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今の基準で10年後を計っちゃいけない……山口浩氏インタビュー

ブロードバンド推進協議会のシンポジウム「仮想世界の法と経済」が7月21日に迫っています。シンポジウムで『仮想世界による情報の技術、契約の技術、金融の技術の融合』を講演する、駒澤大学の山口浩氏(経営学博士)にお話しを聞きました。

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■ユーザーの「楽しい」を支える「契約の技術」

Q: オンラインゲーム系のようにモノリシックにサービスをする事業者と、携帯電話事業者のようにキャリアとコンテンツプロバイダで分業性を押し出している事業者の、どちらが有利なのでしょうか?

山口氏: 一概にこういう法則があるという状況ではあんまりない気がします。ユーザーの立場からすると、便利なものがいいという、それだけの話なんですよね。何が便利なんだろう、って考えた時に、意外に人間って一貫していない。ワンストップサービスがいいよねって総論で思っていたとしても、ピンポイントで選んだサービスが分業タイプだったりする。

例えば電話っていうことに対して、セカンドライフとドコモが競争してどっちが勝つかというみたいな話をしても、あんまり意味がない。少なくても今の時点でドコモに勝てるわけがないわけだし、将来もセカンドライフで携帯電話の代替が起きるとはちょっと考えにくい。けれども一方で、セカンドライフの中で活動するような局面が増えていくのであれば、その中で通信したい、アバターとして通信したいというニーズがきっとあるはずなので、その限りにおいてセカンドライフの中での通信が増えていくだろうという感じはあります。結局、ユーザーがどうしたいかに依存していて、そのユーザーも実は合理的ではなかったり、予想した通り動くわけでもない、という前提の話なんだと思います。

Q: 面白いからという理由で、無駄なことをニーズとして挙げてくる人はいっぱいいますよね、リンデンの中で携帯にメールを送るとか、ショートメッセージをセカンドライフにログインしたまま、その人に送ると携帯にそれが届くとか。

山口氏: 欲しいと思う人はいるかもしれないですね。それを楽しいと思う人、それを必要と思う人がいるならば、それは有益なサービスだというに過ぎない。正しいサービスであるかどうかを議論しても、あまり始まらない気がする。それに、1つのゲームでそれがうまくいったからって、別のゲームでうまくいくとも限らない。

Q: ニーズがあると思ったら素早く実装して提供してみようという、ベンチャー的な身軽さが鍵になっているんでしょうね。ただ、一貫してないとはいっても、不便な状態にはやっぱり戻りにくい。たとえば契約も、今さらFAXや郵送に戻ると言われても、厳しいでしょう。

山口氏: より快適な方向に行くっていうのは多分、不可欠なんじゃないかと思いますが、ただ、不便を楽しむっていう、そういうニーズがはあり得る。それはものごとの意味合いが変わってきているわけですよね。

Q: 娯楽としての不便、ですか?

山口氏: 写真やLPレコードみたいに、そういうニーズはある。だから便利なものが全部いいっていうわけでは、もちろんない。だから、ものごとの基準が便利かっていうことじゃ必ずしもなくて、気持ちいいとか、楽しいとか、そういうのをベースにして価値が決まってくるようになるのかもしれない。

前に「ファンベーストエコノミー」(楽しさに基づく経済)みたいな言い方をしたんですけど、楽しさが経済をドライブする形になる。ファンって人によって違うじゃないですか。便利なのがファンの人もいて、便利じゃないのがファンの人もいて、だから一概にこれがいいっていうことじゃないと思うんです。セカンドライフが快適な人もいれば、セカンドライフなんか嫌だっていう人もいて、それはそれでいいと思う。

Q: 一方で、Googleみたいな会社は、技術的にこれができるという前提で、今あるものの新しい見せ方の提案をしたりします。Googleマップが一番最たるものだと思うんですけど、使ったらすごく便利で、また見た目も楽しくて気持ちいい、すごい勢いでスクロールする。何かそういうものを企業が提案してユーザーに受け入れられる、要するにヒットするというケースもありますね。

山口氏: そう。Googleマップなどに関しても、地図の利用に関する権利クリアなどがあったはずで、その契約の技術はすごいだろうなと思う。それを公開して使っていいというのも一種の契約なんですよね。思いもつかないでしょう、人がすごいお金かけて作った地図をどうぞ自由に使ってっていうふうに出す。お金かけて買っているに違いないんですよ、権利を。それを、「どうぞ」ってやるのはすごい技術だなと思います。

それができるのは、別の方法でお金をくっ付けられるという技術があるからなんですよね、広告なり何なり。なので、さっきの「融合」というのはそういうところで具体的に生きてきているのかなと思います。


《伊藤雅俊》
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