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【CEDEC 2008】ゲーム開発会社が海外パブリッシャーから開発を受注するには?

■海外受注にゼロベースから挑んで成功

ゲームビジネス その他
【CEDEC 2008】ゲーム開発会社が海外パブリッシャーから開発を受注するには?
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■海外受注にゼロベースから挑んで成功

国内市場が低迷する中、海外市場の重要性が叫ばれていますが、多くのディベロッパーにとっては敷居が高く感じられるのが実状ではないでしょうか。そんな中でサクセスケースとなったのが、大阪の老舗ディベロッパー、ナウプロダクションです。CEDEC2日目では同社がいかにしてゼロベースから海外受注業務をスタートし、わずか1年半で実績を上げたかが、論理的かつ明快に語られました。

講演タイトルは「欧米パブリッシャーに対するゲーム受注制作ビジネス提案、営業方法、プロジェクトマネージメント実例紹介、及びその具体的なゲーム受注制作事例、制作方法論、コミュニケーション、必要なドキュメンテーションの実例紹介」です。長いタイトルですが、これが講演内容をすべて物語っています。講演者は海外事業の旗振り役の大信英次氏と、ディレクターの溝口達洋氏で、大信氏がビジネスと営業面を、溝口氏が実際のゲーム制作についてスピーチしました。

ナウプロダクションは1986年に設立された大阪の中堅ゲーム開発スタジオで、家庭用ゲーム機で180タイトル以上の受託開発の実績があります。しかし国内市場の減少と共に、海外パブリッシャーと直接開発契約を結ぶ必要性を感じ、2007年の米GDCに初参加。その後も営業活動を続け、現在までに2社の自社タイトルを含む、4本の開発契約に成功しています。また、同時にアジア圏のディベロッパーに開発発注を行っており、英ディベロッパーとの共同開発、QAのカナダ企業への発注など、積極的な海外分業も展開中です。これにはコスト削減のほか、海外市場のニーズに即した開発という意味もあります。


少子高齢化に伴い日本市場はさらに縮小すると予測

国内市場への根拠のない信頼は危険



『Little League World Series Baseball』ゲーム画面


本講演ではこのうち、米アクティビジョンから8月5日に北米で発売された『Little League World Series Baseball』の事例について、事後検証が報告されました。名前通りリトルリーグが題材の野球ゲームで、Wii向けのタイトルです。

■受託制作をビジネスとして理解する

まず大信氏は欧米パブリッシャーの現状について、好調な市場背景から前向きだが、PS3・Xbox360・PCのマルチ案件が主流で、日本企業には手が出しにくいとコメント。DS単体での開発予算低下も顕著だが、Wiiとのマルチ展開も多いので、ここが狙い目だと話しました(ただし『Little〜』もWii・DSのマルチタイトルでしたが、こちらはWiiのみ受注で、DS版は北米開発です)。一方でPSPはニーズが非常に少ないそうです。

さらに日本のディベロッパーは『塊魂』『ICO』のイメージが根強く、クオリティと創造性は非常に高いが、納期を守らないイメージが定着しており、過去に何度か試したものの、失敗したので現在は取り引きしていない例が多いとコメント。もっとも機会があれば発注したがっており、チャンスは大きいとした上で、ゲーム受託制作業務をビジネスとして正しく理解することが、成功の秘訣だと述べました。

まず必要になるのが、取引口座開設とNDA(秘密保持契約)の締結です。ただし1口座につき約1000ドルの社内コストが先方に発生するので、戦略的に口座開設を行うことが必要だとしました。また商談時には1〜2件の案件に絞って、相手に時間を与えること。最初は2〜3枚のコンセプトで良く、キービジュアルが重要なこと。最終的な契約にはプレイアブルデモが原則必要だが、デモ開発のための契約もあるので、交渉次第だとしました。また契約には弁護士を介した契約書の精査が必要で、比較的時間がかかること。その上で契約が成立したら、納期を守って開発を行うことが重要だと強調しました。

社内の開発体制については、基本的には英語ができなくても可能だが、ゲームビジネスの経験は不問でも、バイリンガルのアカウントマネージャが必須だとしました。また正式な企画提案書・開発仕様書に加えて、後述する技術仕様書が必須であること。実制作時には週単位での電話ミーティングに加えて、時には2泊4日でも強行出張が必要であること。さらにα版の前段階の、ファーストプレイアブル版での現地ミーティングが効果的としました。このほか、日本人には苦手な部分だが、論理的な説明のもとに交渉を行うことが重要で、予算や納期変更もロジックが通れば可能だとのことです。

このように、年間100日以上の海外出張をこなしている大信氏ですが、印象としては社内調整にエネルギーの9割を費やしているそうです。トップの理解はあっても現場のモチベーションが低いというのは、海外事業推進責任者が陥りがちな問題で、いかに人を動かすかがポイントだと述べました。そのためには当初、売上が少ない部署を積極的に助けるなども行ったそうです。その上で最終的には、海外事業推進責任者がすべての責任を背負う勇気と実行力が必要だと強調しました。

