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【TGS 2014】木村祥朗が挑むインディー『Million Onion Hotel』とその先

東京ゲームショウ2014のインディーゲームコーナーに出展していたOnion Gamesの『Million Onion Hotel』は、木村祥朗氏,倉島一幸氏,谷口博史氏ら往年の名作『moon』を作ったメンバーが結集して作るiOS向けゲームです。

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【TGS 2014】木村祥朗が挑むインディー『Million Onion Hotel』とその先
  • 【TGS 2014】木村祥朗が挑むインディー『Million Onion Hotel』とその先
東京ゲームショウ2014のインディーゲームコーナーに出展していたOnion Gamesの『Million Onion Hotel』は、木村祥朗氏,倉島一幸氏,谷口博史氏ら往年の名作『moon』を作ったメンバーが結集して作るiOS向けゲームです。開発をリードする木村祥朗氏にゲームショウ二日目にお話を伺いました。



■盛り上がるインディーゲーム

―――インディーブース、盛り上がってますね

そうだねぇ。ビジネスデーなのに、こんなに人が集まってくれるのは幸せなことだよね。『Million Onion Hotel』にもひっきりなしに遊びに来てくれて嬉しいね。


大盛況のブースにて


―――配られていたチラシに書かれている「のぞきみクラブ」って?

インディーゲームが発売されても誰も気付いてくれないじゃないですか。ちょっと関心を持ってる人にも届かなかったりする。気に入った人は、ちゃんとお知らせ届けるから登録しといてくださいね、というのが「のぞきみクラブ」。いまなら描き下ろしのスマホ壁紙をゲットできます。これは「恐怖の研究室」という鍵穴の向こうを覗く、ゲームの物語にも関係する内容なので、ぜひ! 100人くらい登録してくれると嬉しいなあ。

―――いや、もっと目指しましょうよ

うん。でもさ、1000人にチラシを配ってもさ、実際に登録してくれるのは何パーセントかじゃん。その場では登録します! って言ってくれてもなかなか難しいわけよ。とりあえず好きな人に登録してもらえればいいかなあ、って。あ、でも記事ではアピールしといてね(笑)。

編注: 登録は http://oniongames.jp/milliononionhotel/club/ から。今なら物語を鍵穴から覗ける壁紙がゲットできるほか、発売に向けて何度かメールが届くそうです。「壁紙がスマホ用なので、できたらスマホで登録してくれるといいなぁ~」とのこと。

―――メールが楽しみですね

発売に向けて何度か、ね。発売が延びちゃったら、謝りながら何度も送ることになっちゃうかも(笑)。有限実行って大変。いま、Kickstarterでお金を集めてゲームを作るのが流行ってるけど、ああいうのは自分には無理だなあ、怖くて怖くて。

―――なかなか完成できないプロジェクトも増えてるみたいですね

悲しいよね。でも、本当に作るって大変だから。誰かが悪いわけじゃなくて、みんな頑張ってると思うんだよね。本当は僕もKickstarterやりたいし。

―――そうなんですか?

うん。もし7、8千万とかお金が集まったら、『チューリップ2』とか作れるかもしれないし。本当はアドベンチャーゲームが作りたいんだよね。でも、それをやるにはもうちょっと地力を付けないとできない。地力とはお金のことです(笑)。

―――なるほど(笑)。『Million Onion Hotel』で稼いで地力を付ける必要がありますね。開発は順調なんですか?

順調かそうでないかで言えば、そんなに真っ直ぐじゃなくて、戻ったりもしてる。ビットサミットで人に見せたことで分かったことがあって、「あぁこういう風に気づかないんだ」「疲れるんだ」とか遊び勝手など色々な所を改善してます。

■木村祥朗が伝えたい物語

―――ビットサミットで、もう完成度が高いのかと感じたのですが

それは色んな人に言われて、「完成してんだから早く売ればいいじゃん」って。でもビットサミットはショウだからショウ用に出来てる所だけ見せてるから完成しているように見えただけであって、穴はいっぱいあるんだよね。今の時点でもまだそうだし。

―――具体的に良くしていった部分ってどういうところですか?

