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【GDC 2013】『善人シボウデス』打越鋼太郎氏が語る「違和感からインスピレーションを得よ」

ゲームビジネス その他

打越鋼太郎氏
  • 打越鋼太郎氏
  • 言われてみればそうでした
  • 哲学的!
  • フラグが(脳内に)立ったからだ!
  • 打越流作話術
  • 例えば電子書籍の究極進化などでしょうか
『Ever 17』を筆頭とする「infinityシリーズ」や、『極限脱出 9時間9人9の扉』・『極限脱出ADV 善人シボウデス』(海外名『Zero Escape: Virtue's Last Reward』(VLR))など、独自の世界を構築することに定評のある打越鋼太郎氏がGDCの壇上に立ちました。テーマは「サウンドノベルのシナリオデザイン」。

まず打越氏はGDCのBest Narrative(物語)部門を『The Walking Dead』が受賞したことに言及。会場からの拍手に対し、『The Walking Dead』が素晴らしい作品であり、負けても悔いはないかなと素直に称賛しました。しかし「本来ならばここには『善人シボウデス』が載っているはずだったのだが」とジョークを飛ばす一幕も。

GDCアワードの中で打越氏が注目したのは『Journey』『The Walking Dead』『The Room』の3つ。『Journey』は6部門受賞、『The Room』はモバイル部門で、『The Walking Dead』はナラティブ部門での受賞です。

これら3作の共通点はアドベンチャーゲームであることと打越氏は語ります。2012年はアドベンチャーゲームの面白さが再確認された年であり、今アドベンチャーゲームには勢いがあるとしました。

一口にアドベンチャーゲームといっても定義は曖昧です。しかし、狭義にとったとしてもビジュアルノベル・サウンドノベルがアドベンチャーであることにあまり異論は出ないでしょう。打越氏による『善人シボウデス』もそうした作品の1つ。本作にはパズル要素がふんだんに盛り込まれているため、狭義にはアドベンチャーと呼べないかもしれないが広義には含まれるとした上で、打越氏は「ビジュアルノベルとは何か?」とそもそも論を投げかけてきました。

その答は、「明確な定義は存在しない」。いきなり身も蓋もありませんが、経験のあるゲーマーなら納得できることでしょう。打越氏は音や、絵ですらもビジュアルノベルには本質的には不要だとします。具体例としては故・飯野賢治氏による1997年『リアルサウンド 風のリグレット』。

それでは、絵・音・活字を取り払った先に残るビジュアルノベルの本質とは何か?について打越氏は「ナラティブとビデオゲーム」の2要素を含みつつ、かつ「ナラティブの比重が高い」ことだと定義しました。物語性が高いというだけならば映画やアニメ、漫画、小説などすべてが該当しますが、そこにビデオゲームの要素が含まれることによりビジュアルノベルになるとのこと。

こうした定義論について、打越氏はスポーツを例に挙げます。フットボールは野球は当然スポーツだとした上で、ではダーツ・ビリヤード・カーレース・釣りなど微妙なラインのものも列記し、これらをすべてスポーツとしました。理由は「全て運動神経を要するから」。自説の投げ合いがちになりそうな論争において、明確な線引をする打越氏のスタンスが垣間見えました。

ではビジュアルゲームはゲームなのか?という問について答えはイエス。ここで、ゲームの定義を「選択性のあるもの」、より正確には「誰かの意思によって展開を変化させられるもの」としました。ナラティブに乏しく純ゲームに近い例として『テトリス』を挙げています。ついでに、人生もゲームであり、「今日ここに僕のセッションを聞きに来たみなさんは正しい選択をしている」と左フックを撃ってきました。

そして、その選択性に特化した、プリミティブな裸のゲームがビジュアルノベルだとしました。映画やアニメ、漫画、小説へは観賞者がが介入できないのに対し、ビジュアルノベルには選択肢があり、それこそが最大の強みであると述べています。

ビジュアルノベルがガラパゴスのゾウガメのごとく日本国内で自然淘汰を繰り返して発展してきたとして表現し、2009年の『シュタインズ・ゲート』や2010年の『ダンガンロンパ』などを秀逸な作品としてピックアップ。ではそれらのルーツはどこかというと、1994年にSFCで発売された名作『かまいたちの夜』にあるとしました。

