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ゲーム開発をワンストップでサポートする シリコンスタジオ寺田健彦社長インタビュー

ゲームエンジン「OROCHI」を筆頭に、国産ミドルウェアベンダーとして気を吐くシリコンスタジオ。昨年スマートフォン向けゲームエンジン「PARADOX」を海外向けに先行リリースし、GDCでも毎年ブースを出展するなど、日本のみならず海外展開も積極的です。

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ゲームエンジン「OROCHI」を筆頭に、国産ミドルウェアベンダーとして気を吐くシリコンスタジオ。昨年スマートフォン向けゲームエンジン「PARADOX」を海外向けに先行リリースし、GDCでも毎年ブースを出展するなど、日本のみならず海外展開も積極的です。2月23日には東証マザーズに上場し、新たなステージに入った同社の戦略について、寺田健彦社長に伺いました。

―――会社の概要を教えてください。

寺田: 創業が1999年、営業開始が2000年なので、もう16年になりますね。もともと3DCGの草分け的な企業とされる米シリコングラフィックスの日本支社として、日本シリコングラフィックスという会社があり、これが1999年に日本SGIと社名変更しました。このタイミングでハイエンド・グラフィックス専門のソフトウェア技術者集団として、独立した形になります。

シリコンスタジオ寺田健彦社長


―――ちょうどプレイステーション2が発売された時期ですね

そうですね。日本でもミドルウェア市場が立ち上がった時期でした。また、それまでハイエンドなワークステーションでしか3DCGの制作ができなかったものが、一気に安価なPCでも制作可能になるなど、業界でパラダイムシフトがおきた時期でもありました。最初はPS2向けのミドルウェアを中心に、テレビや映画向けの映像制作も行っていましたが、次第にゲームに焦点を合わせていったんです。

―――ミドルウェアのニーズが高まりましたからね。

すぐにプレイステーション2、ゲームキューブ、Xboxという戦国時代が到来して、サードパーティのマルチプラットフォーム戦略が進む時期に乗ることができました。その後2004年に人材派遣事業、2007年には「DAIKOKU」「YEBIS」の発売もはじめました。

―――ミドルウェアベンダーにはめずらしく、自社でゲーム開発・販売もされています

私自身がエンジニアでレンダリングエンジンの研究開発を行っていましたが、2008年に社長になり、新しくゲーム開発本部を2009年に立ち上げました。その後、フィーチャーフォンでモバイルゲーム市場が拡大していて、運良くソーシャルゲーム2本目で『三国志カードバトル』をヒットさせられました。これで一気に業績が拡大したんです。他にコンソールゲームの受注開発(『BRAVELY DEFAULT』『3Dドットゲームヒーローズ』など)も行っています。現在はミドルウェアなどの開発推進・支援事業が45.2%、コンテンツ事業が45.7%、人材事業が9.1%という売り上げ配分になっています。



―――ミドルウェアベンダーとして、コンテンツ事業を行うメリットは何ですか?

業績や業界内での知名度上昇もさることながら、ミドルウェアの営業をするうえでも、ゲームの企画であったり、ゲームの中身に即したより深い技術サポートの相談がいただけるようになったりと、さまざまな形で波及効果が出てきました。

またミドルウェアというのは、最初のお客様を獲得するのが非常に難しいのです。どうしても採用実績でみなさん判断されます。だったら、自分たちで採用事例を作って不安を払拭させようと考えたのです。実際に自分たちでゲームを作ることで、さまざまなニーズを発見してミドルウェア開発に役立てることができますしね。また、せっかく作るのならおもしろいゲームが作りたい、という思いもありました。

―――なるほど

他に開発支援を通して企業と接点が持てたり、最新の技術トレンドなどを収集することもできますし、開発現場で人材が不足しているということであれば、クリエイターの派遣などもご提案させていただいています。3つの事業で、さまざまな相乗効果があります。

―――3事業で理想のバランスはありますか?

