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【GDC2012】インタラクティブ映像監督David Cage氏が語るゲームナラティブに不可欠なパフォーマンスキャプチャとは

David Cage氏が率いるフランスのデベロッパー、Quantic Dreamは日本においては、『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』における圧倒的にリアルで重厚感のある演出と、緻密に且つインタラクティブに紡がれたゲームデザインで一躍有名になりました。

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David Cage氏(以下、Cage氏)が率いるフランスのデベロッパー、Quantic Dreamは日本においては、『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』(以下、『HEAVY RAIN』)における圧倒的にリアルで重厚感のある演出と、緻密に且つインタラクティブに紡がれたゲームデザインで一躍有名になりました。

ですが、同企業は、第一作目である『Omikron: The Nomad Soul』(以下、『Omikron』)では、神秘的な異世界空間に存在するメトロポリスを探訪するアドベンチャーゲームを、06年に日本でリリースされた『ファーレンハイト』では、本格的なサイキックミステリーをゲーム上で再現するなど、以前からゲームとしてのインタラクティブなストーリテリングの可能性を引き上げようと努力を続けてきたのです。

そしてこれら全ての作品においてディレクターを務めてきたのがCage氏だったのです。そのような意味で、David Cage氏は、小島秀夫氏などと同様にインタラクティブ映像監督という表現のほうがピッタリするかもしれません。(ただし、小島氏は、自身が作ってきたものはあくまでもゲームだとこれまで一貫して主張してきましたが)

そんな同氏が今回は、「How Virtual Actions and Performance Capture can trigger Emotion in Games」と題し、これからのインタラクティブナラティブにおいて、パフォーマンスキャプチャが如何なる役割を果たすかについて、同社にて制作された技術デモの全容を披露しながら解説していきました。『ファーレンハイト』のチュートリアルでは、モーションキャプチャスタジオを丸ごと舞台にして操作方法を説明していたCage氏にとって、アクターの微妙な動作もキャプチャ出来るデバイスを如何に重視してきたかを感じることが出来ます。

ただし、従来の方法における限界も熟知しているのも確か。事実、技術デモを披露するまでは、映像制作におけるモーションキャプチャ技術の先端をいく劇場用映画「アバター」や「タンタンの冒険」におけるフルパフォーマンスキャプチャの模様を示しつつ、超大作規模の予算をゲームでは到底得ることが不可能であるとCage氏。実際、モーションキャプチャを活用しはじめたのも、『フォーレンハイト』から。スプレットパフォーマンス法(Spit Performance)を用い、アクターの動作と、顔による演技の双方をキャプチャーしたのは、『The Casting』からになります。

『Omikron』では、各発音ごとに、キーボードのボタンをアサインし、音声にあわせてスタッフがキーボタンを押すことで口の動きをあわせるという手法が採られました。このときは、担当スタッフをピアニストと呼んでいたとのこと。一方、『フォーレンハイト』で担当スタッフの通称がピアニストから人形使いへと変更。音声ごとの口の動きは右手側に、感情の表情の変化をアサインしたボタンは左側に配置され、これらの双方を合わせることで、前作より多様な表情の表現が可能となったのです。

ですが、06年に同社が作成した、実験的コンテンツ『The Casting』で「全てが変わったと」とCage氏。このときはじめて、表情のキャプチャリングと体全体のキャプチャリングし、最終工程でこれらのデータを統合するスプレットモーションキャプチャを行ったのです。この実験を経て『HEAVY RAIN 』は同手法が全面的に採用されることとなりました。

■ゲームならではのパフォーマンスキャプチャを追求する

ここで、『KARA』を上映。7分程のフルCG作品ですが、驚きなのは、これが全てプレイステーション3上でリアルタイムで動作している点。つまり、アクションゲーム等のゲーム内で展開されるスクリプトシーケンスと同様に、プレイヤーはコントローラを使って画面内を自由に動かすことが出来るということです。にも関わらずCGのクオリティは、プリレンダリングCGのそれとほとんど変わりません。

『KARA』では、ハリウッド映画で実装されてきたフルモーションキャプチャを試みたとCage氏。これは、前作よりも更にアクターの演技力並びにエモーションを追求するにはどうすれば良いかを考えた結果だったとのことです。そのためにまず、フルモーションキャプチャについて学びつつ、新たに開発した3Dエンジンへパフォーマンスデータを実装。更にこれら全ての工程をパイプラインへと導入するための手法を考えていきました。

これらを踏まえ、Quantic Dreamとしては実在のアクターをその演技も含めて、そのままクローンが可能で、大量に且つ安価にキャプチャー出来、更に出来るだけ迅速に且つ忠実にキャプチャデータをゲームエンジンで再現できるもの、更にこれらのデータに対し必要に応じて涙、汗、血などを臨機応変に加えられるシステムを構築していったとのこと。

その結果、これまで28台だったモーションキャプチャカメラを65台にしました。更に、マーカーは、体全体に90、表情を撮る為に90を取りつけました。これらに加え重要だったのがモーションキャプチャステージを完全な防音ステージへと切り替える必要があったこと。演技をキャプチャしているその場でセリフも忠実にキャプチャする必要があるための処置です。更にタイムコードからモーションデータまで全てを同期化する必要がありました。

