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AIが作ったゲームを遊ぶ日がくる―『がんばれ森川君2号』森川幸人氏が語るゲームとAIの未来

BitSummit 2日目、『がんばれ森川君2号』でもお馴染みの森川幸人氏に“ゲームとAIの未来”についてインタビューを行いました。プレイステーション初期からAIを活用したゲームを世に送り出してきた森川氏の頭の中にはどのような未来が広がっているのでしょうか。

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AIが作ったゲームを遊ぶ日がくる―『がんばれ森川君2号』森川幸人氏が語るゲームとAIの未来
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AIが注目されて久しい昨今。5月13日に閉幕した「BitSummit Vol.6」のステージイベントにおいても「AI and Consoles」と題したステージセッションが催され、ソニー・インタラクティブエンタテイメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏と、モリカトロン 代表取締役の森川幸人氏がゲームとAIについてトークを繰り広げました。

森川氏といえば、『がんばれ森川君2号』などPlayStation黎明期から積極的にAIをゲームに組み込み、プロダクトとして世に出してきた人物として記憶している人も多いのではないでしょうか。「AIから少し離れた時期もあった」と語る森川氏ですが、2017年には日本初のゲーム専門AI会社を謳うモリカトロンを設立するなど注目を集めています。編集部ではステージ登壇前の森川氏にモリカトロン設立の経緯や、ゲームとAIの未来についてお話を伺いました。



――BitSummitに来場するのは初めてということですが、会場の雰囲気はいかがですか。

森川幸人氏(以下、敬称略):もっと同人イベントのような雰囲気かと思ったら、コンシューマーゲームのイベント言っても過言ではないくらいに盛り上がっているし、ちゃんとしているなという印象でした。あとは、インディーゲームのイベントでありながら、任天堂さん、SIEさん、マイクロソフトさんが出展されているというのも面白いですね。

――東京ゲームショウでも見られない光景ですね。

森川:いまやそうですよね。インディーゲームの開発者やファンと、プラットフォーマーが結びつく場所になっているということが凄く良いなと。

――やはりゲームをする人間からすると森川さんといえば『がんばれ森川君二号』などの印象が強くあります。最近遊ばれたゲームなどはありますか。

森川:昔からあまりゲームは遊ばないんですが、パズルゲームばっかりやってますね。少し前ですが、キュー・ゲームスさんの『Pixeljunk Eden』はものすごく面白くて、ハマってやってました。続編の『Eden Obscura』も出ると聞いて楽しみにしています。

――今回は吉田修平さんとのステージイベントが予定されていますが、どういった経緯で登壇に至ったのでしょうか。

森川:突然の話で、あまり自分でもわかっていないんですが…(笑)。とにかくゲームAIの未来について色々と話したいなと思ってます。この20年くらいはどこからもお呼びがかからなかったのに、ここにきてAIの話をできるというのはありがたい話です。ようやくゲームAIが認知されてきたのかなと。

※当日のステージの模様はこちらの記事で紹介しています。

――森川さんといえばやはりAIということで、AIについて色々とお話を伺いたいと思います。まずは2017年に設立したモリカトロンについてお聞きしたいのですが、立ち上げの経緯を教えて下さい。

森川:実はモリカトロン(*1)は僕が言い出して立ち上げた会社ではありません。というのもしばらくAIから離れていたんですが、2012年くらいから「そういえば昔、森川さんAIやってたよね」とポツポツ声がかかるようになってきたんです。よくよく調べると、世の中にディープラーニング(*2)という技術が登場して、世間的にAIが注目を集めているところでした。その流れで、一緒にやりませんかということで設立したのがモリカトロンです。

*1 モリカトロン株式会社…日本初のゲーム専門AIの開発会社。2017年8月設立。代表取締役社長は「モノビットエンジン」を手がける株式会社モノビットの代表取締役社長でもある本城嘉太郎氏が務める。
*2 ディープラーニング…AIの学習方法の一つ。自動運転技術などにも用いられ、画像認識、音声認識などで高い精度を発揮する。

