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ピーター・モリニューと『Dungeon Keeper』を作った日本人、世界の良質モバイルインディーゲームを紹介するコーラス・ワールドワイドを設立

ゲームビジネス その他

コーラス・ワールドワイドCEOの金親晋太郎氏
  • コーラス・ワールドワイドCEOの金親晋太郎氏
  • コーラス・ワールドワイドPRマネージャーの大柳竜児氏
  • コーラス・ワールドワイドのウェブサイト
ピーター・モリニューのBullfrogで『Dungeon Keeper』(ダンジョンキーパー)の開発に携わった日本人が居たというのをご存知でしょうか? 金親晋太郎氏はBullfrog、エレクトロニック・アーツ、マイクロソフトゲームスタジオ(レア)と英国のゲームスタジオに長年勤務し、3月にコーラス・ワールドワイドというパブリッシャーを立ち上げました。

業界で培ってきた幅広いネットワークを活かし、日本で陽の目を浴びていないインディーデベロッパーによる主にスマートフォン向けタイトルを日本のゲーマーに向けて発信していくと言います。現在は『グリフクエスト』と『スカイ・パトロール』の2タイトルを準備中。

そんなコーラス・ワールドワイドのCEOを務める金親晋太郎氏と、PRマネージャーの大柳竜児氏にお話を伺いました。

コーラス・ワールドワイドCEOの金親晋太郎氏コーラス・ワールドワイドPRマネージャーの大柳竜児氏


―――最初に自己紹介をお願いできますでしょうか。

金親:金親晋太郎と申します。日本で生まれですが、二歳の頃からロンドンで育ってきました。大学も仕事も海外で、1996年に『ポピュラス』を生み出したイギリスのBullfrogという会社に入社。そこからエレクトロニック・アーツ(以下EA)、EA UKスタジオ、マイクロソフトゲームスタジオなど、20年間ほどゲーム業界で生きてきました。主にゲーム開発とマーケティング、ビジネス各分野でキャリアを積み、2014年にコーラスワールドワイドリミテッドを立ち上げて独立しました。

大柳:大柳竜児です。僕がこの業界に入ったのは、海外ゲームが好きだったから。その昔・・・って今もありますけど、P&AというPCゲームを扱っていた会社がありまして、そこに入社。キャリアの殆どで海外ゲームの販売に携わっていて、EA、Activision、THQ、そして再びEAに。途中、カプコンやGMOゲームスでオンラインゲームにも携わりました。PRやマーケティングコミュニケーションが主でしたが、色々やってきましたね。

―――金親さんはおもしろい経歴をお持ちですね。

金親:狙ったわけではないんですけどね(笑)。開発現場では日本人とは見られていなくて、普通にテスターから始まって、デザイナー、プロデューサーと歴任して、1999年に当時あったエレクトロニック・アーツ・スクウェアという会社で『The Sims』やLionheadの『Black & White』の日本語版に携わりました。その後はすぐEA UKスタジオへ・・・。いつの間にかBullfrogブランドが消えてEA UKになっていて、そこでは『ハリー・ポッター』を作っていました。そこで日本版のプロデューサーとして雇われて、後は普通のプロデューサーに戻りました。

―――若い頃からゲーム業界志望だったのですか?

金親:1989年当時15、6歳でしたが、日本からファミ通などのゲーム雑誌を取り寄せていまして。ある時ゲーム雑誌の方と知り合いになり、「記事を書いてくれないか?」と頼まれ三年ほど雑誌記者をやりました。日本にいないのに「日本にいる男の記事」として(笑)。
ゲーム業界は大学卒業後。好きな事がキャリアになる。これは本当に嬉しかったですね。

―――そこからBullfrogへ?

金親:Bullfrogには1996年の春にテスターとして入社しました。しかし、5週間後に「レベルデザイナーをやれ」と言われて任されたのが『Syndicate Wars』。あの『Syndicate』の続編です。その後、Bullfrogの社長、ピーター・モリニューが作っていた『Dungeon Keeper』のリードレベルデザイナーに選ばれました。

当社で発表した2本とも、元Bullfrogの人が独立して作ったゲームなんです。もう一つ当たっている会社もあるんですが、実はそこも元Bullfrog(笑)。※ゲームについては後述

大柳:英国のゲーム業界ではBullfrogの存在って本当に大きいんですよ。

金親:英国の南の方の業界はそこから始まったくらいですね。バンクーバーにゲーム業界があるのも、Bullfrogにつながる人たちがカナダに根を下ろしたからなんです。

大柳:ピーター・モリニューと仕事をした事がある日本人って、金親さんくらいじゃないですか?

