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今までのソーシャルゲームを全否定するような企画書を見て驚愕しました・・・『チェインクロニクル』ビジネス戦略について聞く

昨年末に第一部が完結し、スマホゲームとしては異例の「エンディング」を迎えた『チェインクロニクル』。セガネットワークスが配信する基本プレイ無料のスマートフォン向けRPGです。

ゲームビジネス 市場
今までのソーシャルゲームを全否定するような企画書を見て驚愕しました・・・『チェインクロニクル』ビジネス戦略について聞く
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昨年末に第一部が完結し、スマホゲームとしては異例の「エンディング」を迎えた『チェインクロニクル』。セガネットワークスが配信する基本プレイ無料のスマートフォン向けRPGです。現在は第二部の配信にあわせて事前登録が受付中。7月15日にはPS Vita版『チェインクロニクルV』の配信も開始されました。拡大を続ける同作のビジネス戦略について、マーケティングを統括する秋山隆利氏に伺いました。

―――今日はよろしくお願いします。はじめに自己紹介をお願いします。

セガネットワークスの秋山隆利です。アトラスでデバッグなど品質管理のアルバイトからはじめて、家庭用・オンラインゲーム各社を転々としながら、弊社に流れ着きました。アトラス時代に社員にならないか、とお誘いをいただいたんですが、その時は非開発職だったんですよね。作る立場になりたいと思って、一度外に出て開発の技術を磨いて戻ってくるつもりが、気がついたらそのアトラスがグループ会社になってました。

セガネットワークス 編成局 副統括部長 マーケティング部 部長 ライツ課 課長


―――開発からマーケティングに移っていったのですね

キャリアとしては、ディレクターやプロデューサー的な仕事が多かったのですが、インターネットが普及したり、モバイルのハードが高度になってきて、そろそろウェブやモバイルで、どんな風にコンテンツを見せていくのか、きっちり考えていく必要があるだろうと。それで当時一緒にいたマーケティングの人間と議論を重ねるなどして、見よう見まねでマーケティングのやり方を覚えて、今に至るという感じです。もともと弊社にも事業管理の仕事で入ってきたんですが、『チェンクロ』の立ち上げにあわせてマーケティングの担当もさせてもらっています。

―――『チェンクロ』は立ち上げの時から係わられていたのですか?

そうですね。本作はセガの第一研究開発本部で、アーケードの開発チームが中心になって作られています。それをセガネットワークスで配信・運営しているというスキームです。企画を立ち上げたのが松永純という人物で、最初に話を伺ったときは非常に衝撃的でした。なにしろ既存のソーシャルゲームを全否定するような勢いの企画書でしたからね。「ああ、モバイルでも本格的なRPGをやりたいんだな」というのが第一印象でした。途中まで一緒に詰めていって、ある程度立ち上がったところで、運営プロデューサーの中山哲朗にバトンタッチしました。今は事業管理の方に徹して、マルチメディア展開やライツ管理などを行っています。

―――たしかに、モバイルゲーム離れした内容ですよね。

当初は「たくさんキャラクターが出てくる、マルチシナリオのゲーム」にしかみえなくて、ゲームとしての着地点が良く見えなかったんですよ。ただ、じっくり話を聞いていくうちに、ゲームでドラマをやりたいんだなと、わかってきました。つまりコンソールゲームなんだなと。コンソールの良いところは、各々のキャラクターに人格があって、各々の人生がストーリーでしっかり語られているところにあります。ところが、それをモバイルで、オンラインゲームでやりたいという。幸い自分も前職でオンラインゲームの経験があったので、どのようにモバイルで表現していくのかには、興味がありました。

―――当時のモバイルはソーシャル・カードゲーム全盛でしたよね。

いわゆる「ポチポチゲーム」が大人気で、ストーリーはカードを入手するための過程でしかありませんでした。そのため、ちゃんと作って出せば、センセーショナルになるだろうなあという確信はありました。「セガらしいゲーム」といわれて、コンソールゲームにも新しい光が示せて、スマホゲームに対しては黒船的なインパクトが与えられるんじゃないかと。次第に、自分の中でも重いタイトルになっていきましたね。ただ、最初のうちはなかなか形が見えてこなくて、試行錯誤がありました。

―――どのあたりで手応えを感じられるようになりましたか?

早い段階でバトルシステムのモックが上がってきたんですが、ストーリーがどんな風につながるのか、なかなか見えませんでした。でも、そこからイベントやストーリーが加わっていくと、だんだんとRPGらしさが見えてきて、大元のコンセプトと合致していることがつかめてきました。もともとソーシャルゲームって、このRPGの仕組みを思いっきり単純化させているだけなんだと、腹落ちしましたね。

―――セガネットワークス全体として、「ゲームらしいゲームをスマホで」という思想はあるのでしょうか?

そうですね。もともとセガは「ゲームらしいゲーム」を作ることが得意な集団です。カジュアルなフィールドでの戦いは、あまり得意ではありません。そのため自分たちが得意なミッドコアと呼ばれるお客様に対して、モバイルというプラットフォームで、どのように届けていくかが、大きな課題となっていました。そういう意味では『チェンクロ』は最適なコンテンツでしたね。おかげさまでヒットしたことで、セガの開発陣の中にも「ゲームらしいゲームを作っても評価されるんだ」という雰囲気が生まれました。

ゲームらしい、ゲームで勝負をするセガネットワークス


―――1年間配信されて、ホントに昨年末にエンディングを迎えられたのに驚きましたが、最初からそういう事業計画だったのですか?

