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【特集】「ゲーム保存協会」とは一体どんな団体?設立15年目となる今年、その歩みと課題、そして展望をルドン・ジョゼフ理事長にたっぷり訊いてみた

ゲーム保存・ゲームアーカイブの最前線でおこなわれている取り組み、そしていま現場で必要されるものとは?協会内部の見学とインタビューをお届けします。

ゲーム 特集
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みなさんはゲームに関してどんな記憶を持っているでしょうか?ゲームを遊んでいたことに限らず、リリースまでにゲーム情報を読んで抱いていたワクワク感、アーケードの空気感や喧噪……きっと読者のみなさんそれぞれのなかにゲームの記憶があるはずで、自分自身の言葉で語ることができるのではないかと思います。

でも私たちが体験してきた「ゲーム」それ自身の記録や記憶はいったい誰が、どのように残していけばよいのでしょうか?

そんな「ゲーム」自身の保存活動をおこなってきたのが、今年で設立から15年目を迎える「ゲーム保存協会」です。今回Game*Sparkでは、特定非営利活動法人(NPO)として長らくゲームの保存・アーカイブ活動をしてきた保存協会から本部に招かれ、その内部を取材。ゲームの保存・アーカイブ活動の現場を見学し、協会理事長であるルドン・ジョゼフ氏へのインタビューをおこないました。

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保存されたソフトの総数はおよそ1万8000本!ゲーム保存協会本部を見学!

ソフトの動作検証用のゲームハードたち

ここからはルドン氏の案内のもと、ゲーム保存協会本部を見学していきます。

フロアは全3階建て。外見は一般的な賃貸住宅と変わらないようにみえますが、専門的なアーカイブと遜色のない設備・環境で保存をおこなっているとのこと。現在の場所に本部が移転してきたのは12年ほど前のこと。海抜が高く、コンクリート造、十分な広さと予算規模を勘案し、現在の場所が選ばれたそうです。

事務所兼研究室となる3階。ここではゲームの記録媒体のマイグレーション作業(デジタル保存)に入る前、その保存作業を決めるための判別がおこなわれています。

ゲームソフトのほとんどは2階に保管されています。ゲーム保存協会が現在メインで保存・アーカイブ作業に注力しているのが、国産マイコン・ホビーパソコンのゲームソフトたち。およそ1万8,000本のソフトが保管されています。光の当たらない暗所で、通年空調を稼働させて温度と湿度が保たれています。

こちらはゲームのデータを記録した媒体が収蔵されている最も貴重な場所。3インチ・5インチ・8インチのフロッピーディスクやカセットテープが補完されています。ここにゲームソフトが入ると、ほぼ「時が止まる」状態になるのだとルドン氏は話します。

現在マイグレーション作業は収蔵ソフトのうち半分ほど進行しており、それだけでも7~8年かかっているそうです。初めは比較的作業のしやすい記録媒体からマイグレーションを開始したため、今後の作業はさらに時間がかかることが予想されるといいます。

「ゲーム保存協会のアーカイブのやり方は、あまり世界の他のアーカイブ、特にゲームアーカイブがなかなか取らない方法を採用しています」と話すルドン氏。ゲームソフトはカバー、パッケージ、記録媒体、マニュアルなどを1セットにして保存するのでなく、それらを分離して保存するという形式をとっているとのこと。これらは保管条件が異なるため、一緒に保管すると劣化が早まってしまうのだそう。

ゲームジャケット専用のファイル。このファイルは日本企業が製造しているアーカイブ専用のものですが、日本ではアーカイブのニーズが少ないためか入手しづらく、アメリカから輸入しているとのこと。また、フロッピー用の容器はアーカイブ機材の専門業者にオーダーメイドで依頼をして取り寄せているそうです。

なお、アーカイブ室は資料を劣化させる原因になるものを入れないようにしています。たとえば保存容器につかう紙素材は、酸化を起こさない中性紙を使い、金属のものには錆を発生させない特殊素材を用いるそうです。