例えば、列を揃えていくパズルゲームだ、というのを説明しなくても分かるようにデザインしていく、みたいなことかな。それからもっと大事なのは物語を伝えること。

ビットサミットで『Million Onion Hotel』を"ポエム"と言ったの。みんなこれは「パズルゲームですか?」って聞くから。本当にやりたいことは物語を伝えること。だから世界観がある。それを伝えたいのが本筋。でもビットサミットのバージョンは完成してないからパズルにしか見えない。だから「これはポエムなの」と口で説明しなくちゃいけなかった。

―――その時点ではパズルとして面白いゲーム、でしかなかった?

そう。パズルとして面白いのは前提としてとても大事。でも物語も大事。「ゲームに物語は必要か?」という議論があるけど、自分の中では結論が出ていて、必ず必要。でも、"ゲームに"じゃなくて、"僕のゲームに"。世の中の人が作る物語とは違う、僕の物語を表現したいからゲームを作ってる。ゲームしか作れないから・・・。

このビジュアル、パズルっぽくないでしょ? 実際に完成したゲームを遊んで貰えれば、このチラシの意味が分かると思う。

―――パズルで物語を伝えるのは大変そうです

『キャンディクラッシュ』でさえ、レベルが進めば何かが起こるじゃない? だから伝える事は出来るんだよね。でも世の中のカジュアルゲームは何も言おうとはしてない。それは勿体無いなあ、何かを言えばいいのに、というのが自分の気持ちだよね。

ステージをクリアしたら褒めてくれて、レベルアップすると褒めてくれて、ゲーム上手いね、凄いね、と。そんなに褒める必要あるかな? もちろん僕のゲームにもそういう要素はあるし、遊んでいて気持ちいいように作ってる。でも気持よくなるだけが人間なのか、ってこと。

―――木村さんの描く物語には根底に流れるものがあるのでしょうか

うっすら、あるみたい。『RULE of ROSE』みたいに変態みたいなマニアックなオカルトな話でも、『チューリップ』みたいなアホで天才バカボンみたいな奴らが出てくる物語でも何か一貫するところがあって。僕は異端が好き。変わった人っているじゃない? ちょっとおかしな人。そういう人が好きで、ノーマルとアブノーマルがあるとき、アブノーマルを許容したい、好きだという気持ちがあるんでしょうね。

―――それは・・・

それは自分も変わってるから(笑)。昔は「木村さんっておかしいですよね」と言われると「普通です」って返してたの。普通です、って言っておかないと、ゲーム作ったり、世の中で生きていけない気がしたから。でも、違和感を持った人が、そのまま生きていけるといいじゃない? という気持ちがあって、それが物語にも出てたのかな。

最近はちょっとおかしな人と思われても仕方ないかな、と思えるようになって、おかしな人 7割 くらいの気持ちでゲームを作ってます(笑)。

―――ゲームに出てくるキャラクターには自身を投影するところもあるのでしょうか?

・・・ある。昔は無いと言ってたけど、残念ながらある(笑)。昔なら、「『チューリップ』に登場する人たちはご自身を投影してるんですか?」と聞かれて、「いや、違います。知り合いです」って答えてたんだけど(笑)。最近は知り合いじゃなくて、全部自分だなと。『Million Onion Hotel』のマッドサイエンティストな博士もそう。

―――アブノーマルを許容したいと木村さんが考えるように、周りからも許容されるているような

自分って友達がいなくて、仲間は、昼のゲームを作ってる人と、夜のゲームを作ってる人(本作)、それから「ポリポリクラブ」と「インディーゲーム遊び隊」、だけ。こういう人たちは僕が変人であることを許容してくれるというか、そうでなくなったら飽きてしまうと思う(笑)。

―――綺麗過ぎるかもしれませんが、人と違うのが価値、みたいな

良く言えばね。そう思いたいんですけど、そこホントに微妙。みんなには望まれてないけど、身近な人にはアリって言われてるからアリ。でもその人達に「木村さんやっぱり変だよ」って言われたら荷物まとめて田舎に帰ります。そのくらい微妙。

