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【GDC 2013】ソーシャルゲームで成功する続編とは・・・『ファームビレ2』ポストモーテム

苦戦が続いている米ソーシャルゲーム大手のジンガ。数少ない光明が1億ユーザーを数えた農場ゲーム『FarmVille』の続編である『FarmVille 2』がある程度の成功を収めていることです。本作についてジンガのWright Bagwell氏とMike McCarthy氏が振り返りました。

ゲームビジネス その他
FarmVille 2のポストモーテム
  • FarmVille 2のポストモーテム
  • ゲーム画面
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  • ゲーム画面
  • 伝統的な続編の考え方との違い
  • 前作のデータを収集
  • 農場関係者にインタビューも
  • そして農場の楽しさを分解
苦戦が続いている米ソーシャルゲーム大手のジンガ。数少ない光明が1億ユーザーを数えた農場ゲーム『FarmVille』の続編である『FarmVille 2』がある程度の成功を収めていることです。本作についてジンガのWright Bagwell氏とMike McCarthy氏が振り返りました。

『ラグナロクオンライン2』『ファイナルファンタジー14』など運営型オンラインゲームの続編には困難な歴史があります。ジンガにおいても都市開発シミュレーションゲームの『CityVille 2』は先日サービスを終了しました。人気を集め、定着したユーザーが多ければ多いほど、その続編には高い期待がもたらされユーザーの目が厳しいだけでなく、コミュニティがリセットされてしまう危惧から前作のファンからは敵対視されるケースも出てきます。1億人のユーザーを数えた『FarmVille』でも状況は同じだったはずです。ではどのようにして成功を収めるに至ったのかというのが本講演の趣旨です。

『FarmVille 2』の特徴は、単に作物を植えるだけではなく牧場生活の全般を楽しめるようになったほか、周辺の土地を開拓していく要素も追加。技術的には3Dグラフィックを採用し、前作以上に活き活きとした世界を楽しめるようになりました。

まず説明されたのはソーシャルゲームにおける続編とはどのようなものであるべきかという考え方です。Bagwell氏は「伝統的な続編のスタイルと異なり、続編は前作を置き換えるものではなく、前作の精神を引き継いだ新作になるべき」と指摘。『FarmVille 2』がリリースされても、『FarmVille』の運営は継続されるため、前作で満足している人は継続して遊べばいいわけです。続編は前作の精神を受け継ぎながらも、バージョンアップ版という位置付けではなく、新しい農場ゲームへの挑戦なのです。

ゲームデザインも前作をベースにするのではなく、ゼロから思考を巡らせていきます。本作のチームは、実際に農業に従事する人にインタビューを実施し、農業の楽しさを分解していき、その感覚を楽しめるゲームのデザインに挑戦していったそうです。McCarthy氏は「要素は少なすぎても多すぎてもいけない」と述べ、3~5個が打倒ではないかとしました。当初まとめられた要素は5つで、「活き活きとした農場」「農業のエコシステムを表現」「全てが成長していく」「プレイヤーはコミュニティの一部となる」「自分だけの農場を作れる」でした。ただし、これらの要素を包括する大テーマとして「リラックスできる」「創造と自然」「友達と一緒に」という3つがあります。

ここから各要素については更に掘り下げて精査。その結果、「全てが成長していく」「自分だけの農場を作れる」は省かれることになります。全ての要素(例えば生えてる木)が成長していくというのは一見、面白いように見えますが、結果として全ての要素が極限まで成長すると単調な画面となってしまいます。「自分だけの農場を作れる」というのはプレイヤーの創造性を刺激しますが、『FarmVille』のユーザー(62%が女性で、20~45歳が中心、初めてゲームを体験したという人が多数)には複雑になってしまう恐れがありました。

チームでは3つの要素と3つの大テーマを1枚のシート(Design Cheat Sheetと呼んでいたそう)にしてチームの全員に共有。各人がブレることなくゲームの方向性を理解した上で開発を進めていったとのこと。

3Dグラフィックの採用については賛否があったようですが、「5年後に通じるものを作る」という考えで採用が決まり、「活き活きとした農場」の中核を担う要素となっています。また、前作のデータで「高いフレームレートで遊んでいる(最低スペックのPCではない)ユーザーが売上の80%を占める」というものがあり、ある程度の要求スペックの向上も容認されたようです。そもそも全くの新作として開発されている(コードも全てスクラッチ)ということも、後押ししたかもしれません。3Dになったことで、キャラクターや世界がより活き活きとしたものとなりました。

本作のエコシステムは水を使って作物を育てて、動物が作物を食べて育ち、動物から何かしらの副産物を得る、といったものです。前作の単に作物や動物を育てて換金するというシンプルなものから多少複雑になりますが、深い農場体験になります。エコシステムといっても、流れは誰もが想像力を働かせれば自然に理解できるものです。(これが謎の宇宙人を育てるゲームにおけるエコシステムだったらみんな苦労するだろうとのジョークあり)

ゲームの根幹が出来たら磨き上げていく必要があります。『FarmVille 2』(あるいはジンガのゲーム全般に通じそうですが)の挑戦の難しさは、「カジュアルなゲームだから誰でも始められる、でもディープな体験ができるから継続して遊ばれる」という一見矛盾しそうな2つのテーマを両立する必要がある点です。講演では一例として、片手(マウス)だけで全ての操作が完結する設計や、放置することがゲームプレイの一部となっている点、心地良い音楽のリズムにこだわったという点などが紹介されました。

こうしたリリースされた『FarmVille 2』は前作の要素に満足しなかったユーザーに、より深い農場体験を提供することに成功し、異なるユーザー層で人気を集めることに成功しているようです。シンプルなものを求めるユーザーは前作を引き続き遊べば良いという割り切りが良かったようですね。ちなみにAppDataによれば現在、『FarmVille 2』は約4800万人、『FarmVille』は1300万人が毎月遊んでいるようです。
《土本学》
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