分離保管にはもうひとつメリットがあり、マイグレーション作業の際にスムーズに保存活動ができるということ。たとえばカセットテープのみを作業する人、マニュアルのみを作業する人、といった形でタスクが分業されています。こうしたことを鑑みると、ダイレクトに必要なものにアクセスできたほうがよいという考え方になり、この方式が採用されているとのことでした。

アーカイブされた保存物は「部屋番号→棚→容器→ファイル→番号」といった順で番号管理され、直接アクセスできるようになっています。また、保存協会ではフロッピーディスクのラベルのデジタルスキャンを進めているとのこと。これはデジタルデータベースにおいて重要な情報で、フロッピーの順番(ゲーム進行に応じたディスクの入れ替え)や種類(シナリオ用かデータ用かなど)が示されており、ソフトによって様々なパターンがあるためひとつひとつを目視で確認して登録しているのだといいます。

保管された1万8000本のゲームソフトの半分ほどはいわゆる「ダブり」だそうですが、「実はこのダブリがとても大事な存在なんです」とルドン氏は語ります。その理由はパッケージが同じでも媒体の中身やマニュアルがバージョン違いの可能性があるから。また、マイグレーション作業中に破損していることが判明した場合、もう1本が保険となり、アナログレベルで同じものだと確認できるというメリットもあります。

1階は書斎としてゲーム誌などの書籍が3000冊ほど収められています。こちらでは数年前からは予約をおこなうことで外部の人も使用可能になり、国立国会図書館にも置いていない資料を見ることができます。

保存協会には、この階の書籍を含め全体で約5万冊の蔵書があり、これらのデジタルアーカイブ化を目指しているとのこと。しかし現在の日本の法律や制度上、そのハードルは高いのだそうです。

数年前に保存協会がおこなった調査によれば、ゲーム関連の書籍は日本でこれまでにおよそ6万冊刊行されたとされています。そのうち、国立国会図書館に収蔵されているのは2万冊弱で、それ以外のものは保存協会に保存されているとルドン氏は話します。

日本の法規上、納本制度は義務であり、納本をおこなわなかった場合の罰則規定も定められています。しかし実際にそれが適用された事例は見受けられません。また、国立国会図書館は納本あるいは寄贈されたものを登録することはあっても、現在図書館にない本を探すことはありません。その結果として、納本漏れがしばしば発生する状況にあるようです。

保存協会内部をひと通り紹介してくれたルドン氏は、最後にアーカイブと保存の考えについてこのように語ってくれました。

「私たちは文化保存と言っているのですが、これを民間でやるのか、国でやるのか様々なやり方、メリット・デメリットがあると思います。たとえばゲーム会社が自社の歴史を語る場としてミュージアムを作り、アーカイブを残すのもひとつのやり方です。ただ、そこで他社のゲームを保存・展示することはできませんし、そこで選ばれるものは自分たちの選んだものです。」

検証用のアーケード筐体。「時々、遊び用になります(笑)」とルドン氏。

「私たちはなにも考えずにできるだけ全部残す。ここは割と図書館に近い考え方で、ただ保存することが優先です。たとえば雑誌をスキャンをするために裁断する必要があるならば、それが1冊しか無くても私たちはハサミを入れます。雑誌としては使えなくなってしまいますが、商品なのでもう1冊探せばいいという考え方です。意見が揺らいだら、保存のためになにができるのか、これが優先になります。」

ゲーム保存協会 ルドン・ジョゼフ理事長にインタビュー!

――ゲーム保存協会の成り立ちや活動概要をお聞かせください。

ルドン・ジョゼフ:特定非営利活動法人ゲーム保存協会は、2011年に設立されました。 ただ、実は活動じたいは90年代から開始しています。 設立地は東京の江戸川区でしたが、現在は世田谷区に東京本部を置いています。 正会員は37名、サポーター会員は全世界でおよそ1100名となります。

私たちの目標は日本で販売・発売されたゲームソフトのフィジカルアーカイブとデジタルアーカイブです。 対象は日本で流通したゲームソフトですが、これは最終的に全世界のパブリックのためになる活動だと考えています。

――日本で流通したゲームをアーカイブすることが、ゲーム文化を遺すうえで世界的にも重要ということでしょうか?

