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【Indie Japan Rising】傑作フリーゲーム『魔王物語物語』『ムラサキ』のカタテマが語るゲームデザインと物語

国内のインディーゲーム開発者にインタビューを行う本企画。今回は『魔王物語物語』や『いりす症候群!』といったフリーゲームで知られるカタテマのてつ氏にお話をうかがった。

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◆アーケードの直感性とRPG的物語の両立――カタテマのゲームデザインの美学



――こうして過去の作品を振り返ってみると、意外にもアーケードゲーム志向が強いように思えますね。どの作品もレベルやステージがコンパクトにまとまっていて、クリアするごとに何かご褒美があります。

てつ:
それはあまり自覚がないですね。確かにアーケードゲームはよくプレイしていました。ただあらためて自分の作品を振り返ると、『魔王物語物語』や『ムラサキ』で取り入れた断片的なテキストによるストーリーテリングは、実は初期の頃からやっていたように思えます。『勇者御一行様殺人事件』も最小限の要素で物語を語っています。スタート時点でいきなり村が滅びている様子もマップで表現している。ステージをコンプリートすると日記が読めるというてストーリーがわかるという作りになっています。昔からこういうのが好きだったみたいですね。

――この独特なストーリーテリングは何かに影響を受けたものですか?

てつ:
『ロマサガ』シリーズの影響は大きいです。普通の小説や映画は、用意されたストーリーラインを順番に見ていくものですよね。もちろん中には「時系列シャッフルもの」のような形式も存在しますが、その手の物語も、受け手はシャッフルされたものを作り手が用意した順番通りに見ることが前提となっています。他方、ゲームの場合は自分で好きなところにいって好きな順番で物語を拾い集めることが可能です。それを『ロマサガ』はやっていたんです。こういった物語の展開の仕方はゲームじゃないとできない。そしてこれこそゲームでやるべき表現だと思います。

――それは同感ですね。思うに河津秋敏さんはゲームシナリオを敵側の目線で構築しているようです。『ロマサガ』はフリーシナリオであるため、プレイヤーの側にははっきりとした物語が提示されません。しかし、敵側の目線に立つと実はかなり明確なストーリーが作られているんです。『ロマサガ1』ではサルイーンの復活のために、各地でミニオンが暗躍します。『ロマサガ2』でも復讐のために各地で七英雄が活動する。これらの行動は時間軸にそってはっきりと決められています。でもプレイヤーがそれらの敵と対峙する場所は毎回異なってくる。結果としてプレイヤーは断片的な出来事の中からその背後を読み解くことになります。

てつ:
そうなんですよ。最初に世界を構築して、その上を歩くことで断片的な情報を拾い集め、ストーリーの骨格が理解できる。そういう点では自分の手法と似ているかもしれません。僕が『ロマサガ』に影響を受けているので当然ですが。あとフリーゲームではアンディー・メンテの作品にも影響を受けています。アンディー・メンテのゲームではスコアなどのプレイ状況をテキストファイルに出力できます。『魔王物語物語』のテキスト出力の直接の着想はそこにあります。他にも『ネフェシエル』や『イストワール』といったフリーゲームにも当然、影響を受けています。広大な世界を歩いて読み解いていくという点では、『イストワール』はすごく参考にしました。



――『ロマサガ』シリーズから影響を受けているそうですが、印象に残っているエピソードなどありますか?

てつ:
あげるとキリがないですが、ベタなのは雑魚敵に「火の鳥」を食らって瞬殺されたことですね。目が点になりました。ただ真面目な話、これは今につながる貴重な経験にもなっています。というのも『ロマサガ』のこの手のトゲトゲしい部分は、当時のプレイヤーに「冒険している感」を提供していたのは間違いないと思うんです。そしてこの感覚は綺麗に上品に調整されたゲームでは、絶対に得ることができない。そのため、自分の作るゲームでも必ずどこかトゲトゲしさを残すことをいつも目標にしています。

――ではカタテマのゲームデザインについてお聞きしたいと思います。いきなりですが、ゲームを作るときは最初に何を考えますか?

てつ:
ストーリー面とゲーム面では別々ですね。ゲーム面でこだわっているのは、レスポンスの良さやシンプルな操作性、気軽に始められること。おおむね直感的な部分ですね。ボタンを絞ることにもこだわっています。『ムラサキ』も2ボタンでまとめました。

――それでもカタテマのゲームを難しいと感じる人は多いようですね。

てつ:
確かにそうかもしれない。だけど難しいといってもいろいろあります。再プレイしやすく作っていれば、たとえ難しくても何度も挑戦できる。『魔王物語物語』もその辺は重視しました。死んでもすぐに再開できる環境を確保したつもりです。全体がスピーディーになれば、再プレイもしやすい。そして何度も挑戦して、以前やられたところを突破する達成感が得られるのが理想的です。



