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家庭用ゲーム企業との協業戦略をとるNHN Japanのチャレンジ

『ブラウザ カルネージハート』『プラネットフロンティア」』『シュヴァリエ サーガ タクティクス』と、矢継ぎ早にコンシューマゲーム系企業との協業タイトルを発表したNHN Japan。ゲームコミュニティ『ハンゲーム』を展開する、オンラインゲームの老舗パブリッシャーです。

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『ブラウザ カルネージハート』『プラネットフロンティア」』『シュヴァリエ サーガ タクティクス』と、矢継ぎ早にコンシューマゲーム系企業との協業タイトルを発表したNHN Japan。ゲームコミュニティ『ハンゲーム』を展開する、オンラインゲームの老舗パブリッシャーです。その狙いがどこにあるのか、プロジェクトの旗振り役で、本誌「エンタメ創世記」も連載中の黒川文雄氏と、開発を統括する及川信正氏、薬師寺健治氏に伺いしました。

■NHN Japanにオンラインゲーム開発の新部署が設立

―――自己紹介をお願いします。

及川: スタジオアートディンク様と共同開発中の『ブラウザ カルネージハート』の担当をしている及川信正です。アーケードゲーム出身で、当初はデザイナーでしたが、途中からコンシューマに移ってきて、企画になりました。その後オンラインゲームの開発に移り、弊社に入ってからはカジュアルゲームの運営を担当していました。今回、黒川のもとで新設された部署に編入されて、本作の開発プロデューサーです。

薬師寺: 同じくイメージエポック様と共同開発中の『シュヴァリエ サーガ タクティクス』を担当している薬師寺健治です。当初はコンシューマの開発でしたが、オンラインゲームの開発も手がけるようになり、いくつかの作品でディレクターを務めてきました。大手での開発を何本か経験し、弊社に移ってからは本作のプロデューサーを務めています。

プロジェクトを指揮する黒川氏
黒川: 本プロジェクトの統括をしている黒川文雄です。経歴は、最初は音楽関係の仕事をして、映像制作および映画配給を経験し、ちょうどセガサターンが発売されるタイミングで、セガに入社しました。当時のAM2研という部署で宣伝と、開発のサポートや宣伝を担当していました。業務用ゲームでゲーム内広告なども行いましたね。

その後、ご縁があってデジキューブに移り、『ファイナルファンタジー』シリーズの宣伝や、コンビニ向けの流通業務などで、7年間お世話になりました。それから起業して、オンラインカードゲーム『アルテイル』を製作し、当時としては珍しかったオンラインカードゲームを導入し、一定以上の成功を収めました。他にもカジュアルゲームを製作したり、劇場用映画も2本プロデュースしました。

その後、ブシロードに移って、副社長として2年間、リアルのカードゲームの生産、製造管理、オンラインゲームの開発管理、それからアジア進出の足がかりも作りました。その後、全方位でエンタメコンテンツを作られているコナミに入社し、これまでの仕事の集大成として、今年1月から弊社で働いています。

―――なぜまた、オンラインゲームに戻ってこられたのですか?

黒川: 自分がこれまで得た経験を、いろんな意味で、もう1度生かせるんじゃないかなと思ったんです。コナミ時代にオンライン系コンテンツとソーシャルゲームのマーケティングを任されたのが、このジャンルに戻ってくるきっかけになりました。ただ、コナミのキャリアが短期間だったので、それをさらに生かすにはどうするかと考えたときに、NHN Japanとのご縁があったんです。ちょうど時期的にも、PCゲームだけでなく、スマートフォンやタブレットなどのデバイスが普及しはじめていて、オンラインゲームで再び新時代が到来するという予感がありました。

また、これまで培ってきた家庭用ゲーム業界とのおつきあいが、弊社で再生できそうな気がしたんです。コンシューマ系ゲームの企業様はコンテンツの蓄積があって、ナレッジや企画力も素晴らしいですよね。それが『ハンゲーム』と結びつくことで、NHN Japanとしても新しいステージに進めるし、自分としても過去の経験が生かせるのではないかと。

―――入社時から本プロジェクトの担当になることが決まっていたんですか?

黒川: 漠然とそういう話はありましたが、一方で展開がうまく進んでいなかったり、仕掛っている案件もあると聞いていました。そんな「困難な」(苦笑・・・)プロジェクトでしたが、とはいえ、傍観者ではいられないので、自分から手を挙げて関わっています。実際に入社してみて、確かに停滞していた案件が多かったのも事実です。前任者から案件を引き継ぎつつ、問題点を洗い出して、1つずつクリアにしていく作業からはじめました。

―――NHN Japanとして動いていたのですか?