ルドン・ジョゼフ:これは90年代の話なんですが、PCエンジン、メガドライブ、スーパーファミコン、それからMSXといったコンシューマーゲーム機は海外にもあったので、たとえ日本にしかないゲームソフトでも海外の人に知られていました。 ただ、日本にしかないゲームソフトはそれだけじゃないんですよね。 いちばん多いのはパソコンのソフト。それから日本にしか出ていないアーケードのソフトや基板などもそれなりに多いんです。この活動を始めた時は、そうした海外になかったゲームソフトを研究して、それらを海外の人に紹介するという活動をしていました。

私は2000年に日本に移住したのですが、その活動をしながらわかったのは「そもそも日本人はこうしたゲームソフトのことを忘れている、あるいは知らない」ということでした。そしてだんだん古いゲームソフトも見かけなくなっていって、ようやく「見つけた!」と思った時にはもう動かないとか、そもそもソフトを動かす環境の情報が見つからないんです。

日本で他に活動をやっている所がない以上、ゲーム保存活動は必要だなと思い立ちました。 ゲーム保存協会は日本のゲームをスコープに入れて活動していますが、これは海外のためとか日本のためというより、ゲームの歴史のためにおこなっています。ゲームの文化はもう音楽とかと同じで、たとえばモーツァルトはオーストリア出身の音楽家ですが、文化的にはもう国は関係ないんですよね。 これは世界の遺産なので、ゲームも同じく残したいという思いで活動しています。

――そうした「日本人が忘れている」タイトルも含め、世界的に見た場合日本のゲーム保存はどのような状況なのでしょうか?

ルドン・ジョゼフ:ちょっと厳しいことを言うようですが、歴史的に日本はゲームに限らず、自国の文化やものを残すのがあまり得意ではないのかもしれません。ここには文化の違い、考え方の違いがあると思います。でも結果としてなかなか残されないというのは事実ですよね。

日本のゲームに関しては、80年代から日本のソフトを熱心に集めてコレクションにしてるのはヨーロッパです。 特にフランス、イギリス、イタリアなどですね。これも文化の違いで、博物館とかアーカイブといったものが好きな国民性なんです。 それもあって長年ヨーロッパで日本のゲームのコレクションしている人はいたんですが、最近はすこし新しい現象が起きていて、アメリカの人たちが自国になかったゲームソフトにとても興味を持つようになっています。

最近はどちらというと日本のレトロゲームにいちばん熱心で、関心があるのはアメリカなんじゃないかなと。ちょっと悔しいけど事実なんです。 協会のサポーター会員の数で考えると、長らく日本国内のサポーターがほとんどで、フランス、イギリス、イタリアといったヨーロッパの会員が若干いたんですが、ここ1~2年で圧倒的に英語圏のサポーターが増えて、半分以上になりましたね。

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――先ほどサポーター会員はおよそ1,100名とおっしゃっていましたが、その半分以上ですか?

ルドン・ジョゼフ:おそらく60パーセントくらい。私もびっくりしました。なぜ驚いたかといえば、前提としてアメリカには「アメリカになかったら存在しない」という考え方があると思っていたからです。たとえば『ゼルダの伝説』はアメリカではヨーロッパや日本以上にすごく国民的なゲームなんです。日本の『ゼルダの伝説』とアメリカの『The Legend of Zelda』は商品としてはおなじだけど、やっぱり文化的には違う。そのためアメリカ人は長らく『The Legend of Zelda』にしか興味がない……そう思っていたのですが、最近になって「日本はファミコンディスクシステムなの?」「音が違うの?」といったことにアメリカ人もこだわるようになって、これは私にとってはすごく新鮮に感じます。

