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【CEDEC 2010】内と外の視点から日本を語る 現役の海外国籍スタッフによるパネルディスカッション

ゲームのお仕事 業界研究フェアで開催されたパネルディスカッション『日本で働く海外の人から見る日本のゲーム産業』では、海外から来日して日本のゲーム会社で働く現役ゲーム開発者 3 人が「日本のゲーム開発/ゲーム産業」について議論しました。

ゲームビジネス 開発
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ゲームのお仕事 業界研究フェアで開催されたパネルディスカッション『日本で働く海外の人から見る日本のゲーム産業』では、海外から来日して日本のゲーム会社で働く現役ゲーム開発者 3 人が「日本のゲーム開発/ゲーム産業」について議論しました。

モデレーターは国際ゲーム開発者協会日本(IGDA 日本)代表の新 清士氏、パネルはコンスタンティノス・カラニコラス氏(コーエーテクモゲームス、ソフトウェア開発本部 技術支援部 リーダー)、ジェームス・ウィリアムソン氏(スクウェア・エニックス 開発部 テクニカルアーティスト・モーションデザイナー)、辛 孝宗氏(技術部 技術開発課 リードプログラマ)の 3 人です。

外国籍の方 3 人を招いてのディスカッションにもかかわらず、なんと会話はすべて日本語。特にコンスタンティノス氏はギリシャから日本滞在歴 2 年にもかかわらず、流暢に受け答えしていました。


ディスカッションはまず、経歴を尋ねられた各パネルが自己紹介するところから始まりました。

コンスタンティノス氏はギリシャ出身。ギリシャの高校を卒業後、イギリスの大学・大学院を卒業し、イギリスのゲーム会社で 2 年間働いた後、一時ギリシャに帰国。その後日本でのゲーム開発に興味を持ち、 2 年前に来日したばかり。ジェームス氏はカナダのトロント出身。日本が好きで高校時代に一年間留学し、その後大学を中退してワーキングホリデーで来日。後に CG を学習して日本の会社に入社。実は日本でしか働いたことがないという変わった経歴の持ち主です。辛氏は韓国出身。韓国の大学でネットワーク関係の勉強をしたのち、韓国の会社でポトリス(韓国で最も成功したカジュアルオンラインゲーム)のフレームワークを開発していた折、日本のある教授の研究に興味を持ち、留学するため来日。その後、日本のゲーム会社で働き始めました。

各パネルの自己紹介が終わると、モデレーターの新氏が言葉の壁について質問。コンスタンティノス氏は「言葉以外にも仕事の進め方などを把握するまで大変だった」と語りました。ジェームス氏の場合は滞在歴が長いため会話は不自由しないものの、文書、特にレポートを書く時に苦しむと明かし、言語以外の決まった書式やルールをつかむまでが難しいことを語りました。辛氏の場合は、来日するほんの少し前に日本語のドラマで語学学習していたと述べ、さらに来日するまで誰かと会話したこともなく、通じるかどうかも分からなかったと明かしました。なお、実際に来てみると「意外と通じる」と感じたそうです。

次に提示されたテーマは「海外の開発現場と日本の開発現場の違い」。コンスタンティノス氏は「英国の会社は 13 人くらいの小さな会社だったので口頭でいろいろな対応をしていたが、日本の今の会社は大きいためドキュメントによる部分が多い」と感想を述べました。一方辛氏は「韓国では決定の早さが違う、国民性なのか韓国ではとにかく"早く早く"となる。外国人が最初に覚える言葉が"早く早く"だというジョークがあるほど」と語り、会場の笑いを誘いました。また開発期間については、「オンラインゲームとコンソールゲームという違いはあるものの、日本は比較的ゆっくりしているように感じる」とも。ジェームス氏は「意思決定がトップダウンだと感じる。海外のスタジオで働く知人は、チームの醸す空気で物事が決まっていくとよく聞く」と述べました。それに対して新氏は昔の日本の会社も同様だったのでは?と返すと「ということは、海外もそのうちに今の日本のようになるかもしれませんね」とジェームス氏。

「大きな会社と小さな会社で最初の 3 年過ごすならどちらが経験値高いと思いますか?」と聞かれると、3 人ともただし書き付きながら小さな会社と回答。慎重に選ぶべき(ジェームス氏)、残業が多くて辛かった(コンスタンティノス氏)といった発言が続くなか、辛氏は「小さな会社だと色々な経験をさせてもらえる。その時は本当に面倒くさいなと思ったりするけれど、後で思い返すと非常に良い経験だったと思えるようになる」、「小さい会社だと、世の中の流れや、次に何が来るのかといった情報がすぐに入ってくる。大きな会社にいると世の中の流れがゆっくりになったように感じる。実際はゆっくりじゃないのに(笑)」と述べました。

逆に大きな会社の良いところを尋ねると、全員がまず「生活が安定するところ」と回答。加えてジェームス氏は「大きい会社ではチームメイトというバッファがあるので、(小さい会社のときと比べて)最後までクオリティにこだわれるところが良かった。だから自分の仕事の完成度にすごくこだわる方は大手に向いているのかも」と述べると、辛氏も「小さな会社では色々なことを経験できるかわりに雑用も増える。大きいところは専門業務に専念できる」と述べて、会社の規模による違いを説明しました。この他、コンスタンティノス氏からは「大手では、技術ではなくて"職場で使う知識"を教えてくれる研修がある。そこはとてもよかった」という意見も出されました。

