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生きてる限り、何かを作りたい。『洞窟物語』から『ケロブラスター』に至る天谷大輔氏インタビュー

『洞窟物語』から『ケロブラスター』に至る天谷氏のゲーム開発の遍歴についてインタビューを行った。天谷氏の周りにいる人物の証言と共にお届けしたい。

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illustrated by tac_tis

2014年5月11日、筆者はPLAYISMの3周年パーティーに参加してきた。多くのクリエイターやファンが会場で賑やかに交流する中、中央のスクリーンではリリースされたばかりの『ケロブラスター』のデモプレイが行われていた。周囲の活気とは対照的に、作者の開発室Pixelこと天谷大輔氏は、静かに自身のゲームを見守っていた。

天谷大輔氏と言えば、伝説的なフリーゲーム『洞窟物語』のクリエイターとして、世界的に知られている人物だ。『洞窟物語』は2004年のリリース後、徐々に評判を獲得、各種プラットフォームへ移植され、現在ではインディーゲームの名作として知られている。

そこで今回のIndie Japan Risingでは、この『洞窟物語』から『ケロブラスター』に至る天谷氏のゲーム開発の遍歴についてインタビューを行った。デバッガーとのやりとりで作り上げた『洞窟物語』『ケロブラスター』に至るまでの幾度とない失敗と挫折、そして気づいたコラボレーションの楽しさ。天谷氏の周りにいる人物の証言と共にお届けしたい。

デバッガーたちとのジャムセッション:『洞窟物語』の完成への道のり


インサイド:
今日は『ケロブラスター』のリリース記念ですが、今回は天谷さんのゲーム開発について広く聞きたいと思います。現在ではゲームの小規模開発が注目されるようになりましたが、実際には一人や数人で開発するのは、良い面と悪い面があると思います。

天谷:
そうですね。ただ一人で作っていると言いますが、実際には多くの人のアドバイスをもらっています。特に今回の『ケロブラスター』に関しては、川中紀陽子さんに色々手伝っていただきました。ステージ構成、演出、定期に行う人を募っての動作確認など、おかげで僕はキャラクターや音作り、コーディングやバグ修正に集中させていただけました。なので特に今回の『ケロブラスター』については一人で作ったというわけではないことです。

インサイド:
なるほど。では『ケロブラスター』については後で聞くことにして、まず『洞窟物語』の話を聞かせてください。現在では『洞窟物語』はフリーゲームやインディーゲームのクラシックと言ってよい存在になったと思います。

未だに世界中で遊ばれている『洞窟物語』は、まさにクラシックと呼ぶに相応しい。

天谷:
「クラシック」って表現はいいですね(笑)。たびたび僕が作るような8bit的(?)なゲームはレトロって表現されますが、『ケロブラスター』『洞窟物語』を古いゲームだとは思っていません。『洞窟物語』を作っていたころのフリーソフトは「ちょっと作ってみた」といった感じの作品が多かったので、しっかり遊べるものを作ることができれば高く評価されるのは当然だと思っていました。あくまでフリーソフトに限った話ですが......

インサイド:
確かにフリーゲームやインディーゲームは一点突破型の作品が多いと思います。その点、『洞窟物語』は全方位的に作りこまれた稀有な作品だと思います。では、どうしてあれほど完成度が高いゲームを作り上げることができたのですか。

天谷:
それについては、僕より詳しい方がいるので呼んでもいいですか?『洞窟物語』は最後の一年で、僕も含めて五人がかりでブラッシュアップしたのですが、その五人の中の代表が彼です。

宮澤:
『洞窟物語』のデバッガーの一人のクロイヒトです。

『洞窟物語』のデバッガーであり、天谷氏の昔からの友人の宮澤修平氏。

天谷:
洞窟物語がある程度かたちになってきた時、僕は専用の掲示板を作って、そこに彼と他にネットで知り合った友達を呼びました。『洞窟物語』のデバッグを手伝ってもらう為に。期待したのはバグ報告だったのですが、始まってみると皆、『洞窟物語』をもっと良くしようと次々にアイデアを出して、そこでのやり取りは気が付けば1年くらいありました。あれがなければ、『洞窟物語』ここまで評価されることはなかった。