これはすごくいいことだと思います。日本のゲームや作品の歴史、そういったものに多くの人が興味を持つようになったからです。私たちのやっている活動が理解されるまでもっと時間がかかると思っていましたが、その波が海外から来たんです。

――文脈が理解されるようになったのですね。

ルドン・ジョゼフ:また、大学の中のゲームスタディなどで、留学生や研究者がわざわざ協会に訪問しに来るといったことも増えています。なぜならネットで調べても情報が少ないからです。最近はAIなどで日本語も翻訳できるため、言語が障害になって届いていないということはありません。そもそも情報が少ないか、あっても個人ブログの記事などの信用しづらいものなんです。研究者としてはソースがないと困りますからね。それもあって、少しずつ日本国内のレトロゲームをアーカイブする必要性・重要性が、世界に理解されるようになってきました。

――そうした人々が一次情報にアクセスできる場所としてゲーム保存協会が役割を果たしているのですね。では、実際のゲーム保存の活動において、現状不足していると感じる要素、たとえば技術や人材などはありますか?

ルドン・ジョゼフ:いい質問ですね。先ほども言いましたが、私たちは協会の設立前から活動していました。そこで何をやっていたのかというと、準備をしていたんです。準備というのは、データベース作成、ゲームの収集、そして必要な技術の開発の3つです。これらが揃い、公に活動できるレベルになった段階で協会を法人化しました。長年私たちはいま言った3つのことにずっと力を入れていました。そこからアーカイブ保存作業にシフトしたのは、だいたい8年ほど前からです。そしていま不足しているのは、時間です。技術は一番のハードルではなく、時間との戦いなのでペースを上げないといけない、ということですね。

私たちや正会員の方々はエンジニアの塊なので楽しくやっていますが、実際にフロッピー1枚1枚、カセットテープ1個1個を確認したり、棚卸したり、デジタル化したり……としているとものすごく時間が掛かってしまいます。非営利活動のベースはボランティアなので、ふだんは私も含めて全員仕事があり、時間がある時に保存作業をおこないます。でもそれだと、冷静に計算すると私たちが生きているうちには作業が間に合わないんです。時間とともに劣化していってしまうので、既に手を付けるには遅くなっているゲームもあります。時間との戦いなのでペースを上げないといけず、ボランティアでは限界があるので、仕事としてやるしかないんです。

そうなってくると、私たちに不足しているのは予算です。保存協会は収益事業を行わないスタイルの完全非営利の団体なので、100パーセントサポーターのみなさんの会費で活動しています。会費によって保存作業の一部を作業員に任せることはできるのですが、まだペースとしては遅いです。救いがあるのは文化庁からの補助金事業で、これが採択されると一時的に、6ヵ月間はペースアップできます。

ですので、いま必要なのはサポーターですね。お金が必要というより、サポーターが増えるとそれで予算も増えるので、ここがいま一番ネックになっています。それと、大体みんな困っているのは場所の問題ですね。私たちは運よくクリアできていて、本部と支部をキープできていれば問題なく活動ができます。ここもお金の力という話になってしまいますが、ひとつ私から言えるのは、この場所も活動自体も本当に無駄のないやり方で、少ない予算でものすごくたくさんの保存ができているということです。ここはおそらく、国や普通の会社よりも強いところなんじゃないかなと思います。

――先ほど手を付けるには遅くなってしまっているゲームがあるとおっしゃっていましたが、現状でもう保存作業が難しいメディアはありますか?