はい。当初から12ヶ月は確実に持たせるようにしようと思っていました。RPGは膨大な情報量なので、開発なは結構なカロリーが必要なんですよね。しかも開発期間を考えると、それからさらに1年間くらいかかってしまう。そのため、運営で2年、3年と遊ばせていくのは、けっこう大変なんです。うまくいく確証がないままにスタートするのは賭けでした。そのため、まずは12ヶ月と期間を区切って、その間の売り上げとユーザー目標を立てて、その中で何を作り込んでいくか、開発チームと一緒に考えていきました。そうしたら、思いがけず数字が伸びてぃって、第二部を作り始めることになりました。

―――それは嬉しい悲鳴ですね。ただ、当時の市場にはあまりなかったタイトルなので、打ち出し方にも気を配られたのではないかと思うのですが・・・

F2Pゲームなので、できるだけ多くの人に遊んでもらいたい。でもセガが得意とするミッドコアのユーザーに向けて打ち出したい。これって矛盾しますよね。カジュアルユーザーに遊んでもらうなら、それまでのソーシャルゲームの設計を踏襲するのがセオリーです。より多くの人に遊んでもらわないと、ビジネスとして広がらないからです。でも、そうはしたくないというのですから。そのため「セガらしいゲームが出た!」と話題にしてもらって、「でも遊んでみたら結構簡単!」と思わせなくてはいけないところが大変でした。

―――なるほど。

これがコンソールゲームなら単純なんですよ。「すごいゲームが出た!」とドドーンと見せて、実際に遊んでもらって「確かにすごい!」と感じてもらえれば良いのですから。つまり、それまでとは逆の考え方が必要だったんです。

―――実際はカードゲームの要素が入っていますが、あまりカードゲームとしての打ち出し方はされていませんよね。

それも気にかけたところですね。カードではなくて、キャラクターを前面に露出させるようにしました。カードを見せてしまうと、お客様にカードゲームとしての先入観が働いてしまうことを危惧しました。その一方で、長く遊んでもらうために「これはゲームだ」と思ってもらえるような差別化の要因も必要でした。結果的にゲームのコンセプトである「キャラクター」と「キズナ」という要素が、きちんとつながってくれたのではないかと思います。



―――たしかに、普通のソーシャルゲームと比べると、盛りだくさんですね。

ソーシャル・カードゲームのゲームデザインはシンプルです。根底にはキャラクターの興味や財産を、すべてカードで表現するという考え方があります。戦って、経験値を稼いで、成長して・・・というループをカードの種類と量で置き換えます。強くなるということは、より強力なカードがたくさん手に入ることです。誰にでも分かりやすい反面、いずれ飽きられ恐れもあります。そこでオンラインゲームの製作ノウハウを投入して、より奥深いものにしました。

ファンミーティングで示された『チェインクロニクル』の人気ポイント


―――オンラインゲームのノウハウというのはもう少し具体的に教えていただけませんか?

うーん、ちょっと説明しにくいんですが、要は成長要素を何で表現するかという話です。カードを集めて強くなる。これを繰り返すのがソーシャルゲームなら、そこに様々な要素を加えて、さらに厚みを増やしていくのがオンラインゲームです。「キャラクター」が増加することで、「キズナ」でストーリーが広がっていくというのは、その一つですね。

―――なるほど、それで「キャラクター」と「キズナ」ですか。

はい、その通りです。ちなみにコンソールゲームはその中間です。厚みはそこそこですが、コントローラーとの一体感を作り上げていく要素が加わります。そもそもオンラインゲームはずっと続くものなので、ストーリー要素は余りありませんよね。そういう意味ではオンラインゲームとコンソールゲームのハイブリッドでした。

―――ユーザーには狙い通りに受け入れられたと感じられますか?

おかげさまで、ここまで良い感じできました。ゲームの雰囲気やイメージを、さまざまな媒体を使って、いろんな接点で伝えていくように工夫していきました。このあたりはコンシューマーライクなやり方ですね。実際にゲームユーザーさんにリーチできて、そこからカジュアルに広げていけたので良かったです。

―――300万DLを達成されましたが、何かブレイクするポイントはありましたか?

特に何かあったわけではなくて、順調に右肩上がりで来ています。そもそもRPGという市場を考えたときに、日本の市場だけでは300万DLというのは、けっこう良い数字かなと思っています。もっとも国内600万DLという大ヒットRPGがありますから、まだまだ上をめざしてがんばりたいですね。

―――ユーザー層はいかがですか?

20代から30代まで、学生から社会人まで幅広く遊んでいただいています。無料ユーザーもまんべんなく広がっていますね。男女比でいうと以前、調査したときは男性が8割でしたが、若干女性の比率も上がってきた印象です。また、いわゆるホワイトカラーの方が多いですね。クリエイター・エンジニア・メディアなど、エンターテインメント系の方にもよく遊んでいただいています。

―――ちょっと懐かしい感じを受けますね。バトルの後にキャラクターがくるっと一回転するとか・・・

はいはい、僕らが遊んできたRPGって、まさにあんな感じですよね。ああいった昔懐かしい雰囲気というのは、かなり狙ってやっています。開発チームも30歳くらいの人間が中心で、自分たちが体験したRPGの集大成になったと思います。

―――なるほど!

はい、企画段階でも、25歳から30歳位を狙っていました。彼らが昔、ハマっていたRPGがモバイルで手軽に遊べるというイメージです。一方で、意外と若い子が遊んでくれているのが驚きでした。ああ、若い人たちにも、こんなコンテンツがささるんだとわかったのが、大きな収穫でしたね。

(後編に続く)

《小野憲史》
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