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日本初のアンリアル・サミット開催、130名を超える開発者が出席・・・「Unreal Japan News」第41回

エピック・ゲームズ・ジャパンは2011年12月8日~9日の2日間に渡り、東京秋葉原のアキバホールにて、パートナー企業向けのアンリアル・エンジン技術説明会「アンリアル・サミット2011」を開催しました。

ゲームビジネス 開発
 
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エピック・ゲームズ・ジャパンは2011年12月8日~9日の2日間に渡り、東京秋葉原のアキバホールにて、パートナー企業向けのアンリアル・エンジン技術説明会「アンリアル・サミット2011」を開催しました。年の瀬の慌ただしい時期にも関わらず、日本全国の20社以上の開発会社から130名を超える開発者が集まり、アンリアル・エンジンの制作パイプラインや事例紹介に聞き入りました。

■一日目 ~ エピック・ゲームズによるセッション

サミット初日最初のセッションは、エピック・ゲームズ・ジャパンでサポートマネージャーを務める下田純也により、アンリアル・エンジン導入レベルでのテクニックやTIPSの紹介が行われました。アンリアル・エンジンを使ってシューター以外のゲームを作る場合の下ごしらえ、マヤ・Max等のDCCツール類とのスムーズな連携等について説明が行われました。



下田に続いて、エピック・ゲームズ本社のシニア・エンバイロメント・アーティスト、Mikey Spanoが登壇。ギアーズ・オブ・ウォー3のレベルデザイン・プロセスについて話しました。日本における一般的なゲームデザイン手法と異なり、初期段階でのトライ&エラーを重視したギアーズチームにおけるレベルデザインの考え方は、聴講者の大きな関心を集めました。
仕様書に企画内容を細かく落とし込み、それに基づいて実際のレベルをDCCツール上で創り上げる、といった旧来のやり方は、効率的な進行も期待できる反面、企画の変更やプレイテストしながらの修正が非常に困難であるという弊害を伴います。



エピック・ゲームズでは、BSPと呼ばれる簡易的なポリゴンモデルを使ってアンリアル・エディター上で手早くプロトタイプを組み上げ、それを使ってプレイテストしながらブラッシュアップすることで、企画のビジョンを実際のレベルとして結実させていきます。開発の第一日目からプレイ可能なレベルを用意できるという能力こそが、アンリアル・エンジンが提供する様々なメリットの中でも最大のものだとMikeyは語ります。

サミット初日最後のスピーカーは、韓国のエピック・ゲームズ・コリアでサポートマネージャー/エンジンプログラマーを担当するJack Porterが務めました。Jackからはまず最初に、自らが開発したアンリアル・ランドスケープ(広大なオープンフィールドを効率的に制作・描画するためのツール)とフォリッジシステム(植物や草を効率よく描画するツール)に関する説明が行われました。続いてアンリアル・エンジンを使用した開発体制での最適化とデバッグのテクニックについて解説しました。最適化とデバッグの説明はかなり専門的で高度な内容でしたが、日本トップレベルのアンリアル・エンジン経験を有する開発者からも「非常に参考になった」とのコメントが寄せられていました。



■二日目 ~ ライセンシーによるセッション

サミットも二日目も、最初のセッションはエピック・ゲームズ・ジャパンの下田が担当しました。今回のテーマは、下田自身が過去に日本の開発チームでアンリアル・エンジン3を使って開発に携わった経験に基づき、アンリアル・エンジンを使ってJRPGを開発した苦労について語りました。苦労の原因となったのは、エンジンのソースコードレベルにおける「行き過ぎたカスタマイズ」で、この結果当時の開発チームは「カスタマイズ-デバッグ-再マージ」という永遠に終わることのない作業ループに陥ってしまったそうです。また、まだエピック・ゲームズ・ジャパン設立前でエピック・ゲームズからのサポートが全て米国本社からのものだった5~6年前、言葉と時差の壁が大きな問題となった点についても触れました。そしてこの当時のライセンシーの混乱こそが、エピック・ゲームズが日本法人を開設するに至った直接的な理由であり、現在では日本でのサポート体制は劇的に改善されていることが強調されました。

二日目の後半からは、日本でのアンリアル・エンジンを使用したゲーム開発を行なっているライセンシー2社による事例紹介が行われました。最初の株式会社イニスのレベルデザインマネージャー 乳井氏と、コア・ミドルウェア・テクノロジー・マネージャー David Ventura氏がそれぞれ登壇しました。イニスは「押忍!闘え!応援団」や「Lips」で知られる開発会社ですが、アンリアル・エンジン3を使用して「ブラック・アイド・ピーズ・エクスペリエンス」を開発しました。イニスによるセッションは「Teaching the Unreal Engine to Dance(アンリアル・エンジンにダンスを教える)」と題され、「血しぶきとチェーンソー」で知られるゲームエンジンにどうやって「リズムとヒップ・ホップ」を組み込んだのか、その経験が紹介されました。