ルドン・ジョゼフ:日本で一番ハードルが高いのは空調管理です。これは日本だけの問題ではないのですが、特に日本では梅雨の時期、一般家庭の押し入れに媒体を置いたら、普通は1年でカビが生えます。私たちのもとに届くパソコンのソフトは大体が中古品でしかも80年代、下手をしたら70年代のものです。8割……いや、ほぼ100パーセントカビが生えていて、目立つカビは7割ほど、そもそもカビが肉眼では見えないものも結構あります。そしてカビの生えたフロッピーを読み込んでしまうとフロッピーだけでなく、ドライブも壊れてしまいます。ですので、ここはものすごく時間をかけながら、私たちが開発した技術をもとに、ケースバイケースで1枚1枚、1個1個作業を進めています。

劣化はある程度進んでいるので、さらに手間が掛かり、時間が経つほど保存のハードルは高くなってしまう。それは人間の作ったもの全てがそうなんですよね。皮肉な話なのですが、媒体は古いほど丈夫なんです。カセットテープは多少歪んでいたり、カビが発生していたりしてもどうにかなるんですが、CD‐ROMは劣化が始まったらもうアウトですね。最近はそういうことが世界のアーカイブ団体でも騒がれています。

――意外な気がしますが、カセットテープは意外と丈夫なんですね。

ルドン・ジョゼフ:カセットテープはケースが付いているし、それ自体が中の磁気テープを守るような構造ですよね。それと、一般的にテクノロジーは進歩するほど小さくなる、そして安価に作る、このふたつなんです。そうすると結果として最近作られているメディアは保たないということが分かります。

たとえばCD-ROMからBlu-ray Discまでの進歩を見ると、おおむねベースのテクノロジーは同じなんですが、同じ大きさにたくさんのデータを記録することができるようになっていく。それは物理的にデータの記録領域をだんだん小さくして行ったり、もしくはレイヤーを増やしたりしていくことで可能になったものです。でもその結果、温度変化を繰り返すと物理的に早く劣化してしまう。

そしてハードウェアなら基板、マザーボードです。最近のゲームが早く壊れてしまうのはチップにしても回路にしても余裕がないからです。ファミコンはなかなか壊れないし、何かあっても修理ができるんですが、PlayStation 5をどこまで修理できるのかというと、限界がすぐに来てしまうんですね。

――ゲーム保存協会では、フィーチャーフォン、いわゆる「ガラケー」用のゲームの保存に向けて、携帯電話本体の保存を呼びかけられています。その保存においての課題があればお聞かせください。

ルドン・ジョゼフ:ガラケー用ゲームの保存はまったく新しい世界ですね。実は私たちは協会を設立した2011年の時点でも、そのことについて考えていました。当時はまだガラケーでゲームをプレイしている人もある程度いましたが、その保存に着手するとなると、なんらかの問題になるかもしれないというリスクがありました。というのも、ガラケーのメモリー内にプロテクトされたゲームのデータが入っているため、取り出すとなるとハッキングになります。でも、何もしないと、サービスが終了したら大事なゲーム文化が消えてしまう。

そこで私たちはファーストステップとして、できるだけガラケーを集めることにしました。2013年~2014年あたりはトラックをレンタルして全国のハードオフを回り、データの中身を知らないままのものでもたくさん集めました。当時中古のガラケーはまとめて100円コーナーに集まっているような時期でした。ただそれも、東京オリンピック開催にちなんだ都市鉱山の話題のあとは、一気に消えてしまいました。逆に残ったものも、記念物になってしまったり、値段が上がったりして、先ほどのような作戦では集められなくなってしまいました。

ゲーム保存協会ではガラケーの保管を呼び掛けている(ゲーム保存協会ニュースレター GPS News December 2025 Vol.27より)

私たちが持っているものはまず技術的には保存は可能なのか、これについて色々挑戦やハードルがあったので、ここで海外の開発チームと組みました。ガラケーには必ずメンテナンス用のモードがついていて、本体の電源が入っていなくとも中のメモリーを引き抜ける設備があります。 携帯電話メーカーのショップでは自分の携帯を接続してデータを取り出せたんですよね。これならハッキングをしなくてもメモリーを読み込むことができます。 メモリーの中には個人のデータもあるとは思うんですが、まずは中古市場で入手した携帯電話のメモリーを、消える前に一旦移しましょうっていうやり方ですよね。

