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【インタビュー】「僕だけがいない街」原作者・三部けいが語る…「ある時期を境に、全ての目線が変わった」

2016年3月19日から映画『僕だけがいない街』が公開された。多くの読者を魅了する『僕街』はいったいどのように作られたのか。原作者・三部けい先生に話を聞いた。

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「僕だけがいない街」原作者・三部けいが語る “ある時期を境に、全ての目線が変わった”
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現在(2006年)と過去(1988年)を行き来し、主人公・藤沼悟は悲劇を食い止めるため、愛する人のため、懸命に生きるーー。三部けいによる漫画『僕だけがいない街(僕街)』はヤングエースの連載や単行本第1巻での衝撃的な展開が各所で話題を呼び、「このマンガがすごい!」「マンガ大賞」「これ読んで漫画RANKING」などで続々ランクイン、瞬く間に大ヒット作となった。2016年1月からノイタミナでのTVアニメ化、3月19日(土)からは藤原竜也・有村架純初共演となる映画が公開。同時期(ヤングエース4月号)に原作連載が完結するなど、今なお話題の尽きない作品だ。
多くの読者を魅了する『僕街』はいったいどのように作られたのか。また、公開になったばかりの映画はどう見たのだろうか。原作者・三部けい先生に話を聞いた。

『僕だけがいない街』
http://wwws.warnerbros.co.jp/bokumachi/

■ タイトルを付けるのが苦手だった

ー連載の本編完結お疲れさまでした。作品全体についてうかがいたいのですが、この物語はどのように思いついたのでしょうか。

三部けい(以下、三部) 
元々考えていた物語を、ヤングエースで連載するに当たって今の形に直しました。登場人物も全然違ったんですよ。共通している部分と言えば、時間が戻る要素や犯人のギミック的な要素だけですね。『僕街』を始める時に主人公、家族、友だちと全て設定し直しました。前の物語はヒント程度でしょうか。

ー描き始める時に、全体の流れは決めていたのですか?

三部 
大枠と、スタート地点、それから要所要所は決まっていました。“要所”に辿り着くまでの道筋がいくつもあって、その時その時でベストなものを選んで行きました。最後も「ラストはこんな感じかな」という読後感だけは決めておいて「変わっても構わない」というくらいの感覚でいました。それでもラストまでおおむねイメージ通りに行ったなあと思います。

ー何よりもまず『僕だけがいない街』というタイトルが心に残ります。このタイトルはどのように付けたのでしょうか?

三部 
一話目のプロットより前に、全体のイメージがざっくりできた時に付けました。「主人公がいなくなった状態の時間がある」というイメージでタイトルが浮かんできたんです。奥さんに「どう思う?」と聞いたら「いいね」と言ってくれて(笑)。タイトルを付けるのが苦手な自分から出てきた、いいタイトルだなと自分でも思いますね。

■ 子どもが生まれてから、あらゆるものの見方が変わった

ーキャラクターを作る際、特に主人公の藤沼悟にはどういった思いを込めたのでしょうか。

三部 
うだつの上がらなかった頃の自分を重ねている部分はありますね。一皮剥けるためにはもうひとつ上に何かを重ねないといけない、とは思いつつ辿り着けない人。少年時代や、母親(藤沼佐知子)との会話にも「あるある(あったあった)」とみんなが思えるような過去を描こうと元々思っていたので、結果性質も絵面も地味な大人の悟になりました。その分、少年時代に戻ってからの活躍や成長は見えてくるだろうと。

ー本作の印象的な部分で言うと、悟と佐知子の関係や雛月とその母の関係など、親子のさまざまな描写があります。特に悟に対する佐知子の眼差しは胸を打たれる部分かと思うのですが、三部先生の実体験が反映されていたりするのでしょうか。

三部 
そうですね。子どもが生まれてから、昔のことを思い出すことが多くなったんです。次々とおもしろいくらい思い出すんですよ。アパートを描く時とかも、兄弟がいるのですが、まだ生まれていない頃の記憶を元に描いていたりして。佐知子に関しては自分の母親がモデルという訳でもなく、自分にとって理想の母親像をイメージして描きました。


ー三部先生にとってお子さんが生まれたことは大きかったのでしょうか。

三部 
大きいですね。子どもにこう言ってやれたらいいな、という思いがマンガにも反映されていると思います。いろんなものに対する目線も、子どもが生まれてから確実に変わりましたから。本当に不思議ですよね。

ー雛月と雛月の母親のシーンは非常に息苦しいものがありましたが、ここにも変化はありましたか?

