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【ゲームコミュニティサミット2013】ゲームデザインのためのMDAフレームワークの紹介と実例

本イベントで日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan)ゲームデザイン研究会のケネス・チャン氏と簗瀬洋平氏は「開発のためのゲーム分析」と題した講演で、ゲームを分析するための手法であるMDAフレームワークを紹介しました。

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ケネス・チャン氏
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2013年6月22日、東洋美術学校でゲーム開発者コミュニティによる合同イベント「ゲームコミュニティサミット2013」が開かれました。本イベントで日本デジタルゲーム学会(DiGRA Japan)ゲームデザイン研究会のケネス・チャン氏と簗瀬洋平氏は「開発のためのゲーム分析」と題した講演で、ゲームを分析するための手法であるMDAフレームワークを紹介しました。

DiGRA Japanは、日本におけるデジタルゲームの学術組織です。その中でもゲームデザイン研究会は、ゲームデザインの構造化、手法、発展を研究する部会であり、学術と現場の両方の視点からゲームデザインについて取り組んでいるそうです。講演はMDAフレームワークを紹介するケネス・チャン氏の前半と、実際の分析事例を紹介する簗瀬洋平氏の後半の二部構成です。

■MDAフレームワークとは何か
最初にケネス・チャン氏の自己紹介が行われました。香港人であるケネス氏は、オーストラリア、アメリカなど世界各国で活躍するゲームデザイナー・プロデューサーです。2009年から日本に在住、現在はキューエンタテインメントに所属しています。

ケネス氏はまず、MDAフレームワークとは何かを簡単に説明しました。MDAフレームワークは、『システム・ショック』や『シーフ』などの開発に携わった著名ゲームデザイナーのマーク・ルブランが提唱するゲームの構造の分析手法です。2004年に論文として発表され、GDCでは毎年、本手法を用いたワークショップが行われているそうです。

まずMDAフレームワークでは、ゲームの基本構造をメカニックス、ダイナミックス、アセスティックスの3つのレイヤーで捉えます。MDAという名前は、この3つのレイヤーの頭文字に由来しており、それぞれのレイヤーをゲームに関する日常的な言葉に置き換えるとルール、システム、楽しさ・面白さに当たるそうです。

メカニックスとは、データやアルゴリズムといったゲームの根本的な仕組みであり、ダイナミックスとは、プレイヤーの操作などによってメカニックスの相互作用の結果であり、アセスティックスとは、それらの相互作用を通してプレイヤーが感じる感情です。

具体的にMDAのレイヤーにそってゲームを分析するには2つの方向性があります。1つは開発者側から見たものであり、ゲームのメカニックスから分析します。もう1つはプレイヤー側から見たものであり、ゲームのアセスティックスから分析します。

以上のように、MDAフレームワークについて簡単に紹介した後、ケネス氏はそれぞれのレイヤーについて詳しく説明しました。

まずアセスティックスは、単純に言うと、ゲームの楽しさ、面白さのことです。もう少し具体的にレベルに落とし込むと、ゲームにおけるファンタジー、物語、挑戦、仲間意識、探検といった要素がアセスティックスに当たるそうです。例えばファイナルファンタジーシリーズのアセスティックスに焦点を当てると、それはファンタジー的世界観や物語、探検や挑戦といった要素です。またHaloシリーズのアセスティックスは、SF的なファンタジーと共に、対戦プレイにおける競争などの要素です。

次にダイナミックスは、おおよそ「ゲーム性」としばしば語られる要素です。メカニックスよって生み出される展開、プレイヤーの行動と結果といったものにあたります。ボードゲームのモノポリーを例に取り上げると、そのダイナミックスは多人数のプレイによって起こる相互作用であり、勝てば勝つほど有利になる、負ければ負けるほど不利になるというフィードバック作用でもあります。

最後にゲームの根幹にあるメカニックスとは、ダイナミックスを実現するための仕掛けのことです。具体的には、トランプゲームにおけるシャッフル、カードを見せないといった根本的なルールや、FPSにおける弾薬の量、復活ポイントなどの基本的なデータやアルゴリズムのことです。

