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【インタビュー】「アルスラーン戦記」作曲家・岩代太郎、音楽制作や生誕50周年への想いを語る

『アルスラーン戦記』の劇伴でも知られる岩代太郎が、生誕50周年と作曲家人生25年記念したコンサート「岩代太郎とアルスラーン戦記×アジア映画音楽」を開催する。これを機にその音楽制作について伺った。

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「アルスラーン戦記」作曲家・岩代太郎インタビュー 音楽制作や生誕50周年への想いを語る
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荒川弘による漫画をアニメ化し、2015年にテレビ放送された『アルスラーン戦記』。多くのアニメファンから高い評価を受け、2016年には第2期シリーズの放送が期待されている。
その人気を支えた要素のひとつに、非常に完成度の高い劇中音楽の存在がある。音楽製作を担当した岩代太郎氏は、その主な活動の場を映画やドラマに置いており、日本を代表する作曲家として有名だ。『血と骨』『蝉しぐれ』『春の雪』『利休にたずねよ』と、日本アカデミー賞の優秀音楽賞に幾度も輝いている。

そんな岩代氏が、自身の生誕50周年と作曲家人生25年の節目を記念した「あっっという間の生誕50周年記念コンサート 岩代太郎とアルスラーン戦記×アジア映画音楽」を、3月27日に東京都港区のサントリーホールで開催する。タイトルにあるように、『アルスラーン戦記』は同コンサートにおいて大きなテーマとなっている。
何故、それほど重要なコンサートのテーマに『アルスラーン戦記』を選んだのか、不思議に思う方も多いかも知れない。音楽制作における実写とアニメの違いや、作曲当時の思い出話も交えながら、その理由を岩代氏ご本人にお聞きすることができた。
[取材・構成:キャプテン住谷]

岩代太郎 公式サイト http://www.its-club.com/
「あっっという間の生誕50周年記念コンサート
岩代太郎 と アルスラーン戦記 × アジア映画音楽」
http://www.promax.co.jp/info/2016/032701/

■ アニメの音楽に必要なのは“トゥーマッチ感”

――本日はよろしくお願いします。3月27日に控える、ご自身の生誕50周年記念コンサートでアニメ『アルスラーン戦記』もテーマにされると伺っています。まず岩代さんは普段、アニメや漫画はご覧になられるかから伺わせてください。

岩代太郎さん(以下、岩代)
漫画は読まないので『アルスラーン』に限らず、アニメのお仕事も原作を知らないことがほとんどです。でも、先入観のない状態で監督やスタッフの方々と「どんなアニメーション作品にしたいのか」というところからスタートできるのがいいのかな、と思っているんですよね。

――岩代さんは映画やドラマの音楽を多く手がけていらっしゃいます。アニメはそれとは異なるものなのでしょうか?

岩代
日頃、アニメーションや漫画にアンテナを張っていない人間なので、アニメ音楽のお仕事の話を頂くとついつい身構えることも多かったです。何年くらい前になるのか、『鋼の錬金術師』の劇場版で村田和也監督とご一緒してからは、だんだんそういうこともなくなりました。『アルスラーン』に関しては、「アニメだからどうしよう」と意識することはありませんでした。

――音楽の表現の仕方での違いはありますか?

岩代
違いますね。そのさじ加減が自分の中に蓄積されていなかったのが、先ほどの「身構えて」しまうことの要因です。アニメは、当たり前なのですがど実写と違って音が後付けでしょ? 音響効果音にしろ、セリフにしろ、音楽にしろ、120パーセントやって100パーセントがようやく伝わるみたいな、“トゥーマッチ感”みたいなものが必要な媒体だと思うんですよ。
ただ僕に発注をしてくれる製作陣は、実写映画的な音楽を求めていることが多いんです。実写の場合は、100パーセントを伝える時には5、60パーセントの情報にとどめておいて、後は見ている人の気持ちに委ねるという、想像力をかきたてる余白が必要になります。そのバランス感覚をアニメに持ち込むと、地味になっちゃうしか、場合によっては分かりにくくなってしまうんですね。

――とても難しいところですね。

岩代
実際に昔、『H2』というテレビアニメの音楽を作った時に「月9のような音楽でやりたいんだ」と依頼を受けたんです。当時の僕はトレンディドラマや、連続ドラマの音楽をやっていましたから。それで、月9で流れていてもおかしくないような音楽を納品したんす。だけど「少し地味だから、アニメのツボが欲しい」と追加オーダーが来たんです。その時に「月9のような音楽と言われても、おさえるべき点が違ったのかも知れないな」って忸怩たる思いを抱きました。「ああ、自分はアニメーション関係の仕事には向いてないんじゃないか」とすら思いました。

――岩代さんほどの方でもそんな失敗があったとは、意外に思えます。劇場版『鋼の錬金術師』が転機になったのですか?

