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【CEDEC 2009】「世界中の人に喜んでもらう」ためのゲームデザインとは?

開発体制やローカライズなど、「世界で売る」ための議論が目立った今年のCEDEC。では肝心の、「世界中の人に喜んでもらう」ためのゲームは、どのようにデザインすればいいのでしょうか。

ゲームビジネス 開発
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開発体制やローカライズなど、「世界で売る」ための議論が目立った今年のCEDEC。では肝心の、「世界中の人に喜んでもらう」ためのゲームは、どのようにデザインすればいいのでしょうか。

「ワールドワイドタイトルのゲームデザイン、ハードコアゲームからカジュアルゲームまで」では、バンダイナムコゲームスの本山博文さんが、海外での開発体験も交えつつ、世界市場を前提としたゲームデザインのポイントについて語りました。

バンダイナムコゲームス 本山博文さん

セガ・エンタープライゼス(当時)で1994年、デバッガーとしてゲーム業界に飛び込んだ本山さん。1999年にユービーアイソフトが日本スタジオを立ち上げたのを契機に転職し、ゲームデザイナーとなります。翌年に日本スタジオが閉鎖されると上海スタジオに移動し、リードゲームデザイナーやコンテントマネージャーとして開発に携わりました。300名の開発者のうち、日本人は本山さん一人でした。

そして2003年、ナムコ(当時)にゲームデザイナーとして入社、現在に至ります。まさにデバッガーあがりの叩き上げで、海外開発の経験もある、ユニークな経歴の持ち主でしょう。プロデュースした作品は『アーバンレイン』(PS2)と、『パンダさん日記』(DS)で、前者は2005年に10カ国で発売、後者は2008年に15カ国で発売されました。

はじめに本山さんは、ゲームは世界共通言語のひとつで、国によって言語や文化などの違いはあるものの、「魂の世界」まで降りればみんな同じだと指摘しました。そしてワールドワイドタイトルとは「欧米向け商品」のことではなく、「日本も含めた世界共通の面白さをもった商品」であると定義しました。

ではゲームの面白さとは何なのでしょうか。本山さんはその一つが「コアゲームメカニックス」だと考えています。コアゲームメカニックスとは、いわゆる「ゲームの中心的な遊びの仕組み」のことで、プレイヤーとゲーム機の情報循環をベースに、リスクとリワードなどを組み込んで構成されています。その上で、プレイヤーが進んで創意工夫ができるような設計をめざすべきだと補足しました。余談ですが、この「創意工夫」をうまくゲームに組み込んだのが、いわゆる「実績システム」だといえます。

また「ぺーシングコントロール」という概念も紹介されました。映画や小説などと違い、プレイヤーの意思決定のペースをゲームデザイナーが決められるのが、インタラクティブメディアであるゲームの特性です。開発側が完全に掌握する音楽ゲームなどから、ユーザーに委ねるゴルフゲームまで、ぺーシングコントロールの設定はジャンルやタイトルでさまざま。中には「GTA」シリーズのように、街中を車で流すときはユーザー主導、ミッションイベントでは開発者主導というように、ハイブリッドな設計も見られます。ここが今、海外のゲームデザインを巡る議論で、最もホットな話題とのことでした。

プレイヤーが世界を把握する行為が「マネージ」入出力の循環が「コール&レスポンス」ゲームの中心的な遊びが「コアゲームメカニックス」
プレイヤーの意思決定を管理する「ぺーシングコントロール」仕様を追加して「マクロゲームメカニックス」が作られる「GTA」はハイブリッドなぺーシングコントロールの例

ちなみに、パンダの家族とコミュニケーションを取る『パンダさん日記』では、ソファで寝転がってテレビを見ていたら、奥さんから「パンダみたい」だと言われたことが、アイディアのきっかけでした。その時に悪い気がしなかったことから、現実には飼えない「パンダのペットゲーム」というテーマを思いついたのです。

そして考察を進めるうちに、視聴者はパンダの番組に「家族」を重ねているのではないかという仮説が浮かびました。手を器用に使うパンダは、犬や猫より、もっと人に近い存在です。そこで「主人とペット」という上下の関係ではなく、「対等な関係のペットゲーム」ができれば、今までにない面白さが提供できるはずだ、というふうに進んでいきました。この「対等な関係」が、面白さの核であることは、言うまでもないでしょう。