そこまでは成功しましたが、じゃあ物理的にはできるけど、どうしたらいいのかというのが、まさに今の課題です。そもそも法的にその作業をやっていいのか、法的な枠組みがあるのかが決まっていない。フロッピーディスクの保存作業に関しては文化庁も認めているし、いくつか条件に従えばいいんですけど、ガラケーは誰にも答えられないんです。法的にグレーな場合、やっていいのかまだわからないところなので、まだ次のステップはいけないんです。

だから私たちは国内に対しては「待っててね、捨てないでね」っていうワンクッションを入れたんですよね。 海外のほうはまたちょっと条件が変わっていて、 熱心にオークションでガラケーを買って、メンテナンスモードを使って、データを引き抜いて、プロテクトを潰してでもインターネットアーカイブにアップするという動きが目立ってきていますね。これは海外だから、フェアユースがあるからこそできることなんですが、日本国内ではできないんです。

ここでの考え方はふたつに分かれます。ひとつはいま言ったように海外に任せる考え方。もうひとつは、日本国内でやるべきという考え方。 その場合、例えば弁護士の力や、著作権について文化庁とやり取りができるといったことが重要で、そのためには時間=お金が必要ですよね。 私たちは技術作業はできるんですが、残念ながらプロボノ(公益のためスキルを無償提供する専門家)の弁護士はなかなかいないので、そういうところは弱いというか、サポートが必要なんですよね。 ですので、何らかの形でプロボノやアドバイスなどが来てくれたら、ものすごくありがたいです。

――フィジカルのメディアからデジタルデータに移行して保存する際に注意していることはありますか?

ルドン・ジョゼフ:テクニカルな話になってしまうとおそらく伝わらないと思いますので、わかりやすく「本」のデジタルデータ化を例にとります。 文字がある紙媒体を保存する際、デジタル化する必要があります。 でもそれは、ただ文字を引き抜くような作業ではないんですよ。 まず撮影してスキャン画像にして、その画像を分析して、文字化、テキスト化するんです。

私たちにとってはゲームのデータも全く同じ考え方です。マイグレーションというのは、データのマイグレーションではなくてアナログ的な部分を指します。 フロッピーは磁気媒体なので、フロッピーの中の磁気をそのままアナログ的にサンプリングします。カセットテープの録音みたいな感じですね。 これさえやれば、媒体が死んでも保存や復刻をするための十分な情報が残っています。 私たちは優先的にやっているのは実はこれなんです。 そこからは解析したり、アナライザーを使ったりして、取得したアナログデータがデジタルに変換しても大丈夫なのかを検証します。 たとえばフロッピーに物理的な損傷が入っていたら、途中で信号にノイズが生じます。そういうものをアナライザーで見ていって、問題がなければひとまずは完全なデジタル化ができたといえます。これを私たちは「リマスター」と言っています。

たとえば将来ニーズがあったら、権利者やゲーム会社から依頼が来て、「権利を持っていてゲームを復刻したいけれど、そもそも実物がない」ということがあるかもしれません。そうした場合に「ソフトは保存協会にあります。データが確認できました。ではリマスターをしましょう。」とか、そういう流れも考えられます。 ですので、まず一番優先なのは、アナログ的な部分を記録することですよね。

カセットテープの録音、本のスキャン、 これらは全てマイグレーションです。元のものがなくなってもOKというような考え方です。 そのマイグレーションの成果物にもいろんな使い方があるんですよね。 私たちはその成果物のことを「生データ」と呼んでるんですが、非常にサイズが大きいんです。たとえば本のスキャンなら1200dpiで1ページを取り込んだら1ギガバイトほどのとんでもないサイズになります。これがOCRにかけられてテキスト化されると、数キロバイトに収まるんですよね。

――こうしてデジタル化したデータはどちらかに保存してると思うのですが、それらが失われないようにする対策などはされていますか?

