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トリプルAのサウンドはいかにして構築されたか? ユービーアイソフト『アサシンクリード4: ブラックフラッグ』チームが語るWwiseの活用

『アサシンクリード4:ブラックフラッグ』のサウンドチームからオーディオディレクター のアルド・サンパイオ氏と、サウンドプログラマーのアレクシ・ルソー・デュビュイ氏が登壇し、「アサシンクリード4:ブラックフラッグとWwise」と題した講演を行いました。

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Wwise Tourにて、『アサシンクリード4:ブラックフラッグ』のサウンドチームからオーディオディレクター のアルド・サンパイオ氏と、サウンドプログラマーのアレクシ・ルソー・デュビュイ氏が登壇し、「アサシンクリード4:ブラックフラッグとWwise」と題した講演を行いました。会場からはサウンド担当者から続々に突っ込んだ質問がおこなわれ、日本の開発会社におけるWwiseの浸透ぶりが感じられました。

アルド・サンパイオ氏(左)と、アレクシ・ルソー・デュビュイ氏(右)


本作は2013年に発売され、多数の海賊が活躍した、18世紀初頭のカリブ海が舞台となっています。ゲームはPS3・Xbox360・Wii U・PS4・Xbox One・PCのマルチプラットフォームで、サウンドにはWwiseが全面的に使用されています。

講演は「環境音(Ambience)」「ボイス」「効果音(SFX)」「音楽」「ミキシング」の順番に行われ、二人から基本的な解説が行われたあとで、各項目ごとに随時会場から質問を受けつけるという、インタラクティブな構成で行われました。中でも質問が集中したのが「ミキシング」におけるサウンドのレイキャスト(物音が建物の壁などで遮蔽されたり、回り込んで聞こえてくるような演出、いわゆるオクルージョン/オブストラクション)についてで、関心度の高さを伺わせました。

まず環境音については、広大なマップ上で52個の拠点を設置しており、それぞれにおいて天候や時刻、高度といったパラメータを用意。感情をサポートするためのナレーションの変化も行われていると説明されました。各拠点はココナッツビーチ、漁師の村といった具合にグループ分けされており、Wwise上で管理されています。環境音が鳴る範囲についてはマップ(2D)とボックス(3D)の2種類で管理。同じシーンでも昼は人々のガヤガヤいう音が鳴り、夜は虫の鳴き声が流れる。船の甲板上では波しぶきが聞こえ、マストに上ると風の音が聞こえる、などが実演されました。



これらの環境音はストリーミングでメモリ上に展開され、順次再生されていきます。しかし次世代機といえどもメモリの制限があることは明らかで、再生には「オンメモリ」「サウンドの冒頭部分だけをオンメモリにする」「完全ストリーム」の3種類を切り分けて活用しているとのこと。多数のストリームサウンドを再生する場合は、優先度の低いサウンドを無視したり、足音といった小さなサウンドファイルはキャッシュに蓄積しておき、読み込み速度を速めるといった工夫も行われています。

一方で前述の通り本作は旧世代機と新世代機のマルチプラットフォームで、ハードごとにメモリ容量が異なります。そのためサウンドファイルもハード別に圧縮率やファイル容量が異なります。これについてもWwise側で一括管理しており、プリセットを変えるだけで一度に変更できたとのこと。こうした機能が効率化に大きく寄与したとされました。

続いてボイスでは、巨大なモーションキャプチャスタジオで役者に演技をしてもらい、キャラクターの動きと台詞、そして表情の動きをまとめてキャプチャしている様(パフォーマンスキャプチャー)が紹介されました。録音データは内製ツールを介してWwise上にインポートされ、英語版だけでなくローカライズデータ(英語以外の言語ファイル)についてもWwise上で一括管理しているとのこと。また時代背景からマップ上を大きく英語圏とスペイン語圏にわけ、NPCの台詞を管理。またNPCを大きく市民・衛兵・海軍に分け、それぞれのふるまいを管理。オノマトペ(擬音語)についても別途管理していると説明されました。