黒川: そうですね。2年くらい前から、コンシューマ系の主要メーカー様や開発会社様に、営業をしていたと聞いています。コンシューマ系のノウハウや企画をハンゲーム的に生かして、今までのハンゲームのファンとは異なるような、新しいお客様を増やすこと。そこから収益を生み出して、新しいコンテンツを作るという循環を生み出すこと。この2つがミッションです。それらを私が入る前から、NHN Japanとして企画して進めていました。

ただ、弊社はこれまで海外で成功したコンテンツをローカライズして運営したり、アバターやカジュアルゲーム中心だったので、コンシューマ系の企業様と、あまり接点がなかったと思うんですよ。そこもあって、うまくプロジェクトが進捗していなかった。そこを粛々と紐ほどいて、調整していきました。関係者がみんなで状況を改善しようと努力してくれましたし、現場も力を尽くしてくれたので、今では大変良い方向に進んでいます。

■協業スタイルで作られるオンラインゲームの舞台裏とは

―――国内のオンラインゲーム開発事例は少ないですよね。

黒川: ええ。しかも協業案件なので、なおさらです。組み方もいろいろで、先方にゲーム部分を作ってもらって、サーバ部分をこちらで開発し用意することもありますし、コンテンツをお借りして、異なる開発会社に作ってもらい、最後に接続することもあります。我々も内部の開発リソースが潤沢というわけではないので、ケースバイケースですね。その意味でも、個人的に、これまで培ってきたコンシューマ業界とのおつきあいの経験が役にたっています。

―――お互いにノウハウを持ち寄る形ですか?

黒川: 直近のタイトルでいえば、すでにあるコンテンツをオンライン向けやスマフォン向けにアレンジする方向で進んでいる物が多いので、ベースとなるゲームのアイディアに、我々のオンライン要素を付加していくというスタイルが多いですね。一方で『シュヴァリエ サーガ タクティクス』などのオリジナルタイトルでは、企画開発に双方ともに真剣に取り組んで開発しています。最低でも週に1回はミーティングをして、それ以外にも分科会を開催したり臨機応変に進めています。

―――異種格闘技戦みたいですね。

黒川: 今後は、さらにそういう取り組みが必要だと思うんです。今はデバイスが多様化、複雑化する一方で、それぞれの垣根がなくなりつつあります。これまでみたいに、コンシューマ(家庭用)ゲームだけ、PCゲームだけ、ケータイだけやっていればいいという時代じゃない。最後は境界がなくなっていくでしょう。コンシューマゲームのトップクリエイターと呼ばれる方々も、ソーシャルゲームにどんどん参入されてきています。逆に弊社もPC向けにサービスを展開するだけではなくて、もしかしたらコンシューマゲームに参入する、などの展開があるかもしれません。いろんなデバイスで、いろんなコンテンツが提供されて、互いに補完していくような形にしていきたいですね。

―――今回はPCオンラインゲーム限定の展開ですか?

黒川: いいえ、違います。PCオンラインゲームをベースに、スマートフォンも含めて展開しようと思っています。『ブラウザ カルネージハート』は、まずはPCブラウザベースでの展開ですが、スマートフォン版も見据えています。『シュヴァリエ サーガ タクティクス』も、PCブラウザベースではじめて、スマートフォン版、PS3版も視野に入れています。すべてを実現するには時間は若干かかりますが、最終的にはすべてのコンテンツで、PCとスマートフォンを連動させていきたいですね。

―――NHN Japan全体としては、今回のプロジェクトをどのように位置づけていますか?

黒川: 傍目から見ると異質に見えるかもしれませんね。弊社ではPC向けゲームコミュニティをスタートに、最近ではスマートフォン展開や、「定番ゲーム」「リアゲー」などにも力を入れています。そんな中で、あえてPC向けにもう一度、コンシューマ系企業とガチで組んでタイトルを供給していこうというわけですから・・・。でも、先ほども説明したとおり、我々はPCオンラインゲームだけに限定してタイトルを供給していくわけではありません。マルチデバイスやクロスプラットフォーム展開は、今後当たり前になっていくと思いますし、我々がその先陣を切ってやっている、くらいの感覚です。さらに、良質なゲームを作れば作るほど、海外でも評価してもらえるものになります。そういった意味では、弊社全体の取り組みと、そんなに大きくずれているとは思っていないですね。

―――かなり作り込んだタイトルになりそうですね。

黒川: 現状を批判しているわけではありませんが、お客さんが満足してもらえるモノを作らないと、市場がなくなっていくと思います。今の時代、基本プレイ無料でサービスを立ち上げるのは当然としても、粗製濫造ではいけない。無料でもきちんと遊べて、課金すればさらに違う遊びを醸成して、期待してもらえるものを作らないと、市場は先細りになります。良いモノを作って満足してもらって、その先にはじめて、マルチ・デバイス展開があるんです。我々は優れたパートナーと組んで、オンライン向けの良質なコンテンツを作りたいですね。

―――NHN Japanと汲むメリットは何ですか?