次に出たのは「日本のゲーム開発は衰えてきているように感じるという人が増えたが、どう思う?」というテーマ。「ヒエラルキーのために若手のアイデアが潰れてしまうようなところがあるのでは?」、「日本の企業はコンプレックスを感じているように思える。マーケットだけを見て作るのでは遅すぎるのでは。ユーザーは自分が何を求めているか分からないのだから。"作りたい物を作る"ことが体制的にできなくなってきているのではないか」などの指摘が続きました。その他、辛氏は「韓国は、アメリカと同様にベンチャーが多い。チャレンジする人たちが多く、その中から成功する人達が出てきています。一方、日本はチャレンジしにくい環境にあるように感じます」と述べました。

新氏が、聴講している学生の方々が今後何をしていけばよいと思うかを尋ねると、コンスタンティノス氏は「個性を持つこと。自分で、勉強を続けること」と語り、ジェームス氏も「今の学生さんはたくさん自由な時間がある時期に Unreal Engine を触れるような環境がある。とてもうらやましい」と、自分で何を勉強するのかを決めていくべきで、その環境は昔よりもはるかに整っていること説きました。またジェームス氏は「慣れてはいけない。日常に流されて 3 年間ニワトリのモーションを作り続け、気付いたら "ニワトリモーション専門家" になっていた、ではいけない」「自分がこうしたい、ということを声に出して行くことが大事」と述べ、日々の生活の中でも自分自身のキャリアを考える意識が大切であることを強調しました。

続いて「海外に出るという選択肢はどうでしょう?」と聞くと、ジェームス氏は「会場に英語できる人いますか?」と問い、挙手した人に「海外行ったらいいんですよ(笑)」と笑いながらアドバイスを飛ばす場面も。続けて「ゲームには言葉以上のことがある。会話できなくても、伝わることがある。ゲームには言葉を超える何かがある。そこを突き詰めて欲しい」と熱いメッセージを送りました。一切のコネなしで来日した経験を持つ辛氏は「もし失敗しても、日本語を覚えました、って言えるさと思って行った」と語り、思い切って動くことを応援。一方でコンスタンティノス氏からは「海外行ったほうが良いというものの、アメリカも景気が悪いからただ行けばいいとはいえない。自分がやりたいことは何か、社会が求めていることは何か?それを自分で見つめて、自分のキャリアを決めていったらいいんじゃないかな」と話しました。

続いて話題は「外国で暮らし続けることで変わったこと」に。コンスタンティノス氏は「相違点ではなく共通点を見るようになりました。こんなところも同じだ、と」と述べ、新氏は「同じ人間だということですね」と補足。

ジェームス氏は「(来日直前の)当時は若かったので親が寂しがるなどは考えなかった」と語り、「行動に出る前に自分が何をしたいのかを決めておいたほうがよい」と、会場の学生さんに向けて冷静なアドバイスをしました。

辛氏は「国境を超えて人と付き合うことで、自分の国籍がわからなくなったりもする。海外で暮らしてみて、相手の文化や考え方を受け入れられるようになった。そして自国の文化のいいところもハッキリわかるようになることもあった。みなさんも海外で働くことで、見えてくる日本のよさもあると思う」とコメント。パネル全員が、海外に出てから自身の価値観に変化があったことを明かしました。

最後の質疑応答コーナーで挙がった「日本らしいゲームとは何だと思いますか?」という質問では、途中で「日本の企業は(海外企業に対して)コンプレックスのようなものを感じていて、日本のいいところを認識出来ていない人が多いのでは」というコメントの他、「違和感なく海外の人をひきつける日本的なものが、探していけばどこかにあると思う」と、すべてを欧米の嗜好に合わせるのではなく文化的な乖離の少ない部分を突き詰めるべきではないかとの意見が出ました。またジェームス氏からは「海外では奇想天外な設定であっても"信じられる"ところがある。日本はどうしても根底に"信じられない"ところがある」という興味深いコメントも。

この他、海外でプランナー職を目指す学生さんに対しジェームス氏は「日本でいうプランナーに対応する職種はゲームデザイナーになる。そしてゲームデザイナーという職種は、日本で言うプランナーよりも具体的な職業です。今できることは、ひたすら海外製のゲームを遊んで、楽しさを逆算する練習をすること。このアクションはどうしてこうなっているのだろう?何が面白さを生み出しているのだろう?とゲームデザイナーの意図を解きほぐしていく練習をしてください。ただ、純粋にゲームを楽しめなくなりますが(笑)」とアドバイス。海外ではゲームデザイン関係の書籍が非常に充実しているため、英語勉強を兼ねて読んでみることを推奨していました。

各パネルが実際に海外の企業で働いた経験と日本企業での経験を比較しつつ進められた本ディスカッション。参加した学生の皆さんにとっても、視野を広げ、多面的な視点を得る非常に貴重な機会になったのではないかでしょうか。


また非常に印象深かったのは、ディスカッションの中でジェームス氏が「信じられる(ビリーバブル)」と「チームの醸す空気で物事が決まる」というふたつのキーワードを使ったこと。これは初日のショートセッション「はじめての日米共同開発」でスクウェア・エニックスの塩川氏が挙げたキーワード「ビリーバブル(Believability)」、「空気を読む」と全く同じ意味でした。

それぞれが自分の言葉で語った塩川氏とジェームス氏。お二人の意図するところが偶然重なるというのは、大きな意味を持つのではないでしょうか。
《矢澤竜太》
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