このほかガヤ(群衆がガヤガヤいう音)はロケーション(中庭・パブなど)ごとにグループ化されており、特殊なものとして戦闘時の音と海軍でのみ使用されるガヤが存在します。『アサシンクリード4:ブラックフラッグ』と『アサシンクリード:ユニティ』におけるアルゴリズム的な違いも明かされました。『4』では2D環境でガヤが処理されており、プレイヤー周辺の人口密度によってガヤの音量を調整。これに対して『ユニティ』では3D環境となっており、プレイヤー周辺のグループ化された人々に対してガヤの音源が設置されているそうです。



サンバイオ氏は「この違いはゲームデザインによるものです」と説明しました。カリブ海が舞台の『4』はとにかく広大なマップが特徴で、2D的な処理が最適。これに対してフランス革命におけるパリが舞台の『ユニティ』では、建物の中に出入りできる局面が増加しており、必然的に立体的なガヤの処理が求められたといいます。両タイトルを所有しているユーザーは、聞き比べてみるのもいいでしょう。

効果音では武器の爆発音などについて説明されました。本作では武器にレベルアップの概念があり、武器が強化されると爆発音が変化します。本作では基本となる効果音に対して、Wwise上で動的に変化させることで表現。武器レベルはスイッチコンテナ、大砲の音量はRTPCとブレンドで処理しているとされました。このほかプレイヤーが操作できる船舶(Jackdaw)における容積ボックス(環境音などが聞こえる範囲)についてもムービーを交えて紹介。プレイヤーの移動に伴って、20種類程度の効果音がリアルタイムに音量調整され、再生されている様が示されました。



このほか本作では主人公が海に潜ったり、泳いだりするシーンもあります。こうしたシーンでの効果音は、実際にサウンド担当がプールに入って、バシャバシャしながら録音している様子が紹介されました(担当はユービーアイシンガポールのスタッフで、楽しみながら収録してくれたそうです)。このように本作はモントリオール、シンガポール、ケベック、フランス、ブルガリアで分散開発され、サウンドチームだけで合計20名程度が参加。約1年かけて音作りに励んだといいます。



音楽ではシングルモードで3時間、マルチモードで1時間、合計で4時間以上の音楽(BGM)が作成されました。これらはゲームエンジン上でシーンごとに再生管理されています。ステートの変化やゲームの状況に応じて、切れ目なくBGMを変化させていくのです。もっとも曲ごとのテンポの変化については対応できておらず、作曲者にはできるだけテンポを変えないように指示しているとのこと。それでもテンポを変えたい場合は、そこでトランジションセグメントを入れて、スムーズに切り替えていると説明されました。



ミキシングではWwiseのラウドネスメーターを活用しながら、-23LUFS±2LUでミックスしたとのこと。中でも洋画などと同じく、ボイス(キャラクターの音声)に優先度がつけられたそうです。また『アサシンクリード:ユニティ』では屋内と屋外を頻繁に行き来する関係上、環境音の減衰効果においてレイキャスト処理が行われたと空かされました。もっとも処理負荷の関係からプレイヤーキャラクターと音源との距離のみに注目する、簡易的な手法に留まっており、その間に遮蔽物が存在すれば、その厚みに注目して減衰率を算出。さらに計測も毎フレームごとではなく、一定間隔ごとの計測に留まったとしました。

このほかWwiseで役にたった機能として、ボイスモニターが上がりました。これはそのシーンで再生されているすべての音を、リアルタイムに波形グラフでモニタリングできるというもの。特にデバッグなどで役に立ったといいます。こうしたWwiseの便利な機能をフルに活用することで、期間内に膨大な物量のゲームを開発することができたと振り返られました。

もっとも、『アサシンクリード4:ブラックフラッグ』は1世代前のタイトルで、最新作『ユニティ』は旧世代機を切り捨てた(PS4・Xbox One・PC)真のAAAタイトル。つまりWwiseの使いこなしにおいても、さらに限界まで突き詰められたことが想像されます。今やインディからAAAまでさまざまな規模のゲームサウンドがWwiseで作られており、その使いこなしレベルは多彩。さらなる開発事例の共有について期待したいところです。
《小野憲史》
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