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ゲームをいかに他の産業と結びつけるか・・・CEDEC吉岡委員長に聞いた

春のGDC、そして秋のCEDEC。今年は「CESAデベロッパーズ・カンファレンス」から、新たに「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス」と名称も変え、さらなる飛躍が期待されます。

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CEDEC吉岡委員長インタビュー
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■ゲーム業界外とのつながり

―――IGDA日本や、僕が共同世話人を務めているSIG-Glocalization(SIG-GLOC)でも報告会を行う予定ですが、CEDECではGDCで得た情報のうち、何を持ち帰って生かしていく予定ですか?

吉岡:もちろんGDCの運営側とは相互協力のために、さまざまな話を進めています。ただ、それは「持ち帰り」という意味では、本質的な部分ではないだろうと思っていて。

―――というと?

吉岡:さっきも触れましたが、GDCには後半3日間のメインカンファレンス以外に、前半2日間で特定の議論を集中して行う、チュートリアルやサミットという枠があります。特に近年サミットの充実に伴い、ゲーム業界外の参加者が増えて、全体が活性化してきました。そんな風に、今年のCEDECでは業界外の団体と乗り入れをして、それぞれが刺激を受けられる場にする予定です。コラボレーションとまでは言わないまでも、ミックスアップできる場になればいいなと。それもあってCEDECの名称も変わったんです。

―――具体的には、どんな団体が上げられますか?

吉岡:組み込み系プログラムの品質保証に関するシンポジウムを行っているJaSSTという団体があります。自動車や医療機器、はたまた宇宙探査機「はやぶさ」などに使われているソフトウェアが対象なので、ものすごく内容が固いんですよ。そこで先日、コラボ企画としてCEDECセッションを行いました。ゲーム業界でどのような品質テストを行っているかというテーマで講演を行ったのですが、幸い評判が良かったようです。逆に今年のCEDECでは、彼らにも講演をしてもらう予定です。

―――それは面白そうですね

吉岡:情報処理学会の分科会で、グラフィックスとCADについて議論するGCADという団体もあります。こちらとも研究発表会などで講演の相互乗り入れを行うことになりました。実はGCADからは先方から「ぜひ一緒にやりませんか」というラブコールが来たんですよ。他に日本応用数理学会とも協力関係を組みました。まとめると、組み込み系とコンピュータグラフィックスと応用数理で、セッションの幅が広がります。ゲーム業界にとって学ぶことは多いと思いますし、逆もまたしかりでしょう。

―――基調講演ではゲーム業界系・学術系・ビジュアル系という3名の登壇が定着してきましたが、セッション内容も同様に幅を持たせると言うことですね

吉岡:ゲーム開発者は、けっして彼らが悪いわけではありませんが、現実問題として忙しすぎるという理由もあり、視野を広げる機会がなかなか持てないんですよね。そこでCEDECでそういう場所を作っていければと思います。こうした出会いがきっかけで、さまざまなアクションが生まれれば理想ですね。

―――昨年のCEDECではラウンドテーブルがきっかけになり、IGDA日本でテクニカルアーティストの専門部会「SIG-TA」が誕生しました

吉岡:そういった動きは大歓迎です。他にもプロジェクトマネジメントの勉強会「GamePM勉強会」がスタートしたり、さまざまなコミュニティが生まれました。また日経ビジネスで連載されている「ローカリゼーション・マップ」というコラムで、ミラノ在住の安西洋之さんにインタビューを受け、記事にしていただきました。これもCEDECでの出会いがきっかけだったんです。

―――実はSIG-GLOCの発足も、GDCがきっかけでした。IGDAでLocalization SIGの世話人を務める、ケイト・エドワーズさんの講演を2006年に聞いて、日本に紹介したのがきっかけでした。その後、2008年に彼女が中心になってGDCでローカリゼーションサミットが開かれることになり、我々も日本でSIGの準備を始めたんです。2009年のCEDECで開催したラウンドテーブルをきっかけに、活動をはじめました

吉岡:CEDECは年に1回しか開催できませんよね。一方で開発者イベントとしては、そこそこの規模に成長してきました。そこで、CEDECは巨大な開発者コミュニティである、という言い方も今年から止めたんです。むしろCEDECは、さまざまなコミュニティを生み出したり、縁を取り持つ役割を担いたいと思っています。何もすべて自分たちで抱え込む必要はない。いろいろなコミュニティとゆるいつながりを保ちつつ、互いに刺激を与え合いながら、新陳代謝していきたいですね。

