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発展を続ける中国、China Joyのあるべき理想型とは・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第19回

圧倒的な速度で成長を続けた中国オンラインゲーム産業。その巨大さを目の当たりにすることが出来るゲームビジネスに特化した祭典がChina Joyです。

ゲームビジネス 市場
今年も盛況のうちに幕を閉じたChina Joy。名実ともにアジア最大規模のゲームショウに成長しました。
  • 今年も盛況のうちに幕を閉じたChina Joy。名実ともにアジア最大規模のゲームショウに成長しました。
  • B2Bブースも初めて用意され、機能が拡充した
  • 迅雷によるネットワークFPS『大冲锋』のプレス発表はこれからのChina Joyにおけるプレス発表のモデルケースか
  • 舞台の表では、日本のアイドルにも匹敵する美しさ。ですが。舞台裏もまるまる見えてしまうのがChina Joyだったりします…
圧倒的な速度で成長を続けた中国オンラインゲーム産業。その巨大さを目の当たりにすることが出来るゲームビジネスに特化した祭典がChina Joyです。ことしも例年の盛況ぶり。もはやこのイベントは上海における定番イベントにと成長しました。同時に東京ゲームショウ、Gスターと並びアジア最大規模のゲームイベントになっています。常に若干の微調整を進めながらすこしづつ改善を続けるChina Joyですが今年からはBtoB専門コーナーを設置。一般コーナーと完全に切り分けられた中で、Crytek やEpic GamesならびにUnityを皮切りに大小120社以上が出展しています。

これらに加えチャイナゲームデベロッパーカンファレンス(CGDC)、チャイナゲームビジネスカンファレンス(CGBC)、そしてチャイナゲームアウトソーシングカンファレンス(CGOC)も同時開催。カンファレンスの会場はホテルなのですがこれまではChina Joyの会場から車で10分程度移動しなければなりませんでした。しかし今年からは会場とするホテルもChina Joyが開催する上海新国際博覧センターに隣接するケリーホテルに変更。それぞれの会場を直結出来るようにしました。

■進化し続けるChina Joyはまさに中国ゲームビジネス発展の軌跡を示す

China Joyの面白さは常に発展し続けることにあります。04年1月に初めて開催された際は1月に、しかも北京で開催されるといった形でのスタート。出展する側も会場を訪れるのが業界関係者なのかユーザーなのか、というところも正直わからないかまま開催されていたというのが実情です。出展作品についても新作を披露するべきなのか否かというのも不透明といった状況でした。参加者層に対する情報も皆無でしたので当たり前と言えば当たり前でしょう。

そのような状況下で出展したソニー中国も出展がSCEではなかったということもあり、ゲームでの出展というよりはむしろ家電のショーケース的に出展していたのが今でも印象に残ります。当時は中国国内で本格的にオンラインゲームを展開し、ある程度の収益をあげていたのが盛大ネットワークや、ネットイース、ナインシティ程度であっていたことから外資系企業や台湾企業も比較的大きめのブースを構え展開していました。このように完全に手探り状態のような形ではじまった同イベントは、出展側もマーケットの需要に対応するという理由というよりは、バックに存在する国家新聞出版総署や、情報産業部といった行政との強いつながりが意識しての出展であったであろうことは容易に想定出来ます。韓国における同産業の発展とIT産業の発展を同時進行で目の当たりにした中国行政機関がこの産業の育成に並々ならない関心を抱いていたのは筆者のような第三者の視点からみても明らかでした。

同年は7月にも開催。ただし会場を北京から上海に移したことで現在のB to C 的なChina Joyが定着していきます。そこでの熱狂的なファンの様子は、各パブリッシャーの出展理由を「行政とのおつきあい」から「ユーザーの心をつかむ絶好の好機」であると即座に切り替えさせる事に成功しました。コミュニティを育成させることによるファン層の定着と拡大が、収益を上昇させるうえで重要なオンラインゲームサービスにとって自然な流れだったと言えるでしょう。この時からChina Joyはユーザーサービス主体のゲームショウであるとマーケットそのものによって定義づけられたのです。各オンラインゲームパブリッシャーによるオフ•イベントが同時期に同じ場所で開催されるという言い方が正しいでしょうか。

