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【GDC 2013 報告会】初のサミット開催、ストーリーとナラティブの違いとは?・・・簗瀬洋平氏

GDC2013報告会にて、スクウェア・エニックスのテクノロジー推進部でゲームデザインリサーチャーを務める簗瀬洋平氏が「Not Story but Narrative」と題された報告を行いました。

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国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)は4月13日に毎年好例となっているGDC2013報告会を開催しました。

スクウェア・エニックスのテクノロジー推進部にてゲームデザインリサーチャーを務める簗瀬洋平氏は「Not Story but Narrative」と題された報告を行いました。

■「ナラティブ」とは何か?

簗瀬氏はまず「皆さん2012年のGame Developers Choice AwardsにおけるBest Writing部門のウィナーはどの作品が獲得したか覚えていますか?」という少々、意地悪な質問から報告を始めました。というのも、2012年にはBest Writing部門はBest Narrative部門に置き換わって存在していないからです。ちなみに2012年のBest Narrative部門は、Valveの『Portal 2』が獲得し、今年はTelltale Gamesの『The Walking Dead』が獲得しています。

「Writing」から「Narrative」への変化はさりげないものですが、簗瀬氏はそこからゲーム業界のトレンドを汲み取ります。「Narrative」という言葉は「Story」という言葉と区別するのは難しいですが、昨今では日本でもカタカナ語で「ナラティブ」と表記します。

簗瀬氏によれば、「ストーリー」に比べると「ナラティブ」という言葉には「自分の知識や経験を背景としながら、物語を形作る」という「社会構築主義的な考え方」が込められているといいます。ナラティブの例として、人間の夢は睡眠中に受けた刺激を起きた後に「夢という物語」に再構築しているそうです。またゲームにおいては、クリエイターが作りこむストーリーに比べると、ナラティブにはプレイヤーが自分自身の文脈のもとに組み立てる物語という側面があるといいます。

欧米ではこれらのナラティブやストーリーについての学問は「物語論(ナラトロジー)」という形で発展してきました。ウラジミール・プロップの昔話の形態学やレヴィ=ストロースの神話の構造などが有名で、昔話や神話などには世界中である程度、共通する物語の構造があるといいます。一方、現代ではハリウッドに代表されるアメリカの映画産業が人々の共有する物語の構造を形作っていると、簗瀬氏は捉えています。

ゲームにおけるナラティブの課題は、様々な背景を持っているプレイヤーに一貫性(coherence)のある物語を提供することです。一貫性とは、ここではAesthetics、Dynamics、Mechanicsといった要素が共通のコンセプトの下に調和していることを意味し、その結果としてプレイヤーの期待と実際が一致しやすくなります。

以下の本報告では、「ナラティブ」をキーワードにしながら、簗瀬氏が参加したセッションが紹介されました。単なる報告にとどまらず、簗瀬氏のゲームデザインの美学が垣間見え、またナラティブの点で優れた多くのインディーゲームが紹介されたため、筆者にはとても興味深いものでした。

■ナラティブに関する数多くのセッション

今年のGDCではGame Narrative Summitが開催され、ナラティブに関するセッションが数多く開かれました。その中から簗瀬氏は7つのセッションを紹介して、現在のゲーム業界がナラティブという観点でどういった取り組みを行なっているかを説明しました。

マイクロソフト・ゲーム・スタジオによる「Seven (Or So) Techniques for Writing a Moral Game」というセッションでは、プレイヤーの記憶に残る物語をいかに作るかが議論されました。これは何も芸術的な観点の話ではなく、プレイヤーに深い印象を与えたゲームは記憶にも残り、結果的にビジネスにつながるのです。

実際に「コール オブ デューティ」や「フェイブル」といったシリーズ作品はそれらの物語の点でも評価され、ユーザーの支持を受けています。またそれらの作品は与えられた正解を探すのではなく、自分で正解を作るようなナラティブを提供する点でも特徴的だといいます。このセッションではそのような作品を「Moral(教訓)」が得られるゲームとして捉え、具体的なテクニックが説明されたそうです。

また「Tastes Like Chicken: Authenticity in a Totally Fake World」というセッションでは、フィクションであるゲームに必要なリアリティについて説明されました。ゲームに必要なのはリアルなものではなく、プレイヤーやハリウッドが考えるリアリティであるといいます。そのため、特殊部隊を表現するには長い移動時間、長時間の斥候などは省略され、映画のようなシークエンスに仕上げる必要があります。

