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ソーシャルゲームの次の市場の形を作っていきたい ― ONE-UP中元社長インタビュー

昨年6月にONE-UP株式会社の代表取締役に就任した中元志都也氏。国内市場もさることながら、シンガポール、ジャカルタに海外拠点を設置するなど、アジアへの積極的な投資が特徴的です。ソーシャルゲームの海外展開が叫ばれる中、同社の戦略について伺いました。

ゲームビジネス 開発
昨年6月にONE-UP株式会社の代表取締役に就任した中元志都也氏。国内市場もさることながら、シンガポール、ジャカルタに海外拠点を設置するなど、アジアへの積極的な投資が特徴的です。ソーシャルゲームの海外展開が叫ばれる中、同社の戦略について伺いました。





———簡単に自己紹介をお願いします。
中元:ONE-UP代表取締役の中元志都也です。商社やコンサルタント、ネットベンチャーなどを経て、2010年に弊社に入社しました。その後、2011年6月に前社長の椎葉忠志さんが独立されたのを契機に、代表取締役に就任しました。

———そもそも、どうして入社されることになったんですか?
中元:ご存じの通り、弊社は2009年に『ブラウザ三国志』という大ヒット作に恵まれました。そこで本作の海外展開を行いたいという意向があり、ご縁があって知り合ったんです。自分はライブドアで海外企業の精算事業などを行った経験があり、シンガポールにも5年半くらい住んでいましたので、土地勘や人脈などもありました。

———もともとコンテンツ事業に対する関心があったのですか?
中元:どちらかというと、グローバルビジネスを立ち上げたいという思いがありました。その「商材」として、ネットやオンラインゲームに出会ったという感じでしょうか。

———それにしても、突然の交代劇でした。
中元:ええ、当時は経緯について、良く聞かれました。ステークスホルダーの意向に左右されることなく、フットワークを軽く動きたいという椎葉さんの思いから、独立されることになったと理解しています。私自身もいろいろ悩みましたが、椎葉さんの後任を拝命することになって、結果的に丸く納まったんだと思います。

———ただ、かなりバタバタされたのではないでしょうか?
中元:たしかに椎葉さんの独立を契機に、社員がごっそり抜けました。約160人いた社員が、一時期は約20人まで減少したんです。残ったメンバーはもともと私の担当部署だった海外事業部と、『ブラウザ三国志』『ブラウザ三国志モバイル』など既存タイトルの企画運営メンバーの一部です。以来、今日まではとにかく、既存タイトルを維持するために粛々と努力を続けてきました。今では社員数も回復して、50人弱くらいになっています。

———かなり回復されてきましたね。
中元:おかげさまで、ようやく他のことに力を振り向ける余力が出てきました。まずは今夏をめどに、PC向け、モバイル向けで新作タイトルを一本ずつ投入します。これまで弊社はディベロッパーに専念してきましたが、これらは初めての自社パブリッシュタイトルとなります。今期はさまざまな意味で、次のステージに進んでいくつもりです。


■シンガポールとジャカルタ、二つの拠点の役割分担

———シンガポールとジャカルタに海外拠点を作られたのも、中元さんの手腕ですね。
中元:過去2年間にわたり、アジア地域でライセンス展開や現地パートナーとの共同パブリッシュなどを行ってきました。もっとも、言うのは簡単なんですが、何度も現地に足を運んで、1案件につき半年間くらいかかっています。それもあって、『ブラウザ三国志』は韓国・タイ・台湾・香港・シンガポール・マレーシア、それにフランスにまで展開できました。その集大成であり、次のステップへの布石という意味合いで、昨年後半にシンガポールとジャカルタに海外拠点を設置しました。

———それぞれ、どういった事業を行っていますか?
中元:まずシンガポールでは、アジア向けタイトルのライセンス管理を行っています。当初はここを拠点にアジア展開を見据えていましたが、現在は戦略を見直しています。というのも、今年に入ってから日系ソーシャルゲーム企業の進出が非常に加熱しており、それに伴い人件費等の諸経費が高騰しています。