宮澤:
いや、そうかな~(笑)。僕は最初にプレイしたときから、大体、出来ていたと思うけど。

天谷:
ブラッシュアップに使った掲示板のログを見ていただければ分かると思いますが、武器のシステムや物語の終わらせ方、キャラクターの名前など、この掲示板で生まれたものが沢山あります。高難易度の「血塗られた聖域」ステージもこの掲示板が無かったら、生まれなかった。

インサイド:
しかしながら、最終的なゲームデザインの判断は天谷さん自身がしていますよね。例えば、武器のひとつ「ブレード」の威力に関して。強すぎるというデバッガーの意見に対して、天谷さんがこれで良いのだと説得しています。


(掲示板ログ引用)
Pixel (2004/10/12-10:12
■LV1ソード強過ぎ?
飛距離があって連射できない武器は
動く敵には使い難いものです。
もし外してしまったら的が目の前にいても
弾が消えるまで次を撃つ事が出来ません。

直前に手に入れるマシンガンで、
アクションゲームが「数撃てば当たる」状態になります。
それを「狙って確実」に移行させるために
LV1ソードがあります。
もし、LV1ソードのダメージが中途半端なら
連射機能を持たないプレイヤー(僕)は
この先もマシンガンで進みます。

それに対してソードLV2は接近し連発すれば
容易に自キャラの周囲を一掃でき
コレを活用することによって
プレイヤーのプレイが「接近戦」に変わります。

どの武器についてもですが、
手に入れたときの「これは強い!」と言う感動は重要です。
微妙なバランスをとるために無感動になるのは避けたい。


宮澤:
そうそう。天谷君の説明に皆が納得したんですよ。

天谷:
ここでは剣の武器について理由を説明しているけど、実際のプレイヤーにそんなことは伝わりませんから(笑)。これは理屈で押し通しましたが、そういうのは一部だと思いますよ。

宮澤:
いや、そんなことない!逆だと思うよ(笑)。俺たちは意見は出すけど、最終的に実装して作るのは天谷君だった。それを見て、僕らは「こう来たか!」という感じで、さらに良くなるようディスカッションしていった。

天谷:
確かに最初は、バランス調整を手伝ってもらうつもりで呼んだんだけどね。

宮澤:
俺もそうよ(笑)。俺たちもそういうつもりでやっていたんだよ!

インサイド:
(笑)

宮澤:
あのログを見る限り、最初にアイデアを出したのは、虎いさん。虎いさんがアイデアをポンポン出して、そこにナオクさんが世界観を付け加えていった。僕はもともとデバッガーのつもりで、バグや文字のチェックばっかりやっていました。それなのに二人がそれ以外のことをドンドンやっていくから、僕もついそれに乗っかってしまったんです。

多くのプレイヤーを惹きつけた裏ステージ「血塗られた聖域」。

天谷:
地獄ステージ(血塗られた聖域)は、修平(宮澤)のアイデアでした。『いかちゃん』を作った時に分かったのですが、制作者本人はゲームの全体を把握していて操作にも慣れているので、自分が簡単すぎるぐらいの難易度がちょうどいいんです。『洞窟物語』もある程度それを意識して作っていたのですが、せっかくいいゲームシステムがあるんだし、と、僕はもうさっさとリリースしたかったのですが、「もっと難しいステージに挑戦したい」と言われて、少しやけになって作りました。なので、あそこの難易度は異常です。後になって「難しくてクリアできません」と言う感想を多数いただきましたが、それについては「あのステージはクリアできなくてもイイです、すみません」と返しています。

宮澤:
ごめんね(笑)。

天谷:
でも登場人物を何人も失う物語だったのを「血塗られた聖域」を追加することでカーリーブレイスを助けて、もう少しハッピーエンドにすることができたのでモチベーションは上がりました。ボロスと言うキャラはその時生まれたんだったかな。ボロスを加えての話のつじつまをナオクと決めて......『洞窟物語』はあらかじめの設定資料とか無かったので、「ナオクから見て、『洞窟物語』の世界はどう見える?」みたいなことをメールで聞いた覚えがあります。