――『ムラサキ』でも特にステージ構成が独特ですよね。再プレイしやすいように通しプレイが前提になっていない。

てつ:
そうですね。通しプレイというのはシューティングが苦手な人の巨大な壁なんです。なので初期段階で通しプレイをしなくてもクリア可能なものに決めたんです。ただデメリットも大きかった。1面2面とパワーアップして自機が強くなり、音楽や背景で気分を高めてラスボスに到達する。通しプレイのステージ構成は演出面でとても理にかなっています。そういった演出もやりたかった。

――つまり通しプレイには通しプレイの盛り上げ方や演出があるというわけですね。

てつ:
アーケードのシューティングや東方Projectもいきなり6面から始めるとなんか違うなと思いますよね。しかし『ムラサキ』では、通しプレイが可能にする優れた演出という大きなメリットを捨て、ステージ選択性による遊びやすさというメリットをとりました。

――他にシステムの面でこだわりは?

てつ:
さっきあげたボタン数ですね。物理的なボタンを減らすというのもありますが、体感的なボタン数を減らすこともこだわっています。

――体感的なボタンというと?

てつ:
たとえば『スト2』などのカプコンの格ゲーは6ボタンあります。普通、6ボタンを駆使するのはかなり困難ですね。ただ『スト2』が素晴らしいのは上がパンチで下がキック、弱中強と並んでいるのでかなり直感的。自然に受け入れられるため把握がそれほど難しくないんですよ。別の例では、2つのボタンを使用するとしても、まったく別の機能をバランスよく駆使するゲームと、ほぼ片方のボタンしか使わないゲームだと体感的なボタン数は違います。『ムラサキ』もその点、2ボタンなんですが、基本的に1ボタンゲームにしたかったんです。必殺技という要素のために2ボタンなんですが、実際には使う機会は少ない。なので僕の中では1.2ボタンゲーム(笑)。

――なるほど。

てつ:
そういう風に体感的なボタン数を減らしていくことで操作をシンプルにしていくのが好きです。



――再プレイをしやすくする、ボタンを絞る。どちらにせよシステム面ではミニマルなものを志向しているのですか?

てつ:
そうですね。

――そういった部分は海外のインディーゲームにも似ていますね。難易度は高いが再プレイが速くてストレスにならない。『Super Meat Boy』なんかはまさにそんな感じです。ボタンも1ボタンです。おそらく昔のアーケードやファミコンのゲームが持っていた良さで、現在の商業ゲームが忘れている部分をインディーゲームもフリーゲームも求めているのかな。

てつ:
そうかもしれない。僕がゲームを作り始めたのはSFC時代も終わったプレイステーションのころです。ただあの読み込み時間が昔から大嫌いで……。そういった中で初めて触れたアンディー・メンテのゲームがサクサクと操作できることに感動したことを覚えています。そういったレスポンスの良さによる快感を提供したいという思いは昔からあります。自分の作るゲームは今でもそういった部分を大切にしています。

――さきほどインターネットで格闘ゲームのフォーラムをのぞいていたという話がありましたが、他にも格闘ゲームからの影響はありますか?

てつ:
一昨年くらいに『P4U』にハマっていましたが、最近は時間を作るためなるべく格闘ゲームに手を出さないようにしています。格ゲーから得たこととしては、さきほどの体感的なボタン数以外にはフレーム感覚や快感の先取りといったことがあげられます。フレーム感覚というのは、技の発生フレームの体感のことで、ゲームを調整するときにも役に立っている気がします。

快感の先取りというのは、どういうときに気持ちよくなれるかに関する経験則です。例えば、相手の波動拳に絶妙のタイミングで跳べると、その後に気持よく連続技を決めれます。ここで気持ちよくなるのは連続技を決めている最中だと思いがちですが、実は人間はうまく跳んだ瞬間にすでに気持ちよくなっていると思うんです。やってくる素敵な未来を想像によって先取りして興奮する。すこし時間差があった後に、その期待に応えてくれる快感の本体が後からやってくる。人間はその一連の流れに深い快感を覚えるのではないかと、自分の経験・体感から考えるようになりました。理屈があるわけではなく、単なる個人的な経験則なんですが。

――なるほど。

てつ:
作るときも快感の予兆、時間差、快感の本体という部分をセットで提供するのが良いと思います。『ムラサキ』においてもそういった設計を行っています。

――ではストーリー部分に関してはどうですか?

てつ:
『魔王物語物語』と『いりす症候群!』ではゲームの外部にテキストファイルを出すという試みをしています。あれは僕なりのこだわりなんです。これまた『ロマサガ』の話ですが、昔はインターネットもなくて手探りでプレイしていました。ストーリーとかもほとんどわからなかった。ただやっているうちに世界やキャラを断片的に把握できてくる。その後に攻略本や資料集といったゲームとは別なところで設定を理解するのがとても楽しかった。あの酒場のいたやつはシェラハだったのかとか。そのように、ゲームから一歩引いたところでテキストを読んで理解することに、独特の楽しさを体験した思い出があり、これを再現したいという思いがありました。ただ僕のゲームには攻略本はないので、それを擬似的に再現した、それがあの外部に出力されるテキストです。


物語の真相がテキストファイルで出力される『いりす症候群!』。

――先ほどアンディー・メンテもテキストを外部に出していたと聞きましたが、フリーゲームのある種の常套手段だったんでしょうか?

