―――プレイした結果の凡人的な思考でいくと、映画「アヴァロン」や「電脳コイル」みたいなものを期待してしまいます。または、「ソードアート・オンライン」や『.hack』みたいな作品とか。
原田:作品ごとにAR(Augmented Reality、拡張現実)とVR(Virtual Reality、仮想現実)の違いはありますが、例えば「ソードアート・オンライン」や『.hack』だと、VRの存在する世界を第三者的に描いていますよね。あの中を「Morpheus」で再現したいと考えるのであれば、相当な研究と試行錯誤が必要です。皆がやりたいと想像上で思っている事をそのままやると、失敗する事が多いのがVRコンテンツの特徴です。
―――では、今このシステムを使ってやりたいコンセプトやアイデアはありますか?
原田:あります! ありますが、あまり言うとネタバレになってしまうので言えません!
『サマーレッスン』って元々技術デモで、一般向けじゃなく業界向けだったんです。しかしあまりにも一般のオーディエンスが多く、SCEさんとも「この盛り上がりは看過できないよね」という話になり、社内でも「いい意味で手のひら返し」が起きました(笑) 上からも「これをどうするか考えなきゃいけないぞ」と言われていまして、その中でやりたいものが一つあります。
もう一つは、もうちょっと一般化する方向。まずはやってもらう機会を増やさないといけません。例えばテーマパークだったりゲームセンターだったり、そういったところ向けのコンテンツも面白いなと感じているので、そちらへも展開させていきたい思いもあります。出口はいっぱいあるので、まずはやってもらう機会を増やす、そしてブログなりなんなりで話題になって、そこで「自分もやりたい!」と考えてもらった時にプレイできる場所がある。そういった状況を早めに創り出していきたいですね。
実は『サマーレッスン』発表以降、最初から反響が多かったのはゲーム業界の他社なんです。これまででこんなに他社から問い合わせを受けたのは始めて!(笑) まず「プレイしたい」という事と、次に「これを本当に作ってるのは誰なの?」と。要は疑ってるんですよねぇ(笑)「あなた(原田)がこんなものを作るはずがない、背後に誰かいるんじゃないか」って。「どうせ(原田は)客寄せパンダだろ?」と(笑)
あとは「業務提携で一緒にできないか」といったオファーが多いんですね。驚いたのが、ゲーム業界以外のところからも相談やオファーがきている事。ゲームだけに止まらず、別の業界との可能性というのがあるんだなと。
―――他業界とコラボして、臭いや触感などのセンサーと組み合わせると凄い事になりますよね?
原田:まずは視界とクレイドル、椅子を動かすなど、そういうレベルからだったらいけます。ただゲームに合わせるだけではなく、もっと汎用的なものが出てくるといいですね。
―――組み合わせる意味で、ゲームだけではなくリハビリ的なもので使えるのではないかなとも思うんですよ。
原田:対人恐怖症的な人が『サマーレッスン』をやると、かなり緊張するらしいんです。ですから、コミュニケーションや面接が苦手な方は、プレイしている内に慣れるんじゃないかって話も出ていますよ。これは世界でも研究されていて、戦地でのPTSDの解消や、左右の視力の相違でモノが立体的に見えない人などにも、片方ずつモニター出力を変える事で始めてものが立体的に見えただとかという話もあります。しかも続けていく事で視力が回復するという話もある。物理的なリハビリにもなるし、メンタル的なリハビリにも使えそうです。
―――ゲームだけではなく、様々なビジネスへの展開も考えられていますか?
原田:僕自身はゲーム屋なんで、やはりゲームの事を考えてしまいます。エンタメも社会貢献の部分も全方位でやっていこうという空気は出ています。ですから高齢者やシニア向けのアイデアも色々出ていますよ。
―――開発するにあたり社内から「アイマスで!」という声はありませんでしたか?
原田;玉置とも戦いましたよ。彼は「アニメコンテンツしかやらない!」と言い出しまして。
玉置:「アニメキャラの方が需要あるに決まってるじゃないですか!」って(笑)
原田:……あのですね、エンタメ作品って高次元の産業だと思うんですよ。アニメや漫画のキャラを好きになるっていうのは凄く感覚的なもので、理屈じゃない。日本のアニメコンテンツは最たる例ですよね。「これってゲームなの?アニメなの?」という、アイマスをまったく知らない人に対しての階段が高い。価値観が違うんです。ですからアニメコンテンツではなく、「普段リアルで見た事がある」「一般的に理解しやすい」キーワードに落とし込みました。
実はアイマスは真っ先に試したんです。「ああ、これはいいなあ」とは思ったんですけど、それが大きなニュースになったかと言うと、従来のファンサービスとしてはいいけれど、VRの普及にはつながらないのではと考えました。まずは市場を確立して一般にも広まった上で、そこからステップアップしていく先としてアイマスや他のコンテンツは残しておきましょう、と。
玉置:アニメって作品のキャラデザごとに「リアル」が変わってしまうから、難しいんですよ。
原田:現実との対比を意識していたんで、アニメキャラクターだと「この見え方は違うんじゃないか」という部分が出て価値観がぶれてしまう。今はあくまで階段の一歩目。日本は情報過多であれもこれもとなってしまいがちなので、まずは落ち着いて行きましょうというのが想いです。
―――先ほどのリハビリについても、バランスを考えたいですよね。
原田:医療関係、遠隔手術に生かせるとか、何かの会議に使えるとか、遠方にいる家族と触れ合う事ができるとか、そっちはそっちで技術も資金も必要になる。もちろんゲームも金がかかるので、そのうちにバランスが取れていくでしょう。
実際にある話でいくと、マンションの部屋を案内したり、空き部屋に係員が登場したり、家具を配置してみたりといった「生活」も確認できる。車の試乗体験などもできますよね。
―――面白そう! それでゲームができそうですよね。
原田:ゲームって面白くて、ルールや目標を設定してあげると、なんでもゲームができてしまいます。生活の不便さを解消する仕組みを考え有益なものにして、そこにゲーム性を持たせればいいんです。
ポリゴンの時にも革命は起きましたが、今はそれとはまた違った、質の異なる革命が起きようとしています。ただちょっと特殊だなと思うのは、ユビキタスやクラウドのような「生活の不便を解消するもの」は自然と市場ができていくのに対して、VRがどれだけ凄くても「それを観た人、体験した人にしか伝わらない」という難しさがあるところ。経験者はともかく、更なる認知度を上げるための「どうしても体験したい」と思わせるポイントをどうやってアピールしていくか。場合によっては「変わり種のデバイスという認識で沈んでしまうんじゃないか?」という危機感すら覚えています。VRが大好きだからこそ不安で、もうちょっとニュースを作らないといけないと考えています。
『サマーレッスン』はそういう意味では、成功したと感じています。まず知ってもらったので、次は「体験」のステップに進んでもらう。この流れをもっと多く、ニュースももっとだしていかないといけない。「知る機会・体験したくなる機会」などを増やすにはどうするか、を業界に訴えるためにも、こういった発信の仕方をしています。
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