ただ主催者側は当初から、このままで終わらせるつもりはありませんでした。イベントを担当しているHowell International のShawn氏は当時からこのイベントを「ビジネスを進める上でのプラットフォームにしていきたい」と筆者に自身の思いを伝えていました。そしてそのビジョンを達成するべく、主催者側はそれに必要な「箱」を着々と整えていきました。まず、業界トップを集めた基調講演的な講演会は展示会場のカンファレンスルームなどを使用して第一回目から行ってきていました。行政からの意向が反映されていることもあり、業界の名だたる企業が名を連ねた会議は非常に圧巻なのですが、メディア報道は主に中国国内のみというのが実情でした。スクウェアエニックスなど日本企業のトップもこのカンファレンスではかつて講演しています。しかし、オンラインゲームパブリッシャー各社もそれぞれがプレスカンファレンスを開くようになるなど全てを1カ所で行うことで混乱も生まれてきていました。このような中、09年から、チャイナゲームデベロッパーカンファレンスを開催すると同時に、これらの業界トップのひとたちによるカンファレンスをチャイナゲームビジネスカンファレンスとして開催していったのです。会場も五星ホテルのカンファレンスルームへと移し、国内外の業界関係者が業界のトレンドや先端技術、ノウハウを共有できる場をつくり出しました。これにあわせるかのようにIGDA上海パーティも、チャプターコーディネーターであるゲリー•ミー氏を中心に開催され、現在は800人もの人たちが集まるほどに成長しています。そして冒頭でも述べたように、今年からはB toB専門会場がカンファレンスと連結される形で立ち上がったのです。これはすなわち、開発者レベルからビジネスレベルのひとたちが公式、非公式双方の形で交流できる場が形成されたことを意味します。

今年もパーティ会場で、Howell の担当Shawn氏と顔を合わせたとき、真っ先に聞いてきたのがB to B 会場のことについてでした。彼もよほど気にしていたのでしょう。ですが、同会場は出展者、参加者双方に対しかなり気を使っており、クーラーがしっかりきいている上に、一般ユーザーが誤ってB to B 側に来ないよう、あらゆる配慮がされていました。双方を行き来しなければならないメディアにとってはかなり面倒なことになりますがそれほど、B to Bでの交流を意識したということでしょう。

■更なる発展のために

ただし、名実ともにアジア最大規模となりながら「アジアを代表」するゲームショウと言い切れないのには理由があります。行政主導の印象の強かったイベントがユーザーからのサポートのもとブランドとして定着するまでを目の当たりにしてきた立場としてChina Joyのこれからの発展に如何なる要素が必要なのかをリストアップしていきましょう。

■大規模な情報発信を実現する環境を整える

これまで中国のゲームパブリッシャー各社は基本的に中国国内市場を意識してきました。ですが、中国ゲームパブリッシャーの中でもそのいくつかは確実に新規コンテンツを海外に向けて販売出来るようになっています。それはパーフェクトや、Snail Gamesといった大型MMORPG企業からはじまり、ブラウザーゲームの Ultizenやソーシャルゲーム Rekoo JapanやHappy Elementsと実に様々。これらの企業は日本国で展開している企業ですが東南アジアや欧米と他の地域を考えると新作情報をしっかりと複数の国々に発信していかなければならない企業数や増加の一途を辿ります。

