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【CEDEC 2014】知られざるアプリ大国、フィンランドのゲーム産業を歩く~新清士氏によるカジュアルゲーム視察報告

CEDECで福岡市役所の山下龍二郎氏とゲームジャーナリストの新清士氏は「海外カジュアルゲーム市場の最前線報告」と題した講演を行いました。

ゲームビジネス 開発
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CEDECで福岡市役所の山下龍二郎氏とゲームジャーナリストの新清士氏は「海外カジュアルゲーム市場の最前線報告」と題した講演を行いました。新氏は『クラッシュ・オブ・クラン』で知られるスーパーセルや、『アングリーバード』のロビオなどを抱えるフィンランドへの視察報告をおこない、海外進出においてはその国のコンテキスト(文脈)を抑えることが重要だと指摘しました。

福岡市役所の山下龍二郎氏
ゲームジャーナリストの新清士氏


これまでカナダ(モントリオール・バンクーバー)、シンガポール、アメリカ、韓国など、さまざまな国や地域に取材を行い、産業クラスターの特徴について考察してきた新氏。本年6月にはフィンランド政府のメディアツアーに参加しました。その新氏をして「フィンランドはこれまでのゲーム産業クラスターとまったく異なっている」と言います。その特性を作り出しているのがユニークな地政学的特性です。

フィンランドはロシアとスウェーデンに挟まれており、フィンランド語とスウェーデン語が公用語ですが、多くの国民が英語を話せます。国土は日本より少し小さい程度ですが、人口は520万人と北海道と同レベルで、市場規模が低かったために、コンシューマゲームの洗礼をほとんど浴びることがありませんでした。そのためメガデモなど、独自のPCゲーム文化が発展。これがApp Storeなどと非常に相性が良かったと言います。アプリを作って世界中、特にアメリカに展開しやすいからです。

フィンランドの現状


エンジニアリング文化やDIY文化も特徴の一つです。第二次世界大戦では旧ソ連と対峙したために、結果として枢軸国の扱いをうけ、賠償金請求を受けたフィンランド。しかし経済規模が小さいために支払いができず、船を造船して現物で支払ったといいます。これが結果的にエンジニアリングの重要性を国民に植え付けることになりました。1980年代から90年代にかけて、ハードウェアからソフトウェアへの転換にも成功。その好例が19世紀に製紙業で起業し、ゴム製品の製造などを経て電気器機に進出し、携帯電話メーカーで一時代を築いたノキアです。

DIY文化の背景には小国ゆえの事情もあるといいます。市場規模が小さいので製品開発が一社で完結せず、いきおい製品をモジュール化して他社と提携を組むことが求められたのです。北欧ならではの経済活動の特性もあります。週末(特に日曜)に労働すると賃金が倍になるため、デパートなどは週末早々に閉まってしまいます。家のリフォームなども週末に行うと費用が急増。そのため自宅に自分で手を入れるDIYが盛んだというのです。

なお、こうした特性は多かれ少なかれ北欧地域に共通して見られるようだと新氏は補足します。モジュール化の好例として上げられたのがLinuxです。『マインクラフト』や家具のIKEAはスウェーデン製。Unityやレゴはデンマークの企業です。「中身ではなくパーツを作るのに熱中する国民性があるようです」(新氏)。

徹底した個人主義で、いわゆる「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」がないのも特徴だとされました。サッカー型の組織スタイルが特徴で、監督の権限が少なく、フィールドプレイヤーの自主性が求められるといいます。同じ企業に4年程度しか勤めず、生活様式も自由。新氏はブロードバンドが引かれたムーミン谷のようだと形容しました。ムーミン谷では冬に冬眠しますが、フィンランドでは冬に家にこもってプログラミングをするというのです。半分ジョークだが半分真実だといいます。

特にノキアがアップルとサムソンにスマートフォンの市場を喰われ、携帯電話部門をマイクロソフトに売却してリストラを行った後、フィンランドでは空前のスタートアップブームが発生しました。国もこうした状況に機敏に反応し、助成金をつけて支援をしているとのこと。特にシリコンバレーのスタートアップ企業にインターンを送り込むなどの施策をとっているとのことでした。あえて大手のスタイルを体験させず、帰国後に起業する参考にさせるというわけです。