■為せば成る海外開発

続いてディレクターの溝口氏が実際の開発状況について説明しました。ゲームはWiiリモコンを振り回して遊ぶ野球ゲームで、リトルリーグが題材ですが、演出はメジャーリーグスタイルとなっています。好プレーを行うとパワーゲージが溜まっていき、3段階の必殺技を繰り出せます。またチームのキャプテンは「ゲームブレイカー」と呼ばれる、必ずホームランになる超必殺技が繰り出せ、文字通り一発逆転が狙えます。キャラクターデザインは日本のアニメ調で、これは米側からも日本ならではと好評だったそうです。


開発初期に提示されたキャラクターデザイン

ミニゲームのアイディア。何が受ける理由か、完全には把握できなかったという


もっとも英語がほとんど話せないという溝口氏。当初は「?言葉」「?文化」「?仕事」の3つのギャップを感じていました。しかし、07年10〜11月にプロジェクトが立ち上がり、開発スタートが07年12月。そこから約半年間でマスターアップと、非常に短期間で進行した結果、?は「なんとかなる」、?は「わからない点もあるが、受け入れるように努力する」、?は「まだまだ努力が必要」という印象に変わったそうです。

プロジェクトの立ち上げ時で必要なのは、企画書とプレゼンテーション資料です。海外向けにどのような企画書を書いたらいいかわからなかったため、イメージがつかみやすいようにビジュアル中心で、具体例を多く盛り込みました。また初の海外出張で2泊4日の「弾丸ツアー」を実施したところ、クライアント側から驚かれ、これが「何かあったら、すぐに飛んでくる」と、安心感を与えた部分もあったそうです。おもしろさのツボ、特にユーザーの顔が見えない点も不安材料でしたが、これも実際に会って話すことで、かなり解消することができ、この点でもビジュアル材料は必須でした。もっとも、ギャップには最後まで悩まされたと語ります。

開発作業がスタートすると、次に待ち受けていたのはドキュメント地獄でした。英語からの翻訳作業も加わるため、実感としては2〜6倍になったといいます。メールベースでは混乱するだけで、エクセルファイルで質問や要望を一本化し、英文と日本文を併記して、開発スタッフ全員で閲覧可能にしました。書類を翻訳して提出するまでの作業フローの確立も必須でした。また前提として英文で処理できる部分は英文のままと、翻訳作業をできるだけ少なくすることも必要でした。こうした管理業務が激増した結果、溝口氏も現場のゲームデザインから離れて、ディレクターに専念することになります。

■技術仕様書の作成に苦心

α版の提出において、最重要課題となったのは、前述のGDD(ゲームデザインドキュメント、いわゆる仕様書)と共に、TDD(テクニカルデザインドキュメント、技術仕様書)の提出が必須となる点でした。このうち後者はデザイン・プログラムの技術仕様書や、各部門でのワークフロー、マネジメントの詳細など、これを見ればプロジェクトが再現できるというもので、A4の書類に2枚ずつプリントして、計400ページにのぼる例も珍しくないそうです。とても期間内には間に合わず、最終的に毎週アップデートすることで、β版提出までに何とか間に合わせることになりました。この経験から「日ごろから作業マニュアルを作成することが、時間短縮につながる」と痛感したそうです。

また本案件ではデバックも海外で行われました。アクティビジョンのバグトラッキングシステムが使われましたが、インターフェースから内容まで全て英語となります。もっとも大半のバグはタイトルや概要がわかれば対処可能なので、できるだけ内容が日本語で確認できるように、確認リストを作成するなどして対応しました。一刻を争うバグの場合は、アメリカ時間で朝の4時(日本で夕方6時)に携帯電話を介して担当者をたたき起こしたこともあったそうです。一般的に家庭に仕事を持ち込まないと思われがちですが、逆にいえばこれくらの信頼関係を構築することが、案件成功には必須なのかもしれません。

最後に溝口氏も、論理的な会話を通して、相手と信頼関係を構築することの重要性について強調しました。海外の開発者は、日本の開発者を「クリエイター」としては尊敬しているが、「ビジネスパートナー」としては皆無なので、この構築が不可欠であること。もっともメールや電話だけでは限界があるため、出張によるミーティングや、早めにプレイアブル版を提出できるようにするのが重要で、そのための社内体制構築が課題だとしました。そして「為せば成る」「アセットの重要性」「まずビジネスパーソンであれ」とコメントして、講演を締めくくりました。

このように、本講演は中小ディベロッパーによる海外展開の実例として、非常に興味深く、また明確な内容でした。なお同社は11月にジェトロ(日本貿易振興機構)でも、海外受託開発に関する講演を行うとのことなので、こちらも期待したいところです。
《小野憲史》
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