GDCのナラティブサミットで3月18日、フリーランスでゲームのシナリオライターやQAなどを手がけるミッチェル・クラフ氏は、「Fewer Tifas, or More Sehiloths? Male sexualization in games」と題して、自身の願望をぶちまけました。
題名をまるっと翻訳すると「ティファを減らすか、セフィロスを増やすか? ゲームにおける男性の性的魅力」となります。なお、ここでいう「ティファ」「セフィロス」が、『ファイナルファンタジー(FF)VII』のメインキャラクターであることは、言うまでもありません。
つまり本セッションは、ゲーム開発者の大多数を占める男性陣に対する「ティファのようにエロい女性キャラクターを減らしたくなければ、セフィロスのようにエロい男性キャラクターを増やせ!」という、アングロサクソン系の肉食女子による異議申し立てでした。なお、セッションは抱腹絶倒の連続で、終了後は女性参加者から拍手喝采が起きたことを補足しておきます。
もともと日本のアニメやマンガが好きだったというミッチェルさん。決定打となったのは『FF VII』でした。イベントシーンで上半身が裸になったセフィロスに、思春期だったミッチェルさんの頭が核爆発(同作は多くの北米ゲーマーがJRPGに初めて触れた記念碑的作品でもありました)。それ以来、すっかり腐女子道に落ちてしまったと言います。
『FF VII』から17年。日米のゲームキャラクターは、それからずいぶんと遠いところに来てしまいました。美少年がてんこ盛りの国産ゲームに比べて、北米のゲームは禿・マッチョばかりと、どちらも実はステレオタイプ。ミッチェルさんは「男性キャラクターも、もっと多様性を持つべき」「ゲーム産業もエロ成分に前向きになるべき」「(ミッチェルさんのように)新しい顧客の開拓をするべき」と主張します。
なお、この場合の「エロ成分」とは、あくまでエロいキャラクターや恋愛要素であって、18禁ゲームを増やせというわけではないので、ご注意ください。
では、どうして北米は禿・マッチョの天下になってしまったのでしょうか。ミッチェルさんは日本には源氏物語をはじめとした宮廷恋愛物語の長い文化があり、同様の物語文化は18世紀の欧州にもあると言います。そのため日本では数多くの美少年がマンガ・アニメに登場し、欧州でもジェームズ・ボンドのような高級スーツが似合うイケメン・ヒーローが登場する土壌がありました。
しかし移民が国を開拓したアメリカでは、カウボーイや保安官が国民的ヒーローに・・・。ハリウッドのアクションスターも、高級スーツよりはTシャツにジーンズが似合う肉体派が主流です。もっとも、映画業界やハーレクインロマンスなど、セクシーな男性キャラクターはアメリカでも大量生産されています。にもかかわらず、ゲーム業界だけいびつに進化してしまったと言うのです。
しかし、アメリカでも需要があるはずだとミッチェルさん。例として上げられたのが『クライシス コア ファイナルファンタジーVII』で、日本が83万本、北米が71万本、欧州が27万本を記録しました。ミッチェルさんは「スクウェア・エニックスの挑戦はすばらしい!」と絶賛します。
また北米で唯一、気を吐いているのがカナダのバイオウェア。『マスエフェクト』シリーズで上半身が裸になった男性兵士や、性描写を連想させるようなイベントシーン、服の上からでもわかる男性士官の引き締まった臀部などを盛り込み、アダルトなムードを演出しました。ミッチェルさんは男性と女性、それぞれでアイトラッキングによる調査を行えば、女性ユーザーが実際に画面のどこをみているか(女のバストVS男のヒップ)、わかるはずだと言います。
「残念ながら魅力的な男性キャラクターをシナリオで描写する上で、特効薬はありません」とミッチェルさんは言います。日本のマンガやアニメを見たり、恋愛シミュレーションゲームを遊ぶのは第一歩。『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラスなど、ファンタジー映画やテレビドラマなどにも、女性人気の高い男性キャラクターは登場します。「それからファンジン(オタク向けイベント)! コスプレを見て研究しましょう」。他に広告や雑誌、恋愛映画などなど。セックスアピールに溢れた魅力的な男性キャラクターは、世の中に溢れています。
またシナリオライターとしては、アーティストチームとの意思疎通も重要だと指摘されました。シナリオでは美少年キャラを想定していても、アーティストがマッチョなキャラクターに描いてしまっては、台無しだからです。その上でシナリオライターとしての引き出しを増やしてくださいと指摘。「悪人風だけど瞳に優しさを秘めている」「捕食者の瞳」「カリスマ性」「知性と性的魅力の同居」「上半身が裸」などなど。また日本でもそうであるように、キャラクターボイスもまた、重要な萌えツボと語りました。
日本ではしばしば「そんなビリーバビリティのない(=アニメ風のなよっとした)男性キャラクターは北米では受けない」などと言われがちですが、実はミッチェルさんのようなサイレントマーケットが、水面下で存在するのではないかと予感させたセッションでもありました。こうした潜在顧客層に対して、どのようにリーチすべきか。日本のパブリッシャーの北米マーケティング担当者は、腹をわって女性ユーザーと対話する時期にきているのかもしれません。
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