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【DEVELOPER'S TALK】PSPで最高の表現を追及したProject Soulが送る最新作『ソウルキャリバー Broken Destiny』開発秘話

PS3/Xbox 360というハイスペックマシンの性能を極限まで引き出した『ソウルキャリバーIV』から1年。Project Soulが選んだのは、シリーズとして初の携帯ゲーム機であるPSPでした。

ゲームビジネス 開発
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  • ソウルキャリバー Broken Destiny
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―――「ソウルキャリバー」は毎回豪華なゲストキャラクターが話題になりますが、海外からビッグなゲストが登場しますよね

日山: ゲストキャラクターとして今回は『God of War』のクレイトスが参戦します。世界的に知名度がある人気キャラクターで、原作で使っている彼の武器やアクションが「ソウルキャリバー」の世界観と非常に親和性が高いと感じていました。彼が実際に「ソウルキャリバー」の世界で、他のキャラクターと戦ったらどうなるんだろう?是非戦ってみてほしい!という好奇心や願いが強くなり、想いをお伝えしたところ、PSPで貴重なコラボレーションが実現しました。

―――どんな戦いをしてくれるのか楽しみですね

日山: ぜひ触ってみて欲しいですね。クレイトスには今までの「ソウルキャリバー」のキャラクターにない動き、アクションがふんだんに盛り込まれています。原作である『God of War』のファンの方にも満足行く出来だと自負しています。

―――開発期間としてはどのくらいだったのですか?

日山: かねてより準備は進めていましたが、本格的にスタートしてからの開発期間は 1 年弱でした。

―――かなり短いですね

日山: そうかもしれません。ただ、内容に関してはかなり詰め込んだつもりです。前作にひけをとらず、かつ、新しい要素を入れて行けるよう、守るべき箇所と変えるべき箇所を見極めて、今出来る最大限の努力をしました。これも「辛い、辛い」と言いながら頑張ってくれたスタッフのおかげです(笑)。

―――スタッフは前作から引き続きの方が多かったのですか?

日山: そうですね。『ソウルキャリバーIV』からというよりは、ソウルキャリバーシリーズ全般を開発してきたチームなので、『ソウルエッジ』や初代『ソウルキャリバー』から関わっているメンバーも多数います。

―――次世代機から携帯ゲーム機のタイトル開発に移るというのは相当な苦労があったのではないでしょうか?

星野氏
星野: PSP自体初めてのハードだったので、これだけ短い期間でやるというのは相当なチャレンジでしたね。使えるメモリも格段に違いますので、まずは考え方を切り替えるのが大変でした。ただ、メモリが少ない時代を経験しているベテランメンバーが多かったので、その点は有利だったかもしれません(笑)。

日山: あとは『ソウルキャリバーIV』と全く同じ事がたとえ実現できないとしても、新しい切り口のアイデアでそれを上回ることは出来るんです。確かに頭を切り替えるのは大変でしたが、それを乗り越えてからは、スムーズに開発を進めることができたと思います。

―――PSPではどのくらいのスペックの素材を用意すればいい、といった性能の見極めはどのようにして進められたのですか?

星野: 最初は手探りしかないですね。あとは、3年前くらいのソフトですが、弊社で作った『鉄拳 ダークリザレクション』というPSPの格闘ゲームがありましたので、それを参考にどこまでハードの性能を引き出せるか試行錯誤していきました。

―――何にどのくらいメモリを割り振るかというのも大変だったんじゃないでしょうか?

星野: そうですね。こっちを足したり、あっちを削ったり、毎日パズルをしているような感じでした。せっかく全部収まったと思ったら、新たに大きなパーツがやってきたり・・・(笑)苦労の連続でしたね。

北原: たとえば、デバッグをしていて、このキャラとこのキャラで対戦すると動かないということがあったりして(汗)。

―――キャラクタークリエイション用のパーツは今回どのくらい準備したのでしょうか?

日山:クリエイションパーツは、武器まで含めると1000を超えてますね。

―――それぞれ組み合わせてちゃんと表示できるかテストするわけですか?

北原: メモリもそうですが、見た目もチェックする必要があります。さすがに全パターンは無理ですが、ほとんどのパターンを自動で生成して、デザイナーで手分けしてチェックしました。

■音へのこだわり

―――「ソウルキャリバー」といえば、細部までこだわった「音」もポイントになると思いますが?

