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【PS Vitaゲームカンファレンス】コンシューマ初挑戦となった「ニコニコ動画」の挑戦

ゲームビジネス 開発

PS Vitaのローンタイトルの中でも、ひときわ異彩をはなったのが『ニコニコ』。ご存じ動画をネタにコメントをつけあう、ニコニコ動画の動画視聴サービスを楽しむための無料クライアントアプリです。

開発を担当したのは、これまでゲーム機での開発経験が皆無だったドワンゴの内製チーム。同社ニコニコ事業本部CE事業部の齋藤寛明氏は「Playstation Vita × ニコニコ動画」という講演で、その苦労を語りました。

これまでもPCブラウザに加えて、ガラケーやスマホなどのマルチデバイス化を進めてきたニコニコ動画。齋藤氏はVitaの高解像度有機ELや3G回線対応、タッチスクリーンによる直感的な操作は、ニコニコ動画と高い親和性を有すると評価します。また人気コンテンツながら、現在はグレーゾーン的な位置づけもある「ゲーム実況」に対して、メーカー公認サービスに発展する可能性を感じたことも、参入理由の一つとなったと語りました。

ニコニコ事業本部 CE事業部、齊藤寛明氏


■アプリとウェブサービスをつなぐための工夫
『ニコニコ』の開発期間は約3ヶ月(調査期間も含めると半年)。通常のゲームアプリと比べて、かなり短期間のプロジェクトとなっています。もっとも、すんなりと開発が進んだわけではありません。齋藤氏は大きく▽インフラ周り▽ユーザー・インターフェース(UI)デザイン▽コーデック(動画・音声圧縮に関する「決めごと」)対応――の3種類に分けて開発を振り返りました。

大前提としてニコニコ動画を楽しむには、はじめにブラウザ上でアカウント認証を行う必要があります。しかしPCや携帯電話ではなく、ゲーム機のアプリ上からウェブの独自サービスにアクセスして良いのか、という疑問が発生します。齋藤氏も「プレイステーション・ネットワーク(PSN)を介さないウェブサービスへの直接ログインは規約上NGとなっている」と説明。適切なPSN連携対応を取る必要があると解説します。

そこで『ニコニコ』では、最初にアプリからPSNサーバにアクセスし、そこで取得したIDとニコ動アカウントを紐づけるような仕組みの構築が行われました。しかし、ユーザーにとっては二重にログインするように見えてしまうので、ここの導線やサポート対応をいかに簡素化するかが重要だと指摘しました。またタイトル内で独自サービスのIDを利用することは、規約上で規制されていることも紹介。『ニコニコ』ではSCEと協議の上で、独自IDの表示が可能になったと説明されました。

続いての問題がUIデザインです。これまでドワンゴではガラケーやスマホ向けに縦画面UIの開発経験はありましたが、Vitaのような横画面UIの経験はありませんでした。しかもVitaのSDKにUIコンポーネントなどの「お手軽」な手段は皆無。その一方で「快適で便利でかっこよくて、拡張できて汎用性が高いUIを作りたい!」などと、夢は膨らみ志は高く天に舞い上がります。その結果、まずは「かっこいいロゴ」を製作。その上で社内の英知を結集し、UIコンポーネントのフルスクラッチが行われました。

Vitaライクなルック&フィールや、タッチ操作への対応などもさることながら、内部的な特徴として説明されたのが、全ての部品をViewとして表現した、独自のUIコンポーネントです。各々のViewは親子関係を持つことができ、子Viewは親Viewの領域でクリッピングされる仕組みを実装。これによりネットワークからデータを取得し、動的に構築できるUI構成に対応したといいます。

またポイントとなったのが大量のコメントを、いかにリアルタイムかつ滑らかに描画するかという点でした。なにしろ個々のコメントはユーザーが勝手に入力するモノなので、あらゆる文字を事前にラスタライズ(コンピュータで表示できるようにピクセルの集合で表現すること)して、用意しておくことは不可能です。試しに1コメントを1つの板ポリゴンに貼り付けて描画させてみたところ、実行速度が非常に遅く、メモリも圧倒的に不足。そこで独自のフォントキャッシュ機構を開発して、事態を乗り切りました。

具体的には指定メモリ内で自由なサイズのフォントをキャッシュ化するというもので、サイズを無段階で格納できるツリー構造を実現させています。これによって同じ文字が出てきたらキャッシュを参照するだけで表示が可能になりました。またコメントの特徴として「いいね!」「WWW」など同じ文字が多く使われる例が多いことも、表示の高速化をはかるうえで、思わぬ恩恵となりました。

■ニコニコ生放送にはコーデック変換で対応
最後の問題が動画コーデックへの対応でした。もともとVitaは携帯ゲーム機としては十分な動画再生スペックがあり、動画プレイヤーも専用のVideo Player Libraryが用意されています。動画ファイルを再生するだけなら話は簡単で、ネット上からのストリーミング再生も問題ありません。ニコニコ動画の動画投稿制限にあわせて、動画データ用に100MBのメモリも用意されたほどです。

しかし、投稿動画のエンコード形式が多彩で、中にはVitaで再生できない動画形式も数多く含まれている点が課題となりました。このうちYoutubeなどで多く使われているflvファイルについては、今後ニコニコ動画のサーバ側で変換対応が行われる予定です。また動画形式の問題でシーク操作ができないファイルについては、再生前に動画を解析し、変換処理を行うことで対応しました。それでも、すべての動画再生に対応できてはいないのが現状だと言います。

「動画が正しく再生できない場合は、Vita標準搭載の『ビデオ』と、SDKに同梱のサンプルプレイヤーで再現確認してみましょう。動画のプロファイルやレベル、フォーマットがVitaのデコード仕様を満たしているかについても、確認してください。」(齋藤氏)。また大前提として、変わった使い方をする場合は、事前にSCEと相談するのがオススメだとしました。

エンコード形式と並んで問題となったのが、「ニコニコ生放送」時のストリーミングプロトコルと動画プレイヤーです。現在はPC/Android向けにはRTMP(Real Time Messaging Protocol)形式で配信し、Flash Playerで再生させています。iOS向けにはHLS(Http Live Streaming)形式で配信し、iOS搭載のプレイヤーで再生させています。しかし現在、VitaはFlashに対応していませんし、iOS向けプレイヤーも非搭載です。これをなんとかしなければ、生放送が受信できなくなってしまい、片手落ちとなります。

もっともiOS向けで実際に配信されているのは、MPEG-2 TS形式の動画ファイルです。そこでiOS内蔵プレイヤー以外の手段でMPEG-2 TSファイルが再生できれば、問題が解決します。そのためMPEG-2 TSファイルをVita SDKで再生できるように、AVC/AAC形式に変換するエンコーダが作成されました。手順としては「MPEG-2 TSをHLSで受信」「MPEG-2 TSをAVC/AACに変換」「AVC/AAC をSDKでデコードして再生」となります。これにより生放送の受信が達成されました。

最後に齋藤氏は今後の展望として▽生放送タイムシフト▽さらなるUIの改良▽生配信機能の追加--などを説明。その上で「公式ゲーム実況」を実現するためのSDK開発について検討していると語りました。これによりVitaならではの、まったく新しいソーシャルなゲーム体験が提供可能になるというわけです。SDKは今後ドワンゴより提供され、各ゲームタイトルに組み込むことで、公式ゲーム実況を実現させる予定だと説明し、講演がまとめられました。
《小野憲史》

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