パンダとふれあう「パンダさん日記」(壁紙)きっかけは「妻からのひとこと」だった

続いて本山さんは、考察ポイントとして「ゲーマーを知る」「自分を知る」「世界を知る」という3点を上げました。大ざっぱに整理すると、カジュアルゲーマーからハードコアまでユーザー属性を知り、ゲームデザイナーとしての自分の個性を客観的に分析した上で、世界市場を意識して開発すれば、成功に近づくというわけです。

まず「ゲーマーを知る」という点では、「ハードコアゲーマー」「カジュアルゲーマー(PS開拓層)」「新カジュアルゲーマー(Wii開拓層)」「子供たち」という4類型を紹介した上で、それぞれの特性が考察されました。これは「WIRED VISION」に掲載されたクリス・コーラーさんの「『Wii』崩壊の日は来るか--ゲーマー4類型論で分析」という記事にあるもので、企画を立てる際の良い指標となります。

http://wiredvision.jp/news/200706/2007062523.html

たとえばハードコアゲーマー層は、ゲームのサブカルチャーにどっぷりとハマる層で、一回のプレイ時間が長く、マウスやコントローラーなどの精緻な操作が好きだが、カジュアルゲーマー層は映画などと同じくゲームへの没入は2時間が限度で、有名選手や実車などの「リアルな」ゲームを好むこと。WiiやDSを好む「新カジュアルゲーマー層」は、ゲームにハマることに潜在的な抵抗感があり、ゲームキャラクターよりも、脳年齢やカラダ年齢など、自分自身の成長に興味がある。そして子供たちはもっともラジカルで、影響を受けやすいので、真摯なゲーム開発が必要・・・などです。

クリス・コーラー氏のゲーマーの4分類分類別に考察したゲームの消費傾向

「自分を知る」という点では、「シムシティ」と「スーパーマリオ/ゼルダの伝説」の例が示されました。本山さんは「シムシティ」は「波紋のゲームデザイン」で、「マリオ/ゼルダ」は「統一のゲームデザイン」だと分析します。

「シムシティ」はゲーマーによる世界の構築と、ゲームデザイナーによる突発的イベントのループがくり返されながら、世界が広がっていきます。さらに世界が広がるにつれて予算が増え、ゲームプレイの選択肢が増えて、より面白さが増していきます。これに対して「マリオ/ゼルダ」は、まず完成された世界を構築し、意図的にゲームスタート時には欠けさせておいて、ゲーマーの関与で世界を統一させる作りになっています。

このように本山さんは、自分の過去の設計手法を振り返り、磨いていくことが、ゲームデザイナーの個性と強みになると語りました。なお、これが個性的で、より大きな面白さに広がるものほど、世界で受け入れられやすいのは、言うまでもありません。

最後に「世界を知る」点では、「英語は大切だが、おぼれないこと」「オープンな姿勢を常に持つこと」「情報収集やリサーチは大事だが、それだけでは後追いしかできないので、3年後を常に考えること」「奇抜ではなく革新」「革新は明日の標準になる」「今できて、誰もやっていないことをすれば、世界で評価される」という6つのポイントを上げました。

波紋と統合のゲームデザインオープンな姿勢が重要今できて、誰もやっていないことを探す

中でも「オープンな姿勢を持つ」ことの重要性は、ユービーアイソフト在籍中に強く感じたそうです。本山さんが在籍したころの同社は、F1と教育ソフト中心から、リアルな戦争アクションに、大きく脱皮しようとしていた時期でした。社内の風通しも良く、GDCなどのカンファレンス後は、経営者から平社員までみんなで輪になって床に座り、議論をかわす習慣があったといいます。また業務終了後に会社のゲーム機で人気タイトルをみんなで遊び、何が面白いのか帰りながら話し合う、なども日常茶飯事でした。

こうした中から、FPSに強いレッドストーム社や、RTSの大御所ブルーバイト社などを買収し、トム・クランシーものの版権も取得して、総合ゲームメーカーとして成長を続けていったと振り返ります。

最後に本山さんは「ワールドワイドタイトルにおけるゲームデザインとは、人を知り、自分を知り、世界を知ることを通して、さまざまな分断を乗り越え、面白さを前にすれば人類みな同じであることをあらわす設計のこと」とまとめました。そしてゲームからゲームを作るのではなく、コアゲームメカニックスの設計を大切にしよう、と締めくくりました。
《小野憲史》
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