金親:そうかも。すぐ横で仕事をしていたんですけど、「クリエイティブ」で「変わった」方でした。例えば、エンジニアがクリックで地面を上げたり下げたりできるシンプルな3Dエンジンを作り始めて何人かで利用法を考えた時に、ピーターが一言「これは自分が神様になるゲームだ」と。そうして生まれたのが『ポピュラス』。普通の人だったらレースゲームなんかに行くんでしょうけど、3Dから天地創造につなげるインスピレーションで、ゴッドゲームを作ってしまった。本当に素晴らしいですよ。

また、今はインディーズゲームを作っているSean Cooper(ショーン・クーパー)という優秀な方が居りまして、『Syndicate』や『Magic Carpet』は彼の手によるものなんです。彼が凄いのは、オープンワールドのゲームを作ってしまったところ。街があり、市民が歩き、帰宅したりする。「ゲーム内の人達が生きている世界」が今までになかったんですよ。『Grand Theft Auto』の開発者などは、『Syndicate』に大きな影響を受けたと語っているそうです。そんな優秀な人達が集まったからこそ、歴史に残る会社になったんだと思います。

―――Bullfrogのメンバーが、様々なスタジオに移って活躍した。

金親:その通りです。『Dungeon Keeper』シリーズを最後に作っていたメンバーがBig Blue Box Studiosという会社を作って、それがLionhead Studioに買収されて。そこから生まれたゲームが『Fable』。『Dungeon Keeper』のアーティストで現Media Moleculeの社長Mark Healey(マーク・ヒーリー)や、Activisionの今の制作トップの方も開発室に居ました。私もその並びで仕事をしていたんですけど・・・(笑)。

―――ゲームの歴史として残しておいたほうがいいですね。

金親:最初の頃は、同じ年齢でゲーム好きでアニメ好き、という人ばかり集まっていて、「ゲームの作れるクラブ」みたいな雰囲気でした。当時みんなでやれるゲームを作っていて、時間があれば社内LANでそれぞれのPCを接続してすぐにゲーム。開発中のゲームを楽しみながら遊んで「これはおもしろいね、これをフィーチャーしていったらもっと面白くなるね」と、その繰り返しで自然とゲームが良くなっていきました。

―――楽しみながらデバッグもやってしまう、と。

金親:そうなんですよね! 本当に幸せな時間でした。

大柳:同時期に、僕もみんなでPC持ち寄ってLAN対戦やっていました。

金親:僕の方はピーターのわがままを聞きながら、Bullfrogで仕事していたという。

大柳:同じ時代にBullfrogのゲームで遊んでいたんですけど、金親さんは作る人、僕は遊ぶ人みたいな(笑)

―――しばらくレベルデザインをやられて、その次は?

金親:『ハリー・ポッター』の頃に社内の空気が変わり、何人か会社を辞めてしまって。私も休暇中にゲームデザインに関してはもういいかなって思ってしまい・・・。その時に運良く、マーケティング部門から呼ばれました。スタジオの事をよく知っている人間が欲しいという事で、0からマーケティングの世界です。でもスタジオの人間からはすごく嫌われましたよ! 「裏切り者!」とか言われたりして。その時の壁はいまだに大きいと思います。

その後は、DICE(EA Digital Illusions CE)のプロダクトマネージャーとなり、『BattleField 2: Modern Combat』『BattleField 2142』のPRなどを行っていました。DICEという会社は「考え方」と「技術力」がずば抜けていて、だからこそ大きく成長した。あそこは良い人も多いですしね。

―――今やEAのメインスタジオになっているみたいですね。

金親:凄いですよね。Frostbiteも広く使われるエンジンになりました。

大柳:現行機のPS3、Xbox 360、PS4、Xbox One、PCと、5プラットフォームを同時に開発して同時にリリースしていますからね。普通だったら他のスタジオに投げちゃいますよ。

金親:その後、EAヨーロッパ内でオンライン事業部を作ろうという話があって、デジタル配信をどう売るのか、どうユーザーを集めて熱くさせるのか試行錯誤。それを二年間程やっている内にFree to Play(以下F2P)が始まり、黎明期に一から仕組みを考え直す事がすごく楽しかった。

―――その後はマイクロソフトへ?

金親:2008年からです。ヨーロッパのパブリッシング部署立ち上げの際に呼ばれました。しかし、当時まとめ役だったフィル・スペンサー(現在はXbox事業部のトップに)が一年もしない内にファーストパーティの責任者として連れ戻されて、チームは解散。その時にRareかLionheadに行けと言われ、Rareへ行きました。

―――モリニューがいるLionheadじゃなかったんですね。

金親:Lionheadも良かったんですけど、以前から仕事のつながりがありまして。RareでKinectのプロトタイプを見て「何を作ろうか」と考えていた時に、米本社からもスポーツゲームを求められていた事から『Kinect Sports』が生まれました。この成功でRareがマイクロソフトゲームスタジオのスポーツグループの中に含まれ、それのヘッドオフィスがバンクーバーにできたんです。そこへ初めて行った時にバンクーバーを大いに気に入り、家族を連れてカナダへ引っ越してしまいました(笑)。