今回、迅雷というゲームパブリッシャーがケリーホテルの大会場にて、FPS『大冲锋』を欧米式のプレスカンファレンスでおこなっていましたが、メディアの反応は上々でした。大画面にはテンセントマイクロブログ(テンセント版のTwitter的サービス)なども同時掲載していたのですがそこでの反応もよく次々と複数のユーザーによるリアクションが確認出来ました。つまり現在の中国ゲーム産業はまとまった形で世界に対して発信すべき情報もそれを実現するための環境も整いつつあります。もう一皮むけたゲームイベントにするにはそのような展開も強く意識してく必要があるでしょう。

なお、プレスリリースを発信する側へのお願いと言えば、プレスキットにライターや、Tシャツや不必要に大きなビニールバックを配布するはもうやめてもらいたいということ。一方、発表される作品の世界観や開発に関する逸話を理解出来る資料だったら大歓迎です、設定資料集のダイジェストやコンセプトアート画集などでもいいでしょう。たとえ2−3ページでもいいのでこれれが配布されるか否かでメディア側の作品に対する理解に大きな違いが出てきます。同じ予算をかけるんなら断然後者である必要があると思いますね。

■アジア随一のゲーム大国となる日を意識したブース出展形態の抜本的改革

中国がアジア最大のゲーム大国になるのは時間の問題であるとは誰もが実感している事実です。ですがそのステータスに見合うイベントの質的管理が出来ていません。一見これは観客側の問題のようにも見えますがこれはイベント野導線の引き方や観客の誘導管理、ならびに各ブースの音響規定や制約厳守に向けた管理強化などのアーキテクチャの問題です。ファンは出来る限りのグッズやアイテムをもらいたいと思うでしょうし、年に1回のイベントということから人よりも先にゲットしたいと思うのはどうしようもありません。むしろそのような心理状況であることをふまえたうえでのブース•導線管理に予算を投入することでショウの印象もかなり変わります。ブース館の通り道の幅を広げるといったことも必要かもしれません。とにかく群衆の中で押しつぶされそうな人たちがいる時点でそこにオペレーション上の課題が存在するのだと認識しそれらの解決に全力を注ぐべきだと思います。

■コンパニオンはショウの華。しかし、夢は壊さないように….

コンパニオンはChina Joyの大きな特色と言えます。さらに朱弘、王蕙心など、
ショウでの露出をきっかけに芸能界で活躍している人たちもいるようです。つまり一見、過剰に見えるコンパニオンの露出もある中国エンターテインメント産業にとって大切な役割を果たしていると言えるでしょう。

であれば、参加者の見える前で舞台の裏側が丸見えになってしまうような脆弱性は排除していく必要があります。コンパニオンはゲーム作品を紹介する大事な役割を担う人たち。すくなくともユニフォームを着用している間はその役割を果たすことがショウ全体のクオリティアップにつながります。当然、コンパニオンさんも人間ですしお腹は空くでしょう。だからといって、会場内で体育座りをさせてお弁当を食べさせているなど、本来見えるべきではない部分が丸見えになってしまうとイベントに集中したい参加者の注意を削いでしまいます。楽屋的な振る舞いを許容している空間がブースに直結しているのも良くないですね。運営側は、コンパニオンもショウにおける世界観の一部であると認識し、それが欠落してしまう状況をあらゆる意味で排除する必要があります。

China Joyのイベントブース関連はそれ自体仕組みとして確立されてしまった部分もあり集客力もあるだけにその仕組みを組み立て直すのは確かに大変です。ですが、スマートフォンとタブレットPCの台頭により中国ゲームシーンのランドスケープも確実に変動しているのも事実。同時に沿岸地域においては生活水準も高まり娯楽にも多様性が生まれているということも認識する必要があります。これらをふまえ、先手、先手で手を打つ事が出来れば、中国がアジア最大のゲーム市場になり、各パブリッシャーや開発スタジオが国際的にもトップクラスの能力をその手にしたときにもその状況に恥じない程の権威と品格を有する事が出来るのではないかと思います。今後のChina Joyの更なる発展に期待ですね。
《中村彰憲》
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