――モリカトロンではゲームAIというキーワードを大きく打ち出していますが、ユーザーからすると少しイメージが掴みにくい印象もあります。ゲームとAIはどのような形で結びつくのでしょうか。

森川:大きく分けると2つあります。1つは「外のAI」といわれるもので、今は人間がテスターとして行っているデバッグやバランス調整をAIのオートプレイで行うというものです。バランス調整やバグの発見もAIにやらせることができます。こちらは開発支援の側面が強いAIです。

もう一つは「中のAI」といわれるもので、こちらはゲームの中のAIを指します。例えば戦闘中に逃げるのか、戦うのか、戦うにしてもただ武器で攻撃するのか、あるいは魔法を使うのか、といった行動判断に用いるものだったり、オープンワールドのゲームで場所を自動移動するときの経路を設定したりする際に有用なものです。その他、今は全てシナリオライターが書いている会話すら自動生成することができるようになります。このように2つの側面でゲームAIは開発に結びついていくといえます。

――「中のAI」はユーザーにもなじみ深いものが多いですが、開発人材の不足やそもそもの労働人口の減少などで「外のAI」へのニーズも高まってきているのでしょうか。

森川:やはりゲーム開発のコストが膨大になってきて、メーカーがリスクを取りきれない状況になってきました。一時期のハリウッド映画のように、採算の見込みやすいナンバリングタイトルしか出せないという傾向があるのではないかと考えています。同じようなナンバリングタイトルだけになるというのは、市場が貧困化しファン離れも招きかねません。そこに「外のAI」を持ち込むことで、コストダウンが図れますからある程度リスクを取ったタイトルの開発にも貢献できると思います。

ちなみに、AIというとシンギュラリティ問題(*)というのがあって、どうしても「AIが人間の仕事を奪ってしまう」という議論に収束しがちですが、日本においてはこれだけ労働人口が減っていくのだから、「少しはAIに仕事奪わせろ」と思いますけどね(笑)

※シンギュラリティとは…技術的特異点のこと。端的にはディープラーニングの発達などで、AIが人間の知能を超えるその瞬間を指す。一般的には森川氏が後段で触れているように、“AIが人間に変わって仕事をする”などといった形で語られることが多い。その時期については諸説あるが、概ね2045年頃ではないかといわれている。

――多少はAIに奪われてもいいじゃないかと。

森川:だって人がいないんだもん(笑)。むしろAIに置き換えられる仕事はドンドン置き換えないと、気付いたら開発現場が老人ばかりになっちゃうよと。そういう社会情勢もあって、ゲームがAIを必要としてきたこの流れは、ある意味で必然かもしれませんね。

正直なところ、モリカトロンはもっと苦労するんじゃないかと思っていたんです。最初はちゃんと営業しなきゃいけないかとも感じていましたし。ただ、すごく反響があって、現状請けきれずにお断りするくらいの引き合いがあります。元々市場ニーズはあると想定していましたが、想像以上にみなさん危機感があるようなので、うまく需要に応えることができたと思っています。

――では実際にゲームに組み込んでの開発も進んでいるのですね。

森川:そうですね。まだ未発表の作品が多いので具体的にはお伝えできませんが、いくつも組み込んで開発が進められています。

――実際にAIを使っているメーカーの反応はいかがでしたか。

森川:みなさん喜んで頂いてます。それまではスクリプトで動いてたキャラクターに、スクリプトを引っこ抜いていわば脳であるAIを組み込む。スクリプトであればどう動くは、ソースを見れば分かるわけですが、AIとなると予測不能の動きをするんですね。そうした動きをクリエイターが「こんな動きもあるんだ!」と驚いている様子を見ると嬉しくなります。本当に人じゃ考えつかない戦略や動きをするので面白いですし、それをクライアントさんが喜んでくれるので、入れてよかったなと。

