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【レポート】「黒川塾(四十)」バイトからゲーム界レジェンドへ。坂口博信、そのクリエイター人生を振り返る

9月29日、株式会社オルトプラスにて黒川文雄氏が主宰する「黒川塾(四十)」が行われました。4周年記念企画となる今回は、『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親である坂口博信氏をゲストに招いてトークが行われました。

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9月29日、株式会社オルトプラスにて黒川文雄氏が主宰する「黒川塾(四十)」が行われました。4周年記念企画となる今回は、『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親である坂口博信氏をゲストに招き、「坂口博信 人生のクリエイティブ」と題したトークが行われました。

■様々なものに影響を受けた学生時代

学生時代、漫画や映画など見たものすべてから影響を受けてきたという坂口氏。ハヤカワ文庫の『エルリック・サーガ』など、ファンタジー小説も愛読していたそうです。「ゲーム制作で楽しいのは世界感作り。キャラクターたちが活躍する舞台を用意するのが何より楽しい」という坂口氏、その原点はこの学生時代にあるのかもしれません。

高校卒業後、坂口氏はひとり暮らしを始めるため、横浜国立大学に入学。大学時代にパソコンに興味を持ち、当時発売されていた『Apple II』の互換機を自作。プログラミングを勉強する一方、『ウィザードリィ』や『ウルティマ』といった海外RPGにもはまっていったとか。またその当時に坂口氏がゲームと同じくらいに夢中になっていたのがソフトのプロテクト外し。方眼紙を使ってディスクドライブのブヘッダの動きを読み取り、プロテクトがかかっているトラックを特定していたそうです。

■アルバイトとしてスクウェアの前身である電友社へ

横浜国立大学在学中、坂口氏はスクウェアの前身である電友社に入社。電友社を選んだ理由は坂口氏いわく「聞いたこともない会社だったから」。当時、ゲームメーカーといえばナムコやコナミが有名でしたが、いずれもアーケードゲームが中心だったため、入るには基盤などハードの知識も必要だろうと考え、候補から除外したそうです。こうして坂口氏は、大学の同級生だった田中弘道氏と一緒に電友社のアルバイトに応募。ソフト開発部門スクウェアのスタッフとなり、クリエイターとしての第一歩を踏み出します。

入社後、最初に制作に関わったのが、当時大人気だったテレビ番組「鳥人間コンテスト」を題材にしたゲーム。しかしこのゲーム、なんと番組の版権を押さえていなかったために制作途中でお蔵入りに。
そして次に手がけたのが、1984年に発売された『ザ・デストラップ』。スクウェアの第1作目となるパソコン用アドベンチャーゲームで、坂口氏は本作のシナリオを担当しました。

チーム集めも坂口氏がゼロから始め、イラストレーターには美大上がりの新人を採用。絵といえば油絵という彼らに、坂口氏がゲームの絵の描き方を指導したそうです。ただ指導はかなり厳しかったらしく、彼らから「ゴブリン坂口」のあだ名を頂戴することになったのか。また、植松信夫氏との出会いもこのときで、新人イラストレーターのひとりから当時レンタルレコード屋でバイトしながら音楽活動をしていた植松氏を紹介されたそうです。

■『ファイナルファンタジー』の誕生


ファミコンが発売された当時、セーブ機能のないファミコンでRPGは作れないというのが業界の常識。坂口氏も「ファミコンでRPGは無理」と考えていたひとりでした。そんな中、ファミコン初のRPGとして『ドラゴンクエスト』が登場、多くのゲーム開発者に衝撃を与えました。そしてこの『ドラクエ』の登場により、坂口氏は後の代表作となる『ファイナルファンタジー』の制作に乗り出します。

当時の坂口氏にとって、『ドラクエ』を作った堀井雄二氏やその誕生に一役買った集英社の敏腕編集者・鳥嶋和彦氏は雲の上の存在でした。『ファイナルファンタジー』を完成させた坂口氏は、週間少年ジャンプで紹介してもらおうと編集部に通い、鳥嶋氏と知り合うことになりますが、その原動力となったのは「憧れだった彼らに近づきたかった」という思いだったそうです。

最初の頃は、編集部に開発ロムを持ち込んでも「今度の『ドラクエ』いいね!」と言われたりと悔しい思いもしたそうですが、やがて『ファイナルファンタジー』は名実共に人気シリーズへと成長。坂口氏によると、『IV』『V』の頃から鳥嶋氏も認めてくれるようになり、これが後に名作『クロノトリガー』の誕生へとつながっていきます。