中鶴氏
中鶴: PS3やXbox360と比較すると、PSPはもちろんスペック的にかないません。しかし、再現しなくてはいけないことは基本的には変わりません。キャラクターも、ステージも、ゲームの遊び方も同じです。例えばサウンドで言えば武器の音なども、『ソウルキャリバーIV』を遊んだ人にとって違和感がないように作らなければいけない。それでいて容量やスペックは限られる・・・。

同じやり方では不可能である以上、切り口を変えなければならないんです。実はPSPは本体を目の前に持って遊ぶと、据え置きゲーム機とはまた違う没入感があるんです。試行錯誤している中で、前後左右あらゆる全ての音を再現しなくても、本当に大切な音さえ聞こえていれば意外にのめり込めるということが分かってきました。『ソウルキャリバーIV』の場合は次世代機ならではの有り余るスペックを使って、その場面で鳴っているであろうあらゆる音を再現していたのですが、それを改めて、今回は大事な音から順番に再現するようにしました。

一つ困ったのは『ソウルキャリバーIV』の場合、武器の音などは色々な音を組み合わせて作っていたのが、今回はちょっと厳しいということで、それに代わる武器の音の作り方を考える必要がありました。そこは矢野が担当してくれました。

矢野氏
矢野: 『ソウルキャリバーIV』では色々な音の素材を組み合わせて、キャラクターの強さ、武器の強さによって繊細に音を変えていました。今回は、気持ち良い音、機能的な音、ということに焦点を当てていて、音の特徴を誇張して、剣を振る音でも、縦切り、横切り、突きの違いが分かるようなものにしました。少し抽象的な表現ですが、PSPを手に持ってプレイすることで、100インチのワイドテレビでゲームをプレイするくらいの感覚を得られる音にしようと思って作りました。自社や他社のPSPタイトルや、個人的にもリスペクトしている『God of War』の優れたサウンドデザインを師匠と思い、研究して作りました。まずはいい師匠を見つけるのが大事かなと(笑)。

中鶴: たまたまクレイトスがゲストキャラクターということもあって、『God of War』は色々と研究しました。次世代機とPSPという携帯ゲーム機の両方で出ているという境遇も僕たちと同じで。例えば今回の音作りで言うと、BGMの再生はそれなりに高音質で出せるのですが、効果音やセリフは若干音質を下げざるを得ない。そうするとBGMだけ突出して高音質になってしまい、違和感を与えてしまうんです。そこでそれぞれの素材の音質をなるべく近づけるようにすると、遊ぶ際に違和感が減るということが分かりました。その辺りは『God of War』のサウンド表現がとても参考になりましたね。

矢野: 凄く豪華なゲストキャラなので、サウンドの面でもちゃんとおもてなしができるように頑張りました。

中鶴: そうですね、本家にちゃんと認めて貰いたかったので。

―――ヘッドホンとスピーカーという観点ではどちらに合わせたのでしょうか?

中鶴: 最初に矢野とも相談したのですが、例えば両方に対応するために素材を2種類用意するといったことも考えました。ただ、遊ぶ人の大半はヘッドホンだろうと仮説を立てて音を調整しています。結果的には、スピーカーで聞いても違和感がないものにはなっています。

矢野: PSPは高音が出やすいので、若干削って、かつヘッドホンで聴いて迫力があるように調整しました。

中鶴: 最後に、ヘッドホンをして長時間遊んでも問題ないように、音をちょっと柔らかくしました。

■グラフィックへのこだわり


―――グラフィックの面ではいかがでしたか? PSPで特に大変だったのはどういうところでしょうか?

久保: やはりPSPではPS3やXbox 360と比べグラフィックにも限界があるので、落とし込みには苦労しましたね。ただ今回はPS3やXbox 360で開発した経験があったので、『ソウルキャリバーII』や『ソウルキャリバーIII』くらいのレベルまで到達できたと思っています。ただ、メモリやCPUの描画負荷には苦労しましたね。

―――ハイスペックなプラットフォームでの開発を経てPSPに移られた、というのが良かったのですね。

久保: そうですね。PSPでゼロから作っていったら、今回のようなクオリティに到達することはできなかったんじゃないでしょうか。PS3やXbox 360で実現したものと同じレベルをPSPで実現しようと思ったからこそ、色々な工夫をして、なんとか厳しい仕様を実現できたんだと思います。

久保氏

―――家庭用ゲーム機とPSPでカメラワークや演出で変わる部分はあったのですか?