その後、去年の11月頃に「日本のアプリ市場がアメリカを越えてものすごく大きくなっている」というレポートが出まして、知人の会社でも「どうすればいいか分からない」という声が多かった。だったら知識も経験もある私がやりましょうと今年の1月末に退社して、コーラスを設立したのが3月20日です。

初めはイギリスで開発された2タイトル『グリフクエスト』と『スカイ・パトロール』をリリースします。そしてその逆の事、「日本のゲームやアプリを海外に出していく」事も積極的にやっていきたいですね。

大柳:大手、中小メーカー限らず、Steamを使って配信したいって要望があり、我々からすると「Valveに話をつければいいじゃん」と思うんですが、その方向すら分からないと。それでしたら現地にいる我々がお手伝いできますし、あとは移植が必要、Steamの機能が全て必要という事であれば、現地のスタジオも紹介します。

金親:二人だから早く動けるんですよ。とにかくフットワークが軽い。

大柳:また、同人作家さんやサークルさんが「予算は無いけど、作ったゲームを海外に発表したい」と考えているならば、とりあえずお声掛けいただければ相談に乗ります。

コーラス・ワールドワイドのウェブサイト


―――では、5月にリリースされる『グリフクエスト』について聞かせて下さい。

金親:海外で人気を博した、エレメントにグリフ(古代文字)を描いて新しい魔法を創り出し、敵を倒していく、パズルRPGです。実は開発者のAlex Trowersは、私がBullfrogへ入社した時の先輩。凄いゲームデザインの経歴とセンスを持っている人で、『グリフクエスト』も短時間でAlexと彼の奥さんとで基礎を作ってしまったんです。奥さんはアーティストで、当時彼女は妊娠していて産まれる前にゲームを仕上げようとしていた。納品した翌週に出産ですから、本当に大変でした。

大柳:スマッシュヒットして、ユーザーレビューも★4つを維持していてDL数も良好。Appleもフィーチャーしてくれたし、受賞もした。続編の下地ができたのは本当に良かった。一作目が売れずやる気を無くされても困るし、「経済的にも大丈夫かな」と心配していたんです。夫婦二人とも本当に命がけでしたね。

金親:日本版のキャラは、彼女の独特な絵柄のテイストを生かしつつも少しだけ変えて、アニメパターンも増やしました。その他、従来は戦闘に入ると相手を倒すか倒されるかじゃないと終えられなかったんですけど、それではちょっと不親切だろうということで、日本版は途中でも抜けられるように変更中です。


2014年5月配信予定の『グリフクエスト』(iOS/Android)



2014年秋配信予定の『スカイ・パトロール』(iOS/Android)


―――日本版は広告を入れることで無料化されると伺いましたが。

金親:英語版は買い切りでした。キャラのレベルが1~14まであって、無料版ではレベル4までいくとそれ以上レベルアップできない。あとは買って下さいという形です。ローカライズにあたり、日本版では最初から最後まで無料で遊べる広告モデルにして、しっかり遊んでいただこうと。F2Pにするのは我々にしてもチャレンジで、ユーザーの反響を見させていただいた上で次回作を進めます。

―――今のところ買い切りのビジネスはスマートフォンでは成り立った事例が余りないですね。コアなゲーマーだと買い切りスタイルが機能する可能性はありますが。

金親:昔からのゲーマーだとそちらの方が馴染みやすいですよね。うちの開発スタジオの人達もそうで、「これってF2Pにしていいの?」って聞くと「任せるけど俺達は嫌だよ」と。「広告出るとか冗談じゃないよ」って(笑)。ただ、日本市場にマッチするビジネスモデルを見つけなくてはいけなくて、その為には色々な工夫が必要と思ってます。

―――なんとか成功事例を見つけられたらいいんでしょうけど。

大柳:やはり海外のタイトルを日本のゲームファンにお届けする事が一番の役目だと思うので、敷居の低いF2Pを手軽にプレイしてもらえるのならば、それが一番いいと思います。どのタイトルかはまだお話しできませんが、海外ではすでに高評価の作品があって、でも日本ではほとんど知名度がない。「ググってみたけど日本語のレビューすらない」ってレベルで。

金親:ユーザーにも申し訳ないなって思うんです。もしかしたら一番好きになれるゲームかも知れないのに、知らないうちに消えてしまう可能性がある。例えばインディーズゲームをXbox Liveで出しても、日本だと誰も知らない間に・・・。そういうことが毎日起きているから本当にやり切れません。

結局は我々もゲームが大好きなので、まだ見ぬ良作を世界中のみなさんにお届けできたらいいなと、心から思います。

―――当面はスマートフォン向けのゲームが中心になるんでしょうか?

大柳: スマートフォンに限ってはいません。家庭用ゲーム機のダウンロード配信やSteamのようなPCのダウンロード配信にも大きな可能性があると思っていて、特にPS Vitaについてはかなり有望と海外のデベロッパーの目も変わってきました。コーラス・ワールドワイドとしても早々にチャレンジするつもりです。

―――本日はありがとうございました。
《平工 泰久》

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