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『テイルコンチェルト』設定資料集発売記念インタビュー!いま明かされる三つの十字架、そして松山洋の本音とは

1998年にバンダイ(現バンダイナムコゲームス)から発売されたプレイステーション用ソフト『テイルコンチェルト』は、「イヌヒト」と「ネコヒト」が暮らす浮遊大陸を舞台に、ワッフルたちが挑む冒険を描いた3Dアクションゲームです。

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◆最初の街だけで半年を費やした『テイルコンチェルト』




松山氏:プロトタイプとして作ったものは、ぶっちゃけ本当に『マリオ64』みたいな箱庭で広大な世界を作ったんですよ。ドラマ性は何もなくて、凄い高いタワーとか作ったり(笑)。とことんストイックなアクションゲームでしたが、あまりに世界が広すぎて、コネコを掴まえにいくまでの間がスカスカでしたね。ほぼ床と壁、みたいな(笑)。

──おお…! 製品版と全然違いますね(笑)。

松山氏:すっごく遠くの方に、点みたいなコネコが見えるんですけど、「あれを捕まえるの?」みたいな(笑)。もちろん、アクションの仕組みを模索するために作った実験的な意味合いもあったんですけど、「これ、ドラマ性をちっとも感じんわ!」って(笑)。

新里氏:企画書を作る上でも、WAKAが色々と絵を描いてくれたんですけど、その中にアリシアなどのキャラクターや、空中に浮かんでいる街とか。

松山氏:浮遊大陸とかね。

新里氏:ええ、その上に森や木があり、街があって……その絵がすごく素敵だったんですよ。そのビジュアルと、プロトタイプで作ったものの落差がひどくて、軽く絶望したんですよ(笑)。とはいえ、置けるオブジェクトには限界がありますし、(広大な箱庭と両立するには)砂漠みたいな世界になってしまうんですよね。そのため「密度感」をどう作るかすごく苦労しましたね。

松山氏:当時の私は、ゲームグラフィックをやりながら、どこに何を置くかといった、今で言うレベルデザインもやってたんですけど、一番最初に作ったのは「レサーカの街」っていう物語の始まる場所だったんです。で、製品版に入っているのは、4つ目の「レサーカの街」でした。



──4つ目!? ということは、3つ分の街がボツになったわけですか。

松山氏:はい、3つ捨てて作り直して、4つ目に出来上がったものが製品版に入っています。屋根や壁の高さ、走り始めるとちょっとカメラが引き、コネコを追いかけると床がどれくらい見えるか、そして建物と建物の間から青い空と白い雲が(ちょうどよく)見えるバランスが生み出せるのか。その部分に結構時間がかかりました。

──こだわり抜いた街作りだったんですね。

松山氏:デフォルメするのは簡単なんですよ。けど、どこまでデフォルメすれば情報密度として適切なのか、(ルールも含めて)最初のステージで「これだ!」って決まるまで半年以上かかりました。絵面とアクションのバランス取りに悩みましたね。

その結果、どこのシーンで写真を撮ってもドラマを感じるというか、世界観が感じられるというものに到達して……さあ、時間がやべえぞ、と(笑)。だって1個目のステージ作るのに半年以上かけてるわけですから。残り時間はやばかったですねぇ。開発のそれぞれが同時に何足もワラジを履いてるような状態でした。企画も新里ひとりでしたから、仕様とかマップもみんなでちょっとずつ手伝ったりして。

新里氏:ステージのレベルデザインや、ゲームとしてどう遊ばせるか、あとはシナリオやアニメを発注する絵コンテもですね。他にいないので(笑)。それと、キャラクターの顔グラフィックは別の人が担当していたんですが、そのドット打ちもしましたね。


──それぞれが担当した部分はもちろん、それ以外のものも出来る限り良くしようとお互い関わり合って生まれたんですね。

松山氏:当時は、そういう(モノ作りをする)最後の時代だったんじゃないかなと思いますね。発売まで約1年半ということは、実質的な開発期間は1年4ヶ月くらい。しかし最初の1ステージを作るのに6ヶ月以上かけてますし、調整やデバッグも必要ですから、8ヶ月くらいで残りの全部を作りました。