こうした地政学的・文化的特性は他の国や地域に見られない、フィンランド特有のものだと新氏は分析します。巨大な国内市場と資本で急成長したアメリカ。政府の誘致政策と助成金で外国企業を誘致し、そこから雇用を拡大させたモントリオール。良くも悪くも西海岸のIT企業の下請けとして発展したバンクーバー。東南アジアのハブ的存在だが、市場規模の小ささがネックのシンガポール。国内市場が小さく、日本と中国の影響を受ける韓国などです。福岡も東京とのビジネスに影響を受けやすい「支店経済の街」であり、バンクーバーに近いといいます。

もっとも、地理的特性が産業に影響を与える点では日本も同じです。日本のゲーム消費を支えてきたのは30-40代で、国内市場がある程度大きく、輸出ではなく内需で産業が拡大できました。日本語という文化障壁に良くも悪くも守られており、漫画など独自のポップカルチャーが育つ下地がありました。それゆえに洋ゲーの進出が難しく、また日本企業の海外展開も難しいというわけです。それぞれの国や地域に固有のコンテキスト(文脈)があり、海外展開にはその分析と適応が不可欠だと指摘します。

その後、新氏はスーパーセルとロビオのアプリ戦略を中心に、欧州カジュアルゲーム企業の考察を行いました。ポイントはデジタル流通が発達した結果、どんな要因でヒットするかがわかりにくく、一般化が極めて難しくなっていることです。

続々と新鋭のゲームスタジオが誕生


ロビオにとって『アングリーバード』は52作目のアプリでした。しかしiPhoneユーザーが少なく、フィンランドですぐにランキングの1位をとることができました。そんなおり、ノルウェーの選手がロンドン五輪で暇つぶしでプレイしていたさまがテレビに映り、ロンドンっ子が熱中。それがきっかけで全世界でブレイクした・・・そんな経緯が紹介されたほどです。ここにはいわゆる、風が吹けば桶屋が儲かる式なバタフライ効果がみてとれます。デジタル流通の普及で世界が狭くなってきたからこそ、ちょっとしたきっかけでアプリがブレイクするが、そのきっかけが何かわからないのです。

「『キャンディクラッシュサーガ』のキングは利益率の低下を投資家から指摘された時、その理由をきちんと説明できませんでした。これが投資家をもっとも苛立たせたのです。しかし、これは他のアプリ大手も同じではないでしょうか」(新氏)

ただしマクロで見ればコンソールからアプリへの移行は進んでいます。ちょうど視察がE3の期間中にかかっていたという新氏。スーパーセルCEOのイルッカ・パーナネン氏に「なぜE3に行かないのか」と聞いたところ、「なぜ行く必要があるのか」と返されたとか。コンソールゲームはオールドファッションで、これからモバイルが主流になるのに、あえてE3に行く必要がないというのです。同国では「ゲーム・ファースト・ヘルシンキ」をキーワードにカンファレンスも実施しており、着実にゲーム(アプリ)大国の道を進もうとしています。

無料アプリの限界とアイテム課金の重要性、そして「ガチャ」が西洋のアプリ市場でもいよいよ認知されつつあるという分析も行われました。ロビオの新作『アングリーバード・エピック』では、コンティニュー課金と共にガチャ課金が導入ずみです。アイテム課金は2000年ごろに韓国で発明され、2005年ごろに日本、2010年頃にアメリカでブレイクしました。いずれも、それまで「絶対に流行らない」とされていたにもかかわらず、です。これまでガチャ課金は日本企業が何度もトライしつつ、駆逐されてきましたが、要は慣れの問題だと指摘。いよいよ普及期ではないかと指摘します。

もっとも、繰り返しになりますが海外市場への展開はその地域のコンテキストをおさえることが重要となります。さまざまな面で違いすぎる日本とフィンランドのゲーム産業ですが、指針の一つにして欲しいと締めくくりました。
《小野憲史》
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