ルドン・ジョゼフ:これはゲーム保存協会だけではなく全人類の課題ですよね。テクノロジーが進歩しすぎて、いまはもう何を作ってもほぼデジタルボーンです。大量のデータ、マイグレーションしてきた成果物、生データやリマスターをしたものなどを、どう保存するのかという別の課題があります。ハードディスクもいつかは壊れますよね。困るのは、せめて100年は持つ、そんな記録媒体がない、もしくはとても非現実的なやり方になるということです。

ですので、新しいテクノロジーが開発されるまで、バックアップを取り続けたり、ミラーリングで2か所にデータを置いたりといったことを、ずっと気を付けながらやらないといけないんです。 私たちはその点で言えば、データはすべて本部に集中していて、2か所には置いていないんです。バックアップもあるんですが、全部1か所にあるので、もしここで火災が起こったら15年分の活動のデータはすべて失われてしまいます。

だからといってもう1か所サーバーを建てるとなると 200万円ぐらいはかかってしまいます。そこまでの予算はないので、そこはリスキーな状態です。 いま200テラバイトほどのデータがありますが、クラウド保存はコスト的にまず無理ですね。とはいえ15年前は100テラバイトの容量でも現実的じゃなかったんですが、現在は200テラバイトでも「こんなものか」という感覚です。まったく超えられないハードルでもないので、そこはいいところだと思います。

――ゲーム保存協会ではトークイベント「伝説のゲームクリエイターに聞く」を無料で開催されています。こちらのイベントを開催していることについての意義やお考えについてお聞かせください。

ルドン・ジョゼフ:ゲーム保存協会の定款を見ると、私たちには3つのミッションがあります。簡単に言うと、1個目が保存・研究・保存作業そのものです。2個目のミッションはその情報提供、共有っていうものですよね。 イベント開催はこのミッションに入ります。 3番目のミッションは協力。これは私たちだけでは活動はできないし、アーカイブというのはいろんな人が利用する、ニーズがあるものなんですね。 権利者、会社、パブリック、こうしたものに協力的な形で保存研究をやらないといけないんですよね。

イベントに関してですが、最初はコミュニケーション・情報の発信としてニュースレターという形を採っていました。ただもう少し、単なる活動の情報ではなくてプラスになるような、なにかキュレーションが入るところで語れるんじゃないかなと思いはじめました。 幸い保存協会には様々なネットワークや資料がありますし、それを語れる名誉会員の方々も在籍している。であれば、そうした方々に語ってもらおうということでトークイベントを開催することにしたんです。

――私も前回開催の中村光一さんが登壇されたトークイベントに初めて参加したのですが、とても貴重なお話が伺えるのにも関わらず、無料で開催されていることに驚きました。

ルドン・ジョゼフ:非営利団体ですから、お金を取ると収益事業にシフトしてしまいます。結局限られた人、たとえば正会員のみ参加のイベントにしてしまうとこれはNPOじゃなくて単なるクラブになってしまうので。今回のイベントはすごくバランスを取れたなと思います。 200名ぐらいのホールを借りてほぼ満席になりましたが、見に行きたい人は見に行けるちょうどいいバランスだったと思いますね。お金がかかるとか、会員にならないといけないとか、こういったハードルは全くありません。

ただ、私たちはホールを借りて、準備に半年以上の時間をかけています。 登壇するクリエイターが携わった作品を全部最後まで遊んだり、今までに出たインタビューを全部読んだり……ここは真面目にやっています。NPOというのはほとんど賛助会員、サポーター会員の会費で活動していて、そのリターンは全世界へ、というやり方ですよね。 目標は、私たちが公共のためにできることをするということです。それに保存協会とのコミュニケーションにもなりますよね。 やっぱり私たちのミッションは正しいゲームの歴史を残すことなので、こういったイベントはすごく良い情報を表に出すきっかけになる、特に魅力があるものになっているのかなと思います。