宮澤:
ステージ構成は天谷君が作って、ナオクがストーリーを付けたんだよ。

天谷:
虎いは武器のレベルなどシステム面のアドバイスをくれました。

宮澤:
武器のレベルアップは、天谷君が最初から作っていた。俺とナオクさんがレベル3まで上がっても一発ミスでレベルダウンはキツいと言い始めたのです。その後、虎いさんが意見をまとめました。


(掲示板ログ引用)
虎い(仮) (2004/01/30-02:32
>武器レベル
私は、武器がずっと最高レベルのままだと
戦闘がダラダラしたものになると思い
それの防止策としてなかなか良いと思ったのですが
確かに、一発でレベルダウンは
戦うのにすごく神経質になったり臆病になったり
結果的にストレスが溜まる戦闘になってしまうかも
しれないですね


天谷:
ゲームの進行に合わせて体力が増えるゲームは、それに合わせてダメージ覚悟の強行突破ができてしまって、緊張感が無くなってしまう。それを防ぐのにダメージによるレベルダウンは役に立ちます。武器ごとにレベルの下がり方に差をつけることを前面に出すためにも、1ダメージでレベルが下がるシーンも必要でした。

こんな感じで掲示板を運営して、確実に『洞窟物語』は良い方向に進みました。だけど、「早く完成させたい」と言う気持ちを抑えながらのブラッシュアップだったのでゲームが完成する頃には「もう二度とゲームは作らない!」と思っていました。実際にその後、ゲームは作らず、『ピストンコラージュ』という作曲ツールを作っていました。ツールは作りかけでもみんなが使ってくれるし、自分でも欲しいツールだったので飽きることなく延々と開発できるのがいいです。

天谷氏が制作した音楽制作ソフト『ピストンコラージュ』

それはともかく、『洞窟物語』は、今では(個人で作ったにしては)完成度が高くて世界でも評価されているけど、掲示板を見返すとすごく後ろめたい気持ちになる。

インサイド:
それは辛かった記憶がフィードバックするってことですか?

天谷:
いや、そうではなくて、まるで一人で作ったかのように扱われていること。その上、完成後はバグ対応に追われて、みなで完成を祝ったりもしないままでした。

宮澤:
天谷君はいつもそう言うんですが、デバッガー側の人間としたら、ただ口やかましく好き勝手言っていただけなんですよ。実装するのは、すべて天谷君じゃないですか。

天谷:
こうしたら良いと言われるとやってしまうんですよ。『洞窟物語』は仕事ではなかったし、納期もないし、直そうと思えばいくらでも直せた。何も言ってくれなかったらここまで来られなかった訳ですから。

宮澤:
『洞窟物語』は、本当に付け足し付け足しで出来上がったものです。だからいつ終わるのかも僕らにも分からなかった。彼が満足したらOKというくらいで。普通は、そんな作り方をしたら形にならないのですが、その整合性をちゃんと取ったのは彼ですよ。そして、出来上がってきたものは、どれもしっくり来るんですよ。どうしてそんなことが出来たのかわからないけど。


■Pixel (2004/12/04-14:49
おかげさまで諦めていたシナリオの集約もうまくいきました。
いや、本当にお世話になりました。
洞窟物語が完成、正式公開に向かうにつれ
やっぱり寂しいですが、
まだ何が終わったわけでもなく、これからも創作いろいろ…


天谷:
それは僕も今でも分かりません。実は修平が言ったように、自分には『洞窟物語』のような完成度のゲームは作れると思っていたのですが、『ケロブラスター』に至るまでに何度も作りなおして、今から1年半くらい前にそれが出来ないことに気づいたんです。

インサイド:
明確な方針が無いまま創作しつつも、まとめ上げるということですね。ただジャムセッションのように創作が可能なのは、メンバーの基本的な趣味嗜好が同じだからなんだと思うんですよ。こういう音のフレーズに対してはコレという共通了解があるというか。

天谷:
確かにいきなり『洞窟物語』を作ったわけではないです。その頃、みんなHPを持っていて、絵を描きあったり、音楽を作ったり、お互いにやりとりしていました。そこである程度の意志疎通がとれていたのかもしれません。

