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【CEDEC 2011】日本独自の文化要因をテクノロジーで再提示 ― 情報化社会・インターネット・デジタルアート・日本文化

「クロスボーダー」をメインテーマに掲げた今年のCEDEC。3日目の基調講演をつとめたのは、「ウルトラテクノロジスト集団」を自称するチームラボ代表・猪子寿之氏です。

ゲームビジネス 開発
「クロスボーダー」をメインテーマに掲げた今年のCEDEC。3日目の基調講演をつとめたのは、「ウルトラテクノロジスト集団」を自称するチームラボ代表・猪子寿之氏です。猪子氏は「情報化社会、インターネット、デジタルアート、日本文化」と題した講演で、独自の視点による日本文化の掘り下げを行いました。

チームラボは東京大学発のベンチャー企業で、1998年にスタート。猪子氏も1977年生まれで、小学1年生の時にファミコンが発売された「ファミッ子」世代です。一日目、二日目の基調講演はゲーム業界の「先輩」からの提言でしたが、本講演はファミコン文化で育った「若い世代」による、業界外からの提言となりました。

■マリオとお茶のクロスオーバー
ウィキペディアによると、同社はホームページの制作受注からスタートし、現在ではウェブのプロデュースや、システムインテグレーションなどを中核事業としています。その一方でウェブテクノロジーの研究開発やメディアアート的な活動も行っており、企業をユニークなものにしています。

猪子氏ははじめに「【吉例】新春特別講演「龍と牡丹」ー剣舞/影絵ー」「インタラクティブハンガー」という二つのインスタレーションを紹介しました。前者は役者とデジタルの影が舞台で斬り合うもので、後者は洋服がかかったハンガーを手に取ると、商品をコーディネートした画像がモニタに表示されるというものです。

これらは共に「行為」への注目という点がキーワードとなっています。ストーリーや商品ではなく、剣劇アクションや商品選択という「行為」自体をデジタル技術で味付けし、提示しているのです。そこには、これまで「付加価値」と見なされていたものが、価値の本質となる逆転現象が見られます。

猪子氏はこうした視点を「マリオから思って、お茶で確信し、それを発展させた考え方」だとまとめました。『スーパーマリオブラザーズ』はピーチ姫を助けることよりも、アクション自体の楽しさが本質的な価値となっています。日本の茶の湯も、お茶を美味しく入れるのではなく、所作自体が本質的な価値を持っています。

ここから猪子氏は、「本来の具体的な目的は失われており、行為を消費することを楽しんでいる。日本にはそういう文化がある」と分析。さらに「かつて主役だったプロダクトや空間は、今やネットワークに接続するためのインターフェースでしかない」と続けます。巨大なインターフェースの固まりであるゲームは、まさにその最先端でしょう。

■デジタル時代だから問われる「文化」の強み
続いて猪子氏は、情報化社会では言語化される領域の共有スピードが高すぎて、競争の優位性を保つ条件にはならないと指摘します。たとえ初心者でも、ソースコードをコピペすれば、簡単に最新ゲームを世に送り出せるのです。そこで先進国の強みとなるのは「文化」だと指摘します。「かっこいい、かわいい」という価値観は、言語化も定量化もできないがゆえに、キャッチアップするのが難しいというわけです。

しかし、文化依存度があまりに高すぎると、他の文化圏には通じないコンテンツが生まれるリスクがあることも、また容易に想像ができます。これについて猪子氏は、明確にコメントしたわけではありませんが、質疑応答の内容もふまえて整理すると、「背景文化とコンテキスト依存の部分を切り分けることが大事」という考え方を示しました。

日本のコマーシャルでは、よく有名人が登場しますが、海外ではネームバリューがないので通用しない・・・。これなどはコンテキスト依存の好例でしょう。逆に日本では外国人タレントを起用する際、しばしば氏名付きで登場させてきました。外見ではわからなくても、名前を見ると有名人なので、商品も優れているに違いないと思わせる・・・。これなどはコンテキストを意識的に加えた例です。

むしろ猪子氏は「世界中で人間はそれほど変わらない」として、コンテキストの裏側にある文化的背景を意識したモノ作りを行う姿勢を示しました。「文化をひもとく、ということを創業以来ずっと続けている」(猪子氏)。自分たちの文化の形式ではなく、文化の裏側にある「世界をどう捉えているのか、どのような思想か、どのような美意識か」といったことを紐解きたいといいます。

チームラボそして猪子氏がメディアアート作品を作り続けてきたのも、この命題を明らかにするため。「たとえば日本画が平面的なのは、当時の日本人は実際に、あのように世界が見えていたからではないだろうか? 日本画には西洋の遠近法とは違う論理構造があるのでは?」(猪子氏)。その結果生まれたのが『百年海図巻』『花と屍』『生命は生命の力で生きている』です。

これら三作品は共に、3DCGモデルで作成した映像を一定のロジックを介して、日本画のような平面的空間に落とし込んだ作品となっています。中でも『花と屍』は、大和絵のような表現となっていますが、CGアーティストからしばしば「ものすごいレイヤー数のCGですね」とコメントされるのだとか。ここから「昔の日本人は風景をレイヤーで捉えていたのでは」という仮説が導かれました。

■マリオはレイヤー、ドラクエは大和絵、FPSは映画の世界
実際、禅寺の枯山水とベルサイユ宮殿では、前者がレイヤー的表現、後者が遠近法による表現となっており、興味深い違いが見られます。また『スーパーマリオブラザーズ』の横スクロール表現は、アニメのようなレイヤー表現で、『ドラゴンクエスト』の見下ろし型視点は大和絵の世界だといえるでしょう。

このように「日本の美術表現はゲーム産業ときわめて相性がよかったため、(2Dゲーム時代に)日本のゲーム産業は世界的な勝利を収めたのでは」と分析しました。 逆に映画は遠近法と相性が良いので、日本の映画監督が西洋の作品に勝つのは難しいのでは・・・。猪子氏は、このように仮説を提示します。

一方ハードウェアの進化に伴い、西洋のゲームはレイヤー表現からFPSのような遠近法的表現が主流になりました。遠近法すなわち映画的表現です。これに対して、日本ではいまだにドット絵や、アニメのようなレイヤー表現を用いたアドベンチャーゲームに、根強い人気があります。これらも文化的背景の違いかもしれません。

ちなみに遠近法もレイヤー表現も、現実のモノの見え方とは異なっています。眼球の構造上、ピントが合う箇所は一点に絞られます。こうした取得した視覚情報を、人は脳で補完することで、像として認識しているからです。つまり、世界の「見え方」は多分に主観的なもので、文化的背景に影響を受けています。どちらが良い、悪いではないです。

「3D表現は遠近法と相性が良いので、もしかしたら3Dゲームは西洋の強みかもしれない。だから最近のゲーム業界はちょっと調子が悪いのかもしれない・・・。けど、ともかく、がんばりましょう」と猪子氏は講演を締めくくりました。他人と違う、自分たちの強みは何か。こうした分析と議論を、まだまだ続けていく必要がありそうです。
《小野憲史》
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