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【CEDEC 2010】完全アウェイの地で戦い抜く方法~『ウイニングイレブン』の海外展開~

寺田氏が「サッカー日本代表の歴史と重なるところがある」と語る『ウイニングイレブン』の歴史は、1995年『Jリーグ実況ウィニングイレブン』(PS)から始まります。

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「このセッションでは、受講スキルを『誰でも来てください』としました」と株式会社コナミデジタルエンタテインメントの寺田氏。「自分たちしか体験できなかったことがあるはず。それを皆さんの仕事に活かしてほしい」と、『ウイニングイレブン』を海外展開するうえで知り、学んだことについて、話しました。

ウイイレの歴史


寺田氏が「サッカー日本代表の歴史と重なるところがある」と語る『ウイニングイレブン』の歴史は、1995年『Jリーグ実況ウィニングイレブン』(PS)から始まります。1993年にJリーグが開幕し、国内のサッカー人気がピークのときにリリースしたわけです。そして、サッカー日本代表がオリンピック1次リーグでブラジル代表を下した「マイアミの奇跡」と同じ1996年、世界市場への進出を果たします。

本シリーズは海外で『PES(Pro Evolution Soccer)』の名で発売されています。当初は日本のサッカーが世界で認知されておらず、「サッカー後進国の日本人がこんなゲームを作れるとは!」と、皮肉混じりの評価を得たといいます。

その頃は日本国内版を開発したのち海外版を開発するという順番でしたが、フランスワールドカップの1998年からは海外版がメインとなり、日韓共催ワールドカップの2002年に初めてダブルミリオンを突破します。
ここで「自信を持った」と寺田氏。「サッカーはやはりヨーロッパだ」と気づき、ヨーロッパで売るなら年末がいいと、開発スケジュールの調整がなされます。
初期には日本版の発売から欧州版の発売まで3年近くかかるケースもありましたが、今では同時に開発、同時に発売しているといいます。

世界で販売される


売り上げについても、2005年ごろからヨーロッパでの売り上げが拡大。売り上げの大部分を占める状態になりました。販売地域は「コナミが販売網を持っていたという単純な理由」から、日本・北米・西ヨーロッパの3地域から始まりましたが、あらゆる地域から引き合いがあり、東南アジア、東欧、南米にも展開。今では、南アジア、中東、アフリカ、オセアニアにも進出しています。

■英語と米語

話は、ローカライズの具体的な方法に入っていきます。

「当初は『実況をする』要素だけでウリになった」と寺田氏。海外へ進出するにあたり、主要5言語(英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語)の各バージョンを売り出します。その後、韓国語、中国語、ロシア語、オランダ語、スウェーデン語とあらゆる言語に対応。初期にはテキストのみの対応だったものが、次第に実況音声のパートも翻訳されるようになります。

寺田氏はいいます。「その土地の言葉で実況を入れると、プレイヤーはふだんTVで観るサッカー中継と同じような画面でプレイできる」。この感覚は『ウイニングイレブン』の海外展開において特に重視されており、英語圏でも「米語」のものを別に用意したり、同様にスペイン語圏のものでも「メキシカンスペイン語」を用意したりしています。

最新作の『PES 2011』ではブラジリアンポルトガル語、ギリシャ語、トルコ語にも対応するといい、現在では17言語(音声は10種類)対応になりました。

海外展開は、好調なスタートを切ったといいます。

その要因はなによりサッカーを題材としたことにあると寺田氏は考えています。サッカーは世界でもっとも競技人口があるとされ、日本でも流行りつつあったため、国内外から広い支持を得られたというのです。
もう1点は「made in JAPAN」であること。日本には日本しかないゲーム作りの姿勢があり、「ちょっとした気配りと、気合い・根性」にあふれているといいます。今でもそうした気配りは、『ウイニングイレブン』シリーズで選手の顔やユニフォームの出来、「マスターリーグ」といったゲームモード、UIなどに見られるとのことです。

■「っぽい」は嫌われる

しかし、すべてが順調だったわけではありません。氏は当時を振り返り、「手荒い洗礼を受けました」といいます。「数字こそ残せているが、実際は失敗して学んだことばかり」。

その原因は、「勘違い」にあったといいます。

日本の細やかなゲーム作りでスタートしたものの、やがて面白いだけではゲームが売れない時代が訪れます。それでもなお、爽快感やゲームとして面白いものを追求しようとしたことが「勘違いだった」というのです。

