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【カジュアルコネクトアメリカ2013】なぜフィンランドからは次から次へと優れたゲーム系スタートアップが出てくるのか?

携帯メーカーのNokiaに始まり、世界最大規模の仮想空間「Habbo Hotel」のSulake、最近では『Angry Birds』シリーズのRovioや『Clash of Clans』のSupercellなど、フィンランドからは次から次へとグローバル市場で大きな成功を収めるIT&ゲーム系ベンチャーが出てきます。

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古くは携帯メーカーのNokiaに始まり、世界最大規模のユーザーコミュニティを持つ仮想空間「Habbo Hotel」のSulake、最近では『Angry Birds』シリーズのRovioやスマホ向けストラテジーゲーム『Clash of Clans』のSupercellなど、どういうわけかフィンランドからは次から次へとグローバル市場で大きな成功を収めるIT&ゲーム系ベンチャーが出てきます。人口の少ない北欧の小国からなぜこうも凄い企業が次々と出現するのでしょうか?一体フィンランドでは何が起こっているのでしょうか?

このことについて、クロスプラットフォームなサンドボックス型MMO『Supernauts』を開発するGrand CruのCMO・Thorbjorn Warin氏が「What's in the Water in Finland: The Finnish Invasion Continues」と題した講演で解説しました。なお、Grand Cruはまだ日本ではあまり知られていませんが、つい先日Idinvest PartnersやQualcomm Ventures、Nokia Growth Partnersから計1100万ドル(約10億円)の大型調達を行い、RovioやSupercellに次ぐ新たなフィンランド発有望スタートアップとして期待と注目を集めています。

まずWarin氏はフィンランドの地理について説明。フィンランドはスウェーデンとロシアという大国に挟まれ、古来より両国から干渉と侵略を受け続けるという困難な歴史を経てきました。人口は約550万人で面積は米ニューメキシコ州とほぼ同じ(ちなみに日本ともほぼ同じ)なものの、国土の70%以上が人が住んでいない森林で占められており、首都ヘルシンキの緯度はアラスカのアンカレッジとほぼ同じです。夏は過ごしやすく一日中太陽の沈まない白夜が続きますが、その一方で1年のうち約半分は太陽が見えなくなる「極夜」が続く厳寒状態となります。これらの厳しい気候に加え地下資源もほとんど無かったため、近代以前のフィンランドは林業と農業が主産業の欧州最貧国の一つだったそうです。これだけ聞くとちょっとIT&ゲーム先進国というイメージは湧いてきません。

ところが近年モバイルゲーム系のスタートアップの躍進が続いています。RovioやSupercellなどは既に日本でも知られるようになりましたが、それ以外にもグローバル市場で成功を収めている企業が続々と出現し、現在ではフィンランドのゲーム産業は同国経済の中心的存在となっています。これにより昨年だけで約1,800人の新たな雇用を創出し、総売上高も2008年から右肩上がりで、特に2012~2013年の伸びが凄まじく現時点で12億ドル(約1,186億円)を突破する勢い。人口550万人の国家がゲーム産業だけでこの金額を叩き出すなんて驚異的です。

Warin氏はこの成功の理由を「歴史」「制度」「組織」「文化」の4つの側面から説明しました。まず「歴史」では

・NOKIAの存在
・PCとブロードバンドの普及
・携帯電話の普及
・コンソール向けゲームとオンラインゲームの開発の歴史

を挙げました。今でこそスマートフォン戦略で他社に遅れを取り深刻な業績不振に陥っているNokiaですが、同社の存在のおかげでフィンランドは子供から高齢者まで携帯電話を使いこなすモバイル大国となり「モバイル上でゲームをプレイする」というライフスタイルの下地ができました。また同社は業績が好調だった頃から学生向けのゲーム開発コンテストやハッカソンイベント、起業家支援イベントを開催し人材育成に取り組んでおり、業績不振の今でも同社のベンチャーキャピタル部門が有望なスタートアップに投資したり(Grand Cruもその1社)、離職するスタッフの起業を積極的に支援したりと”将来の人材に投資する”ことを続けているそうです。

これらに加えて、先にも述べたようにフィンランドの気候は1年の半分が日の射さない厳しい冬であるため「家に引きこもってPCをいじる」Techギークが多く、ブロードバンドの整備も早かったため開発者が増え、もともと欧米のゲーム会社の開発下請けを手がける企業が多かったとのこと。有名なところでは『Max Pain』『Alan Wake』を開発したRemedy Entertainmentが知られています。

次に「制度」では

・教育制度
・国民の英語スキル
・政府の援助

を挙げました。フィンランドは税金が高い代わりに社会福祉が充実しており、幼稚園から大学院まで全ての教育が無料で受けられます。そのためフィンランドには低学歴な人が基本的に存在せず、さらに小学校から英語の授業を始めるため国民全員が英語を喋れるのが当たり前で、3~6カ国語を操る人も珍しくないため最初からグローバル市場でビジネスを始められるのだとか。そして政府もTech系及びコンテンツ系ビジネスを支援する方針を打ち出しており、フィンランド技術庁(Tekes)では毎年同国内のゲーム産業に1000万ユーロ(約13億円)規模の投資を行っているそうです。

次に「組織」では

・ヒエラルキーがない
・エゴはないが個人を尊重
・小規模なチーム編成

を挙げました。フィンランドは古来より王を持たない国家だったため他の欧州各国のような身分制度が存在せず、皆等しく貧しかったのがむしろ幸いし近代・現代になっても上下関係が希薄な社会になったのだとか。会社内でも上司・部下や先輩・後輩の区別が無く誰でも対等に話し合える空気がある一方、他者を押しのけて自分を強くアピールするような"エゴ"は無く、さらに小規模なチームでプロジェクトを一貫して進める傾向があるので、これらが組み合わさり非常に早い意思決定が可能となるそうです。

そして最後に「文化」で

・コラボはするが競争はしない
・助け合うコミュニティ
・気候

を挙げました。Warin氏は「スウェーデンが相手の場合は例外」と前置きしながらも、フィンランド人は他者との競争にはあまり興味を示さないことに言及。オリンピックでさえもあまり盛り上がらず、学校も他のクラスメイトと成績を競い合うシステムではないとのこと。また、ノウハウを教え合ったり情報交換したりといった「助け合い文化」があるためフィンランドの国内市場で企業同士が業績を競ったり訴訟合戦をすることもなく、そんなことをやる前にすぐにグローバル市場に打って出るのだそうです。ある意味、フィンランド人は国内で戦うことを止めることによってグローバル市場で戦う力を身に付けていると言えるでしょう。

Warin氏によれば、これらは全てフィンランドの気候が育んだとのことで、厳しい環境、少ない人口、狭く貧しい土地という一見ネガティブな要素が全て今日のIT&ゲーム先進国化に繋がったのだそうです。Warin氏の講演を聞いてふと気付いたのですが、実は日本は人口が多いことを除いてフィンランドに非常によく似ているかもしれません。国土面積がだいたい同じで、そのうち約70%が森林、地下資源が無く、モバイル大国。しかし残念ながらフィンランドほどグローバル市場で成功したモバイル向けタイトルは出ていません。いきなり全てを真似ることは難しいかもしれませんが、日本はフィンランドから多くのことを学べるのではないでしょうか。
《籠谷千穂》
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