なかなか一口では難しいですね。ゲームは当たれば大きいですが、波があります。開発支援はコンテンツの爆発力にはかないませんが、安定しています。人材派遣も現在は割合が小さいですが、年率約30%ずつ成長していますし、まだまだ成長余地がたくさん残されています。良い補完関係にしていきたいですね。

―――コンソールゲームの自社パブリッシングや、VRについてはどう思いますか?

自社パブリッシングによるパッケージビジネスについては当面考えていません。ダウンロードコンテンツには可能性がありますが、まずはモバイルで先行させて、ヒットしたらその知名度を活かして横展開という流れが良いでしょうね。VRについては、私もGDCでProject Morpheusのデモを体験させていただき、すばらしい可能性を感じました。あとは今後の普及次第だと思っています。

モバイル向けゲームエンジン「PARADOX」をリリース



―――開発支援に話を戻すと、急速にミドルウェアの無償化の波が進んでいます

どこで技術をマネタイズするかという話ですね。実はシリコングラフィックスにおけるメインの商材はハードウェア(ワークステーション)で、ソフトウェアは「おまけ」みたいなものでした。それがPCの低価格化・高性能化でだんだんと先が見えなくなっていったという経緯があったんです。弊社が起業したのも、だったら思い切ってソフトウェアの開発部隊だけで独立し、ソフトウェアでビジネスを行おうという思いからでした。

―――先ほど言われていたパラダイムシフトですね

ただ、おっしゃるとおり昨今ではゲームエンジンを筆頭に、ミドルウェアの無償化やサービス化の流れが進んでいます。全部がそうなるとは思いませんが、ビジネスモデルは多様化していくでしょう。ミドルウェアには大きくライセンスモデル(1タイトルいくら)とロイヤリティモデル(1本売れたらいくら)があり、しばらくは両者が並行していくと思います。今でも続編タイトルなど、ある程度ヒットが見込めるものであれば、ライセンスモデルの需要があります。一方で完全新規のタイトルであれば、ロイヤリティモデルを選ばれるお客様もいます。

―――ミドルウェアの費用対効果を説明するのに苦労されている企業が多い中で、御社はどうですか?

弊社ではグラフィックスという目に見えるものを扱っているので、そこは比較的楽ですね。良い製品を作れば結果も自ずとついてきます。またYEBISは他社様のゲームエンジンと組み合わせて使うこともできます。弊社のOROCHIも他社様のミドルウェアと組み合わせられます。

―――去年、新たにスマートフォン用のゲームエンジンとして「PARADOX」も発表されましたね。海外先行で告知されていますが、どういった理由でしょうか?

PARADOXは物理ベースレンダリングとマルチプラットフォームが特徴で、今年のGDCでもアピールしました。これまで培った弊社の技術がふんだんに投入されていて、スマホやタブレットでもコンソールクラスのビジュアルを手軽に表現できます。大前提としてモバイルの性能が向上して、コンソールとハードウェアの差がどんどん縮まってきていますからね。ただ日本では2Dゲームが中心で、3Dゲームに積極的に投資をしているのは海外スタジオの方が多いのが事実です。また開発言語がC#なのですが、これも日本より海外で人気があります。もちろん日本でも、これから積極的にアピールしていく予定です。

PARADOXのウェブサイト


―――今は完全無料で配信されていますが、収益モデルはどのように考えていますか?

そこは検討段階です。確かに今はGPLライセンスのオープンソースで配信していて、誰でも自由に使ってもらって、必要ならエンジンの中身まで弄ることができます。ただGPLライセンスの場合、それを利用して作ったコンテンツもオープンソースで発信しなければいけない、という縛りがあります。それをしたくないなら、バイナリモードをご購入いただく・・・というのも一つの考え方としてありますね。他にPro版などの切り分けもあると思います。

―――GDCでも日本勢でほぼ唯一、巨大ブースを構えられていましたね。

ありがとうございます。来年も同規模か、それ以上のブースを出す予定です。実はゲームについては国内と海外の売り上げが半々なんですよ。ミドルウェアについては、まだ国内中心ですが、できるだけこの割合に近づけていきたいですね。現在の主力はゲームエンジンの「OROCHI 3」と、その中で使用されているポストエフェクトミドルウェアの「YEBIS 3」、レンダリングエンジンの「Mizuchi」です。特にMizuchiは物理ベースのレンダリングが特徴で、実写に近い映像が作れます。

日本勢で唯一巨大ブースを出展していたシリコンスタジオ


―――テクノロジー集団という印象です。どうやって人材募集をされているのですか?