――現時点では「外」と「中」どちらのAIのニーズが強いのでしょうか。

森川:今は「外のAI」のニーズが大きいですね。特にゲームアプリを開発している会社さんから多くお問い合わせを頂いています。彼らのビジネスモデルとしては2週間に1回、新しいアイテムやキャラクターを追加しなくてはいけないんですね。それにあわせて新規モンスターなんかも追加しなくてはいけなくなります。それが数年運営しているタイトルになると、キャラクターだけで1000体以上管理しなくてはならず、初期のキャラクターなどとの調整が非常に難しくなるんです。もちろん追加されるキャラクターなりアイテムが課金の対象となるわけで、間違っても“バランスブレイカー”は投入できません。

こうした微妙な調整は今まで全て人間が行ってきたわけですが、1000体以上のキャラクターを全て人間が良い塩梅に調整するのもそろそろ無理が来ているということで、このあたりにAIを活用したいというご相談は多くあります。

森川幸人の頭の中にあるゲームとAIの未来


――先ほどシンギュラリティのお話もありましたが、AIがさらに進化した近い未来、ゲームとAIがどのように結びついてる絵が森川さんの頭の中にあるのでしょうか。

森川:これは少し先の話になりますが…今は人間のゲーム開発を人間がサポートしてくれています。が、もう少しするとAIがゲームを作ってくれるかもしれません。人間が作る限り、人間の想像力を超えるゲームは作れないわけです。しかしながら、AIにはそれを突破する可能性があると思っています。人間には思いもつかない遊びを提供してくれるかもしれないなと。人類史上初めて、人間以外が作った遊びを楽しむ日がくるかもしれません。

今もゲームAIを組み込んだゲームは開発していますし、これまでもAIを活用したゲームはいくつもありました。どうせやるならそのバージョンアップでは楽しくないので、AIにゲームを作らせるという方向にチャレンジできたら面白いなと思っています。頂上は見えてるけど、まだ登山口も分からないという段階ですが(笑)。

――なるほど。確かに面白そうではあるのですが、やはり人間が作ったもの、クリエイターが魂を込めたものが一番だと考える人も多いのではないでしょうか。

森川:実はそこが深刻な問題なんです。これはある実験結果なのですが、AIが作った音楽をあるグループには何も言わずに、一方のグループには事前にAIが作ったと知らせてから聞かせたんです。すると何も言わずに聞いた人達は高評価だったにもかかわらず、AIが作ったものだと知ってから聞いた人達はかなり低い評価をしたと。そうであれば、別にAIが作ったという必要もないかもしれないのかなとも思いますね。

この先、人間は“選ぶこと”が仕事になるかもしれません。AIは候補をたくさん出すことが非常に得意なので、たくさんの選択肢を提示して最後に意思決定するのは人間であると。実は既にこうした取り組みって囲碁では進んでるんですよ。囲碁のAIといえば「AlphaGo」が有名ですけど、すでにAIがトップ棋士を打ち負かす時代になりました。その結果、棋士がペアで対局するという取り組みも始まっています。AIが候補手を出して、人間の棋士がその中から選択するんですが、これがなかなか面白いんです。こうすることで人間の棋士の力も上がっていくと思いますし、人間とAIの良い関係だなと思いますね。

――別にAIと聞いて恐れる必要もないということですね。

森川:そうですね。僕は、トップクリエイターを超えるようなAIは出てこないと思うんですよ。彼ら並の知能は持てないと思うんですが、その優秀なアシスタントにはなれるだろうなと。

――優秀なクリエイターがより早く、思い通りの作品をつくるためのサポートをしてくれる未来があると。

森川:AIが人間の職を奪っていくのではなく、サポートしてくれる。みんながハッピーな落としどころはそこでしょう。もちろんトップクリエイターの仕事はなくならないけど、真似ばかりしているいい加減なクリエイターの仕事はなくなるかもしれませんね(笑)。



「こんな変なことを言う奴はそんなにいない」と前置きしながらも、AIが作るゲーム(遊び)の可能性を語ってくれた森川氏。自動運転すら発展途上の現在では、まさかAIがゲームを作るなんて、想像するのも難しいものです。しかしながら、いつの日か「人類史上、初めて人間以外が作ったゲームを楽しむ日」が来るとするならば、その時我々の目の前にあるゲームはどのような形をしているのか、そして何を提供してくれるのか、興味はつきません。
《宮崎 紘輔》
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