―――IGDAもゲーム開発者のコミュニティの一つにすぎません。コミュニティや業界の枠を超えて、情報共有を進めていく姿勢は賛成です。ただし、そこで壁となるのがNDA(Non-Disclosure Agreement)、いわゆる秘密保持契約との兼ね合いです

吉岡:歴史の長い業界だと、昔痛い目にあったベテランがいて、そのあたりの立ち振る舞いを教えてくれるわけですよ。ところがゲーム業界は狭い分野で急速に成長したため、まだまだ核家族止まりで、三世代にわたっていません。そのため社会の知見や常識といったものが欠如しているんですよね。今年のCEDECでは特許申請の優遇措置適用を受けたことで、よりオープンな議論ができるのではと期待していますが、これなどもその一つです。こうした問題は、僕等がいきなり直面したわけではなくて、何十年も前から存在していて、他の業界では解決済みの事例だったりする。

―――NDAリテラシーの向上は、言葉にしても意味がありませんからね

吉岡:まったくそうです。GDCにしても、各社がすべてを公開しているわけではありません。このあたりのバランスは上手いですね。CEDECを通して、こうしたリテラシーや、業界の共通認識を高めていきたいと思います。その中でも一番共有したいのは、勉強するネタはどこにでも転がっている、ということです。

―――それに気づくかどうかが重要ですよね

吉岡:まさに、そのとおりです。

―――東京工芸大教授で「パックマン」を作られた岩谷徹さんも、同じことを言われていました

吉岡:おもしろいですね。それは、どういうことですか?

―――実は昨年のE3後に、岩谷先生の授業でゲスト講師に招待されて、授業をさせていただいたことがあるんです。そこで立体視などの業界の狭いトレンドと、ソーシャルゲームなどの広いトレンド、さらに少子化などの将来的な見通しという3つの要因を抑えた上で、自分たちが何を勉強するかが重要だとまとめたんです。その際に、岩谷先生から先ほどのコメントをいただきました

吉岡:なるほど。食べかけのピザからパックマンのアイディアを思いついた、岩谷さんらしいご指摘ですね。

―――そうですね。ところで、CEDECをよりラジカルにしていきたいという考えは賛成ですが、そのためには会場の規模拡大も重要ではありませんか?

吉岡:そうしたいのは山々なんですが、そろそろ横浜パシフィコの会議場も限界なんです。それに比べるとGDCが開かれるモスコーニュセンターは広くて羨ましいですね。そのためCEDECで規模拡大よりも、これからは個々のセッションの質を上げていくつもりです。結局、セッションの品質がブランド向上につながると思いますから。その一方でメディアを通して、その価値を広く伝えていただくことも重要だと思っています。

―――昨年のニコニコ生放送は大好評でしたが、今年も行われますか?

吉岡:ええ、現在ドワンゴさんとお話を進めている最中です。もし先方にもメリットを感じていただけたとすれば、今年もたぶん開催できるのではないでしょうか?

―――もうひとつ、過去のセッション資料をアーカイブにまとめた「CEDiL」(CEDEC Digital Library)もスタートしました。登録すれば無料で閲覧が可能です

吉岡:みんなに見て欲しいと思ったので、まずは無料でスタートしました。まだ2006年以降の資料しかありませんが、今後過去にさかのぼって追加していきます。また時期や方法は未定ですが、マネタイズについても検討していく予定です。毎年200本近くの講演資料がアップデートされるので、書籍にするなどではなく、サーバ上において、さまざまなコミュニティに活用してもらうのがいいと思うんですよ。

―――僕が過去に担当したセッションの資料も収録されていて、お恥ずかしい限りです。ところで冒頭の議論ではありませんが、これを英語に翻訳する予定はありませんか?

吉岡:それが実現できれば、理想ですよね。日本から海外に向けて、一気に膨大な量の資料が発信できます。CEDECの国際的な注目度も高まるでしょうし、情報の大循環が起きる。ただ、どう実現するか、どう継続させるかが難しい。宿題にさせてください。

■ゲーム開発コミュニティの今後
《小野憲史》
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