──まさに目が回るような日々ですね。それだけに制作の手応えなども大きそうですが、いかがでしたか。

松山氏:『テイルコンチェルト』に対して、バンダイさんはすごく期待してくれていたんですよ。当時のプロデューサーさんにも「まさか『マリオ64』のようなゲームがプレイステーションで遊べるとは!」「それだけじゃない、この作品には世界観もドラマもある、これは絶対に売れるぞ」と言ってもらえましたし。

制作当時も、プロトタイプを持ち込んだり進捗を報告に行くたび、(バンダイの)会議室に人が増えていったんです。大勢の方が見たり触ったりして、すごく褒めてくれるんですよ。その期待が嬉しくて、もっと喜んでもらおうと開発の士気も上がりましたね。

──ちなみに、バンダイさんから要望や要請はありましたか?

松山氏:ヒロイン濃度が足りない、ということは言われましたね。当時アリシアはいたんですけど、もっとヒロインを増やしてドラマを盛り上げて欲しいと。そこから三姉妹が生まれましたが、頂いた要望はそれくらいでしたね。

──あとはほとんど「おまかせ」で、バンダイさんは期待感が高まるばかりだったと。

松山氏:そうですね。そしてPVが完成して、当時行っていた受注会に出したんです。問屋さんやバイヤーさんが集まる商談の場ですね。そこでPVの上映会をやったんですけど、面白そうだし、売れそうだし、これはいけると(いう感じでした)。自分たちも手応えを感じていたので、確信していました。

そして、フタを開けてみたら……もちろん売れたんですよ。日本国内で、9万7千本でした。少人数で作っているのもあり、損益分岐点は超えているんですよ。ただ……我々的にもバンダイさん的にも、期待値的には30万くらいの感じだったんですよ。しかしいざ受注を取ってみると、どうも数字が集まらない。

──期待したほどの出足ではなかったと。

松山氏:でもまぁリピートというのもありますし、そこに期待しましょうとなったんですが、先ほど話した通り9万7千本という結果でした。「……ひょっとしたらこれ、一部のお客様に喜んでもらえるタイプのゲームなのかな?」と後になって感じましたね。


◆『テイルコンチェルト』で明らかになった「3つの十字架」


──開発のきっかけからリリースまで、苦労や経験などを聞かせていただきましたが、本作が登場してから約17年経っていながらも、『テイルコンチェルト』は今も根強い支持を受けています。多くの方に愛され続けている理由は、どこにあるとお考えでしょうか。

松山氏:私たちが本作を作るに当たって、「懐かしくて新しい物語」といったキーワードを掲げていたんです。3Dポリゴンによる新しい体験と、『テイルコンチェルト』が持っている優しい雰囲気やドラマ性という、我々としては王道中の王道を作ったつもりでした。

──はい。

松山氏:ですが(売上を見てみると)、どうやら王道ではなかった……ようですね(笑)。しかし『テイルコンチェルト』は、もっと活躍できるタイトルだったという想いがあったんです。我々が色々と足りなかったけども、この世界はまだ終わらせたくない。そんな気持ちから、「リトルテイルブロンクス」構想を立ち上げました。

(世界観を共有する)『Solatorobo それからCODAへ』に着手するまでに10年間ありまして、その間にいろいろ準備を進めてきました。『テイルコンチェルト』続編の話を色んなメーカーさんのところへ持ち込みましたが、「(期待されていたほどは)売れなかった」という印象が経営陣に残ってしまったため、(時には企画書を)ゴミ箱に捨てられました(笑)。

──悪いイメージがついてしまったんですね。

松山氏:我々も、敗因の研究は続けてきたんですよ。弱点を克服すれば次の一手が打てるだろうと。そのために企画を持ち込んだり意見を聞いてきたんですけども、「十字架が3つある」と言われまして。