三部 
雛月の母親のイヤな部分は、子どもを持つ以前より上手に描けているのかもしれないなと思いますね。あと、子どもに対する暴力的な描写を俺はあまり描いていないんですよね。やっぱり抵抗を感じてしまって。そこはアニメがうまくシルエットで見せていて、「うまい方法があるんだなあ」と感心しました。

■ 本当に言うことなしです

ーメディア展開についても聞かせてください。映画化のお話は連載初期にすでに打診があったとうかがいましたが、いつぐらいだったのでしょうか。

三部 
二巻が出る直前くらいです。映画のプロデューサーである春名さんが一巻のコミックスを持ってきて、お話をしてくれました。

ーその時はどう感じられましたか?

三部 
「担当さんの言うことを聞いてよかった」と思いました。一巻のラストを「昭和63年の小学校の前」にしようと言ったのは担当さんだったんです。当初はもっとゆったり進めて行くイメージでしたが、そのアイデアを聞いてから描き直してスピーディーに展開させたらラストの衝撃とスピード感がハマった。そこが春名プロデューサーにも伝わったから二巻が出る前に話しに来てくれたと思うんです。

ー『僕街』は漫画、アニメと映画がほぼ同時期に完結する仕掛けも見事です。これはどのように実現させたのでしょうか。

三部 
アニメ、映画ともに話をいただいた時から終わり方や完結の時期は聞かれました。特にアニメは原作になるべく寄せたいという伊藤智彦監督の強い意向もあったので、何度も話し合った、という形です。


ー映画をご覧になってどのような感想を抱きましたか?

三部 
すごくよかったです! 少年時代の悟を演じた中川翼くんもすごいですよね。あのキャスト、スタッフの中でものすごくチャレンジしたと思うんですよ。それから雛月役の鈴木梨央ちゃんも凄まじかったですね。本当に驚きました。

ー映画では『僕街』のエッセンスが凝縮されつつ、映画としても見事に成立していました。ご自身が生み出した作品と映画の間にある距離感はどう感じられましたか?

三部 
尺の問題もあると思いましたし、何より監督は平川雄一朗さんということで“リバイバル”の解釈を含め全部好きに解釈してくださいと伝えていたんです。それでも俺が大事にしているシーンーーご飯を食べるシーンなどは映画でもやっぱり大事にしてくれていて、すごくうれしかったですね。もちろん信頼していましたから、出来に関しては全く心配していませんでした。

ー悟が藤原竜也さんに決まった時はどんなお気持ちでしたか?

三部 
「やった!」と思いました。映画『バトル・ロワイアル』でいい役者さんがいっぱい出てる中、ぶっちぎりの存在感を出してると感じたのが藤原さんでした。その頃から好きだったんです。実写になることで、悟のイメージが変わったら変わったでいいと思うんですよ。実際、藤原さんの悟は俺の描いた悟とは確かに違うとは思いますけど、藤原竜也流の悟が確立されていて、それが映画にも、悟という存在にも説得力を持たせてるんです。本当に言うことなしです。


ーもしご自身がリバイバルで過去へ行くとしたら、どの時期に行きたいですか?

三部 
この漫画が描けたり、こんなに注目してもらえるようになったのはたぶん積み重ねがあったからなんです。だから過去に戻ってやり直したい場所はないですね。ピンポイントで「あの時ああ言えばよかった」ところはありますけど、それができてしまうと何も思わなくなってしまうんですよ。やっぱりやり直しが効かないから人生はおもしろいと思います。

「僕だけがいない街」原作者・三部けいが語る “ある時期を境に、全ての目線が変わった”

《細川洋平》
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