3人目は、ポケモン関連のプロデューサーを10年努めている小学館 キャラクター事業センター センター長 久保雅一氏。講演は「プロデューサー視点からみた、これからのメディアミックス」というもの。
久保雅一氏
講義は、本題とも命題とれる「コンテンツをメディアミックスしようとするのはなぜか?」という内容から始まった。久保氏の答えは明確で、「コンテンツをより多くの人に楽しんでもらい、ビジネスチャンスを増やすため」とし、結果的には「複数年に渡って、国内外から愛される、日本文化ともいえるようなコンテンツ作りを目指すため」としている。
メディアミックスで一番難しいのは、クリエイターとの向き合うことだという。メディアミックでは、さまざまなジャンルのメディアを手がけることになり、結果的にさまざまな才能をある人材と一緒に仕事をしなければならない。著名なクリエイターは、制限のある仕事はやりたがらないし、お金では動かすことができない。また、クリエイター同士の組み合わせも難しいところだという。
また、効果的なメディアミックスを行うための3つのポイントも紹介された。それが、「コンテンツを展開するメディアの特徴をしっかり把握する」、「適格な制作会社と協力的なパートナー企業をアタッチする」、「権利と責任、リスクと収益配分を明確に設定する」の3つである。特にメディアミックスでは、大きな利益をもたらした時、もめることも多いため、3つ目のような明確な利益配分は重要な要素だという。
■勝ち組メディアを利用することが新しいメディアミックスの成功の鍵
久保氏は、日本の各種メディアの市場規模をデータで細かく紹介。現状では、ラジオ、出版などは市場が縮小傾向にあり、負け組的なメディアであり、PC(インターネット)や携帯電話などは、市場規模を拡大している勝ち組であるという。しかし、現状のメディアミックスは、「負け組」といわれるメディアを中心に展開してきた。PCや携帯電話などを取り込んだメディアミックスの成功例はあまりなく、今後はその部分のチャレンジが、メディアミックスを語る上で重要な要素のなるだろうと語る。
では、どうやって、勝ち組のメディアを取り込んでいけば良いのだろうか? そのポイントは、ライフスタイルの変化に注目することだという。
「20パーセントを超える視聴率番組が減ってきている」これは、mixiや、ヤフーオークション、アマゾンなどのネットが大きな影響を与えているといわれているという。また、「電車で雑誌を読む人が減ってきた」という理由も、携帯電話でメールやゲームを楽しむ人が増加したからだと分析。ポケモンでは、すでにPCや携帯も連動し、勝ち組のメディアの取り込みに成功したのではないかという。
今後のPCや携帯電話を中心にしたメディアミックスのあり方として、『電車男』の成功事例に続くようなものが登場するのではと予想。しかし、現状PCや携帯電話では、プロモーションメディアの域を脱していないという。そして、この状況から脱しチャンスを掴むのは、恋愛物かホラー系になるのではと予想していた。また、ネットからも原作が登場する可能性があるため、原作者を特定しにくい場合も多く、契約のトラブルも数多く発生すると予測。トラブルに巻き込まれないためにも、最善の注意が必要になるだろうと語っていた。
メディアミックスとは、商売を中心に考えがちだが、じつは、非常にエモーショナルなビジネスであると久保氏。彼の中にあるメディアミックスの心得は、「コンテンツビジネスは、人の心が動いてから物が動く」であると最後に紹介した。