海外のサッカーファンは、シミュレーターとしての性能をサッカーゲームに求めていました。たとえストレスがあっても、「サッカーはこうあるべき」という考えに沿っていれば、そちらが優先されるのです。

日本ではサッカーはスポーツのひとつですが、ヨーロッパには「生活のすべてがサッカー」という人がたくさんおり、優勝回数を言い争って射殺された例さえあるといいます。寺田氏は「我々とはサッカーに対する感覚が違う。これを本当に理解してゲームに落とし込むことがなかなかできなかった」と、そうした文化の違いへの対応の難しさを語ります。

また、一概に「ヨーロッパ」といっても、フランスとイギリス、イタリアとドイツでは風土も環境も、当然お客さんも異なります。そうした違いへの対応について、たくさんの批評があったといいます。

たとえば、初期『ウイニングイレブン』ではピッチ上にベンチのオブジェクトがあるものの、そこに人影はなく、審判もいませんでした。これはゲームとして軽く動くことを優先するための、意図的なものです。
しかしこの点は痛烈に批判を受けました。なぜ審判がいないのか、なぜ線審は旗をあげないのか、というのです。彼らにとっては、ベンチには選手や監督がいて、フィールドに審判のいる風景が「サッカー」だったのです。「東京の絵を描くとき、東京タワーがないのと同じレベルだったのです」と寺田氏。

また『PES 2008』から導入された「ダイブ機能」にも反響があったといいます。「ダイブ」は選手自ら倒れることで、敵の反則を誘うプレーです。この機能は南米やヨーロッパ本土では絶賛されました。しかし、イギリスでは受け入れられませんでした。当地ではTV番組で「今日のダイブ」なるコーナーがあるくらいで、ダイブに対し批判的だといいます。「同じゲームなのに評価が2つに分かれ、戸惑った」と寺田氏はいいます。

「フットボールカルチャー」はファッションや音楽など生活のあらゆるところに入り込んでいます。その感覚が日本からは想像しづらかったため、『PES』の音楽はすべからく「子供っぽい」と指摘されたこともあったといいます。そうした批判を受け、今ではプロアーティストの楽曲を使っているとのことです。

寺田氏は「海外では『本物っぽい』の『っぽい』に過敏に反応される」といいます。本物っぽい選手名、本物っぽいチーム名、本物っぽい音楽…すべて嫌われます。

その他、『PES 2010』で、初心者に向けノーマルの難易度を少し落としたところ、「バカにしてるのか」と言われた事例や、スペイン版パッケージに闘牛の絵を描き、現地のプレスに怒られた事例があげられました。実況部分を日本語からそのまま翻訳したときには、「英語もわからないのか」と批判されたともいいます。「あがる」「サイドをえぐる」といったサッカー用語が、きれいな言葉に置き換えられてしまっていたとのことです。

またライセンスの問題があり、これが一番の苦悩と寺田氏はいいます。

海外では独占契約が当たり前で、交渉に行ったときには別のメーカーがライセンスを持っているため「5年間使えない」といわれたこともあったとのこと。

しかし寺田氏は「『事情をわかってくれ』というのは作り手側の勝手な言い分。なんとかしようと戦い続けています」といいます。

■LとLとI

寺田氏は海外で愛されるゲームを作るためには、がむしゃらに作ってはダメだと考えています。サッカーの本場には歴史や文化が根付いているため、軽い気持ちで作ってはいけないというのです。『ウイニングイレブン』は、ヨーロッパでは完全にアウェイ。ちょっとしたことで批判の的になります。しかし主戦場がヨーロッパになった以上、アウェイとして戦わなければならないといいます。

上手くいかなかったこと学んだこと


「日本のサッカーは、日本人の特長を活かした上で海外の良さを取り入れ、独自のスタイルを気づくべきである」。これはサッカー日本代表に対しよくいわれる言葉ですが、ゲームについても同じことがいえると寺田氏。プレイヤーに満足してもらうため、「LLI」を重視するようになったといいます。Listening、Learning、Improving.初心に返り、声を「聞く」ことで「学び」、「応える」。

ヨーロッパの現地プロモーションの人と一緒に考えた言葉だとのことですが、これは『ウイニングイレブン』に限らず、どのタイトルでも海外展開するうえで留意しておくべき事柄ではないでしょうか。
《D》
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