メカニックスとダイナミックスの区別はなかなか難しく思えますが、基本的にはゲームを支える基本構造とそこから引き起こる動的な現象と理解すれば良いでしょう。メカニックスから引き起こされるダイナミックスには、直接的なものと間接的なものがあります。例えばモノポリーにおける土地の購入よる資金の増加は直接的、それが累積することで勝ち負けが開いていくフィードバックは間接的なものであるそうです。

このようなMDAフレームワークによってゲームを分析するメリットは、ゲームの構造を理解するのに役立つこと、その構造が整合的であるか否かを判断することにあるといいます。開発の場では、プレイヤーに与えたい経験としてのアセスティックスを決定した上、それを実現するための処理としてのダイナミックスを考え、さらにそのダイナミックスを生むメカニックスを構築します。さらに、全体の整合性を取るため、メカニックスが意図したダイナミックスを、ダイナミックスが意図したアセスティックスを生み出しているかを検証するという逆の作業を行います。

他方、既にあるゲームの分析のためには、ゲームの経験であるアセスティックスをもとに、それを実現しているダイナミックス、さらにメカニックスを探します。また、逆の順序でメカニックスがダイナミックスを、ダイナミックスがアセスティックスを生み出しているか検証します。このようにMDAフレームワークによる分析は、3つのレイヤーを行き来しながら何度もおこなうものだそうです。

とはいえ、このような分析サイクルが常に成功する保証はありません。というのも、プレイヤーが感じるアセスティックスは人によって異なり、それらを実現するダイナミックスやメカニックスの解釈も人によって異なるからです。また、ゲームの構造自体が整合的に作られていない場合もあり、そうした場合はどのように分析しても3つのレイヤーがうまく噛み合わなくなるそうです。

もちろん、プレイヤー側からの分析は、分析者の仮説と解釈を元に行われるため、開発者の意図を反映したものになるとは限りません。しかしながら、MDA分析を通して、ゲームの構造の整合性とその理由を一定、明らかにすることが可能です。

■実際の分析とゲームの比較
次に講演者は簗瀬洋平氏に交代して、実際のゲームを元にMDAフレームワークによる分析が紹介されました。簗瀬氏は現在、スクウェア・エニックスに所属しているゲームデザイン研究者及びバーチャルリアリティ技術者です。過去に関わったタイトルとしては、「ラングリッサー」や「グローランサー」といったRPGのシリーズの他、『ワンダと巨像』などが挙げられます。

最初の分析事例は人気FPSのコールオブデューティーシリーズ(以下CoD)。オーソドックスなFPSであるため、ゲームのメカニックスは非常に分かりやすく、照準を敵にあわせてダメージを与える、ヘッドショットは一撃で倒せるといったことが挙げられます。MDAフレームワークによる分析は、このような当たり前と思われるゲームのルールを列挙することから始めます。

次にダイナミックスの分析に移ります。CoDでは単に敵を狙うだけではなく、敵から撃たれないように、または残弾の補給のために移動する必要があります。さらに敵の場所が不明確な場合は、グレネードを投げ込むといった状況に応じた武器の選択が重要です。このようにゲームのルールがプレイヤーを動かす部分にダイナミックスが現れます。

最後はCoDのアセスティックスの分析です。アセスティックスは日本語では「美学」とも訳すことができ、要する作品が与える独特の経験や表現のことです。CoDのアセスティックスは、リアリティのある戦争体験を与えることにあると、簗瀬氏は分析します。本当の戦争体験は与えるのではなく、戦争映画の一兵卒になった気分をプレイヤーに与えることが主眼に置かれています。ちょっと動いただけでも死んでしまう、状況が目まぐるしく変化する、仲間との共闘が可能といったダイナミックスによって、そのアセスティックスは実現されており、整合性のとれたゲームの構造を持っていると言えます。