———ジャカルタはどうですか?
中元:同じく日系企業の進出が激しいですが、シンガポールほどではないですね。弊社でも開発拠点をおいて、パートナー企業と共に『みんなで牧場物語』のローカライズを行っていました。今年6月にクロースドベータテストを現地でスタートしたのに加えて、香港・台湾・マレーシア・シンガポールでも同時に行っています。それぞれインドネシア語版と、中国語(繁体字)版でリリースしました。

———反響はどうですか?
中元:具体的なデータが集まってくるのはこれからですね。我々もインドネシアでのビジネスは初めてなので、タイトルの運営を通してさまざまなデータを収集していくつもりです。いわば先行投資であり、テストマーケティングの一環という位置づけです。その意味合いもあって、ライセンス提供ではなく、自社パブリッシングを行いました。今後は新規タイトルの共同開発も行う予定で、すでに現地パートナーと企画を進めています。

———アジア展開に二の足をふむ企業が多い中で、御社は先行しています。
中元:SAPさんの多くは、フィーチャーフォン向けのソーシャルゲームから始められ、スマートフォンへの移行にあわせて、海外対応を進められていると思います。その中でアジア地域に注目されているのではないでしょうか。しかし弊社はもともとPC向けのブラウザゲームを作ってきたオンラインゲームの会社だという背景があります。そのためアジアのPCオンラインゲーム業界となじみが深く、いわばアジア展開は必然でした。

———なるほど。
中元:そのため海外展開といっても、スマートフォン対応は積極的に行っていないんですよ。アジア版『ブラウザ三国志』『みんなで牧場物語』も、ともにPCブラウザゲームです。アジアでも、この市場をしっかりと獲得していきたい。逆に台数が急速に普及しているとはいえ、マネタイズを考えると、スマートフォン対応は時期尚早という印象ですね。

———新規タイトルも海外展開を?
中元:はい、開発当初から海外展開の準備も並行して行っています。世界観や絵柄だけでなく、マネタイズについても注意が必要ですね。国内でも「コンプガチャ規制」が問題になりましたが、マネタイズは各エリアで規制が異なるので、パートナー企業と話し合って調整を進めています。日本よりも規制が緩いエリアでは、アドオン的に類似の機能を付け加えることもあります。


■3年後に売上比率で国内7割、海外3割が目標

———アジア展開のポイントを一つあげるとしたら?
中元:なんとなく我々は「アジア」と一括りにしがちですが、それぞれの国、市場は別物で、個別に攻めていく必要があります。むしろ欧米市場の方が、中南米も含めて、よほど画一的ではないかと思います。キリスト教という共通の価値観や背景があるからかもしれませんね。そのため神話やキャラクターなどについて、ある程度共通認識があります。ところがアジアは宗教も民族も文化もバラバラです。それぞれのエリアごとに、丁寧にローカライズやカルチャライズを行っていく必要がありますね。

———インドネシア版の『みんなで牧場物語』では、どのような変更がありましたか?
中元:現地パートナーから最初にリクエストがあったのが、チャットをはじめとした、ユーザーコミュニケーション手段の充実です。もっとバラエティを増やして欲しいといわれたので、最初に対応しました。もともとインドネシアの人はおしゃべり好きだと言われていて、SMSが日本以上に使われています。単純に絵柄を増やすだけでなく、現地のライフスタイルをよく観察しながら、ユーザーが何を求めているか勉強する必要がありますね。その意味もあって現地拠点を設立しました。

———『ブラウザ三国志』ではどうでしょうか? 何かエピソードはありましたか?
中元:うーん、どうだろう。そういえばタイで2年間サービスを行っていますが、面白いのはiPadでプレイしているユーザーが多いらしいということ。。あと、オンラインゲームが浸透しているアジアでは、ユーザーもオフラインイベントを歓迎する傾向が強いですね。そこは日本のソーシャルゲーム市場と違うところです。

———アジア展開を進めるうえで、どこの市場が参入しやすいですか?
中元:マネタイズでは東アジアにアドバンテージがあります。韓国、台湾、香港、そして弊社もまだ食い込めていませんが、中国市場ですね。一方タイ、インドネシア、マレーシアといった東南アジア地域では、マネタイズを考えるとモバイルよりもPCオンラインゲームに分があるかな。前述したとおり、インドネシアはまだ混沌としている市場なので、『みんなで牧場物語』の運営を通して、現地企業と共同開発モデルを立ち上げるために投資を進めていきます。このほかベトナムでもPCオンラインゲーム市場が確立されています。

