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【CEDEC 2010】距離を超えた海外との共同開発~『FFXI』海外版制作事例

距離、時差、言語… ボーダーレスが叫ばれる現代においても、遠く離れた国の人々とコラボレーションを実現するにはさまざまな問題が生じます。その違いを超えて共同プロジェクトを立ち上げ、進めていくには、何が必要なのでしょうか?

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距離、時差、言語… ボーダーレスが叫ばれる現代においても、遠く離れた国の人々とコラボレーションを実現するにはさまざまな問題が生じます。その違いを超えて共同プロジェクトを立ち上げ、進めていくには、何が必要なのでしょうか?

CEDEC初日に開催されたショートセッション「北米企業・欧州企業との共同開発」では、スクウェア・エニックスの増永 哲也氏が、『ファイナルファンタジー XI』のドイツ語とフランス語版の制作プロジェクトの体験をもとに、共同開発の壁となる要素について具体的に語りました。

益永氏はまず、コミュニケーションの問題を生んだ要素として「距離」、「時差」、「休日」、「言語」の 4 つを挙げ、それぞれについて実例を交えて説明。

「距離」の不都合な点には、実機を共有できないことや、認識の共有手段が複雑になること(メール、BBS、電話、テレフォンカンファレンス)があると説明した上で、結果的に「共通認識の質と量が低下」すると述べました。

時差によって共通の時間は減少


「時差」がもたらす影響については、最初に「時差が大きいと同時活動時間が減る」ことを挙げ、次に同時活動時間にしか進められない業務に遅れが生じることを指摘。例えばテレフォンカンファレンスやインテグレーションテストといった業務は両者が揃わなければ進めることができず、「時差がなければ 1 日で終わることも日数をかけなければ終えらないので、結果として 4、5 日かかる」ことがあると述べました。

次に挙げられたのが「休日」。日本は祝祭日が非常に多いかわりに有給が使われないこと、そして海外は逆に祝祭日が少なく有給を取るスタッフが多いことを紹介しました。また連休シーズンについても、日本では非常に大きな意味を持つ正月も海外ではそうでもない点や、日本では馴染みがなくてもカナダとアメリカではメジャーな祝日である感謝祭(Thanks Giving)などを例示した上で、「こういった休日のズレが、さらに同時作業時間を圧迫する」と述べました。

また「言語」については英語を使用したと紹介。英語を話せない日本人スタッフには、仲介するスタッフが必要になると述べた上で、仲介役の「通訳者」と「バイリンガルスタッフ」にはそれぞれに長所と短所があると指摘しました。同氏が担当したプロジェクトの場合、「通訳者」は総じて「(ゲーム固有/特有の情報など)専門性は低いが情報に歪みが生じなかった印象」で、「バイリンガルスタッフ」は「専門性は高いが情報が歪みやすかったように思われる」と紹介。

通訳とバイリンガルスタッフ


言語が特に問題になるのはミーティングの時間で、通訳を介して行う会議では「日本語での会議と比べ、同じ時間をかけても 1/2~1/3 の情報しか伝えられない」と感じたそうです。またこういった席では、高い専門性を持つバイリンガルスタッフを伴っている時のほうが専門性の低い通訳者よりも話が早い(日本語会議:バイリンガル:通訳者/1 倍:2 倍以上:3 倍以上)、と述べました。

問題の具体例については、コミュニケーションの面では「マネージメント担当者がこちらとあちらの両方に置かれるため意志の統一が困難になる」、「共通認識が取れず、タイトルの方向性がずれていく」、「海外スタッフひとりひとりの個性が見えにくくなる(全員でひとつの人格のように思えてくる)」という問題があり、コストや生産性の面では「(マネージメント担当者や通訳者が増えることによる)人員コストの増加」、「本来の業務ではなくコミュニケーション(距離時差言語)への対応に時間を取られる」といった問題があることを語りました。

益永氏は次に、上記のような様々な問題があることを認識した上で「望ましい共同開発」とは何かを問い、どのような業務が海外と共同で行ないやすいかを説明。同一拠点が望ましい業務には「プログラム要素と仕様決定」などの共通認識の構築が大切な業務を、別拠点での開発が可能な業務としては「ムービー」や「UI 以外のグラフィックデータ」を例示しました。

続いて「別拠点で開発可能」なことをどう見極めるかの目安として、「アウトソースしやすい業務は海外に出しやすい」と表現。アニメーションを例に挙げて「色を塗るところだけアウトソースする事例があります。あれも独立化させやすい作業だからではないか」と述べました。スクウェア・エニックス社の場合には「海外版 QA」や「ゲームマスター」といった業務がこれに当たるそうです。

「望ましい共同開発」セクションの最後には、北米欧州よりも東南アジアやオーストラリアのほうが良いのでは?とも述べた益永さん。この他に挙げた要素も「拠点ごとに通訳とバイリンガルバイリンガルスタッフを」、「マネージメントスタッフは定期的に出張を」、「同一拠点での開発」、「海外製エンジンよりも国内製エンジンの方がコミュニケーションが取りやすい」など、これまでに挙げてきた問題要素を解決、回避するための内容が並びました。

益永氏は「開発者・マネージメントがやれること」と題した最後のスライドで「欧州・北米との共同開発の必要性を再検討」することと「英語の勉強」の 2 つを挙げ、セッションを閉じました。セッションを通じて示されたことでもありますが、これは「海外企業と一緒に開発をすることを目的に共同開発する」のではなく、「共同開発する理由」を明確にしてから始めよう、とも読み替えられるでしょう。
《矢澤竜太》
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