岩代
アニメの仕事に距離を置こうとした訳ではないんですけども、積極的に営業することもなかったので、映画の仕事がメインになっていました。そんな中、村田監督に声をかけてもらいました。村田さんは僕が手がけた『白線流し』というドラマの、透明感のあるサウンドを気に入って、そういう世界観を自分の作品に取り入れたいんだと。僕は真っ先に「ありがたいんだけど村田さん、そのままやると絶対地味だと言われちゃうよ」と言ったわけ(笑)。
そうしたら村田さんは「それは場合によって成立するんじゃないですかね」なんて言うから、じゃあ分かりましたと。僕もできる限り頑張るんだけども、むしろご教授頂きたいんだと。

――教授とはどういう意味でしょうか?

岩代
『鋼の錬金術師』は三間雅文さんが音響監督で、『アルスラーン戦記』は明田川仁さん。僕は音響監督とのリレーションをとても重視します。日頃アニメの仕事に手馴れていない作曲家だからこそですね。
ひとつの作品でだいたい4、50曲は作る訳だから、そのバランスを、音響監督と相談しつつです。最近はそういうスタッフとの協力体制ができてきたので、三間さんや明田川さんと大変心地よくお仕事させて頂いていますね。おそらく、このやり方が的を射ているんだと思います。

■ メインテーマは1年後を見据えて作曲する

――楽曲の制作作業についも伺わせてください。そもそも、曲を作る時にはどれくらい作品の情報をインプットするものなのでしょうか?

岩代
極めて少ないですよね。ストーリーボードと、キャラクターの絵と、後はおおまかな話の流れ。映画の場合は、撮影が始まる前に脚本の決定稿が完成しているので、その脚本を読み込んでいって音楽の世界観を導きます。そこから、その映像作品の中で音楽が担うべきものは何なのか、何を表現するべきなのかを紐解くんです。それがテレビシリーズになると、最初から全部の脚本ができている訳じゃない。でも、だいたいの構成はあるので、例えば『アルスラーン』なら、ここで隣の国が出て来るんだ、とか。ここでまたお父さんが出て来るんだ、とか。そういうエピソードを見て「ああ、なるほど」と理解します。

――情報量の少ないなかで音楽を作るのは、非常に難しいような気がします。原作から情報を得ることはないのでしょうか?

岩代
漫画は静止画で感じる世界観で、動画で感じる世界観って違うんですよ。だから動画である映像コンテンツを手掛けるにあたって、そのヒントを漫画から得ようとすることはまずないですね。アニメーションの場合は、脚本もだけど絵コンテとか、キャラクターの設定画といった資料が送られてきます。

――そうなのですね。

岩代
当然、1クールなら1クール、2クールなら2クールを通して、その物語の最後に何を伝えたいのかは監督らスタッフとのディスカッションがあります。その“伝えたいこと”はメインテーマに関わってきますよね。
だって、メインテーマは最終回のクライマックスにも流したいからね。逆に言うと、クライマックスに流せないようなメインテーマってキツイじゃない(笑)。でも、2クールのアニメとかだとオンエアの1年くらい前にレコーディングがスタートするから、その時点でラストを見据えていなきゃいけない。そういう意味では、制作の仕方は大河ドラマに近いかも知れないですね。大河ドラマは1年もやるし、レコーディングの時は映像もなく、大まかなストーリーの組み立てを元にして曲を作るからね。


――作品に使用する音楽は、そのメインテーマのレコーディング時に全て録ってしまうのですか?

岩代
2回までやることはあります。とはいえ、2回目の時も最終回までの全ての絵素材はないですね。そこはもう言葉のやりとりです。どういう風にクライマックスへ持っていくか、みたいなことは監督や音響監督とイメージを共有するために話し合います。

――『アルスラーン戦記』のレコーディングは何回だったのですか?

岩代
『アルスラーン』は2回レコーディングしましたよ。全部で7、80曲くらいはあったと思いますが、それを半々で収録するのか、1回目に重きを置くのか、2回目かってところは議論になりました。限られた時間とお金をどう配分するか、ということですね。結果として1回目のレコーディングで、7割のお金と時間を割いたかな。曲数としては5、60曲くらいですね。僕が知る限りだけど、最近の日本のアニメの音楽制作としては、相当規模が大きい方じゃないかな。

――制作期間はどれくらいでしたか?

