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【CEDEC 2012】DeNAに転職した家庭用ゲーム開発者が『今しかない』と思った瞬間とは?

CEDEC 2012の2日目午後に開催された「我々が『今しかない』と思った瞬間」はディー・エヌ・エーのスポンサーセッションとして、同社に最近転職した二人の開発者が登壇しました。

ゲームビジネス 人材
我々が『今しかない』と思った瞬間
  • 我々が『今しかない』と思った瞬間
  • セガからDeNAに転身した馬場保仁氏
  • コーエーからDeNAに転身した門脇宏氏
  • モデレーターの松原健二氏
  • 馬場保仁氏
  • 門脇宏氏
  • 会場風景
CEDEC 2012の2日目午後に開催された「我々が『今しかない』と思った瞬間」はディー・エヌ・エーのスポンサーセッションとして、同社に最近転職した二人の開発者が登壇しました。スポンサーセッションとは言え、モデレーターをジンガジャパンの松原健二社長が務めるなどなかなか興味深い内容でしたのでレポートします。

登壇者したのはセガで『プロ野球チームをつくろう』『J LEAGUE プロサッカークラブをつくろう』などのプロデューサーを務め今年1月にディー・エヌ・エーに転職した馬場保仁氏と、コーエーで『大航海時代Online』『TROY無双』などを手掛け、コーエー時代の松原氏の部下だったこともあるという門脇宏氏の2名です。門脇氏は昨年12月に転職しました。モデレーターの松原氏は日立製作所や日本オラクルを経て、コーエーでオンラインゲームやモバイル事業を手掛け後に社長まで務め、コーエーテクモホールディングスの社長も務めました。昨年ジンガジャパンの社長に就任しています。

■全員がプロフェッショナル

最初の質問は「なぜこのタイミングでソーシャルゲーム業界を選んだのか」ということです。馬場氏も門脇氏も共通して挙げたのは"海外で勝負できる"ということです。馬場氏が過去に手がけたゲームは日本国内向けのスポーツゲームで、海外に向けて勝負するチャンスを伺っていたそうです。門脇氏はコーエーのカナダスタジオで『Troy無双』を手がけた経験がありますが、まだ挑戦途上という思いを捨てきれなかったと言います。

ただし家庭用で目指した海外とは少々意味合いが異なります。「家庭用では確立された欧米市場でどうやって『Call of Duty』に対抗するかという話でした。しかし今目指しているのは"市場"というものが存在しない世界です。ヒット作の前例も殆どないような場所で、とにかく沢山のタイトルを投入して市場を見出そうとしているのです」(門脇氏)。

経歴からも分かるように2人は家庭用でエース級の働きをしていたクラスの人物です。年齢もそれなり―――ためらいは無かったのでしょうか? この点に関しては馬場氏は「どのくらいの年齢層の人がいるのか分からなくて多少はためらいはありました。でも仕事については十数年のゲーム作りの経験は通用するだろうという自信がありました。それでも入ってみると自分の子供くらいの人たちばかりで、上司も年下で、正直驚きはありました」とのこと。

入ってみて感じられるのはスピード感の違いが大きいようです。「最初1月4日に入社したら、同時入社が27人もいたんです。その中には3日後には中国に飛んだ人も居るし、自分も午後にはチームに配属されて、初日から早速23時まで仕事をしていました(笑)」(馬場氏)

門脇氏はスピード感の違いは組織の違いだと言います。「組織として透明性というのがモットーになってます。大企業では情報は上から役職順に流れていく事が多いように思いますが、ディー・エヌ・エーではかなりの情報が全社員にメールで共有されています。例えば予算や他チームのスケジュールについてもです。全員プロなのだから当然情報は知っておくべきで、それに基づいて全ての判断が迅速にされるべき、という考え方です。役職が付けば相当の決裁権を与えられますし、速度を出せる組織になっています」

松原氏は創業者の南場智子氏の「いつまでもいい意味でのベンチャー気分を失いたくない」という言葉を紹介。そうした精神が急成長した今でも息づいているようです。

■見方は変わったが経験は完璧に生きている

こうした環境で今までの経験は生きているのでしょうか? 2人ともこの質問には大きく頷きます。

門脇氏は「前職でもオンラインゲームの運営保守は経験しているので、やり方はそう変わりません。不安は大きかったのですが、今までやってきた事に大きな価値を見出してもらって、"すげえっすね"と言って貰えるので自信になります、自己満足だけど(笑)。少しジャンルは違っていても、物作りという意味で差はないですし、マインドは変わらないのではないでしょうか」と話しました。

ただ見方が変わった部分もあるようです。馬場氏は「今までは売上を気にするのは年に一度くらいでした。それが毎日になって、さらに売上以外にも様々な指標を意識するようになった」と語りました。また、企画をやってきた馬場氏にとってデータ分析によって客観的な視点を持った意見が入ってくるのは面白いと感じられるようです。ただ「餅は餅屋」ということで、分析は担当者に頼りながらやっているとのこと。

■目指す市場は、まだ見えない市場

ソーシャルゲームは家庭用ゲームと比べると制約が多くてつまらないと感じる開発者も少なくないようですが、スマートフォンやタブレットなど高機能なプラットフォームの登場で、そうした状況も変化を始めています。「まだハイエンドのAAA(トリプルエー)タイトルのような表現はできませんが、ジンガさんが先日出したようなUnreal Engine 3を使ったようなクオリティのゲームも実現できるようになってきました。それに制限があるというのは誤魔化しが効かないということでもあるので、素のゲーム性で勝負ができる分野ということでもあります」(門脇氏)。

最後に2人からこの市場に興味を持つ人達にメッセージがありました。

「今はチャンスであると同時に大変な時代だと思います。沢山の物があって、誰が良い物、世界に通じる物を作れるかという勝負になっています。面白いだけでは売れず、どうやってお客さんの手元まで届けるか、いかに継続して楽しんでもらうか真剣に考えなければならないと思います。作るだけでなく、きちんと送り出すことがゲーム業界に求められるメンタリティではないでしょうか? あと、興味のある方はディー・エヌ・エーにぜひ転職を(笑)」(馬場氏)

「コンシューマーゲームとソーシャルゲームには壁があることは理解しています。しかし両方で製品を出した立場からすると、どちらもクリエイターが生み出すエンターテインメントであり、テクニックの差こそあれ優劣があるものではないと感じます。クリエイターに上下はありませんし、求められるものも、満足も同じです。少しのジャンルの違いを垣根と考えず、ソーシャルゲーム業界も視野に入れて貰えればと思います」(門脇氏)
《土本学》
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