―――揺れ動く気持ちが

全然揺れ動く。自信ないもん。『Million Onion Hotel』も自身満々みたいにインタビューで喋るけど自信ないもん。これがKickstarterができない理由かな。俺たち凄いって言わなきゃいけない。そんな自信ないもん。無理。

―――日本人的ですね

そう、すごくジャパニーズ。割りと出たがりで、喋りたがりに見られるけど、その実シャイボーイだから。セクハラするシャイボーイ。「インディーゲーム遊び隊」って知ってる? インディーゲームを遊ばなさそうな女の子を捕まえて、ゲームを遊ばせる。今はこれがとっても楽しい(笑)。

―――インディーゲーム大好きなんですね。どうですか、周りに出展されているタイトルを見て

みんな凄いよね。内容的にも技術的にも、みんな自信ある。嫉妬してしまうから余り見ないようにしてる。「センス・オブ・ワンダーナイト」に出品しているようなゲームは本当に凄い。僕のゲームもワンダーだと思うんだけど、彼らのワンダーさには敵わない。やってみたいけど、応募できなかった。東京ゲームショウに応募するのも悩んだね。こんなに沢山の中に入っていって遊んでくれる人はいるのかって。でも知り合いに「東京の人はまだ誰もゲームを見てないんだから」と言われて締め切りの日に書いたくらい。

■年内に発売します

―――開発は順調でしょうか?

ゲームが完成しなくてジリジリいくことってあるでしょ? その可能性はゼロじゃない。なんか上手くいかないな、ちょっと変えたいな、そういう少しのことでスケジュールずれちゃう。みんな昼間もゲームを作って、夜に『Million Onion Hotel』を作ってるから。

でも、みんなテンションは仕事でゲームを作るのと同じ。昼間に別のゲームを作っていても、夕方にミーティングだと言えば必ず集まるし、エンジニアとは土曜日の朝にミーティングをすると決めてる。デザイナーもエンジニアの進捗に合わせてドット絵を描いてくれる。仕事としてゲームを作るのと同じように、自分のやりたい事が形になっていく感覚はある。ただ時間が限られるから、3ヶ月で普通の1ヶ月くらいの進み具合。亀の進みだけど、必ず前には進んでる。

―――手弁当で集まって結局、完成せず。というのはよくありそうな話ですが、上手くいく秘訣はなんでしょうか?

その話はよくあるよね。でも結局、最初に集まった人がポイントだと思うよ。目標に向かって、どんな苦難にも立ち向かっていける人、そういう人たちで集まれば何とかなる。ビットサミットに出展しようと思えば、ある程度の段階まで完成させないとショウには出せない。毎晩睡眠時間が減っていく。でもディレクターのテンションについていって何とか乗り越えてくれる。だからスタッフィングの段階で未来は決まってる。挽回は無い気がする。仲間さまさまです。ホント。

―――リリースはいつくらいになりそうですか?

去年遊びにいって、大好きになった「デジゲー博」(11月16日開催)のときにはダウンロードできる状態にしたいという野望があります。そのつもりで作れば年内は固いと思うので(笑)。年内は確定です。

―――ありがとうございます。最後に『Million Onion Hotel』の目指す目標を教えていただけますか?

まず自分個人の目標としては、自分自信の頭がおかしなところを再発見すること。

チームの目標はこのゲームを出すことによって、次のもう一本を作れるくらいに売れること。よく言うのは大儲けは必要ない、と。でも、チームが次にチャレンジできるくらいには儲けないといけない。他のプラットフォームに移植するような話も考えたいけど、それは次の話。まずはiOS版でみんなが喜んで貰えるものに完成させられるか、それが勝負です。

―――ありがとうございました

インディーゲームコーナーの熱気の中、ビットサミット以来でお話を聞くことができました。幾つもの名作を生み出してきた名クリエイターでありながら、インタビュー中でも何度も「自信がない」と繰り返す人間味が筆者はとても好きです。

既にこちらの記事でもレポートした『Million Onion Hotel』は、一口飲むたけで幸せになれる不思議な「マジックオニオンスープ」を出す、奇妙なホテルを巡る物語を楽しめるアクションパズル。爽快感あるパズルと、木村氏が自信を投影しているというおかしな人達を描いた物語。年末発売が楽しみです。
《土本学》
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