岩代
一ヶ月ないし、一ヶ月半くらいだったかな。僕が頂くお話は何故か「大きい編成でドンとやってください」みたいなのが多いから。となるとフルオーケストラのスコアを書かなきゃいけない。やっぱり一ヶ月から一ヶ月半くらいはないと間に合わないんですよね。

■ 『アルスラーン戦記』の音楽はクラシカルな手法で作られている

――アニメ化した『アルスラーン戦記』は荒川弘さんによる漫画が原作になっていますが、さらにその原作は田中芳樹さんの小説になっています。

岩代
そうそう、そこがまたすごいところなんだよね。僕は今50歳だけど、そうなると僕の周りとか友達にはアニメファンはあんまりいないんです。そのなかで僕が今までに関わったアニメーションの中で、一番反響があったのが『アルスラーン』。日頃、連絡もくれないような友達や親戚が「面白い!」って(笑)。確かに見てて面白いし、中高年ですら楽しめる。考えさせられるテーマがある。その根幹はやっぱり原作だよね。

――岩代さんが『アルスラーン戦記』から感じたテーマとはどんなものでしょうか?

岩代
宗教や武力をもってして、本当に平和が訪れるのかということですよね。架空のストーリーとはいっても、世界史に対してのアンチテーゼかと思うような話ですよ。それにドハマりしたんじゃないかと。
意外に思うかも知れないけど、僕の中では『アルスラーン』の世界観、その訴えているテーマと、ジョン・ウー監督が作る映画作品のメッセージ性は極めて近いものがあると思ってます。

――なるほど。だから50周年記念コンサートのもうひとつテーマが、ション・ウー監督の『レッドクリフ』なんですね。

岩代
僕の中ではほぼ共通したテーマですね。「『アルスラーン』とジョン・ウーってどれだけ振り幅あるのよ」って意見をネットで見ましたけど(笑)。自分が50歳という人生の節目を迎えて、何を感じて、何を考えて、何を伝えたいのか。どんな曲をやるにしろ、そこのクオリティは担保したいし。人として、親として思うことを、コンテンツを通して自分の人生観だったり平和観に蓄積させていく。それをより伝えられると思ったんだよね。

――最後に読者へメッセージをお願いします。

岩代
ちょっとマニアックな話をしますが、“メロディ”と“モチーフ”という音楽用語があります。メロディは皆さんが口ずさむ歌と同じで、8小節とか16小節とか、ある程度長いものです。それに対して、皆さんが一番よく知っているモチーフは『運命』。ダダダダーンですよ。たった4つの音符の集まりで、メロディと言うにはあまりに短いでしょ。これをモチーフといいます。
壮大な音楽作品、例えば交響曲とかを書こうと思った時は、このモチーフという最小の単位を様々に広げていく。それで初めて、30分にものぼるシンフォニーが書けるようになります。ワンコーラス1分半みたいなAメロ・Bメロ・サビという構成の歌は、どんなに頑張ってもそこから30分のシンフォニーには広げられないんですね。
大きなものを書きたい時こそ、最小の単位からスタートさせるというのは、実は全てのコンテンツに言えることです。一番根幹となる「なぜその作品を作りますか」というテーマを、一言に凝縮できた時に壮大なシリーズ化が果たせる。『アルスラーン』では、まずそのことを意識しました。何十曲作ってもある種、最後は一点に絞り込めるような凝縮された世界観というものを音楽で表現したいと思ったの。これは、極めてクラシカルな手法です。
それをお見せしたいと思っているのが今回のコンサートなんです。『交響曲アルスラーン』みたいな、ほぼ純然たるシンフォニーと思って頂いていいです。僕が思うところの『アルスラーン』の最小単位をもってして4楽章を形成していく、ということですね。
作曲家本人が言うと口幅ったいですけども、そこまでの緻密な音楽製作をしている日本のアニメーションっていうのは、僕が知る限りだけど極めて少ないと思う。そういう意味では、最も音楽的な完成度を極めているアニメーション作品だと思うので、ぜひそれを体感しに来て欲しい。その上で、第2期を楽しみにして頂きたいですね。

「アルスラーン戦記」作曲家・岩代太郎インタビュー 音楽制作や生誕50周年への想いを語る

《キャプテン住谷》

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