最終的に今回の短編映像を制作する時までに、Quantic Dreamでは、アクターの顔及びボディの3Dスキャンデータ、24時間内でパフォーマンスキャプチャデータのゴミとりをしてエンジンに取り込むシステム、筋肉の動きを忠実に再現する高品位のリギングシステム、クロースアップにおけるライティングエディットを実現したとのこと。これにより、アクターの演技を3Dレベルで忠実に且つ迅速にゲームエンジン内で再現できるようになったのです。

ただ、クリエイティブという視点で、本当に苦労したのは、『KARA』を演じるアクターを見つけ出すことだったとCage氏。オーディションをおこない、70人もの女優の演技を見ながらこの役を演じるのに最適だと思われたのはたった1人しかいなかったとのこと。

選ばれた女優の演技について「彼女は本当に信じられません。自然体でも既にアンドロイドだったんです」とコメントし会場の笑いを誘っていました。演技をそのままキャプチャすることから、作品に最適な俳優が役を演じなければプロジェクトの全てが崩壊してしまうのです。更にキャプチャ手法も従来のシナリオを読み上げるという手法からその場で完全に演技するという手法になったために、アクター側も他の映像作品と同様にセリフを完全に頭に入れたうえで演技する必要が出てきたとのこと。またその演技についても、その場で演出担当がアクターを指導していく必要が出てきした。

演出の一例では、アンドロイドであるKARAが自身を掴もうとするロボティックアームを拒絶するシーンと、その撮影現場を比較しました。撮影現場には、ロボティックアームを「演じる」2人の男性が写っているのです。「KARA役のアクターがロボティックアームに無理やり操らそうになるということに対し、自然なリアクションが出来るようにしたかった」とCage氏。

この次に示したのが「リターゲティング(Retargeting)」。これは、別のアクターが演じたパフォーマンスデータもKARAのモデルデータにシームレスにつなげる技法です。映像では、アンドロイドが英語の他に完璧なドイツ語、フランス語を喋るシーンと、流暢な日本語で歌を歌うといったシーンが存在したのですがここでは、各言語をネイティブとする別のアクターが演じているのです。それぞれのパフォーマンスをキャプチャし、KARAを演じたアクターの該当シーンとメッシュしたのです。映像では、何の違和感もなく非英語をしゃべるシーンが統合されていたのですがこれは、アクターを選ぶ基準も声質だったため。

映像の後半では、KARAGが管理コンピュータのロボティックアームにより、解体されていくシーンがあるのですが、ここでは、各パーツのモデルを別途CGでつくりあげました。パフォォーマンスにあわせ、メッシュしていくわけです。

■「コンテンツ」こそが作品の中心。何を語りたいかで発展させる技術の方向性も決まる

これらのテクノロジーやシステムを自社で発展させていくことで、ゲームにおけるCG表現も近いうちに、『AVATAR』並みになる事に自信を示しながらも、最も重要なのは、コンテンツだとCage氏。何のために使うのか、何を語りたいのか?今回制作した『Kara』では、人工物として作り上げられた存在が、誕生し、解体されそうになったところで「人間的感情」をあらわにすることで、リアセンブル(復活)されるというもの。これを通じて「人間であるということはどういうことなのか?」、「彼女は人間であると言えるのか?」を問いたかったとのこと。これについては自自身も答えはないとしたものの、映像表現を通じて観客に対し問題提示出来る事が重要なのだとCage氏。そして、次世代ゲームの可能性を問うとしたら、鍵となるのは、「意味のあるコンテンツ」だとCage氏は断言します。



現在『Call of Duty』シリーズなどは、2000万人に買われてはいるものの、ゲームは「まだメインストリームになりきれてはいない」とCage氏。その根拠として劇場用映画は、ヒットすれば6000万人に鑑賞される事実を上げています。たしかに、カジュアルやファミリー層、並びにハードコアゲーマーに対して訴求することでメインストリームを狙える可能性を示しつつも、Cage氏は、大人の「鑑賞」にも堪えうるような重厚なテーマの作品づくりもその可能性のひとつであると指摘します。そしてこれらのアクターの感情表現を完全に再現できる技術を駆使することで、インタラクティブで且つテーマの深い作品づくりに望みたいとして講義を締めくくりました。

『フォーレンハイト』は、私が所属する学部の先生で学術書「映像論序説」で知られる映像理論の専門家、北野圭介教授がゲームの映像表現について質問をしてきたきに真先に紹介した作品です。冒頭シーンを実際に「プレイ」していただいた時、その没入感に心底感動している様子を未だに鮮明に覚えています。考えてみれば、同作開発時には、Cage氏は前述のビジョンを持ってゲーム開発に挑んでいた事でしょう。そして本講演で示した技術というのは、10年間以上同氏が暖めてきたビジョンを実現するためのツールでもあるわけです。そのような強烈な想いが新たな市場を開拓できれば、閉塞感漂うハイエンド向けゲーム専用機にも未来が切り開かれるかもしれません。Quantic Dream社の次回作には期待ですね。
《中村彰憲》

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