そして、もしこうしたイベントやコンテンツに関心があるのなら、サポーターになることでそれらが増える可能性があります。 たとえば、ドキュメンタリー映像。 じつは私たちはこれまでにドキュメンタリーを2作出しているんです。 どちらも評判や反応は良かったけれど、ドキュメンタリー制作の予算は桁違いなので、予算的には少し足りない。 これでサポーターが増えるんじゃないかなと期待していたところがあったんですが、そうはなりませんでした。

日本のゲームの歴史と文化に影響を与えたゲーム、出来事、人物に焦点を当てたドキュメンタリーシリーズ「geimu(芸夢)」

それはもしかしたらコミュニケーションが弱かったからかもしれません。 しかしサポーターが増えれば、イベント、ドキュメンタリー映像、 資料や本の出版などの機会も増えていきます。そういった面をみなさんにお伝えしたいです。

――最後に、今後のゲーム保存協会の展望についてお伺いできればと思うのですが、いかがでしょうか?

ルドン・ジョゼフ:もう少しみなさんに向けてコンテンツを出しましょうということで、実は今月(3月)から始まったばかりの企画があります。ゲーム保存協会の公式サイト、YouTube、X、Instagramでショート動画+記事を発信しています。毎週1本ずつアーカイブされたソフトについて発信していき、1か月後にそれらが共通のテーマに沿って発信されていたことが明かされるというものです。保存協会にはなかなか見かけないゲームソフトのアーカイブがせっかくありますし、ゲームの歴史のことを語れるきっかけになるので、それで盛り上がるんじゃないかと思っています。選んでいるゲームソフトは保存協会でデジタル化しているものですし、ショート動画のサムネイルのパッケージなども引用の範囲で、コピーライトも載せているので法的にクリアなやり方です。

この情報発信についてはいくつかの考えがあります。ひとつはゲーム保存協会を知らなかった人に届いたり、そこからサポーターになってくれる方がいるかもしれないということ。そしてもうひとつ、この情報発信じたいが私たちのミッションなんです。 情報発信というのはお金をもらうからコンテンツを作るのではなくて、私たちはそもそもそれをやらなくてはいけないんです。そしてやるなら、面白みのある形でやりましょうということですね。

また、私たちはデジタルアーカイブやカタログの作成を目指しています。そういったデータベースはどんなゲームソフトが出ていたのかをリサーチするのに非常に重要です。ただ、データベースってテキストだけで地味なんですよね。 現代のほとんどの人々、特に若い人たちは、テキスト、ウェブサイト、データベースよりも動画なんです。そこでデジタルアーカイブにパッケージの画像や動画を少しずつ追加していっています。 そういう意味でもショート動画を発信するこの取り組みは一石二鳥。保存協会のデータベースに情報が集約されているので、ロングスパンで考えればリサーチにも役立ちます。

でも週1回ペースでやっていると、100年以上はかかりますね(笑)。 いまはダイジェストとして発信しながら私たちも学んでいるところです。予算次第ですが、たとえばこの企画がすごく良いので、毎日1本やりましょうとなったらいいなと。いまはまだ現実的ではないんですけど、最終的にそれが理想ですよね。

本当は、誰かが保存協会のアーカイブを使ってコンテンツを作ることができればいいんですが、なかなかそこまではきていないのが現状です。 ここ(保存協会本部)は結局予約を入れないと来られず、まだパブリックな資料館にはなっていませんからね。だからそうなるまでの間、こうした形で私たち自身が発信していく必要があります。

――ありがとうございました。

記事中にもあるように、ゲーム保存協会のスコープは日本で流通したゲームソフト、現在ではそのなかでも国内のホビーパソコンのタイトルがメインとなっています。しかしそれらが保存活動の中心になっているのは、時間と媒体の性質上、いままさに失われるか否かの瀬戸際にあるからなのでしょう。今からたった十余年前のガラケー向けゲームですら、いつ頃からか忘れられつつある存在になっていました。どんな記録も記憶も「未来に残す」意思がなければ、つねに失われる危機に晒され続けているのだと、今回の取材を通して筆者は感じました。

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《林與五右衛門》
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