インサイド:
ある程度、共有していたのだと思います。

天谷:
みんなちょっとずつ趣味が違います。虎いとかはやさしいものが好きなようです。ラスボスのボロスの演出で血がボタボタ落ちるのは、反対していましたと思います。でも僕は最後の最後としてはしっくりきたもので…...。多分、そういう「お決まり」みたいなのが体に染みついてたんだと思います。『風の谷のナウシカ』にしても『アキラ』にしても、『マザー2』『魂斗羅』…...多分、他にもたくさんある。最後に何か溢れ出すようなグロテスクなものが出てきますよね。そういうものの影響ですね。間違いなく(笑)。

インサイド:
ただ当然ながら、皆さん、ゲームは好きだったわけですよね。

『洞窟物語』以前の作品『いかちゃん』も未だ多くのファンに愛されいている。

天谷:
そうだと思います。ただ共有していたゲームの趣味は思い出せません。自分の好みを具体的に話し合った記憶はあまりありません。

宮澤:
それ以上に『いかちゃん』『あざらし』といった彼のゲームが好きやったと思います。僕はボツにしたゲームも含め、もっと昔から彼のゲームを知っていました。彼の世界観が好きだったんですよ。

インサイド:
天谷さんのゲームを通じて、皆さんが世界観を共有できていたのかもしれませんね。

間奏:『ケロブラスター』の影の立役者、川中紀陽子氏


インタビューからも分かる通り、『洞窟物語』におけるデバッガーたちは、天谷氏にとって非常に大きな存在だったようだ。天谷氏はしきりにデバッガーの功績を強調する。他方、宮澤氏は天谷氏の構想をまとめあげる力を指摘している。

当事者たちが振り返る『洞窟物語』の開発史は、それほど明確でもないし、互いに食い違っているところも多い。だが、この食い違いは『洞窟物語』の創作にとって本質的なものだと、筆者は感じた。先日、当時のデバッガー用掲示板のログが公開されたので、興味がある方は生のやりとりを見て欲しい。そこでは気の合う仲間たちがジャムセッションのように議論を重ねていく姿が読み取れるだろう。

では、新作『ケロブラスター』はどうだったのか?そのための鍵となるのは、インタビューでも述べられている川中紀陽子氏だ。川中氏はフリーのグラフィックデザイナーであり、京都府が支援するインキュベーション施設で天谷氏と知り合い、『ケロブラスター』の開発に参加している。そこで今回はパーティー会場にいた川中氏にもインタビューを行った。

インサイド:
天谷さんのゲームに関わることになったきっかけは何ですか?

川中:
事務所が一緒だったので、最初は「どういったもの作っているのですか?」という話をしている程度でした。話を聞いてみると、すごく大変そうで。何かできることはありますか? と聞くようになって、テストプレイから入らせてもらい、最終的にお手伝いすることになりました。

インサイド:
具体的にどういったお手伝いしたのですか?

川中:
クレジットに載っているとおり、マップ作りといったレベルデザインが主です。マップのデザインは専用のエディタで作らせてもらっています。Windows機を持っていないので、天谷さんが用意してくださった専用のノートPCを借りています。最終的に出来たものを天谷さんに見て、チェックしてもらい、意見をもらって最終的な形に仕上げます。



これまで2D のアクションゲームを作ったことはあったのですか?

川中:
ないですね。ですが、天谷さんのエディタがとてもわかりやすくて使いやすいです。これまで自分でゲームを作ったこともあったのですが、一番困ったのは分からないときに聞く人がいないことでした。でも今回は、エディタを作った本人がすぐ隣にいるので、細かい質問にもすぐ答えてもらえたおかげで、完成までお手伝いすることができました。

インサイド:
これは天谷さんから聞いたのですが、武器を変更するときに一時中断するのはロックマン好きの川中さんの意見だと。

川中:
そうですね、ロックマンはかなり好きです。一番好きなのは『ロックマン3』ですね。けっこう難しいゲームですが、武器選択のときに画面が止まるのでなんとか出来るんですよ。あのエフェクトも音もカッコイイじゃないですか。

インサイド:
「ッテレェ」ってやつですね。アレは僕も大好きなSEです。

川中:
ただゲームのスピード感を削ぐから、止まるのが嫌だ、という人もいらっしゃいますね。でも『ケロブラスター』はiPhone向けであるし、難しいからといって途中でクリアを諦められると意味がないと思ったので、そのあたりも考慮し、武器変更の流れについては優し目にしてもらいました。