打越氏いわく、『かまいたちの夜』の最大の特徴は「フラグを使っていない」点。ここでフラグについて、「上司の愛人に手を出してフラグを立てれば会社をクビになる」とブラックジョークを混じえてフラグの概念について説明しました。では、フラグを使わない『かまいたちの夜』はいかに整合性を保ったままものが分岐させたかというと、「プレイヤーの脳内にフラグを埋め込んだ」から。

すでにプレイ済みの方ならばお分かりいただけるでしょうが、『かまいたちの夜』は犯人の名前さえ知っていれば速攻でしょっ引くことができます。必ずしも他の後味悪いバッドエンドを観る必要はありません。これが斬新だったのですが、さらに打越氏は初期のアドベンチャーゲームのほとんどが類似した仕様だったにもかかわらず、快適性を重視したためコンピューター任せのフラグを多用したデザインが主流となったと指摘。なればこそ、『かまいたちの夜』が異質かつ新しく見える、いわば温故知新であるのだと分析しました。そして、『善人シボウデス』もまたその手法を参考にしたことあきらかにしています。

さて、概念的な話題や歴史の話が続いたところでようやく本題へ(本セッションのタイトルは"Visual Novels: Narrative Design in Virtue's Last Reward"、「『善人シボウデス』にみるビジュアルノベル物語デザイン」)。

打越氏の作話術の秘奥は、「違和感」にあるとしました。ゲームデザインやナラティブの取っ掛かりを違和感に求めており、そこにインスピレーションを得てからスタートするとのことです。例示されたのは再び『かまいたちの夜』。言い当てられるはずのない犯人を言い当てる主人公に違和感を感じ、『善人シボウデス』のフローが生まれたとしまいした。

『9時間9人9の扉』や『善人シボウデス』には違和感からインスピレーションが得た要素が沢山あるそうです。ここで興味深かったのが、「サードパーソンビューでなぜ自分が見えているのか」という違和感について。ゲームにどう影響を与えたかはさておき、素晴らしく鋭い着眼点です。かつて三人称視点であることの理由付けを明確化した有名所のタイトルとしては、記者は『スーパーマリオ64』くらいしか即座には思い浮かびませんでした(ゲーム冒頭で"ジュゲム"がカメラマンになっていることが明示される)。

しかし、そうした違和感を覚えること、お約束や常識を疑うことが大事で叙述トリックのネタになるとした上で、「非現実的だからおかしい」という批判がナンセンスであるともしました。打越氏の発言を引用すると、

「ゲームに過度なリアリティを求めるべきではありません。本当にリアリティなリアルは現実にしか存在しないからです。そしてそれはレベルデザインの壊れたバグだらけの世界です。そう思うでしょう?こんな不条理に満ちたものをゲームに再現してどこが面白いというのですか。ゲームは架空だからこそ面白いのです。」

ここでは会場から辛い笑い。ともかく、ゲーム的なリアリティが面白いのであって、リアルのが面白いのではなく、ゲームの文法に則ったリアリティを求めるべきだとしました。

セッションの最後には、冒頭に挙げたノミネート作品3作がすべてアドベンチャーゲームであり、かついずれもが配信形式によりリリースされているという共通点を指摘。この2つの事実から、アドベンチャーゲームがスマートフォンに適したジャンルであり、映画や漫画、小説に続く表現手法になるとしました。そして、一人のアドベンチャーゲームファンとして、優れた作品が次々とリリースされていくであろう未来において、自らの発言が何かしら意義があったのならばそれ以上の喜びはないとして締めくくりました。

質疑応答で面白かったのは『ひぐらしのなく頃に』を引き合いに同人ゲームの白熱ぶりについて英語で質問した女性に対し、インディー作品が商業的にプロ化していくこともありえるし、自前で製作して配信することもできる土壌が整いつつもあるとしました。その上で、ビジュアルノベルに限らず他のすべてのジャンルにおいて同人ならびに個人が伸びていく可能性があると思うと述べています。

打越鋼太郎氏といえば、知る人ぞ知る(そして好みの分かれうる)シナリオライター。そうした人物がGDCの壇上に立ち、かつゲームの定義や自らのノウハウを語ったことそのものが非常に有意義です。興味を持った方は、『善人シボウデス』に限らず、なるべくネタバレを食らわないように情報を遮断しつつプレイすることをお勧めします。
《Gokubuto.S》

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