──3つの十字架? それはなんでしょうか。

松山氏:ひとつは「ケモノキャラクター」。そもそも人を選びすぎると。「みんな、松山さんほどケモノ好きじゃないから」って(笑)。それがまず意外だったんですけど、言われて初めて気付きました。気持ちとしては「嘘だろ、みんな好きやろ?」って感じですけど(笑)。

ふたつめは、「ロボ」。これは、バンダイさんに言われると余計に説得力があるんですよね。ロボットゲームを作る時には、女性のお客さんを捨てる覚悟を持って作らないとダメだと。ターゲットを半分に絞ってでも、(残った方々が)絶対に欲しくなるロボットゲームを作る。そういう覚悟が必要なのがロボットゲームなのに、「ケモノにロボ、売れないキーワードが二つもあるよ!」って(笑)。


──重い言葉ですね(笑)。

松山氏:そして三つ目は、バンダイさんの経験則だと思うんですけど、「浮遊大陸」です。「地に足ついてない世界で売れた試しはない」って。これもまた暴言だなとは思ったんですけど(笑)、その通りでもあるんですよね。確かにないんですよ、浮遊大陸を舞台にして大ヒットしたものというのは。

──言われてみると、大ヒットしたものとなると思いつきませんね。

松山氏:映画ですけど「ラピュタ」は、地に足ついた世界から天空の城を目指す物語だから、全然違うんですよ。あれが天空の城で生きる人たちの物語だったら、どうだったんでしょうね。

──なるほど。

松山氏:なので、「この3つの十字架はあまりに重すぎる」と言われたんですよ。……でもそれは、バンダイさんの意見でしょう、と(笑)。俺らにしてみたら、「十字架? とんでもない、ごちそうだ!」と。誰でも食べるだろうと(笑)。

──「おいしい」が3つ並んでると(笑)。

松山氏:で、「もうええわ、やっとられんわー」と、今度は別のメーカーさんのところに持っていったんですよ。こんなこと言われたんですよって話も込みで。

──すると、先方の反応は?

松山氏:「バンダイさんの言う通りです」と(笑)。それどころか「ウチだったら、ひとつめのケモノの段階で、もうダメです」「なんで?」「一般性がないからです」と。

──畳みかけてきますね。その時の松山さんは、どのようにお考えでしたか?

松山氏:「それは、あなたの意見でしょう!?」って(笑)。

──(笑)。全然諦めなかったと。

松山氏:もちろん。更に別のメーカーさんのところへ行き、「あそことあそこはさ、狭い視野で見て! 耕されてない金脈を見つけんといかんのに!」なんて言いつつ企画を見せたら、「その2社さんの言う通りです」と(笑)。

──そ、そこでも……!(笑)

松山氏:これがあんまり続くとね、心がだんだん細くなっていくんですよね(笑)。我々は信じて疑ってないわけですよ。「ケモノ、イケてんじゃん。一般性ないなんて誰が決めたんだよ。だってこんなに好きなのに!」と。そこに、ちょーどいいバランスでロボがいて、そして地に足ついた浮遊大陸があるわけですよ! 日本語的におかしいですけど(笑)。

──地に足ついた……確かに(笑)。

松山氏:そこをちゃんとしてればイケると思ってたんです。けど、『テイルコンチェルト』から17年、『Solatorobo』からは5年。続けてきて分かったことがあるんですけど……「どうやら、ウチらが特殊みたいだ」と、17年かかってようやく薄々そう思ってきました(笑)。

──うっすらと(笑)。

松山氏:そうそう、まだうっすらと(笑)。まだ「みんな好きに決まってる!」と思ってるんですけど、ここまで否定されると「もしかしたらそうなのかな…」って気持ちも芽生えてきて、「世界中のお客さん全員が、俺らと同じではない」と考えないといけないかもと感じています。もう少し食べやすくしないと飲み込みにくいだろうなーって、ちょっと思い始めたくらいかな?(笑)


