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【CEDEC 2014】『ワンピース』を支える「JETエンジン」、ガンバリオンは何故ゲームエンジンを内製するのか?

福岡を拠点とし、バンダイナムコ『ワンピース』シリーズなどの開発で知られるデベロッパーのガンバリオン。従業員は73名と決して大所帯ではありませんが、質の高いゲーム制作で知られます。

ゲームビジネス 開発
【CEDEC 2014】『ワンピース』を支える「JETエンジン」、ガンバリオンは何故ゲームエンジンを内製するのか?
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福岡を拠点とし、バンダイナムコ『ワンピース』シリーズなどの開発で知られるデベロッパーのガンバリオン。従業員は73名と決して大所帯ではありませんが、質の高いゲーム制作で知られます。同社は創業以来、内製のゲームエンジンで制作を行ってきたそうです。近年では商用エンジンを利用するケースも増えてきましたが、ガンバリオンは何を考えエンジンを内製しているのか、CEDEC最終日のセッションで語られました。

「30~40人規模の開発チームでマルチプラットフォームタイトルをゲームエンジンから作った理由とその効果」と題して行われた講演で、取締役開発担当役員の吉田秀治氏と開発部テクニカルチーム・マネージャーの石井泰寛氏が、同社が内製する「JETエンジン」について講演しました。

吉田氏石井氏


現在までに『ワンピース アンリミテッドクルーズ SP』(3DS)と『ワンピース アンリミテッドワールド R』(Wii U/PS3/3DS/PSVita)の2タイトルで採用されている「JETエンジン」は、名前からも分かるように、動作速度を重視したエンジン。「C++ライブラリ」「コマンドライツール」「GUIツール」から構成されています。

「C++ライブラリ」は描画システム、メモリ管理、モーション、エフェクト、入出力、スクリプトなどゲームの低レベル部分をカバーし、複数機種対応を行います。「コマンドライツール」はモデルコンバーターなど開発に必要なツールが用意されています。メインとなる「GUI」ではオブジェクト配置、アクション設定、パーティクル作成、カットシーン編集などの機能が用意されています。

吉田氏によればガンバリオンは創業以来、自社エンジンを開発してきたそうですが、「常に商用エンジンとの比較検討は行ってきた」と言います。

3DS『ワンピース アンリミテッドクルーズ SP』は、Wiiで発売された『ワンピース アンリミテッドクルーズ エピソード1 波に揺れる秘宝』と『エピソード2 目覚める勇者』を移植したものですが、このダウングレードに当たり3DSでも快適に動作するエンジンとして「JETエンジン」は誕生。その後、『ワンピース アンリミテッドワールド R』ではマルチプラットフォーム展開が決定し、本格的にゲームエンジンとして発展させたものだそうです。この際も商用エンジンとの比較は行われたそうですが「マルチプラットフォームという事で商用エンジンを検討しましたが、当時3DSまで含んだものはありませんでした」(吉田氏)という点が決め手の1つだったそうです。

ゲームエンジンを内製する利点として吉田氏は、内部に開発者がいるため様々な対応が楽な点と、継続して使うことで学習コストを抑えられる点を挙げました。欠点としては、グラフィックやツール類で機能的に劣ることや、洗練させるためには莫大なコストが必要になってくることを挙げました。

ゲームエンジンの選択にはメリット/デメリットの双方があるものの、吉田氏は「何よりも大事なのは会社のビジョンとの一貫性」だと言います。ガンバリオンでは「永く愛されるゲームを作る会社」を掲げ、ゲーム作りでは操作する気持ちよさ、ストレスを与えないことを最重要視しているそうです。これを担保する選択が何か、がゲームエンジンの選択でも最も重要だとしました。

ゲームエンジンの開発コスト


「ゲームエンジンはおそらく買ってきた方が安い」とは吉田氏も認めます。しかし、社内専用で、"自社タイトルが動くことだけ"を考えれば意外にコストを抑える手段もあるといいます。例えば不要なプラットフォーム対応を止める、一般的に必要な機能もタイトルに不要であれば作らない、といった事です。