てつ:
僕が知っている限り、アンディー・メンテ作品が出力していたのはレベルなどの数値的なものです。ストーリーを出力するゲームは自分以外にはよく知らないですね。自分はやはり副読本感覚を作りたかったというのが大きい。それと単純にゲーム内で長いテキスト読むのが苦手です。『ムラサキ』でも言えますが、読みたくないときに長文を読まされるのは本当に苦痛なんです。長文読むこと自体は良いのですが、突然長話とか始まると頭に入ってこない。ゲーム中のテキストはなるべく最小限にしておきたい。そうすればゲームを進めたい人の邪魔はしないし、ゲームシステムにしか興味ない人も楽しめる。ストーリーに興味ある人はさらに長文を読んで楽しめる。これで両方のニーズに対応できると思うんです。実際に『魔王物語物語』はストーリーに一切触れずに褒めてくれる人もいれば、シナリオを褒めてくれる人もいます。だから狙いはそこそこ達成できたと思います。

――断片的なテキストからプレイヤーが物語を読み進めていく手法は、「環境ストリーテリング(enviromental storytelling)」と呼ばれるものと似ています。これは海外のインディーゲームでも用いられる手法なんですが、環境というかオブジェクトを利用して物語を語らせるものです。例えば、机の上に日記があって、その内容をプレイヤーが読むことで物語が明らかになるといった手法。それによってプレイヤーに想像を触発していく。

てつ:
なるほど。ただプレイヤーに想像させるというのは結構難しいことです。作者側から変に意図的に情報を抜くとプレイヤーは冷めてしまいます。その辺のさじ加減は難しい。最初に世界を作りこんだ上で、自由に探索してもらうように作ると不明確な部分は自然に出てくる。そういった過程で作られる想像の余地が、ちょうど良いのかなと思っています。「想像させてやるぜ」という意図を全面に押し出すのは自分も嫌だし、プレイヤーも気づくと思うんですね。

――なるほど。ところで『愛と勇気とかしわもち』や『いりす症候群!』の場合、ゲームと物語に関連性が薄いですよね。そういった場合、ストーリーの必要性は何なんでしょうか?


見た目に反する衝撃的なストーリーでプレイヤーを驚かせた『愛と勇気とかしわもち』。

てつ:
単純に自分の中にストーリーを書きたい、表現したいという動機がありますが、他の側面としては、プレイヤーのモチベーションを向上させるためです。やっぱりこういうゲームでは点数を意識してプレイしてほしい。ところがSTGでも実際に点数を気にしている人はほんの一握りだと思います。何らかの目標がないと点数を意識するのが難しい。『愛と勇気とかしわもち』や『いりす症候群!』は点数を意識してこそ面白いものに作っています。そのため、5万点とか20万点という点数でストーリーが進むようになっています。

――なるほど。ハイスコアを目指すモチベーションのためのストーリー。

てつ:
同時にゲーム部分にしか興味がない人にはストーリーは無視してもらっても良いように作っています。僕は昔からシューティングが好きでしたが、点数を意識したことはあまりなかった。『怒首領蜂』は2周目条件に点数があったので稼ぐことを意識しました。そこで目標があれば点数を意識するし、点数を意識した方がもっと楽しいことに気づいんたんです。『ムラサキ』も点数を意識してもらいたかったので、点数を条件とした実績を配置しています。

――最後にストーリーとシステムをどうつなげるかも重要です。『魔王物語物語のつくりかた』(『魔王物語物語』のメイキング同人誌)では「システムとシナリオの癒着」と表現していますが、これは具体的な方法はありますか?

てつ:
正直、明確な手法はありません。ただずっとシナリオとシステムのことを考えているとどこかでリンクする。それの積み重ねです。例えば、『魔王物語物語』では「なんでも装備システム」というのがあります。普通のRPGだと装備品は兜は頭に取り付ける等、パーツによって固定ですよね。なんでも装備システムは、いろいろな装備品を自由に組み合わせることを可能にさせ、幅を広げるためのものです。これはシステム側のアイデアです。一方、プレイヤーキャラの一部は謎の生物に取り憑かれていて、そいつらが記憶を司ったり吸収したりする設定があった。そこでこれらを癒着させ、そのなんでも装備は謎の生物が装備していることになっています。だから取りつかれていないキャラクターはなんでも装備欄がないのです。どこにも書いてないですが(笑)。

――なるほど、全然知らなかった(笑)。やはり1人でやっていることが大きいのですか。

てつ:
そうですね。別々でやっているとなかなか癒着している感じが出ない。東方Projectもこういった面が優れていると思っているのですが、やはりZUNさんが1人で作っているところが大きいと思います。
《Game*Spark》
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