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【CEDEC 2012】新清士氏が語る世界のゲーム市場の現状と日本の進むべき道

ゲームジャーナリストの新清士氏がCEDEC 2012のインタラクティブセッションで、米国シアトルで開催されたCasual Connect Seattleの視察を基にした「北米・カジュアルゲーム市場の最前線報告」と題したセッションを行いました。

ゲームビジネス 市場
ゲームジャーナリスト/IGDA日本副代表の新清士氏
  • ゲームジャーナリスト/IGDA日本副代表の新清士氏
ゲームジャーナリストの新清士氏がCEDEC 2012のインタラクティブセッションで、米国シアトルで開催されたCasual Connect Seattleの視察を基にした「北米・カジュアルゲーム市場の最前線報告」と題したセッションを行いました。視察および発表はゲーム産業の誘致に力を入れる福岡市の支援で行われたものです。

インタラクティブセッションという性質上、セッションは限られたスペースで講師が立ち、聴衆が周りを囲むというような形で行われましたが、新氏のセッションは各回とも非常に多くの参加者を集めていました。新氏が視察で得られた最新情報や様々なデータを元にゲーム市場の現状について約1時間、ひたすら有益な情報が飛び出す息を付けない時間となりました。

■家庭用ゲーム機はニッチに、プラットフォーム多様化の時代

まず最初に新氏が述べたのは家庭用ゲーム機が急速にニッチ化しているという事です。その一つの現れとして挙げられたのは流通です。GameStop、EBGames、GAMEといったゲーム専門店チェーンは近年、新品だけでは厳しく、中古ソフトを拡大することで収益を確保してきましたが、家庭用ゲーム市場の縮小で、それも叶わない状態になっていると言います。新氏が訪れたオーストラリアでシドニーの中心街にあるEBGamesに入ると店中に「Sale」の大文字があったと言います。流通各社は売上の減少に苦しんでいて、デジタルに活路を見出そうとパッケージの在庫を減らそうとしています。

家庭用ゲーム機に変わってゲームショップで見受けられるようになったのはスマートフォンやタブレット端末です。特に米国ではスマートフォンが子供向けにも拡大していて、携帯ゲーム機の市場を食っているそうです。新氏はその理由について「防犯上の不安がある米国ではGPS機能を有したスマートフォンが親にとってコストの安い選択肢になっているのです」と説明しました。

スマートフォンでは日本メーカー各社の海外進出が盛んになっていますが、それを先導するグリー/ディー・エヌ・エーの存在感は確実に高まっていると言います。ただし、実績を伴うものではなく「iOSやAndroidというストアの整備されたプラットフォームの上に更にプラットフォームを重ねる必要性については懐疑的な声が多く、プラットフォームではなくパブリッシャーとして展開していくことになるのでは」という声が多いようです。

盤石と見られたフェイスブックがモバイルへの対応に躓き成長が鈍化している点や、歩調を合わせてジンガが苦戦している点もトピックとして挙げられました(フェイスブックの新たなiOSアプリが状況を変える可能性もありそうですが)。フェイスブックで100万DAU(日間アクティブユーザー)を記録しているアプリは130タイトルで、これは昨年の同時期と比べて僅か5タイトルの増加で、成長はほぼ止まっています。しかもユーザーの大きな割合を途上国が占めていることから収益性は低く、これがジンガを苦しめています。

■日本勢のリードは大きいが日本市場に未来はない

未だ成功への方程式が見えない新しい市場ですが日本勢のリードは小さくないと新氏は言います。規模もARPUも高い日本市場を拠点としているのは大きなメリットです。ただし、スマートフォンでも開発コストは確実に増加していて、広告費も上昇しています。賭け金は上がる一方です。新氏は「米国で成功するためには500~1000万ドル程度は広告に投じる必要がある」と指摘。サイバーエージェントの『神撃のバハムート』のような成功と見做されるタイトルも、「多額の広告費によってもたらされたもので赤字ではないか」と述べていました。

カードゲームというジャンルは『神撃のバハムート』やグリーの『Zombie Jombie』で日本勢が挑んでいますが「まだ広く受け入れられてはいない」とのこと。ただ、日本で大成功を収めているジャンルということで世界中の企業が研究している段階とのことで、何かしらの受け入れられる方法というのは考えられる可能性があります。ここでも日本勢のリードは大きく、新氏は「彼らはカードゲームといったら『マジック・ザ・ギャザリング』。日本のリードはそう長くは続かないが現状では優位な位置」と述べました。

有望視されるジャンルとしては話題が多くなっているカジノの要素を備えたゲームもあります。米国では司法省がオンラインカジノを認める方向で議論を進めており、英国など合法化されている国もあります。ジンガの根強い人気タイトルに『Zynga Poker』や『Zynga Bingo』がありますが、これに本当のお金を賭ける要素が加われば収益は爆発的に増えると考えられ、実際にジンガはその方向で考えているようです。日本勢の動きはまだですが、リアルマネーを使ったゲームというのは可能性が大きそうです。

また、ソーシャルゲームで必須とされるデータ分析やそれに基づく改善のプロセスについては日本勢は海外勢を上回る能力を得ているとのこと。「海外市場への展開のためにはとにかく経験を重ねることが重要で、カナダやオーストラリアでテストマーケティングをして、英語圏で本格的に投入するというのを、もっともっと賭け金が上がる前に何回繰り返せるかが勝負を分ける」と新氏は述べていました。

一方で課題として挙げられるのはマネジメント能力で、家庭用ゲームでも海外で成功したのは「任天堂やソニーくらい。ディー・エヌ・エーはngmocoで失敗し、グリーは大きく投資しているが心配点もある」とのことでした。


新氏が最後に強調したのは日本開発&海外展開の優位性です。「これ以上日本市場に伸びしろがないのは明白です。人口が減る国で成長は望めません。しかし世界に目を向ければ市場は確実に成長していきます。歴史的な円高ですが、馬鹿高くて引き抜き合戦をやってるシリコンバレーよりは日本人の人件費の方が安いという優位性もあります」とコメント。そして「福岡ならもっと安く開発できる」という宣伝も忘れませんでした。
《土本学》
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