インサイド:
全体の物語や世界観も川中さんが深く関わっているとお聞きしたのですが。



川中:
キャラクターや台詞や演出などを一部担当しています。私は元々、物語を考えたり、書いたりするのは好きなのですが、『ケロブラスター』は天谷さんのゲームとして認知されているものですので、天谷さんの描きたい物語でないといけないと思いました。だから、このゲームをどういう風に見られたいのかを、天谷さんにヒアリングして決めました。ただストーリーについては一番、二人の間で揉めましたね。私はお客さんに正確に伝わらないということを気にしていたのですが、彼は面白いことやテンポ、コミカルさを重視するんです。それでどっちを大事にするかっていう点に関して、いつもバトルが発生していました(笑)。

試行錯誤を繰り返す孤独な日々から『ケロブラスター』

『ケロブラスター』の原型には天谷氏が漫画で書いていたキャラクターが採用されている。

インサイド:
では『洞窟物語』をリリースした後のことを聞きたいと思います。2011年に天谷さんはGDCで講演を行い、その頃、会社をお辞めになっていますよね。さらにiOSでの開発を始めたのもその頃です。

天谷:
『洞窟物語』をWiiに移植して北米で販売してくれていたTyrone Rodriguezから GDC参加などの打診があったのですが、その時はサラリーマンだったし、派手に行動するのは気が引けました。ところがリーマン・ショックがあって、勤めていた会社にも影響がありました。一方で『洞窟物語』は海外でそこそこ売れているようだった。僕は30歳も過ぎて、何かをやるとしたら今しかないという気がして、iOSでなら一人で作って販売までできそうだし、幸い嫁さんも許してくれたのでゲームを生業にすることに挑戦してみることにしました。

インサイド:
iOSでの開発を始めたきっかけは何ですか?

天谷:
僕にプログラムを教えてくれたNao_uと、『洞窟物語』のMacに移植してくれた藤重雄一さんの二人から、同じ頃に別の場所で「天谷君、iOSでゲーム作ったら?」と声がかかったのです。それまでは個人がゲームを作って販売すると言うのは、売る方にも買う方にもいろいろ壁があって諦めてきたんですが、iPhoneをはじめとしてそういうインフラも整備ているのを聞いてiOSを選びました。

開発段階のスケッチ。天谷氏のドット絵が堪能できる。

インサイド:
ちょうどiPhoneが普及してきた時代ですね。

天谷:
『いかちゃん』は大体3ヶ月くらいで作ったのですが、それくらいのものをコンスタントに出せば、食べていけるだろう......と半信半疑で。でも開発を始めると新しく覚えることが多く、iPhoneをめぐる状況もバージョンアップや新商品の発売など、ゲームが完成するまでに何度も変化してしまいます。さらにそもそもお金を取る商品というものを今まで作ったことがなかった。

『洞窟物語』の時と同じように作りながらゲームシステムに改良を重ね、ゲームはだんだん良くなってきたはずなのですが、全然ピンと来なかった。「タッチパネル操作」で作るしかないという縛りと、中途半端な解像度(その頃の僕には)の中で、いろいろ仕方のない部分を抱えつつも、もう作るしか選択肢が無いのでとりあえず開発を続けていました。

インサイド:
最初に開発したのは『Rockfish』ですよね。

当初は「ゲームボーイ」のような縦持ちだった。

天谷:
そうです。これが2010年に最初に作ろうとしたもの。iPhoneで作る際の、最初の壁はタッチ操作でした。シンプルにすることが重要だったので、左の親指で左右ボタン、右の親指で上昇と攻撃ボタンを押すような形にしました。

『いかちゃん』を作った時も似たようなことがありました。パソコンによっては特定の3ボタン同時押しが効かないものがあったので、左右キーとジャンプボタンで移動と攻撃を兼ねるシステムにしたのです。