要は目的に適合しているかの問題で、ガンバリオンでもゲームの試作にはUnityを使うケースが多いそうですし、その他のゲームエンジンの研究も平行して行っているとのことでした。

■ゲーム開発の実際

後半では石井氏から『ワンピース アンリミテッドワールド R』の開発における課題について語られました。

本作のゲームシステムは全プラットフォーム共通で、異なるのはビジュアル面のみ。開発はWindowsベースで行われました。

ビジュアル面では「Wii U/PS3」「PS Vita」「3DS」という大きく3つの異なる性能のハードに対応していく必要がありました。

キャラクターモデルはハイポリモデルを作成し、それを手動でリダクションしていきました。例えばルフィーのモデルは「Wii U/PS3」向けが約1万2600ポリゴン、「PS Vita」向けが約7000ポリゴン、「3DS」向けが約3700ポリゴンです。こだわりのポイントとしては、どの機種も顔のポリゴン数は共通なこと。キャラクターが重要視されるゲームですので、顔にはリソースを割いたというわけです。手動でリダクションしたのは、自動で精度の高いものが作れなかったからで、かなり手間がかかったそうです。

モデルはハイポリモデルをリダクションしていった


また3DS版では、キャラクターの見た目をよくするために、輪郭にアウトライン(ステンシルベース)を施しています。さらに顔がつぶれないようにフルシーンアンチエイリアスを入れています。これはかなりのコストを要することから、立体視を非対応としたそうです。「Wii U/PS3」のアウトラインはデプス、法線ベースで、テクスチャでマスクをして綺麗に処理を行っているそうです。

見た目を重視し、立体視を非対応


ステージは「Wii U/PS3」が120個のシェーダーを用い、約34万ポリゴン。「PSVita」が100個のシェーダーで、約15万ポリゴン。「3DS」が20個のシェーダーで、約6万6000ポリゴン。というような形。絵作りもプラットフォームで多少異なり、海の表現は「Wii U/PS3」ではハイトマップやノーマルマップで、「3DS」ではプロジェクションマップを使用しているそうです。また影の表現でも「Wii U/PS3」ではテクスチャを使用し、「3DS」では頂点カラーを用いているそうです。

どの機種もフレームレートは30fpsで固定となっています。これは出せる機種では60fpsを出すことは可能だったそうですが、「フレームレートを変えると変なコードを書いている人のところでバグが出る可能性がある」(石井氏)ということで固定することにしたそう。

カットシーンはキャラクターやエフェクトを沢山出して派手なものにしたいというニーズがあり、これをリアルタイムで実現すると最適化に手間がかかることから、プリレンダリングのムービーで実装することで解決しています。このムービーと、そしてサウンドは機種依存が大きい部分ですが、CRIWAREを採用することで全く苦労は無かったとのこと。

UI周りでは2画面を持ったハードがあるものの、基本的には1画面で遊べる設計です。3DSのように2画面が必須なものについては、パーツは同じでも並びを変えられるようなレイアウトを採用することで対応しています。操作についても、基本的にはボタン操作を前提として、タッチでも可能、というような設計です。

■今後も発展していく「JETエンジン」

「JETエンジン」は今年11月に発売される『ワンピース 超グランドバトル!X』(3DS)でも採用。さらに、ガンバリオンでは未発表タイトルを2本、このエンジンを使って開発していて、プラットフォームも様々だそう。

スマートフォン向けの対応も行っていて、iOS/Androidには数日で対応ができたそうです。スマートフォンは機種が多いことがやはり難点ではありますが、自社開発ということもあり、バグの原因究明が楽で、描画については安定してきたとのこと。

また、プレイステーション4についても研究していて、エンジン自体の対応は完了しているとのこと。

最後に吉田氏は「非汎用的なエンジンを作っているという認識はとても大事」とコメント。「とても社外に売れるものではありませんが、私達が作っているゲームをきちんと売るエンジンでなくてはなりません。自社の強みは何なのか、最大限に発揮する方法は何なのか、会社や現場の未来を考えていくことがゲームエンジンを考えていくことになるのではないでしょうか」と講演を結びました。
《土本学》
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