もともと自分自身がエンジニア出身ですし、弊社の母体となったシリコングラフィックスにも優秀なエンジニアが揃っていましたから、そういう色がでているのかもしれませんね。今、日本の大学でCG系の研究室といえば数が限られています。そのためほとんどの大学にOBがおり、積極的にOB訪問をしてリクルーティングにつなげています。今は単体で220人、連結で300人くらい社員がおり、これからも優秀なエンジニアはどんどん採用していきたいですね。

新規事業としてアドテク分野にも参入



―――他にもいくつか事業を手がけられていますね

まだ割合は小さいですが、バックボーンやインフラ系のビジネスも行っています。ソーシャルゲームの運用サービスも手がけていますね。また、新たにアドテクノロジー(高度な広告配信技術を用いて特定のユーザーをターゲティングし、効率的に配信する仕組み)ビジネスも立ち上げました。こんなふうに企画・開発・人材・運用・バックエンド・宣伝と、ゲーム開発をワンストップでサービス提供できる企業にしていきます。

―――アドテク事業について、もう少し具体的に教えてください

弊社はシリコンバレーのベンチャー企業、GET.ITに出資しており、その縁で国内における独占代理店となっています。GET.ITはGoogle Earthを開発したエンジニアが独立して立ち上げたスタートアップで、Googleディスプレイネットワークに特化している点が特徴です。主なクライアントとして『クラッシュ・オブ・クラン』のスーパーセルがあり、同社と共に成長してきたともいえます。一昨年は10億円程度の売上でしたが、昨年には10倍以上に成長しました。昨年の12月からは日本でも営業を開始しました。

GET.ITのウェブサイト


―――アドテクは非常に競争が激しいと思いますが、強みは何でしょうか?

一つには元Googleのエンジニアが作ったため、Googleディスプレイネットワークの補完的な役割ができる点があります。Googleディスプレイネットワークは広告効果は良いが高額になるか、低額で済むが広告効果が低いかの両極端になりやすく、使い方にコツが必要です。これがGET.ITだと状況を見ながらリアルタイムに広告の値付けをしてくれて、収益が最適化されていきます。そういえば『フラッピーバード』でも、広告収益の大半はGET.IT経由だったんですよ。最初は低かった広告単価が、途中からどんどん上がっていきました。またゲームへの流入先の半分がゲーム以外のメディアやアプリだった点も特徴的でした。

―――そもそも、どうして上場されたのでしょうか? また、上場益は何に使用される予定ですか?

やはり競争が非常に厳しい業界ですから、優秀な人材を多く確保したいですし、そのためには知名度の向上が必要です。財務基盤の安定化という点も課題でした。ミドルウェアベンダーにはインハウスで作られているミドルウェアと、競合他社の製品という二つのライバルがあります。この両者に勝てる製品を作り続けていく必要があります。そのため上場により得られた資金も研究開発費、広告、海外展開などに使っていきたいですね。

―――現在注目されているテクノロジーはありますか?

VRとクラウドレンダリングでしょうか。特にクラウドレンダリングは水準が急速に向上していて、映画なみのクオリティも数年以内に実現できると思います。あとは、それをいかに効率的に行うかですね。その一つとしてクラウドレンダリングに注目していて、研究開発も進めています。

―――ますますのご発展をお祈りしています。

ありがとうございました。これからもゲーム開発をワンストップでサポートしてけるように努力して参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

東京・恵比寿のシリコンスタジオ本社にて
《小野憲史》
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