インサイド:
開発ログを見ると、2011年に一度、開発を中断していますね。

天谷:
はい。ゲームができても、販売の段階で何か難しい話がでると困るので、実際に販売するまでの手続きを覚えるために、一度、『Rockfish』の制作を中断して、それまでに何度か作り直した『あざらし』をiPhone用に作りました。今もApp Storeで85円で売っています。あれは初めての僕が作った商品かもしれませんね。ログを見ると3か月ぐらいかかっていたようです。

こちらはまだ魚が主人公の段階。

その後も『Rockfish』を作り続けますが、『洞窟物語』の時にあった「楽しいものを作っている」と言う感じが出てこない。そしてある時、友人から「主人公が魚だと感情移入しにくい」と言われて、なるほどと思い、世界設定を変えることにしました。操作方法はそれまでと同じで、魚の代わりに潜水艦を登場させて、それに乗っている人間を主人公にしました。その流れで、人間キャラでジャンプアクションを作ってみたら「あ、これだ」と思って。

インサイド:
そこは開発ログにも書いてありました。非常に印象的です。


(開発ログ引用)
'12/02/01
2Dジャンプアクションの部分を作る。やっぱ楽しい。
好きだ2Dジャンプアクション。


主人公と潜水艦という形に収まる。

天谷:
それですね。それで潜水艦に乗ったり人間としてウロウロしたりできるゲームを作ることにしました。画面の使い方も、初代ゲームボーイのような縦持ちから横画面になって、今の『ケロブラスター』と似ています。さらに主人公は船に住んでいるという設定も決めたり、エリア選択やメトロイドみたいなマッピング機能を搭載したり、『いかちゃん』とは比べ物にならないくらいシステムを作り込んでいきました。

インサイド:
ではこの段階では、開発は楽しくなっていたんですね。

海底と海上を探索する広大なゲームになる予定だった。

天谷:
はい楽しくなっていました。ただ冷静になると、そのまま続けるとあと5年ぐらい欲しい内容になっていて、それでは飯食えないどころか年取って死ぬなぁ...…と思って。ちょうど、その頃、Tyrone に「お前、メトロイドが好きなら、これはどう?」って『Astronot』というゲームを教わりました。

『Astronot』は、すごくシンプルな徘徊型のアクションゲームで、グラフィックスも主人公は1色。音も単音のBGMと効果音だけ。パワーアップしてジャンプ力が上がって行動範囲が広がっていく感じのその辺はべたべたなのですが。これをやらされたときに「あれ、自分が作りたいゲームってこっちじゃないかな…...」と思ったんです。

インサイド:
UIの感じは『ケロブラスター』にだいぶ似ていますね。

天谷:
そうですね、ドット絵もわざと粗くしてあるし。そこで以前に趣味で描いていたマンガのキャラクターを主人公にしたら、愛着のあるキャラなのでモチベーションが保てるんじゃないかと思い、また新たに作り直しました。最初タイトルは『スターフロッグ』でした。その時はまだ『ゲロブラスター』でも『ケロブラスター』でもない。

紆余曲折ありながらも現在の形に落ち着く。

インサイド:
なるほど。ちなみにiPhoneで開発するとき、『Astronot』以外にiPhoneのゲームを何か参考にしましたか?

天谷:
友達から進められたていくつかプレイしたのですが、どれもじっくりは遊べていません。あ、『Ninja Striker』はクリアしましたね。参考の為にバーチャルパッドのゲームはいくつか確認したのですが、その時の指の状態で操作感が変わるんですよ。だからこれは辛いなと思いました。あと十字キーを絵的に真似しているやつあるじゃないですか、あれは良くないと思いました。

十字キーにすると、みんな指を載せたまま操作しようとしますよね。見た目を左ボタンと右ボタンを分けておくと1つずつタッチしてくれるようになる。そこから始まって、操作周りは何度も改善しました。『ケロブラスター』の操作性には自信があります。

あえて十字キーは採用せず、iPhoneでの操作性を追求。

後はiOSではないですが、『メトロイドゼロミッション』もプレイしていました。ベースになっているのは初代のメトロイドと言うことで、絵がキレイになってるぐらいの期待しかしていなかったのですが、凄く親切な作りであまり迷わずにどんどん進められてアッと言う間にクリアしてしまいました。それまでで一番あそびやすいメトロイドだと思いました。『ケロブラスター』をあちこち歩き回るゲームではなくステージクリア型にしたのはその影響もあるかもしれません。

