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失墜した信頼は取り戻せるか?『FFXIV』吉田直樹プロデューサーが講演・・・スクウェア・エニックス・オープンカンファレンス2012

スクウェア・エニックス オープンカンファレンスで11月24日、同社の吉田直樹氏は「新生FINAL FANTASY XIV:ゲームを作り直すということ」と題して講演しました。

ゲームビジネス その他
FF XIV プロデューサー&ディレクター・吉田直樹氏
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スクウェア・エニックス オープンカンファレンスで11月24日、同社の吉田直樹氏は「新生FINAL FANTASY XIV:ゲームを作り直すということ」と題して講演しました。吉田氏は「スクウェア・エニックスはFFXIVで大きな失敗を犯したが、それを取り戻すのもこれからのゲーム次第」だとして、「稼働中のMMORPGを作り直す」過程について語りました。

2010年9月30日にリリースされた『FINAL FANTASY XIV(以下、『現行版FFXIV』)』。2002年にサービスインした『FINAL FANTASY XI』の後継タイトルとして期待されましたが、完成度の低さなどが指摘されました。これを受けて12月に運営体制を一新し、吉田氏がプロデューサー兼ディレクターに就任。大規模な改修作業が行われてきました。

その後、天空に浮かぶダラガブからバハムートが出現し、世界を焼き尽くすという衝撃的なクライマックスと共に、サービスが一時中断。グラフィックスエンジンとサーバーを一新した『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア(以下、『新生FFXIV』』に引き継がれることになりました。現在はαテストの段階で、発売時期は2013年予定となっています。

吉田氏は「失敗したゲームが作り直されることは通常ないので、本セッションは役に立たない。しかし『失敗の確率を下げたい』『開発中にヤバイと思ったら?』『逆境の乗り越え方』といった点で役に立てるかもしれない」と前置きし、講演を始めました。

■第一部 状況の把握と整理/圧倒的な絶望感!?

「ゲームの完成度が低い」「βテストの意見を無視」「FFシリーズなのに」「もうダメだろう」「それでも何とかしてくれるはずだ」・・・。吉田氏が引き継いだ2010年末の『現行版FFXIV』は、こうした様々な声が渦巻いていました。

いわば「圧倒的絶望感。でも本当に無理なの?」という状況です。

吉田氏は「ここで大事なことは、いたずらに悲観したり、感情的になったり、犯人捜しをしたりすることではなく、いったん立ち止まって考えること」。すなわち冷静になることだと指摘します。

その後『現行版FFXIV』を理想のゲームにする上での、ゴールの再設定が行われました。必要なのはコンセプトの確立や、MMORPGとして必要な要素の確定、長期運用するために必要な技術の見極めなど。つまり「新作を一本作るとしたら」という想定のもとで、土台となる作業が行われたのです。吉田氏は現行FFXIVを参考にせず、正しいゴールを設定することに集中したと言います
正しいゴール、すなわち理想像が確立できたら、ここで初めて現状との比較が行われました。すなわち問題点の洗い出しです。『現行版FFXIV』における理想と現実の違いとは何か? サーバーやクライアントの性能は? 理想の会員数は? 長期運営されるタイトルとしての課金システムは適正か? 吉田氏は最後まであきらめることなく、細部に至るまで問題点を洗い出し、リスト化していくことが重要だと指摘します。

理想と現実のギャップが見えたら、ようやく実作業が開始です。もっとも、何事も一人では立ち向かえません。現実の問題もRPGと同じように、信頼できる仲間を探して、パーティを編成することだと言います。

ここで大切なのは少数精鋭にメンバーを絞ること。吉田氏は▽テクノロジーを任せられるプロフェッショナル▽デザインの方向性を決められるコアスタッフ▽バトルシステムのスペシャリスト▽インターフェースのスペシャリスト▽現状の問題点を最も把握しているスタッフ▽熱意のあるマネージメントスタッフ--などを上げました。

■新作を作るよりも大事なこととは?

