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【OGC2008】コーエー松原氏に聞く−今年のテーマ「CROSS BORDER」とは?

2008年3月14日(金)に東京・神田で開催される「オンラインゲーム&コミュニティサービスカンファレンス 2008(以下、OGC2008)」。今回は、OGC2008において基調講演「オンラインゲーム CROSS BORDER」を担当するコーエー 代表取締役 執行役員 社長 COO 松原健二氏に、今年のテーマとなる「CROSS BORDER」というキーワードについてお伺いしました。聞き手はインサイド編集人 伊藤雅俊です。

ゲームビジネス その他


−−インターネット業界をテレビ業界になぞらえると、地上波の民放と同じ広告モデルが主流になっています。一方で多くのオンラインゲームは、月額課金であれ、アイテム課金であれ、ペイ・パー・ビューモデルだということですね。

松原:ええ。もっとも、今後は両者が複合していかなければならないと思います。

−−業界の中でも、その選択肢はあり得るし、一社の中でもコンテンツによってあり得ますね。

松原:広くインターネット業界の中でビジネスをしていく上では、一人でも多くのお客様に来ていただくということが重要だと思います。その中で、コーエーのこのコンテンツは気に入ったので、有料でも楽しみたい。そんな流れを作りたいなと思っています。『三國志Online』でレベル20までは無料でプレイできるようにしたのも、その一つです。そのような意味で、ゲームの枠を超える必要性を感じています。

−−カジュアル化に伴ってユーザー層が拡大していくと、そこで求められるコミュニティサービスの質やあり方も変わってきそうですね。

松原:今はコミュニティサービスというと、青少年保護や携帯電話のフィルタリングサービスと直結してしまうので、非常に難しいんです。しかし、オンラインゲームにとってコミュニティサービスは欠かせません。もっとも、それは必ずしもオンラインだけではありません。たとえば先日も「ネオロマンスフェスタ 〜遙か祭2008〜」というイベントを開催し、2日間で18000人以上のネオロマンスファンのお客様が来場されて、今までの最高記録となりました。これは一つの例ですが、我々の作るエンターテインメントを楽しまれるお客さんが、どのような形で集まれるか。いろいろ提供していきながら、健全なコミュニティサービスを築いていきたいですね。

−−健全さは一つのキーワードですか。

松原:これは我々がずっと申し上げていることですが、オンラインゲームもパッケージゲームも、お客さんにエンターテインメントコンテンツを「届けて」「楽しんでいただいて」「生活を豊かにしていただく」とが重要です。そこで「健全さ」がないと、「生活を豊かにする」という項目が崩れてしまうんです。ここは絶対に必要なポイントです。ですから我々は健全さに対して懸念があるようなことは、極力避けてきました。タイトルやジャンルがそうですし、RMTに対して我々が厳しい態度で臨むのも、それが理由です。オンラインゲームの世界の中で健全さが失われてしまうと思うからです。それはコミュニティサービスについても同様です。もっとも具体的な施策については、これからということになりますが。




−−ゲームセンターの運営と同じで、懐かしいなと思いながら伺っていました。

松原:ああ、そういう見方もあるのかもしれませんね。もっとも、オンラインにおいては、パッケージゲームやオフラインイベントと違って、顔が見えない一方で、簡単にマッチングできてしまう。ですので、健全さに対する配慮がより一層重要です。それはサービスを広げていく意味でも、気にしていかなくてはならない点です。お子さまからお年寄りまで安心してログインして楽しんでいただけるように、健全性の中で楽しんでいただきたいと思います。

−−確かに「CROSS BORDER」と「健全さ」の落とし所を設定するのは、非常に難しそうですね。

松原:そもそも見知らぬ人と出会えなくて、会話もできないとなった瞬間に、コミュニティは成立しません。一方で、それをまったくルーズにしてしまうと犯罪行為が発生する可能性があるので、まったく諸刃の剣です。一つはユーザーさんへの啓蒙であり、もう一つは残念ながら悪意を持ってやってくるユーザーさんを発見して防止する、システム的な仕掛けが必要でしょう。いろんな組み合わせではないかと思います。

−−ここ数年で欠かせないキーワードになっているのがユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ(UGC)です。これについて個人的な考えはありますか?

