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【GDC 2014】『パズドラ』の成功は"勘"の産物か? ガンホー森下氏が語った"勘"を裏付けするものとは

GDC 4日目の午後、昨年に引き続きガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜CEOが登壇。「Puzzle and Dragons Postmortem」(パズル&ドラゴンズのポストモーテム)と題したセッションには広い会場を満員にするほどの聴衆が集まりました。

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【GDC 2014】『パズドラ』の成功は
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GDC 4日目の午後、昨年に引き続きガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜CEOが登壇。「Puzzle and Dragons Postmortem」(パズル&ドラゴンズのポストモーテム)と題したセッションには広い会場を満員にするほどの聴衆が集まりました。

ガンホーのスマホゲームはこれまでに6作品がリリースされ、全てが黒字化。うち4作品は月に100万ドル(1億円)以上の売上を維持しています。中心となる『パズル&ドラゴンズ』(以下パズドラ)は世界13カ国で展開され、累計3000万ダウンロード。2013年には世界のアプリ市場でNo.1となり、月に1億ドル(100億円)の売上を記録しました。森下氏はこうしたタイトルのエグゼクティブプロデューサーとしての立場で話を進めていきました。

■2013年は「運」、2014年は「勘」

昨年の講演では『パズドラ』の成功について「運」(LUCKY)としていた森下氏。今年は「勘」(INSTINCT)という言葉がキーワードとなりました。

『パズドラ』の企画スタートは2011年7月。当時の日本市場は依然としてフィーチャーフォン向けのソーシャルゲームが主流で、森下氏はゲーム性の乏しいタイトルが氾濫している事について困惑し、快く思っていなかったといいます。『パズドラ』の企画はスマートフォンのタッチインターフェースを活かした今までにないRPGタイプのアクションゲームとしてスタート。キーワードとして「直感的」「革新的」「魅力的」「継続的」「演出的」といった言葉が挙げられましたが、何よりも家庭用ゲームで育った森下氏を満足させるゲームである必要がありました。

■新しい発想とヒットを狙うために・・・

そのコンセプトはガンホーに入社したばかりだった山本大介プロデューサーと共有され、1週間後には2本の企画書という形でまとまりました。1つは「RPG+タワーディフェンス」もうひとつが「RPG+パズル」でした。しかし後者も現在の『パズドラ』とは全く異なる、指でなぞるパズルゲームだったといいます。同時に3つのUIが考案されました。電車通勤が多い日本で、片手で遊べるデザインが模索されました。縦持ちで親指の可動範囲に操作領域を限定。するとゲームの方向性も見えてきたといいます。パズル部分はスリーマッチパズルとドロップの入れ替えを掛け合わせた直感的なデザインになっていきました。。

RPG部分は「収集」「合成」「育成」「追加」というゲームサイクルに、「修練」と「運」を盛り込んで形作られていきました。ちなみに、モンスターというモチーフは森下氏の考案によるものだそう。紙に子供のドラゴンを描いて山本氏に見せたそうです。こうした事はガンホーではよくあるエピソードだそうです。タイトルも当初は『ダンジョン&パズル』という名称でしたが、「どうしてもドラゴンという名称を入れたくて無理やり『パズル&ドラゴンズ』という名前を通した」そうです。

■「勘」で決まった4秒ルール

その後、プロトタイプの制作がスタート。最も重要なパズル部分は何度も試行錯誤が行われたそうです。最初は『ZOO KEEPER』のように縦と横に一つだけパズルを動かせるものでした。それが縦横斜めの8マス可動になり、ある時、山本氏が「ドロップをパズルの盤面のなかで自由に動かせるようにしたらもっと面白くなるのではないだろうか」と提案。これにより爽快感のあるパズルとなりました。自由に動かせることでコンボが決まりすぎてしまうという問題には制限時間をつけることで制約を設けました。制限時間は3、4、5秒のプロトタイプを制作し検証。結局4秒で実装がされたのですが、最後は理屈ではなく「勘」での判断があったとのこと。こうして作られていったゲームは更に、山本氏の「嫁レビュー」、森下氏の「子供レビュー」を経て磨きがかけられ、開発開始から6ヶ月でリリースを迎えました。

■運営力で上位定着 「ぽかぽか運営」とは?

『パズドラ』のリリースは大きな反響を呼びました。プロモーションコストはほぼゼロにも関わらず、僅か3日でiOSアプリの1位を獲得。その後、2年間に渡り1位をキープしました。データは公表されませんでしたが、びっくりするような「継続率」「DAU」「MAU」を現在でも叩きだしていると言います。10年以上に渡って人気オンラインゲームを運営してきたガンホーのノウハウや姿勢が『パズドラ』を支えているのでしょう。

ユーザーに向き合う姿勢が現れた一つの例が「魔法石の配布」です。サーバーに障害が起きるなど、ユーザーに不便を与えた際に、有料アイテムである魔法石を配ってしまったのです。有料アイテムを配布することは売上の減少を招く危険性がありますが、実際には逆に売上は増加するという呼び水の効果を発揮しました。また、上がりすぎたARPUを、魔法石を配布することで下げるという調整効果もありました。ゲームの売上は焚き火のようなもので、薪を沢山くべれば被火は強くなりますが、火が強すぎると薪の消費が早くなってしまいます。火を長続きせるためには適度な薪の投入が必要です。ガンホではイベントやリソースのバランスを俯瞰的に見て、それが循環するサイクルになるかを常に意識しているといいます。