黒川: まずはPCユーザーを中心に国内4000万のアカウントがあることですね。それから現在3年間で100億円をかけて、スマフォン向けの新規コンテンツ開発と市場環境の整備を進めています。この中にはファンド化されている部分もあって、新しいゲームを作りたいと思っている会社や個人に対して、資金提供をしています。コンテンツを提供する場を持っていて、資金提供も可能で、オンラインサポートや運営ノウハウも持っている。これらの要素がうまく活用できる点が大きなメリットではないでしょうか。

また特にコンシューマ系企業にとっては、セキュリティ面も重要な要素となります。先日もPSNで大きなハッキングがありましたが、今後あのようなことが続くと、安心してビジネスを継続することが難しくなります。そこで我々のプラットフォームを使ってもらえれば、大きな可能性が広がるのではないでしょうか。我々のポータルサイト自体がメディアだと思うので、そこを上手く使って、一緒にもりあげていきたいですね。

―――開発費を出すこともありますか?

黒川: いろんな協業例があると思います。お互いに開発資金を拠出して、フェアな条件で開発するケースもあるし、こちらがキャッシュを出し、相手側が開発工数を現金ベースで換算して、共同出資の形を取って進める場合もあります。こちらの全額持ち出しで、コンテンツをお借りして開発し、ロイヤリティを支払うケースもあるでしょう。組み方はいろいろだし、柔軟に対応しています。この記事を読まれて、ご関心のある方がいらっしゃれば、ぜひお話をさせていただければと思います。

―――どのような会社との協業が理想ですか?

黒川: やっぱり、お互いにチャレンジできるような会社が良いと思うんです。ゲームしろ、映画にしろ、共同事業は互いのエゴのぶつかりあいなので、どこまで許容できるか。そこでお互いにリスクを取って、チャレンジできるようなパートナーや、チームとやらないと、ブレークスルーしにくいですよね。コンサバすぎても、自由すぎても問題があります。もっといえば、今後は、おそらくオンラインゲームのパブリッシャー間の協業もありうると思うんです。お互いに求めているものが同じであれば、一緒にやらせていただければ。そういう時代だと思うんですよね。

―――海外展開については、どのように考えていますか?

黒川: まずは韓国市場ですね。言語ローカライズがあるので、同時サービス開始は難しいかもしれませんが、基本的には日本と韓国で同じサービスを行うことを前提に進めています。弊社は韓国ユーザーが3000万、日本が4000万アカウントで、合計で7000万アカウント。韓国本社でも日本のβテストの結果をチェックしており、問い合わせがあります。引き合いがあるものは、韓国に限らず海外でも、どんどんサービスを導入したいですね。

―――今後のスケジュールについて教えてください。

黒川: まず8/11から『ブラウザ カルネージハート』のオープンβテストが始まり、8/18から正式サービスの予定です。一方8/22には『プラネットフロンティア』のオープンβテスト、そして8/25から正式サービスが始まります。また8/16には『シュヴァリエ サーガ タクティクス』のメディア向け発表会を開催し、9月末に正式サービス予定です。

さらに年末には、これらを集大成するような、大きな規模のコンテンツを用意しています。東京ゲームショウのタイミングで発表する予定です。すでに市場では人気のコンテンツのオンラインゲーム版なので、みなさん期待してください。

■コンシューマ系企業とハンゲームとのキャッチボールで進む開発

―――『ブラウザ カルネージハート』について、概要を教えてください。

及川氏
及川: はい。アートディンク様の人気タイトル『カルネージハート』に、オンラインの要素を加えた内容で、OKE(オーバーキルエンジン)と呼ばれるロボットをデザインして、AIプログラムも行い、自動で戦わせて勝敗を競うというものです。歴史のあるタイトルで、僕自身もファンとして何作も購入しました。

ただ、実際に自分で担当することになって、改めて感じたのが、元のゲームの良さを殺さずに、どうやってオンライン要素を加えるかということでした。実はこれは、コンシューマのゲーム開発者がオンラインゲームを作る上で、誰もがぶつかる課題でもあるんです。自分自身も本作で、あらためて考えさせられました。

―――なるほど。そこはどうやってクリアしましたか?