松原:まず何がUGCに当たるかという話からいきましょうか。たとえばmixiやTwitter、または2ちゃんねるでもいいでしょう。こうしたサービスでは、主にユーザー同士のコミュニケーションがアウトプットされていますよね。コンテンツの定義論にもなりますが、作り手が、作り手独自の創造性を生かして作り出したものをコンテンツだとすると、コミュニケーションは自発的に生まれてくるものが中心ですから、単なる書き込み自体はコンテンツではないと思うのです。

−−なるほど。

松原:では、その境界はどこにあるかというと「ニコニコ動画」が好例でしょうか。「ニコニコ動画」ではユーザーさんが動画を投稿する動機として、他の人の反応が見たい、という点がありますね。カジュアルなコンテンツ作成のスタイルとしては、非常におもしろいと思います。一方でアメリカの「カウンターストライク」のようなMODスタイルは、「ニコニコ動画」よりも、はるかにディープですよね。MOD文化ではアマチュアの作った優れたコンテンツを享受したり、仰ぎ見るような部分がありましたが、これがもう少し敷居が下がって、僕でも「ニコニコ動画」なら作れるかな、という感じになってきました。そのため同じUGCといっても、作り手側の裾野が広がってきたと思います。

−−確かに一口にUGCといっても、そこでも多様性が増していますね。

松原:ええ。中でも、これはコンテンツと言えるかわかりませんが、Youtubeの誕生は大きな契機でした。ここでは著作権の問題を脇において話をしますが、あれは自分が持っている動画ファイルを手軽にアップロードできて、多くの人に見てもらえるサービスですから、自分の行為に対して反応が得られるわけですね。つまりUGCと同じような感覚を味わっているんじゃないかな。「ニコニコ動画」も「Youtube」も、投稿者のモチベーションは近いんじゃないでしょうか。

−−共にインタラクティブである、ということですね。

松原:ええ。そういえば最近おもしろい体験をしたんですよ。妻が音楽療法士をしていまして、患者さんと一緒に病院で歌を歌うなどの活動をしているんです。それである時、「手紙の日」にちなんで手紙の歌を歌おうということになって、あべ静江さんの「みずいろの手紙」という歌が候補に挙がったんですね。若い人は知らないかもしれませんが、往年のヒットソングです。それで試しにGoogleで検索したら、Youtubeで1974年の紅白歌合戦の動画がスッと出て来たんですよ。これってNHKさんに見たいといっても、手軽に見せてもらえませんよね? NHKのアーカイブに残っているかどうかも素人にはわからない。単純に凄いなと思います。

−−ニーズとシーズを伝達するメディアができている、ということですね。

松原:ええ。しかもそれがあると、今度はコンテンツを享受する側もすごく広がるんです。最近ではゲームの攻略情報もYoutubeに上げられて、受け手の裾野が広がっているのは間違いありません。それが先ほどの「ニコニコ動画」などのUGCとも相まって、今後も拡大していくんだろうな、という思いがあります。提供側の敷居が下がることで、いろんなコンテンツが誕生し、それによって享受する側も広がる。YoutubeがUGCに入るかは疑問ですが、これは新しい文化で、どんどん拡大する方向に進んでいく、という感じがしますね。

−−そういう意味でも今年のOGCは一つの転換期かもしれません。

松原:「ニコニコ動画」にしても、あれは単なる動画サイトではなくて、「コメントを入れられる」という、すごくシンプルでユーザーにわかりやすい機能です。「あれがユーザーに受けるのか!」と思いました。

−−ゲームで言うなら「テトリス・ショック」の再来という感じでしょうか。


《伊藤雅俊》
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