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今の基準で10年後を計っちゃいけない……山口浩氏インタビュー

ブロードバンド推進協議会のシンポジウム「仮想世界の法と経済」が7月21日に迫っています。シンポジウムで『仮想世界による情報の技術、契約の技術、金融の技術の融合』を講演する、駒澤大学の山口浩氏(経営学博士)にお話しを聞きました。

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■YouTubeは日本では生まれ得なかった!?

Q: 遊び方とかお金の払い方とかいうのが変わってきていて、直接的に対価を払うんじゃなくて、別のところでお金が先方に落ちるように、ユーザーが仕向けられている。広告をクリックしたり買物したりといった間接的なアクションによって、ちゃんとサービスを提供している事業者が潤うようにしたわけですね。

山口氏: そうです。言いたいことは、「金融の技術」には理論があるでしょう、「情報の技術」についてもテクノロジーは同じだから優秀な技術者がいればできるでしょう、しかし、「契約の技術」というのは実は世界に依存しているので、必ずしも世界共通じゃない、ということです。もしもGoogleマップを日本人が最初に考えたのだとしたら、実現しただろうかというところを考えていただきたい。

そういうのを可能にしているのが、社会の中に新しいものを受け入れる余地があるかどうか、新しいものを試してみようという発想があるか、守ろうとするか攻めていこうとするか。そういう差がきっとある。そこの差がサービスの差に表れてきているんじゃないかと。Amazon.comには、本の中を見るサービスがありますが、日本で始めようとして難航している。そういうのも、実は契約の技術が鍵になっていると思います。

例えばコンテンツの分野でも、韓国のコンテンツ産業は、権利面でヤバいところすれすれをいくわけですよ。テレビで撮った番組をぼんぼんビデオオンデマンドで配信しちゃう。もめたりしても、お金になると分かったらそれで動いていく。YouTubeもそう、作った人達はかなり確信犯的にやってる。表向きにはきれいなこと言ってますけどね。でも、それが認められちゃえば勝ちみたいな部分があって、実際受け入れられていった。

社会全体にそういうのがきっとあるんだと思います、いろんな分野で。訴訟を不名誉なことと見るのか、コストと見るのか、そういう差ですね。YouTubeは訴えてられてもGoogleの弁護士ががんばってくれるからいい、ということなのかもしれませんが、日本では訴えられただけで不名誉という話になっちゃう。新しいものに対する許容度の違いが、契約の技術の部分での差になってきている。それが、新しいサービスが生まれる生れないというところの制約条件になっている部分があると考えてます。

Q: 社会的な枠組みですか。

山口氏: ルール設定ですね。仮想世界というのは新しくルールを作りうるというところが、注目点なんですね。違うルールで社会が動く部分が出てくるかもしれない。

Q: 現場の人間としては、技術とコストの変化で人の行動が変わるんであれば、技術を高めて、コスト構造を変えていって、受け入れられるようにするしかない。

山口氏: そうですね、人の行動って、変わるんですよ、本当に。だから今の基準で10年後を計っちゃいけないと思います。10年前はまだGoogleもなかったんですから。

それで最近よくあちこちで話してるのが電子書籍ですね。今は携帯電話でサービスが立ち上がってきていますが、過去10年以上に渡って死屍累々だったんですよ。もちろんケータイに載ることで、専用端末を買わなくてよくなったのもあるでしょう。品揃えも揃ってきたし、専用の小説も出てきた。でも最大の要因は「人が携帯電話の画面で字を読むようになった」という習慣の変化だと思うんです。ここがポイントなので、そこをさえクリアすれば、あらゆる電子書籍の可能性が開けてくるわけです。その意味からして、ワンセグ携帯に関しては結構期待しています。

Q: あれ、飲み屋さんとかでサッカー見るのにちょうどいいんですよね。

山口氏: ワールドビジネスサテライトを帰らず見られるっていうのは、すごい便利だったりするみたいですね。

Q: 見るために帰ってたのに、見れるから帰らなくても良くなったという人もいます。

山口氏: 今はまだ、ワンセグ携帯は中・高生にはほとんど売れていないんですが、普及版が出た時、中高生の需要ってものすごいと思うんですよね。親と違うの見るじゃないですか。あんまり何か親に見せたくない番組見るじゃないですか。

Q: 親と一緒に見ない、リビングでは見ないみたいな。

山口氏: そうなってくると、ワンセグ携帯の価値ってものすごい高いと思う。だって、テレビ買ってって言えないけど、携帯買ってとは言えるわけですよ。ワンセグ機能付きにしてって言えば、それで自分の好きなテレビが見れる。

人の習慣が変わってきた時に、大きな変化が起きると思う。ひょっとしたらテレビはワンセグっていう時代が来るかもしれない。家でテレビ見るの?って。何しろ日本人にとってインターネットというと、パソコンで使う人より、携帯でインターネットの人の方が多い。日本人にとってインターネットというと携帯電話だよね、という世代になってきている。

Q: Googleでも日本の携帯向けにわざわざ力入れてますからね。

山口氏: そう、人が変わってくると、がらっと時代が変わる。

Q: mixiにしても、携帯向けサイトは動画も見れるようにしたり、一生懸命ですよね。モバゲー対抗っていうのもあると思いますが。

山口氏: 裏には通信容量の増大があります、パケ放題の普及ですね。パケ放題も、契約の技術なんです。今、すごいですよ、大学生あたりのパケ放題率って。みんな、パケ放題を当たり前にやってる。ワンセグ携帯は持ってないけど、パケ放題は皆やってるという世代。そうなってくると携帯の使い方もまた違ってくるじゃないですか。

Q: 人の習慣が変わるタイミングと、それに併せて面白い契約の技術、面白い情報の技術を投入できれば、がらっと変わるということですね。

山口氏: 仮想世界は、まだ可能性でしかないけれど、そういうものになり得ると思っています。今はちょっと想像がつかないけど、おじいちゃんおばあちゃんがセカンドライフの中で若い格好になって遊ぶのが普通になるかもしれない。

Q: 仮想世界というと、セカンドライフとかファイナルファンタジーXIみたいなグラフィカルな感じを持ってしまいますが、例えばさっき出たモバゲーなんていうのもSNSになっていて、グラフィカルじゃないけど仮想世界ですね。それを支えるのが、パケ放題っていう契約の技術であり、FOMAという技術なわけですね。

山口氏: パケ放題がなかったらできないでしょう。インターネットの普及だってテレホーダイが鍵になった。あれでインターネットが変わったと思うんです。23時以降は常時接続になれた。

Q: 聞いた話では、テレホーダイは非常に原始的なやり方をしてて、NTTが料金請求時に各通話ログから23時以降を除外するっていうやり方で実現していたそうです。バックオフィスに対する負荷もすごかったと思うのですが、フレッツになって接続の回数や時間をカウントせずに月額いくらとすればそのコストも要らなくなった。

山口氏: そういうことですね、その行き先を見極めたい。できるならば、より望ましいと自分達が思う方に動いていくよう、そのために何ができますか、という話ですね。

Q: 講演楽しみにしております。ありがとうございました。
《伊藤雅俊》
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