及川: ええ、アートディンク様とミーティングを重ねる中で導き出されたのが、アートディンク様はゲームを作る、ハンゲームはサービスを作るという、役割分担なんです。『ブラウザ カルネージハート』って何だろうと思ったとき、たとえば野球なんじゃないかと。『カルネージハート』のゲーム部分は、野球のルールでありバットやボールで、そこはスタジオアートディンクが作る。逆にハンゲームはリーグの設定など、野球を楽しむための環境を提供する。それが決まってからは、非常にスムーズに話が進みました。お互いに担当分野を明確にした上で、プロとして意見を出し合うので、ミーティングに活気があり楽しんで行えました。

現在は6月に行ったクロースドβテストをもとに、改善点をオープンβテストに反映させるべく、鋭意開発中です。ユーザーから集まった要望を精査して、解決策を並べて、タスク化し、優先順位が高いものから潰しているという感じです。オープンβテストに向けて順調に開発が進んでいます。

―――手応えはいかがですか?

及川: 上々です。熱心なファンが多いIPなので、みなさん意見のレベルが高い、作り手の予想を良い意味で裏切りまくっているんです。ただし初めて遊ぶユーザーさんの配慮も大切ですから、そこは幅広く提供していきたいですね。また今後の展開として、せっかく1日85万人もの人が『ハンゲーム』にアクセスしてくれているので、『カルネージハート』を知らない人に対しても、対戦風景を観賞できるような場を作りたいですね。そこでスポーツ観戦のような形で、ユーザー同士が交われるような環境作りを進めていければと思います。



―――『シュヴァリエ サーガ タクティクス』についてもお願いします。

薬師寺氏
薬師寺: ベースはファンタジー系のシミュレーションRPGで、それをオンライン化したものです。イメージエポック様と共同開発で進めています。ベースとなるゲームシステムは、家庭用ゲームでも使用されているシステムですのでとっつきやすいのではと思います。ただ、それをオンライン化したときに、どういう遊びになるのか、皆さん期待されると思うんですよ。家庭用ゲームで遊んでいて、『ここで友達と対戦できれば!』とか、『ここで協力できれば!』といったような要望を満たせるように努力しています。このテのシステムはじっくり遊びこむタイプのゲームシステムですが、それだけではなくブラウザベースということで、みんなでわいわい、楽しみながら遊べるものにできればと思っています。

またプロモーションもゲームと連動して進める予定です。ゲームを一歩外から見たタイトルの楽しみ方も考えているので、これまでシミュレーションRPGに興味がなかった方や縁遠かった方にも、楽しんでもらえるようなモノにしたいですね。現在はクロースドβテストでプレイできる部分は、開発がほぼ終了していて、現在はバランス調整をしながらオープンβテストに向けての、開発に入っています。

―――製作で苦労している点はなんですか?

薬師寺: 家庭用ゲームではおなじみのシステムでも、オンラインゲームでは類似するタイトルが少ないんですよ。そう意味では凄いチャレンジングなタイトルだと思います。

開発はイメージエポック様がオンラインゲームを作った経験が少ないこともあって、互いの文化をすりあわせるところからはじめました。家庭用とオンラインの中間のような立ち位置で開発を進めていったんですが、それでも最初はお互いに頃合いがわからなかったので、議論が紛糾することもありました。でも、そうした過程を経たので、今ではお互いに腹を割って、スムーズに開発ができています。



―――二本とも正式サービスが楽しみですね。それでは最後に、本プロジェクトの意義などについて、まとめていただけますでしょうか?

黒川: 大げさなことを言うつもりはありませんが、自分自身は『ハンゲーム』の新しい歴史を作りたいんです。従来の『ハンゲーム』を否定するわけではなくて、スマートフォンなどの新しいデバイスと、従来のPCオンラインゲームをいかに融合するかという、新しい試みとしてのコンテンツを作りたいんですね。それも一過性のものではなく、長く遊んでもらえるようなもの。そのためにも『ハンゲーム』という場を上手く使って、幅広く楽しんでもらえるような、環境とコンテンツを提供したいんです。実際、今年から来年にかけての、コンシューマ系ゲームメーカーさんとの協業は、新しいハンゲームの歴史を作る上で、たいへん重要なことだと思っています。期待してください!

―――ありがとうございました。
《小野憲史》
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