中でも本プロジェクトでは、テクノロジストとしてスクウェア・エニックスCTO兼『新生FFXIV』テクニカルディレクターの橋本善久氏が参加したことが大きかったと吉田氏は言います。新型ゲームエンジン「Luminous Studio」の開発も主導する橋本氏が加わったことで、技術的な判断を早く、的確に行うことができ、効率化につながりました。また意外と見落とされがちなのが「現状の問題点を最も把握しているスタッフ」だと言います。この存在なくして、プロジェクトに顧客視点を持ち込むことは不可能だからです。

仲間がそろったら、いよいよ解決策の定義です。ここで大切なのは「どうするのか」ではなく「何をするのか」を決めていくこと。つまり漠然と「マップシステムは根本からテコ入れ可能なのか」ではなく「マップ一体成形は可能なのか?メモリ管理はどのように行うのか?」というレベルまで細分化すること。ここでは、できるだけ時間をかけて、じっくりと進めたほうがいいと言います。

その結果▽描画エンジンは全部入れ替える▽サーバーをワールドレスに設計し直す▽検索負荷に耐えられるように作りなおす▽バトルは修正可能だが根本は作り直す▽インターフェースは思想から変える▽マップはインスタンスを廃止する--などの結論に至りました。まさに大改修ですが、最善の判断で慎重に導き出した回答です。吉田氏もこの段階で腹をくくりました。

ここまでくれば新作を作る方が早いという判断もできます。しかし『現行版FFXIV』のゴールは売上よりも、失った信頼をいかに取り戻すかにありました。経営側のバックアップなくしては不可能でしたが、幸いにもこの判断が尊重されました。これにより前代未聞の「MMORPGの運営を続けながら、大改修を行う」という、きわめてリスクの高い決断が行われたのです。

■第二部 『新生FFXIV』へのシナリオ/作り直しだけで逆転可能か?

もっとも、この判断には最終的に二つの課題がありました。第一に、一度定着したネガティブな印象を、どのように払拭していくのかという点。そして第二に、スタッフのモチベーションをどのように保つかという点です。

特に『新生FFXIV』ではなく、『現行版FFXIV』の開発スタッフにしてみれば、自分たちの作業は「つなぎ役」でしかありません。こうした思いを引きずったままでは、おもしろいゲームを開発することは不可能です。業務にも支障をきたしてしまいます。

ここで吉田氏が提示した奇策が「世界を崩壊させる」というアイディアでした。しかも、ただ崩壊するだけでなく、空から衛星ダラガブが徐々に落下し、最後の瞬間には、それまでの予想の裏をかき、中からバハムートが登場して、地上を焼き尽くすというもの。これをパッチを通してユーザーに少しずつ提供し、リアルタイムに体感してもらおうというのです。

アイディアの発端は年末の特番でした。ちょうどプロジェクトを引き継いだころ「マヤ暦によると2012年12月21日に地球は滅亡する」というテレビ番組を見た吉田氏。ふとゲームを見ると偶然にも、エオルゼア世界に浮かぶ月の脇で、赤い衛星が浮かんでいるではないですか。そこでパッチごとに月が近づけていくことを決断。プレイヤー側では落下を阻止しつつ、世界の終焉を体験するストーリーが組み込まれていきました。

このアイディアはユーザーだけでなく、現場スタッフのモチベーションを上げる効果もありました。絶対にネタバレしないように、吉田氏は箝口令を徹底したそうです。「おもしろいことなら、スタッフもついてきます。まじめに、真剣に、普通じゃないことをやる。これもFFらしさの一つです」(吉田氏)。

そしてついにメテオは落下。サービスも一時停止されました。あとは『新生FFXIV』に全力投球し、その内容で勝負するだけだと言います。

なぜ『現行版FFXIV』は失敗したのかという筆者の質問に、「どこか社内にスクエニだから、FFだからという、慢心があったように思います」と回答した吉田氏。本作を担当し、今まで以上にゲーム作りに向き合うきっかけになったと言います。「今もなお応援してくださる、たくさんのお客様に向けて、誠心誠意ゲーム作りに取り組みます」と抱負を語り、「でも、作り直しは今回限りにしたい」とまとめました。
《小野憲史》
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