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マリオ、ドラクエ、ポケモン…日本ゲーム史を作ったクリエイターたちの裏の顔

世界中で40年間にわたって愛され続けた日本のゲーム文化。ドラクエやポケモンなど、いまも新作が作られプレイされ続けています。

任天堂 Nintendo Switch
とみさわ昭仁氏が初めて参加したときの「ファミコン神拳」
  • とみさわ昭仁氏が初めて参加したときの「ファミコン神拳」
  • とみさわ昭仁氏。昭和の伝説のミニコミ誌『よい子の歌謡曲』で連載を持ったあと、芸能ライター、フリーライターを経てゲーム制作者に。当時は、堀井雄二氏(ドラクエ)、さくまあきら氏(桃鉄)など、フリーライターからゲーム作家に転じた例がいくつもあった。
  • とみさわ昭仁氏がゲームに関わったのは、「オタク」という言葉を発明した伝説のミニコミ誌『東京おとなクラブ』編集長エンドウ氏の誘いで雑誌『スコラ』にファミコン関連記事を作るようになったこと。エンドウ氏は、のちにアスキーに入社して月刊アスキーの編集長となるが、その課程でとみさわ氏もファミ通編集部を紹介してもらい、ゲームフリーク田尻氏と出会うきっかけとなった。
  • 『勇者と戦車とモンスター -1978~2018☆ぼくのゲーム40年』2021年12月20日発売

世界中で40年間にわたって愛され続けた日本のゲーム文化。ドラクエやポケモンなど、いまも新作が作られプレイされ続けています。

そんな名作の誕生と発展にゲームデザイナーとフリーライターの2つの顔を持ちながら関わり続けたとみさわ昭仁さんが、黎明期のゲーム作りの裏側をちょっとだけ明かしてくれました。

マリオの父・宮本茂の「対応」

時は1986年。任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』が大ヒットしたことで、フ

ァミコンが社会現象とも言えるほどのブームを巻き起こしていた。その影響は出版界にも波及し、本来ゲームとは無関係の雑誌も、続々とファミコンの特集を組むなどしていた。

そんな折、芸能関係の仕事を中心にやっていたある駆け出しライターの元に、アイドル雑誌「Momoco」で知られる学研から仕事の依頼があった。いま話題の『スーパーマリオブラザーズ』で主役を務めるマリオに焦点を当て、その歴史を紹介する記事を作ってほしいと言うのだ。

ゲーム業界の事情に詳しくないそのライターは、とりあえず資料を集め、大まかな構成を考えた。マリオが登場するすべてのゲーム、マリオ関連グッズ、レコードなどなど……。そのうえで、やはり任天堂の広報にも話を聞くべきだろうと、代表の番号べて電話をかける。呼び出し音が数回鳴ったのち、すぐに電話はつながった。

用件を伝えると、受付の女性は「では担当の者に代わりますので、少々お待ちください」と言い、電話を保留にする。それから待つこと数分、相手が出た。

「もしもし、お電話代わりました。ミヤモトです」

そう、マリオの父こと、宮本茂本人がいきなり電話に出たのだ。いまなら、駆け出しのライターが「世界のミヤモト」のインタビューを取ってきたら大手柄だ。鼻高々になってもおかしくない。しかし、そのときはなんということもなかった。そんなのんびりとした時代だったのだ──。

ドラクエ堀井雄二の「裏技」

週刊少年ジャンプの人気連載「ファミコン神拳」で、メンバーが打ち合わせの席で雑談をしていたときのこと。話題はいつの間にか『ドラゴンクエスト』のことになった。すでに知られているように、「ファミコン神拳」の「ゆう帝」とは、『ドラクエ』の作者である堀井雄二氏の変名だ。

新メンバーのカルロスは、ゆう帝に向かって「戦闘で体力がヤバくなると文字が赤くなるでしょう? あれが緊迫感あっていいんですよねえ」と言った。ゆう帝はフムフムと話を聞いている。憧れのクリエイターと話せることに気をよくしたカルロスは、調子に乗ってさらにこんなことを言う。