インサイド:
なるほど、だから一つ一つのステージも小さめなんですね。それもあって、電車などで遊んでいても中断しやすい。

天谷:
そうですね。『Rockfish』にはセーブポイントがありましたが、「ケロブラスター」では部屋が切り替わるタイミングで細かく自動セーブするようにしました。

お金の要素も苦労しました。『Rockfish』の時は、パラパラ落ちているお金を拾うのが楽しいと思っていたんですが、敵も沢山出していたので、いちいちお金を拾うのがだんだん面倒になってくる。そもそもあの時は武器の魅力も上手に伝えられていなかったし、色々問題がありました。

残機がなくなると怪しげな病院から復活。

今回最終的に『ケロブラスター』として奇跡的に出来上がった流れの1つが、プレイヤーが全滅した時の流れです。ゲームオーバーってのはプレイヤーにとってすごく残念なことですが、ここで初めて病院を登場させることでプレイヤーの興味をひけるし、ギリギリまで粘って集めたお金でパワーアップすることができます。何も無いよりは再挑戦を促せてるんじゃないかと思います。

インサイド:
結果として『ケロブラスター』は、多くの人が楽しんでいると聞きます。では、次のゲームを開発する予定はあるでしょうか?

天谷:
生きている限り何か作りたいです。まあ現実的な話で申し訳ないですが『ケロブラスター』のメンテナンスやもしかしたら移植の作業なんかで、気がついたら1年くらい経ってしまうんでしょうね(笑)。

インサイド:
次のゲームは、どういったものを作りたいですか?

天谷:
何が作れるのかは、ペンを持って書いてみなければわかりません。やりたいことはゲーム以外にもあります。例えば『ピストンコラージュ』の開発とか..

インサイド:
『ピストンコラージュ』のiOS対応もやっているみたいですね。

天谷:
『ケロブラスター』の効果音とBGMは『ピストンコラージュ』で実装しています。iOS対応と言っても、再生する部分だけですね。曲と音のデータを作るのはWindows上で行います。実際に曲や音を組み立てる部分をiPhoneなのでできるようになるのは面白そうですけど、それはそれでかなり時間が必要ですね。

非常に可愛らしい見た目の小規模なネットワークゲーム『Soap Run』

あと以前、勤めていた会社を辞める前、まだゲームを仕事にすることを考えていない時には、趣味で小規模なネットワークゲームを作っていました。『Soap Run』というゲームで、プレイヤーは小さな石鹸みたいな自キャラをウロウロ走り回らせるだけのゲームでしたけど、知らない人が自分の作った世界に入ってくるのがリアルタイムに見えて楽しかった。とまあ商売を考えなくていいなら、やりたいことはいろいろありますが、生活の事を考えると選ばなくてはいけませね(笑)。

インサイド:
なるほど。どれも楽しみですね。

天谷:
『ケロブラスター』が完成するまでの長い失敗があったのを考えると、商品を僕一人で作るのは無理だったんじゃないかと思っています。川中さんは『ケロブラスター』のゲームの方向性をぶれないようにしたり、やることに優先順位を付けたり、あとテストプレイをどのタイミングでどういう風にやるのかと言うスケジュールなどを担当しれくれました。彼女はフリーランスとしてプロの仕事をしている方なので、自分よりも時間配分やマネージメントが優れているんだと思います。

音楽に関しても、『洞窟物語』は最初に音楽を作りました。でも今回は全部世界観やステージもある程度固まってから、一気に作りました。

『洞窟物語』を作っている時はやることがたくさんある中で、気まぐれでその時やりたいことを選んでやったりやらなかったりしていましたが、今回は毎日やることがはっきりして、実質10ヶ月ほどでこんなゲームが完成しました。自分でも本当に驚いています。

インサイド:
では、今後はもっと積極的に他の人とコラボレーションしていく可能性はないでしょうか?

天谷:
一緒に作る楽しさを覚えたので、可能性は十分にありますね。


パーティー会場で他のインディーのクリエイターと共に打ち解ける天谷氏(左から2番目)。
《Game*Spark》
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