ステージの照明やキャラクターアニメーションをプロシージャルにコントロールし、それぞれの楽曲に合わせるために、イニスでは独自に「ソングマップ」と「ミュージック・シンク・マチネ」と呼ばれる技術を開発したそうです。これらはアンリアル・エンジンの「マチネ」をカスタマイズしたもので、曲のテンポを判断してシネマティックやステージ照明をコントロールする機能を備えています。これにより、多くの楽曲に対応したリストを迅速に開発することが可能となり、さらに将来のDLCによる楽曲追加にも対応できるようになりました。

続いて株式会社グラスホッパー・マニファクチュア(以下GhM)から、アンリアル・エンジンを利用した開発の事例紹介が行われました。GhMは日本で最も長くアンリアル・エンジンを使用している開発会社のひとつで、2011年にはアンリアル・エンジンを使用したシャドウ・オブ・ザ・ダムド(Game Informerで10点満点中9.25)をリリースし、2012年にもロリポップチェーンソー等の発売が予定されています。



GhMからは、リード・エンバイロメント・アーティストのKees Gajentaan氏、テクニカル・アーティストの河崎氏、リード・レベル・デザイナーのJason Reis氏、シニア・プログラマーのGregory Pageot氏の4名が登壇し、シャドウ・オブ・ザ・ダムドとロリポップチェーンソーの開発事例について講演を行いました。各ファンクションを代表する4名がスピーカーとなったことで、カットシーンの制作から効率的なレベルデザイン、 最適化まで、バラエティに富んだ内容となりました。



まず最初にGajentaan氏から、アンリアル・エンジン3上でカットシーンを制作する経験からGhMが学んだことについて話がありました。Gajentaan氏は、すべてのプラットフォームでハイレベルなパフォーマンスを確保するため、動的な光源や半透明なマテリアル、インストラクション・カウントの多いマテリアルといった「重い」アセットを可能な限り減らすことが重要だと強調しました。同時に、それらの重いアセットを避けながら、ビジュアルクオリティを大きく悪化させないためのGhMならではのノウハウについても紹介がありました。

次に河崎氏から、シャドウ・オブ・ザ・ダムドの経験から学んだメモリ管理のノウハウを、ロリポップチェーンソーでどのように活用しているかについて説明が行われました。河崎氏によれば、シャドウ・オブ・ザ・ダムドの開発中は、チーム内の誰もメモリの割当について完全に把握しておらず、メモリに関する問題が生じた時に根本的な解決方法を提示出来なかったと言います。この当時の教訓から、ロリポップチェーンソーではメモリの最適な割当とストリーミング技術について十分な注意を払い、各カットシーンの長さにも気を配ったそうです。

GhM3人目のスピーカー、Reis氏は、シャドウ・オブ・ザ・ダムド開発チームに迅速なレベルデザインプロセスを導入するに当たっての苦労について話しました。Reis氏がチームに合流した時、すでにレベル制作が進行していた一方で、コア部分にあたるゲームデザイン見直し作業の真っ最中だったそうです。ゲーム中に起こるエンカウンターをもっとストーリーと絡んだものにしたかったものの、既に多くのアセットは制作済みで、大規模な変更を加える時間はありませんでした。

この状況で最善の結果を求めるため、GhMは2つのアプローチを取りました。既に制作済みのレベルに関しては、使えるものはそのまま使い、それ以外は組み換えや目的の変更、デザインの修正、それでもダメなものは捨てる、という対応をこの優先順位で行いました。必要な場合は、レベルに合うようにゲームプレイ側の修正も行ったそうです。新しく制作するレベルについては、GhMはエピック・ゲームズのデザイン・ワークフローに近いプロセスを取り入れましたが、時間の制約からトライ&エラーの回数を少なく、関わる人数も減らして行ったそうです。これらのアプローチを取り入れ、アンリアル・エンジン3が提供する多くのツール類を活用することで、シャドウ・オブ・ザ・ダムドチームは迅速にトライ&エラーを行い、ゲームプレイの柱となる部分を構築できたそうです。



二日間のセミナーのアンカーを務めたのは、GhMのシニア・プログラマー Pageot氏です。Pageot氏は小規模なチームでアンリアル・エンジン3を使う際のTipsについて話しました。
Pageot氏は、小規模チームでアンリアル・エンジンを使う場合、ゲームプレイに集中して作業を行うべきで、エンジン自体に手を加えることは避けるべきだとアドバイスしました。エピック・ゲームズではライセンシーが参照できる様、過去にエピック・ゲームズと関連会社が開発したゲームのソースコードを提供していますが、これらの実例はエンジンの上手な使い方に関する情報の宝庫であり、非常に役に立ったそうです。



2009年にエピック・ゲームズ・ジャパンが設立されて以降、日本におけるアンリアル・エンジン3のライセンシーと評価使用者の数は順調に増加しています。欧米に比べて、日本における熟練したアンリアル・エンジン使いの数はまだまだ限られていますが、エピック・ゲームズ・ジャパンでは今後も今回のようなイベントを定期的に開催し、知識の習得と利用者同士の交流の機会を設けていく予定です。こういった場でアンリアル・エンジンについてより深く知っていただくことで、時間と予算を節約しつつハイクオリティな作品を制作するためのノウハウを広め、全体的な顧客満足度を高めていくことが、エピック・ゲームズ・ジャパンの目的です。
《土本学》
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