———国内外の売上比率を、どのように捉えていますか?
中元:前年度は海外市場が10%でしたが、今後3年で3割以上に引き上げたいですね。もっとも国内市場はきわめてARPUが高い点が魅力なので、まずは国内で足場を固めて、その上で海外展開をより一層努力していきたいです。

———海外スタッフに求められる資質をどのように捉えますか?
中元:語学力はあったほうがいいが、むしろ現地で骨を埋める覚悟の方が必要ではないでしょうか。また良いゲームを作ったから、海外市場でもすぐに売れるとは限りません。ゲーム作りに加えて、いかに現地でビジネスの座組を作っていくかが求められます。そのためにはパートナー選びが重要ですね。第一陣として現地に駐在するスタッフは、どんどん外に出て行って、いろんな企業と接点を持ち、ネットワークが作れるような人材が向いています。ちょっと商社っぽい発想かもしれませんが。

———中には本社と板挟みにあう人も多いと聞きます。
中元:弊社では逆に「何でやらないの?」「いちいち確認、承認を待ってちゃダメだよ」と良く言っています。本社に判断を仰ぐのではなく、自分たちでどんどん動いて欲しいんですよ。ジャカルタにいる人間も、現地だけ見ていればいいわけではありません。ジャカルタにはアジア中からオンラインゲームの企業が来ていますからね。そうした人たちとコンタクトを取って、時には現地の国に出かけていく機動力が求められます。


■ソーシャルゲーム市場の次の形を作っていきたい

———御社ではウェブサービスも行われていますが、こちらの海外展開は?
中元:それも積極的にやっていきたいですね。弊社では3月にディー・エフ・キュー社を吸収合併しましたが、これもスマートフォン向けアプリやゲーム開発のノウハウを高めることが目的でした。他に海外企業とアプリを協業で作るなどのプロジェクトも、積極的に進めています。そもそも論として、今後はゲームやメディアの境界が曖昧になっていくような気がしますね。

———異業種からの参入も続いていますね。
中元:先日もヤマダ電機さんがソーシャルゲームに参入されて、話題を集めました。弊社にもさまざまな問い合わせがあります。現在ではゲーミフィケーションという用語が先行していますが、それだけに限らず、皆がもやもやと試行錯誤してるものが、近い将来に新市場となっていく可能性があります。弊社でもゲーム畑だけではなくて、ネットのエンジニアに技術志向でスマホアプリを作らせるなどの取り組みを進めています。

———具体的にはどのようなものですか?
中元:ゲーム畑のクリエイターは世界観・ストーリーから固めていって、最後にマネタイズ手段を考えるという作り方が一般的です。一方で弊社では研究開発チームの社員に、GPSなどスマートフォンに搭載されている技術を使って、どんな遊びができるかという実験を進めています。こうした方向性から新しい遊びが生まれるのではないかと。既存のゲームにとらわれる必要はありませんよね。先ほどの売上比率にからめていうと、3年後にはゲームが7割、ゲーム要素を取り入れたサービスを3割くらいにするのが目標です。

———最後に中長期的な目標を、ずばり教えてください
中元:ソーシャルゲーム業界の新しい市場の形を作っていきたいですね。今の市場がこのまま成長していくことは、ないと思っています。スマートフォンのアプリは世界中であふれかえっていますし、マクロ経済も減速中です。ジンガ、Facebookの上場も一段落して、世界的にもソーシャルバブルが減速している印象です。今年後半から来年前半まで、下手をすると業界が冷え込んで失速する恐れもあります。

———淘汰と洗練の時代が来ると。
中元:ええ。その一方で異業種の参入も続いています。そのため一時は冷え込んでも、来年後半からまた復活していくのではないでしょうか。そうした中で弊社も新しい市場を作る一翼を担っていきたいですね。だから社内で単純にスマートフォンアプリを作れとは、絶対に言いたくないんですよ。会社としても視野を広げて取り組んでいきたいですね。

———ありがとうございました。

《小野憲史》
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