■ガンホー・サービス・クオリティ

連日開催されているイベントについても、リソースのバランスに注目して調整しているそうです。初期の頃、ゲーム内のコインが不足する傾向がありました。そのため、なかなかモンスターのレベルアップが進まないという要望が多数寄せられたそうです。それを改善するため、土日に限定ダンジョンを追加し、コインが多く稼げるモンスターを登場させています。

コイン不足が解消されると、今度はレベルアップしたモンスターを進化させるための進化素材が不足。今度は木曜日にドラゴンを進化させる「木曜ダンジョン」を追加しました。進化素材が増えるたびに各曜日にその素材は追加されることになり、「曜日ダンジョン」という概念が生まれました。普段のダンジョンとは異なる強敵モンスターが現れ、この強敵を倒すと味方にできるフォーリンダンジョンも生まれました。このようして1週間のなかでパズドラを遊ぶことのサイクルができあがりました。

また、ユーザーも間にどれだけお金をかけても一気には進むことができないという理解が進み、ゲーム内の消費スピードを抑えることにも繋がったそうです。いまでは日本のスマホゲームには曜日のイベントが典型的に導入されていますが、『パズドラ』スタイルは日本のスマホゲームのスタンダードとなりました。

■世界をめぐる『パズドラ』の冒険

すでに『パズドラ』は世界13カ国で展開中で、常にファンを増やしています。しかしその展開はあえてゆっくりとしたペースで行われています。代わりに、リリースした国ではファンから温かい支持を受けることに成功。レビューでは4.5点以上を獲得しています。最近リリースされた香港、台湾では 2ヶ月も経たないうちに100万ダウンロードに到達。ガンホーのサービスモデルは非効率的に見えるかもしれませんが、各国、各地域ごとの運営を重視。配信国は少ないものの手厚いサービスを行ことでユーザーに長く遊んでもらえるような内容になっています。

■新しいチャレンジ『パズドラW』は「2 in1」

ガンホーのタイトルは常にバージョンアップ繰り返しています。特に『パズドラ』はこれからも大きな進化をします。2月220日の発表会では、今の『パズドラ』のアプリ内に新しいゲームを追加することが発表。つまり「2 in1」です。あえてメジャーゲームのシリーズタイトルの新作を導入するのではなく、今あるゲームのなかに新しいゲームをゲーム内に追加するという斬新な試みです。開発コードネームは『パズドラW』です。それは新しいルールをもった新規のユーザーの獲得にもつながるものです。導入は春の予定。しかしガンホーの春は「とても長い春」だと森下氏は笑いました。

ひとつのゲームコンテンツを長く続けるにはゲームをあらゆるジャンルに整備する必要があります。その例として家庭用ゲームで発売された『パズドラZ』もニンテンドー3DSのソフトとしてミリオンセラーを記録しました。それ以外にもグッズは400種類以上を展開。また今年の4月から全国で展開するリアルイベントも全国大会まで行うとのこと。森下氏は「『パズドラ』を本気で10~20年を継続出来るようなゲームサービスにしたいと思っています。孫の世代まで続くブランドにしたいんです」と夢を語りました。

■「勘」とはたくさんの失敗と少しの成功の原体験

最後に森下氏は次のように話して講演を締め括りました。

「さて、ここまでお話した無数の判断は私の勘でやってきました。勘は経験の産物です。開発や運営を通じてのたくさんの失敗と少しの成功からのものです。もちろん日常生活における原体験がそこにあります。ゲームはひとりで作っているものではなく、私の仲間であり信頼するチームでのものです。
ガンホーの開発体制と特徴を紹介します。複数チームがアメーバのように開発を行っています。開発組織のコンセプトはあいまいな組織です。それぞれの得意分野を最大限生かせるようになっています。お互いが協力し合うような体制をとっています。知恵や感動を共有し合うガンホークオリティを保っています。ゲームを作るべく素晴らしい仲間と出会いを大切にしてきました。そのチームがおこしたサクセスストーリが『パズドラ』です。
最後に言いたいがあります。日本のゲームは世界からどう見られているのでしょうか?昨年も言いましたが、ゲームを開発は勝ち負けではないと思います。面白さの追及です。今後もそれを目指していきたいと思っています。今日はどうもありがとうございました。」

今回のセッションは昨年とはトーンがやや異なり、より具体的な数値や方向性が提示されたものになりました。そこには1年前とは異なる自信や経験が多く反映されていると感じました。それらこそがガンホーが築いてきたものです。変化を恐れず常に新しい挑戦を行う組織、そしてその組織の代表として経営をコンテンツ製作の両輪を回し続ける森下氏とガンホーに『パズドラ』が生まれ育ったことは必然であったと感じられる講演でした。
《黒川文雄》
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