディテールまでゲーム内で再現することが出来ました。

万事こんな感じで、スタッフが参加してくるタイミングしても、出展にしても、コラボにしても偶然や必然が次から次へと重なっていくんです。スタッフの間でも、本社も含め「なぜかココ(Ignition Entertainment Ltd.)に引っ張られてきてしまった」という不思議な感覚を感じる人もいるようです。なんだかちょっと神がかっているよねっていう話をする事が結構あります(笑)。



■ネフィリムのCMは世界最長CMとして一度はギネスブックに登録されたんですが・・・

―――『エルシャダイ』のマスコット的キャラクター、ネフィリムの展開も気になります。

上西:ネフィリムのPR活動も私が参加するずっと以前、プロジェクトの初期から始めていました。ネフィリムは本作で非常に重要なキャラクターで、一般的には巨人やゴツイ男性の様なデザインが用いられるのですが、実際の旧約聖書の表記ではネフィリムの外観は、人の肌のようにぶよぶよして手と足がある、巨大な生き物と記されているだけなんです。

それを竹安が素直にそのまま画にしたのがこのデザインなんです。それを箭内さん(クリエイティブディレクターの箭内道彦氏)と山本さん(放送作家の山本佳宏氏)に様々な形で展開していただきました。

箭内氏も広告の新しい形というのをいろいろと模索されており、ギャングスタープランナー(GSP)というやる気が有れば誰でも参加して皆で伝える広告のムーブメント活動をされており、その人たちとネフィリムを人気者にしようというプロジェクトを始めた所、あるメンバーのアイディアから「指ネフィリム」というのが生まれたんです。

自分の指に眼を描けばネフィリムのよう見えることから皆に描いてもらい動画にして送ってきてもらったものを29分30秒のCMにしてMTVで放送しました。これは、その当時世界最長のCMとしてギネスブックに認定されたんです。後に塗り替えられちゃうんですけどね。

ネフィリム


―――クリスマスボイスにも驚かされました。

木村:これはせっかくゲーム内にこんなに饒舌なキャラクターがいるんだから、色々喋らせて、音も伝えられるメディアで何か面白いことしたいよね、というところから考えました。

上西:セリフについてはルシフェルが言いそうな言葉を考えて候補を上げつつ、最終的には竹安にルシフェルのセリフにしてもらいました。ルシフェルのセリフは竹安が自ら書いているんです。

■リリース前から楽しまれるゲームに

―――このような形で様々な工夫をしてきたわけですが、ネット上の盛り上がりを見たときに、プロモーションを進めてきた側としてはどのように感じたのでしょうか?

木村:これは二つの側面があると思います。まず、プロモーション側ではユーザーの皆さんが盛り上がってくれるのは、話題にもなってくれますしどんどん広がって行ってくれますから非常に嬉しいという事。また、作り手の視点としては「ユーザーが遊んでくれている、楽しんでくれている」というスタンスです。僕らは遊びをつくるのが仕事です。発売前からこんな形で遊んでくれているのはとてもいいことじゃないか―こんな見方もあると思うんです。だから僕らとしてはどちら側から見ても大きなプラスとして受け取らせてもらっています。

―――ニコニコ動画でそれぞれがランキング1位になったときはどう感じられましたか?

木村:正直「こんな事って、こんな事件ってあるんや!」というのはありました。

―――ニコニコ動画にアップされたルシフェル版PVも400万人のビューアを突破しましたよね。

上西:結構、いろいろな方から聞かれるんですけど、私たちは動画を一切あげていなんです。おそらくユーザーさんがあげてくださったと思うんですね。そういう意味では、コンテンツを作る中では仕掛けは作っているんですが、自然発生的に盛り上がったという点では、私たちが自信を持って打ち出したキャラクターではあっても、ここまで愛してくれているっていうのは本当に嬉しい事だと思っています。

木村:なかなか動画や情報だけでは伝えにくいんですけど、スパイスの一部でも伝わってくれてユーザーも喜んでくれいているという事実は嬉しいです。

―――では、発売に向けて如何に『エルシャダイ』についてより多くの人に伝えていきたいと思いますか?

上西:奇をてらった様なプランはなくて、けっこう真面目に情報の解禁タイミングを決めて順番に出していっているんです。でも、その間、間でとてもポジティブな風が吹いていると感じています。ユーザーの皆様のポジティブな反応が、マーケティングプランの間を埋めていってくれる感じで、盛り上がり、とても嬉しく思っています。大企業ではない分、ユーザー様の声に対してスピーディーに返していく、というのは出来る限りやっていきたいと思っています。例えば11年度の年賀状なんかもユーザーの希望をスタッフがTwitterで見つけてきて、検討を重ね、竹安ディレクターにも相談して実現しました。マーケティングと開発が近いからこそ実現出来ることだと思うんです。

木村:これは開発がスタートした時点から考えてきたことなんですが-まずはゲームの内容を大切にしながらも、そこから出来る事をどんどん考えいこうという姿勢を持つという事。。ネフィリムにしても、EDWIN様とのコラボ等もそうです。これらの展開がユーザー様の心にすこしは引っかかっているのではと思います。

上西:実際に気持ちは伝わっているなと思いますね。こんな時ですし、もっともっと楽しい企画を考えて、ユーザーのみなさんと一番いい発売日を迎えられたらと思っています。

―――ありがとうございました!
《中村彰憲》

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