新里氏:確かに、『テイルコンチェルト』を作り始めた時、チーム内の誰ひとりとして「イヌで大丈夫?」なんて思わなかったんですよね。

松山氏:考えもしなかったよね。誰も疑問を持たなかったし。当時は、「こんなにごちそうを並べたのに、なんでみんな手に取って食べないんだろう?」ってすごく不思議でした(笑)。

新里氏:本作に(今現在まで続くほどの)魅力を感じていただけるとしたら、作り手にまったく迷いがなかったところかなと思うんですよ。設定にせよシナリオにせよ、私が中心になって作りましたが、あんまり悩まなかったんです。「これでいくならこれだろ」というのがポンポンと出てきまして。時間は限られていたんですけど、間に合ったのは(方向性に)迷いがなかったところが大きかったと思います。

松山氏:足りないところをお互いが支え合った部分もあったんですが、そうして上がってきたものは「これは違う」みたいなこともなく、ひとつひとつが全て「神の一手」でしたね。最初の6ヶ月は試行錯誤の連続でしたが、そこから先は悩むことなく突っ走ることができました。

新里氏:ゲーム開発にはよくあるんですが、途中まで作った時に「あれ、このゲームの面白さってなんだっけ?」ってなったりもするんですよ。でも『テイルコンチェルト』の時は、目指してるものやそこに辿り着くのに何が足りないのかは分かっていて、それをどうすればいいのかだけを考えていましたね。

◆「ケモノ」「ロボ」「浮遊大陸」、今後どうする?


──『テイルコンチェルト』や続編に当たる『Solatorobo』を含めた「リトルテイルブロンクス」構想を掲げられていますが、まだこの魅力に触れていない方々に向けて、今後この「リトルテイルブロンクス」構想をどのように展開していきたいとお考えでしょうか。

松山氏:『テイルコンチェルト』はワールドワイドでざっくり15万本くらい、『Solatorobo』もワールドワイドで10万本くらいでした。スマートフォンでやらせていただいた『リトルテイルストーリー』もサービス終了となりまして……我々が思っている以上にこの世界はマニアックで、一部のお客さんしかついてこれない(ものになっている)。

いわば入り口で損をしているので、食べやすい状態にする工夫を大きく行って、新しい勝負を仕掛けてきたい……という言い方になります。

──なるほど。

松山氏:そして、先ほどの三要素「ケモノ」「ロボ」「浮遊大陸」はごちそうになると我々は今も思っているので……本音の部分で言うと、あんまり変える気はないです(笑)。

──おお……!(笑)

松山氏:「ケモノ」か「ロボ」か「浮遊大陸」、どれかひとつにしようとはよく言われるんですよ。3つ合わせると重いからと。でも、そこを譲る気は……ないですね(笑)。

──実感がこもってますね(笑)。

松山氏:バランスはちょっと変わるかもしれません。ロボの割合がもう少し減ったり、浮遊大陸はあるけど大地もあったり、とか。匙加減に変化はあるかもしれませんが、根っこで思っていることは「我々は何も間違っていない」と心の底から思ってます(笑)。

──これは「ごちそうだ」と(笑)。

松山氏:食材は間違いなく極上で、私たちの調理法がちょっとだけ間違えてしまったかなと。そういう感覚ですね。
《臥待 弦》

楽する為に努力する雑食系ライター 臥待 弦

世間のブームとズレた時間差でファミコンにハマり、主だった家庭用ゲーム機を遊び続けてきたフリーライター。ゲームブックやTRPGなどの沼にもどっぷり浸かった。ゲームのシナリオや漫画原作などの文字書き仕事を経て、今はゲーム記事の執筆に邁進中。「隠れた名作を、隠れていない名作に」が、ゲームライターとしての目標。隙あらば、あまり知られていない作品にスポットを当てたがる。仕事は幅広く募集中。

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