さらに「Creating Immersive Narrative Games Without Big Budgets or Resources」というセッションでは、大きな予算を用いずに優れたナラティブを持つゲームの制作法が論じられました。実際に低予算で開発された『ICO』や『ポータル』、『Journey』といったゲームは、ナラティブの部分に力を入れ、プレイヤーに記憶に残る経験を与えて来ました。IGFでアワードに輝いた『FTL:Faster Than Light』や『Thomas was alone』といったインディーゲームもまた、ナラティブという点で傑出しており、開発予算が小さいインディーゲームこそ、ナラティブに注目すべきであり、ゲーム経験を高めるためのコストパフォーマンスが高いそうです。

またUbisoftによる『アサシンクリード3』についてのセッションでは、ナラティブデザイナーとレベルデザイナーのコラボレーションのあり方が紹介されました。セッションによれば、何度も話し合うこと、そして何度もシナリオを書き直すことが重要であり、「作者ではなくナラティブデザイナー(not author but narrative designer)」ことが強調されました。また「Getting a Team on Board with Narrative Design」というセッションでも、ナラティブデザインを行なうための組織づくりやワークフローが紹介されたそうです。

一方、ナラティブを受け取るプレイヤーの背景を考察するセッションも行われました。「Applying the 5 Domains of Play」というセッションでは、256パターンのプレイヤーの行動が分類されました。ゲームに対するプレイヤーの意識は様々で、対戦型のマルチプレイが好きな人もいれば、ソロプレイが好きな人も多く、セッションの参加者の嗜好も様々であったそうです。マイクロソフト・スタジオによる「Secret Sauce:How Diversity in Your Game Narrative」というセッションでは、北米のゲーマーの傾向を分析して、女性キャラクターが増加していること、次に流行るのはヒスパニック系のキャラクターであることなどが指摘されました。

■インディーゲームの盛り上がりとナラティブへの注目

以上のナラティブに関するセッション、ゲームデザインに関するセッションをまとめ、簗瀬氏はユーザー・エクスペリエンスやナラティブといった領域はこれまでは暗黙知だったが、GDCでは確実に体系化されつつあると報告しております。そして、すでに理論から実践へと向かいつつあり、さらにはユーザーテストのノウハウ蓄積までを視野に入れているそうです。

セッションでも指摘されている通り、ゲームにおけるナラティブの効果は、そのコストパフォーマンスの良さにあるといいます。例として「ドラゴンクエスト」シリーズは換言してしまうと、「誰を攻撃するかを選択するゲーム」といえます。しかしながら、プレイヤーが「世界を支配している魔王を倒す」という文脈に置かれると、単純なゲームにおいても効果的なナラティブが発生して、面白さが生まれるといいます。

またゲーム・オブ・ザ・イヤーを獲得した『Journey』を筆頭に、ナラティブの面で傑出したゲームはインディーゲームに非常に多く、現在のインディーゲームの盛り上がりもゲームにおけるナラティブへの注目と歩調をあわせているようです。さらにゲーム・オブ・ザ・イヤーは開発者の投票によって決定されるため、『Journey』のアワード獲得は多くの開発者の共感によって支えられ、ダウンロード型のゲームにおけるメインストリームを示していると、簗瀬氏は分析しております。他方、現在は大規模予算のコンソールゲームに何を期待すれば良いのか難しい時代になっているとも述べています。

昨今では日本でも注目されつつあるIndependent Games Festival(IGF)ですが、Grand Prizeには簗瀬氏がノーマークであったRichard Hofmeier氏の『Cart Life』が選ばれました。『Cart Life』は世知辛いストーリーの露天商売シミュレーションですが、これまでゲームが注目してこなかった日常生活に光を当てた部分が評価されたようです。

また公募制のIGFですが、アワードを獲得するのは至難の業であり、ノミネートされているゲームはすでに他のメディアやアワードで高く評価されている作品ばかりです。新清士氏の報告にもあったとおり、現在のインディーゲーム・シーンはかなり層が厚く、そこで評価されるためには相当の独創性や革新性が必要ということです。

最後に簗瀬氏からGDC参加にあたってのアドバイスが述べられました。基本的に参加するつもりのセッションのゲームはあらかじめプレイしておくべきであり、プレイしていないとセッションの内容もほとんどわからないそうです。またネタバレも多くあるため、とにかくGDCに参加するならば、多くのゲームをプレイすべきだといいます。さらにGDCの発表は「新しい事」ではなく、行ったことの「答え合わせ」であり、新しいものを得るためには過去に遡って調べることの重要性も強調されました。
《今井晋》
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