「文字が赤くなるのはいいんですけど、ウインドウの枠まで赤くしちゃうのは、ちょっとやりすぎじゃありませんか?」

当時のカルロスはファミコンの性能に関する知識が乏しく、わかっていなかった。ファミコンでは、表示している文字の色を変えたら、その周囲にあるウインドウの枠線も同じ色になってしまうことを。体力表示の白い文字を赤に変えたなら、その他の白い部分──ウインドウの枠線も、海の波しぶきも、モンスターの白目も、みんな赤くなる。それがファミコンというものなのだ。そんな無知な後輩の言葉に、ゆう帝は静かにこう答えた。

「カルロス、あれはね、勇者の目に血が入って視界が真っ赤に染まったんだよ……」

カラーパレットを切り替えると、白い部分はすべて赤に変わってしまう。それはファミコンの仕様上、避けようのない現象だ。けれど、それを「仕方ない」で済ますのではなく、「目に血が入った」という冒険者のリアルに置き換えてみせる。この説得力、天才・堀井雄二のイリュージョンに、カルロスはすっかり魅了させられた──。

ポケモン田尻智の「偏愛」

あの『ポケモン』を作った田尻智が、まだアマチュアだった頃。ゲームフリーク(のちに会社となりポケモンなどを生みだしていく)の仲間である「T」と二人で京都までドライブしたことがある。目的は、仕事で京都へ転勤している友人に会うことと、そのついでに現地でお気に入りのバンドのライブや、映画の上映会を見るためだ。

当時の二人には、京都までの往復に新幹線を使えるほど経済的な余裕はなかった。そこで、運転好きの田尻が所有する中古車に乗って行くことにした。東京から京都へは、東名高速を利用すれば6時間ほどで着くのだが、彼らは高速料金も節約するために一般道だけを選んで走っていった。

夕方に東京を出発して一晩中走り続け、京都に着いたのは翌日の朝だ。免許を持っていない「T」はずっと助手席に座ったまま。何もしないでいると、どうしても眠くなってしまうもので、「T」は何度となく居眠りをしてしまったが、田尻は一睡もせずに運転を続けた。

いくら運転が好きだといっても、あまりにタフすぎる。ひたすらハンドルを握る田尻に、「T」は聞いてみた。そんなに運転し続けていてつらくないのか? と。すると、彼はこう答えたのだ。

「つらくないっスよ。『アウトラン』やってると思えば、ぜんぜん楽しい!」

こりゃ、彼には永遠に勝てないなと、「T」は思ったという。田尻智は、心からゲームを愛し、ゲームの神様に愛された人間なのだ──。

※『アウトラン(OUT RUN)』セガのドライブゲーム。ハンドルとペダルが付いた車体型アーケードマシン用だったが、後に家庭用ゲーム機にも移植された。

 ※   ※   ※

というわけで、まるで他人事のように書いてきましたが、駆け出しの芸能ライターで、「ファミコン神拳」のカルロスで、ゲームフリークの「T」でもあった、とみさわ昭仁です。今回インサイド編集部よりファミコン初期の裏話を明かして欲しい、とお声がけをいただき、ここに参上した次第です。

高校生のときに『スペースインベーダー』と出会って以来、ずっぽりとゲームの魅力にハマり、ゲーム雑誌が乱立し始めた時代にゲームライターになり、さまざまな出会いの元に自分でもゲームを作る側に回り、天才的ゲームクリエイターたちの仕事ぶりを見てきました。そんな彼らのユニークな面、人間らしい面が少しでも伝わればと思います。


とみさわ昭仁(とみさわ・あきひと)
1961年、東京生まれ。芸能ライターから、週刊ジャンプ「ファミコン神拳」などのゲーム記事に携わるようになる。ゲーム『メタルマックス』制作に参加した後、ゲームフリーク代表・田尻智と意気投合して入社。初期から中期のポケモン制作に関わった。近年は、神保町で特殊古書店「マニタ書房」を経営したり、ライターとしても書評、映画評、ゲームシナリオ、漫画原作などの分野で執筆。ユニークな歌謡曲レコードのコレクターとしてテレビ・ラジオに出演することも。最新刊にマンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出」全200巻からゲームネタを集めた「こちゲー ~こち亀とゲーム~」(集英社)。


とみさわ昭仁氏の新刊『勇者と戦車とモンスター 1978~2018☆ぼくのゲーム40年史』12月20日、駒草出版より発売。今回紹介いただいたエピソードを始めとして日本のゲーム史40年(の一部)が、独特の視点で描かれています。


《とみさわ昭仁》
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