坂口氏がエグゼクティブプロデューサー、堀井氏がストーリー原案、そして鳥山明氏がキャラクターデザインを担当した『クロノトリガー』は、発表から大きな話題を呼び、坂口氏がメディアに登場する機会も大きく増えました。実はこれは、当時の鳥嶋氏の「ゲームクリエイターにも漫画家のようにスターが必要だ」という考えによるものだったそうです。

■開発環境の激変で突きつけられた現実

PlayStationのキラータイトルとして発売され、PlayStationを一気にナンバー1ハードへと押し上げた『ファイナルファンタジーVII』。当時はソニー、そしてセガの両陣営からスクウェアへ様々なアプローチがあったものの、「1枚でもポリゴンを多く表示できるマシンを」という理由からPlayStationが選ばれたそうです。

そしてこの頃から開発の規模が大きくなり、ひとつのプロジェロクトに多くのスタッフが関わるように。坂口氏によると、それまでは開発スタッフが全員顔見知り。開発の最終段階では全員が集まり、明け方にエンディングを見ながら乾杯し、完成の悦びを分かち合っていたそうです。しかし、大規模になったことで作業が分業化し、多くのスタッフが”全体の一部分”だけに関わるとやり方に変化していきました。坂口氏はこのことに大きなショックを受け、「ゲーム作りは楽しいばかりではない」という現実を痛感したそうです。

なお、坂口氏には以前から「会社が社員に与えられるべきは、やる気や充実感ではなく、金(報酬)と時間(休暇)だ」という思いがあり、スクウェア時代にもクリエイターに利益を還元するよう、会社に積極的に働きかけたそうです。結果として開発費高騰の一因ともなりましたが、その思いは今も変わっていないとのことでした。

■CG技術でハリウッドに追いつきたい! その思いが映画制作の原動力に


そして話題は“あの映画”の話へ。坂口氏が監督を務め、2001年に公開された映画『ファイナルファンタジー』。世界初のフル3DCG映画として話題を呼び、国内のみならず全米でも公開されましたが、興行的には厳しい結果となりました。

坂口氏が映画を作ろうと思い立ったきっかけ、それはCG技術におけるハリウッドとの力の差でした。「国内最高のCGスタッフを集めて作られた『ファイナルファンタジーVII』ですら、ハリウッドの技術には全く及ばない。そう感じた坂口氏は、「彼らに追いつくには一緒に仕事をするのが一番」と考え、映画制作を決めたそうです。

■3年の沈黙ののち、新会社で新たなスタートを

2003年にスクウェアを退社した坂口氏。その後、3年ほど何もせずに過ごしていましたが、「自分は何も貢献していない」と思いを抱き、ゲームデザインスタジオ「ミストウォーカー」を設立。鳥山明氏と再びタッグを組んだ『ブルードラゴン』や『スラムダンク』の井上雄彦氏をキャラクターデザインに起用した『ロストオデッセイ』、Wi専用タイトルである『ラストストーリー』など大作RPGを次々と発表しました。

その一方で、スマーとフォン向けアプリ『Party Wave』の制作にも携わりますが、こちらは1日のダウンロード数がわずか3件というさんさんたる結果に。アプリについての研究不足を痛感した坂口氏はアプリ開発に本格的に取り組み始め、新作『テラバトル』を発表。『Party Wave』で失敗をふまえて作られたという『テラバトル』は、260万ダウンロードの超ヒット作となりました。

■ネット配信の可能性を探し、“生主”デビュー


最近はニコニコ生放送やYoutubeで“生主”としても活躍している坂口氏。単にゲームをプレイするだけにとどまらず、「何らかの形で発表したい」というユーザーが増えている現在、“ネットによる配信”にはまだ見ぬ可能性があると坂口氏は考えているそうです。自身も生主を体験し、また多くの生主や実況者と触れあうとことでその可能性をつかめるのではないか。それこそが坂口氏が“生主を続ける理由”なのでしょう。

最後にまとめとして「新しいことが見えてくるのが何より楽しい」と語った坂口氏。ゲーム界のレジェンドとなった現在も決して歩みを止めず、新たなジャンルに果敢に挑戦していく。そんな氏の人柄が垣間見られた講演でした。
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