次の分析事例は同じく人気FPSのHaloシリーズです。同じFPSといっても、Haloのメカニックスには、耐久力のあるSHIELDや乗り物やジャンプを駆使した立体的なレベルデザインなどCoDとの違いが見受けられます。さらにこれらのメカニックスは、敵に撃たれてもその場で応戦する、高低差のある地形を移動するといった異なるダイナミックスを生み出します。

結果としてプレイヤーに伝わるアセスティックスは、一兵卒のリアリティを描いたCoDと異なり、多数の敵と対峙しながら地球を救うSFヒーローの体験であると言えます。そのような世界観を成り立たせるため、主人公であるマスターチーフにはシングルアーミーとしての強力な武装や能力が与えられています。

この2つの人気FPSを分析して比較すると、コアとなるメカニックスはほとんど同じですが、ダイナミックスが異なり、戦争の関わり方におけるアセスティックスは大きくことなります。このようにちょっとしたメカニックスの違いが大きなダイナミックスの相違を生んでいます。さらに考え方によれば、HaloシリーズのテーマがSFであるのは、コアとなるメカニックスやダイナミックスに説得力をもたせるためにそのようなアセスティックスが選択しているとも解釈可能です。

さらに最近、リリースされて評価が非常に高い『Bioshock Infinite』と、世界的に評価された『ICO』に比較が行われました。一見してかなり異なる種類のゲームのように思われますが、「ヒロインを連れて脱出する」というアセスティックスの部分は共通していると、簗瀬氏は指摘しています。

一方、ダイナミックスにおいては『ICO』のヒロインのヨルダは行動範囲が限定されており、主人公はヨルダをサポートする形で様々な謎解きを行う必要があります。他方、『Bioshock Infinite』のヒロインのエリザベスは勝手に動きまわり、弾薬の補給を行うなど、主人公をサポートしてくれます。

このようなダイナミックスを生むメカニックスとしては、『ICO』では「黒い影」と呼ばれる敵にヨルダがさらわれるとゲームオーバーになるというルールを採用しているのに対して、『Bioshock Infinite』ではエリザベスは敵に狙われず、主人公が死亡するとゲームオーバーになるというルールが採用されています。結果として、戦闘に重きを置く『Bioshock Infinite』と謎解きに重きを置く『ICO』というアセスティックスの違いに影響を与えています。

この2つのゲームの分析を比較して総括すると、先程のCoDとHaloの事例と対照的に『Bioshock Infinite』と『ICO』は「ヒロインを連れて脱出する」というアセスティックスが共通していながらも、ダイナミックスがかなり異なることが分かります。

以上のように、MDAフレームワークを用いることで異なるゲームを比較することができます。このような分析は主観的な解釈の元に行われますが、他の人からの納得が得られやすく、ビジョンを共有するためにも有用だと、簗瀬氏は指摘します。またゲームのルール(メカニックス)を1つ導入するだけで、ダイナミックスやアセスティックスに大きな影響を与えることも理解可能であり、全体の構造的整合性を統一するためにも役に立ちます。

一般的にメカニックスを増やしていくと乗算的にダイナミックスとアセスティックスが膨れ上がり、アセスティックスである世界観がむちゃくちゃのものになりがちです。今回は非常に整合性がとれたゲームを分析しましたが、一般的に失敗していると考えられるゲームを分析することも勉強になそうです。そこでは、ゲームシステムとしては面白いものの、アセスティックスと上手く噛み合わない結果、人に伝わりにくくなっているといったことが見えてくるといいます。

まだまだゲームに関する学術的な研究は、日本ではまだまだ発展途上です。しかしながら、開発の現場にも応用可能な手法もあり、今後も産学連携として進めていく必要を感じました。また、今回紹介されたMDAフレームワークは、開発の現場だけではなく、より良いゲームレビューを書くといった目的にも有用であると感じられ、メディアの人間としても今後、勉強していきたいと思える内容でした。
《今井晋》
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