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【OGC2012】既存メディアとソーシャルメディアの切り分け、そして協調の可能性とは?「ニコニコ動画」に見るメディア変革時代

いまや20代国民の2人に1人がユーザーという、圧倒的な規模にまで成長したニコニコ動画。その旗振り役をつとめるのがニワンゴの杉本誠司社長です。既存メディアとソーシャルメディアとの関係について語りました。

ゲームビジネス 開発
ニワンゴ社長 杉本誠司氏
  • ニワンゴ社長 杉本誠司氏
  • いまや20代の半数が
  • コンテンツの軸足は
  • アーカイブ動画から生放送へ
  • ニコ動は分断されたコミュニティの集合体
  • サイマル放送で両者の特性が顕在化
  • テレビで情報を摂取してニコ動で感情を共有
いまや20代国民の2人に1人がユーザーという、圧倒的な規模にまで成長したニコニコ動画。その旗振り役をつとめるのがニワンゴの杉本誠司社長です。OGCの常連スピーカーでもある杉本氏は、今年も「ニコニコ動画に見るメディア変革時代」と題した講演を行い、最新アップデートと独自のメディア論を展開。既存メディアとソーシャルメディアとの関係について語りました。

ニワンゴ社長 杉本誠司氏


■20代の二人に一人がニコ動の会員
まずは数字のアップデートから。無料会員が2545万人、有料会員が152万人、モバイル会員が721万人で、今も増加中。会員の男女比率は68%対32%で、平均年齢層は20代が45.5%。動画プレイヤー上を流れるコメントを介して「非同期コミュニケーション」を取るという、ネットソーシャルならではの交流スタイルが特徴的です。

その基盤となるのが、コメントによるコンテンツ・エコサイクル。動画投稿者とコメント投稿者、そして視聴専門のユーザーが互いに影響を与えあいながら、自己認証欲を充足。この相互作用を通して、さまざまなモノが創造され、消費されていく場・・・。こうした説明はもはや、ニコニコ動画のヘビーユーザーなら自明の理でしょう。「ニコニコ動画に限らず、あらゆるソーシャルサービスの骨格をなしているのが、このコンテンツ・エコサイクルではないでしょうか」と杉本氏は分析します。

その中でも近年、力が入っているのが「ニコニコ生放送」です。これはアーカイブされたコンテンツ(動画)にコメントを付け会うのではなく、生放送番組に対してコメントを付けあうというもの。一見すると同じですが、内容がまったく異なります。「リアリティが欲しいが、リアルは嫌」という、一見すると矛盾するニーズをきわどく両立させたサービス形態で、公式生放送は月間600番組に拡大。さらに30分のユーザー生放送が、月間数百万番組放送されるという、巨大な存在にまでふくれあがりました。

いまや20代の半数がニコ動ユーザーにまで成長
コンテンツの軸足はアーカイブ動画から生放送へ


■ニコ動は巨大な「たこつぼ」空間
しかし杉本氏は、ニコニコ動画は無数のユーザー・セグメントが重層的に折り重なっている巨大な空間で、横串を通しにくく、マスメディアではないと分析します。つまり会員数だけを見て、既存のマスメディアと同じ媒体効果を期待すると、大失敗する。このことはあらゆるソーシャルメディアに共通する要素だと指摘します。

このことが改めて示されたのが、3.11で実施された災害特別番組のサイマル放送でした。これにより累計1500万人に及ぶニコ動ユーザーがテレビ番組と接触することになりましたが、これも杉本氏は「ニコ動にテレビの映像が流れただけ」と冷静に分析します。むしろテレビの「マス情報」にコメントをつけながら、ニコ動ユーザーは各チャンネルに分かれて、情報や感情をぶつけあっていたのではないか・・・。つまりテレビ番組は「情報を摂取」する場所、ニコ動は「感情を共有」する場所というように、メディアの役割分担が行なわれていたと総括しました。

ニコ動は分断されたコミュニティの集合体サイマル放送で両者の特性が顕在化ビで情報を摂取してニコ動で感情を共有


ここから登場してきたのが、みんなで同じ映画を見てコメントをつけあうという「公式映画チャンネル(ニコニコ上映会)」です。ワーナーエンタテインメントなどの協力で、「ハリーポッター」シリーズなどの上映会を実施。昨年末にはスタジオジブリとの提携で、「天空の城ラピュタ」など三作品の上映が行われました。

杉本氏曰く「70万人以上が見て、120万回のコメントがつけられ、大半がバルスだった」とのことですが、そこで新たな付加価値が映画コンテンツに加わったのは言うまでもないでしょう。ここでは「映画を黙って見る」のが常識だった時代から「映画をわいわい、おしゃべりしながら見る」という逆転現象が見られます。

■ソーシャルメディアと既存メディアの協調とは?
ここから杉本氏は改めて、既存のマスメディアとニコ動のようなソーシャルメディアの性格の違いと、両者が協力できる可能性について論じました。ソーシャルメディアはユーザー間のインタラクションという「雑音」が入るため、同じメッセージを大量の人に届けるような、従来のマスプロモーション戦略は通じにくい。しかしユーザーインタラクションを織り込んで、メッセージを連鎖・増幅させられれば、まったく異なる効果が与えられるのではないか、というわけです。

「ユーザーの手にゆだねることで「バルス」が生まれ、「ラピュタ」は商品価値が高まった」(杉本氏)。同様の現象はスポーツバーやライブビューイング、はたまた2ちゃんねるの実況板などでも見られましたが、これらがよりカジュアルに世界規模で可能になったのが、ソーシャル時代の特徴だと言えるでしょう。

既存メディアは一方通行ソーシャルメディアでは循環構造ユーザー間でコンテンツが連鎖


杉本氏はスライドを見せつつ「何かに似ていると思ったら、これはネズミ講だった」と苦笑。そして「とはいえ、ユーザーが発信者になった瞬間に、劇的にモチベーションが上がるのは事実」だとフォローしました。裏を返すと商品をタレントにアピールさせる広告の時代は終焉を迎えており、これからはユーザー間の連鎖の中に、いかに商品情報や、商品を愛する行為を織り込めるか。そして、それをパッケージに落とし込めるかが重要だと論じました。そして「議論の余地はあるが」と前置きしつつ、そのためには権利者の意識もまた変わる必要があるのではないか、と補足しました。

改めてポイントを整理すると、ここには「ネタの提供は外部(動画、生放送、映画、テレビ番組など)から提供」「コメントなどの日常会話を発信・増幅させることで収益化」という二重構造が見られます。そして前者が既存メディア、後者がソーシャルメディアだと言えるでしょう。その最右翼がニコニコ動画だと言うわけです。もちろん、そこにはコメントを発生し、循環しやすくするための仕掛け(アーキテクチャ)が存在するのは、言うまでもありません。

収益の中心は直接課金が中心両者の協業でさらなる拡大へ


余談となりますが、今年のOGCではゲーミフィケーションに関する議論が多く見られました。しかしニコニコ動画はUI開発などにゲーム開発技術から影響を受けていると言われており、CEDECアワード2009でネットワーク部門を受賞するなど、ゲーム業界からも一定の評価を受けています。一般にゲーミフィケーションといえばバッジやレベルアップなどの要素が注目されますが、より本質的な部分でゲームの開発ノウハウが巧みに用いられているのではないか。全体の議論を聞きながら、そのように感じられました。
《小野憲史》
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