日山: 全体的に変わった部分はありません。当初はキャラクターのモデルをPSP用に落とし込むにあたって、カメラワークやキャラクターモーションを変更した方がいいという話もあったのですが、実際に載せてみると違和感無く遊べるので、今までのシリーズのものを踏襲する形にしました。

■ファイルマジックPROを導入した経緯

―――今回は「ファイルマジックPRO(※)」が採用されていますが、その経緯を教えてください

ファイルマジックPRO・・・CRI・ミドルウェア社が提供する、圧縮、パッキング、最適配置などでディスクメディアのロード時間を約1/2にまで短縮するミドルウェア(ファイルシステム)。

星野: 過去のソウルキャリバーシリーズでは「CRI ADX(※)」を採用していました。今回PSPという何も知らない新しいハードに飛び込んでいくにあたって、何らかの"魔法"が欲しいというのもありましたし、期間的に限られている中でファイルシステムまで自前で作る余裕はありませんでした。それで探してみたところ、「ファイルマジックPRO」しか選択肢はありませんでした。それで声をかけさせていただいたんです。もし自前でファイルシステムを作っていたら、ゲームはとてもまだ完成していなかったでしょうね。

※CRI ADX・・・CRI・ミドルウェア社が提供する、高音質マルチストリーム音声再生システム。約15年に渡りゲーム開発に活用され、多数のタイトルに採用されている。

―――「ファイルマジックPRO」の中でも有効だった機能というのはありますか?

熊坂: 『ソウルキャリバーIV』でも同様の処理を行っていたこともあったのですが、複数ファイルのグループ化機能(※)は活用しました。元々はキャラクターに必要な幾つかのファイルをまとめて1つのバイナリデータにして使っていたところを、今回は「ファイルマジックPRO」のグループ機能で処理しました。1つのバイナリに固めないため、開発中でも1つ1つのファイルの更新が簡単にできるので、開発のスピードアップにつながったと思います。

熊坂氏(手前)

※グループ化機能・・・「ファイルマジックPRO」で、複数ファイルをグループという定義でまとめる機能。グループ単位での読み込みが可能で、同じグループのファイルは自動的に近くに配置されるため、シークを減らすことができる。

星野: また、UMDからの読み込みはシーク時間が大きく影響するため、なるべくシークを減らしてロード時間を減らそうという観点でもグループ化を活用しました。グループでまとめたファイル群は一括で読み込むため、シークが発生しないので助かります。

―――具体的にはどういったものがグループ化されているのでしょうか?

熊坂: キャラクターの場合は、そのキャラクターの流派によって変わるモーションや専用のエフェクトなどがグループになっています。キャラクタークリエイションの兼ね合いもあって、モデルやテクスチャは別になっていますね。

―――ロード時間を短くする工夫というのはありましたか?

星野: とにかくなるべく短くしたいということで工夫は色々としています。一番大きいのは先程のグループ化です。シークを極力減らすことで、ロード時間を大幅に改善していますね。最終的には許容範囲に収まったかなと思います。それから今回はメモリースティックへのインストールにも対応しています。この記事を読んだ方はぜひインストールしてプレイしてほしいですね。

―――「ファイルマジックPRO」の組み込みにはどのくらいの時間がかかりましたか?

熊坂: 導入を始めたのが開発着手と同時で、実際にファイルを扱えるようになるまでは1ヶ月くらいかかりました。そこからこういう使い方をしたい、というような要望をCRIさんに伝えて対応していただいたので、それを含めると全体で3ヶ月くらいでしょうか。

―――音声のストリーミングは自前でやられたのですか?

中鶴: 『ソウルキャリバーIV』などでは楽曲再生でもクロスフェードをかけるなど結構複雑な処理をしていたのですが、今回はシンプルに再生だけだったので、社内ライブラリで済ませました。「ファイルマジックPRO」との共存も問題ありませんでしたね。

星野: 複数音声のマルチストリームをやるならADXが便利なんですが、今回はなるべくシークを発生させない、という方針でしたので、社内ライブラリでの単純再生を選びました。

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